ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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「ご歓談中に失礼します」
 そう断って、コンシェルジュが台車の上に乗せたティーセットをテーブルに並べ出した。白磁にオレンジの上品な紋様を描いたティーポットを、同じ意匠のティーカップへ傾ければ、飴色の紅茶から華やかな香りが溢れた。切子が施された硝子の器には、角砂糖と蜂蜜とミルクが木の盆の上に並べられる。三段重ねのスリーティアーズには、新鮮な卵やツナと胡瓜のサンドイッチが一口サイズに並べられ、その上には焼きたてのスコーンがざく切りの林檎が混ぜられたジャムや固く角を立てるクリームの小皿と共に乗り、最上段はマカロンや一口サイズの苺のタルトといった甘味が輝いている。
「なにか御用がございましたら、何なりと申し付けください」
 彼らにとっては業務の口上でしかないのだが、温かみのある優しい言葉が身に沁みる。最近は指針監督官の人格をも否定するような罵詈雑言の怒声ばかり浴びせられ、騒動に巻き込まれまいと接する人は腫れ物に触れるような態度だったからだ。フロントに目配せをして手を上げるだけで、御用聞きに来るだろうコンシェルジュの細やかな心遣いに涙すら出そうだ。
 コンシェルジュに礼を言い、世界宿屋協会の上質なサービスに舌鼓を打つ。
 互いに腹の中が温まって、私はゼフ殿を見た。
「貴方は大丈夫なのですか?」
 今やキィンベルで魔法生物を手放していないのは、ゼフ殿が構える店だけだ。
 視線を何気なく向ければ、ラウンジで寛いでいる客の何人が私服の指針監督官だろう? まだ、魔法生物の所在が分からないが家は十二分に捜索した私以上に、厳しい監視が付いている。
「何か問題になる事がありましょうか?」
 ゼフ殿は優雅に茶器を口元へ運んだ。
「私の店にいる魔法生物は、全て攻撃能力の無い無害な存在です。そもそも、なぜ魔法生物を破棄しなくてはならないのです? その理由も不確かな状態で、家族を手放すなど有り得ません」
 凛とした断言に、私は口を噤んだ。
 それは錬金術師達全ての疑問だろう。
 魔法生物はエテーネ王国の発展に寄り添って、多様な種類が生み出されている。新技術を組み込んだ魔法生物の暴走に対し、調査が行われ使用が禁止になる流れなど数えたらキリがない。魔法生物は決して安全な存在ではない。武器のように使い方を誤れば、最悪人間は死ぬ。長い年月を掛けて錬金術師が心血を注いで工夫してきたから、安全に見えるだけなのだ。
 錬金術師達こそ、錬金術で生み出される全てが危険を孕んでいると胸に刻んでいる。
 だからこそ、理由を求めているのだ。
 魔法生物が禁止される理由が明るみに出れば、全力でこれを精査し対策を立てる。小さな問題も大きな災いの引き金になるのが錬金術だ。それすらも許されず一方的に棄却されるなど、錬金術師達が無能であると断言されたようなもの。栄誉あるアルケミア研究者の椅子を蹴り、没収された魔法生物の方向性から理由を炙り出そうと躍起になる者もいる。それだけ、錬金術師達の自尊心を大いに傷つける大事件なのだ。
 そしてゼフ殿は魔法生物を『家族』と呼ぶ。その姿に、私は恩師が重なって見えた。

本当に、めちゃくちゃ不憫だと思う魔法生物没収騒動。
錬金術師達ブチ切れ案件でしょ。

「あいつらに気を遣われたのでしょう」
 『魔法生物に関わる一切を錬金してはならない』と『時の指針書』に書き込まれたのが、災難の始まりであった。
 魔法生物とは錬金術で生み出された生命体の事で、エテーネ王国の民の生活に深く関わっている。ゴーレム型は力が強く建築現場で重宝され、ももんじゃ型は愛玩用として親しまれている。魔法生物はエネルギーや損傷の修復を錬金術に頼っていて、全ての錬金を禁じられる指針書の言葉は実質、魔法生物に対する死刑宣告だった。民の反発は強く、大挙して軍部区画に押し寄せた程だ。
 それを鎮圧したのが指針監督官だ。
 『時の指針書』が正しく履行されているかを監督する特務機関に所属する彼らは、最初は民に丁寧に説明し魔法生物を回収していった。『時の指針書』に書かれた事を履行する事がより良い未来に繋がると信じているから、最初は感情に任せて反発した民も大半は魔法生物を指針監督官に提出した。指針監督官に提出した後どうなるかわかっていても、自分の手で破棄する事は恐ろしいのだろう。最終的に魔法生物の代わりとなる、魔法具を無償で提供される形で住民は納得していった。
 最後まで抵抗したのは、魔法生物を作り出した錬金術師達だ。
 エテーネ王国の最先端の錬金術研究を行う王立アルケミアは、大規模な摘発が行われ強奪に近い形で回収されたと噂に聞く。王都キィンベルで魔法生物を所有する錬金術師も、次々と魔法生物達を取り上げられていった。
 私も三体の魔法生物を所有している。
 王立アルケミアで不老長寿の研究をしていた頃から、様々な研究を手伝ってくれた三兄弟だ。所長ヨンゲの方針で不老長寿の研究の予算が打ち切られ、暇を言い渡されたが、彼らは私についてきてくれた。おっさん。おっさん。と可愛らしいドラゴンキッズの足をちょこちょこ動かして付いてくる三兄弟はとても愛らしかった。
 私は彼らの為なら全てを捨てて、自由人の集落に行く事すら考えていた。
 そんな矢先だ。
 『旅に出るドラ。探さないで欲しいドラ』
 テーブルの上に置き手紙一つ残して、三体の魔法生物達は姿を消してしまったのだ。
「家を出て行ってから、キィンベルの隅々まで探しましたが見つかりません。指針監督官が何度も我が家を捜索しにくるのですから、彼らも見つけられていないのでしょう」
 では、王都の外に…。
 顰められた声に、私は頷いた。
 魔法生物は王都の外には出ない。何故なら、王都の外には魔法生物達にエネルギーを補填してくれる、錬金術師がいないからだ。自由人の集落になら錬金術師はいるだろうが、たどり着く前にエネルギーが切れるか魔物に壊されるかのどちらかだ。
 それ故に、指針監督官は王都の外に捜索の手は伸ばさない。
「あの子達は寿命の長い竜の研究の為に生み出した魔法生物なので、ドラゴンキッズと同じ能力を備えています。エテーネ王国領の魔物達に殺される程、弱くはありません」
 衝撃に対する耐久力も病気に対する耐性も、一般的な魔法生物よりも強い。さらに三兄弟は我々と同じ食事から補給出来る。年月を経れば成長するし、子孫も残す事も可能かもしれない。不老長寿の研究をする上で行なった仕様が、三兄弟にキィンベルを出奔させる事ができたのだ。

 
なぁんと、紅竜達の記憶も同時進行だぜ!死しか見えない!!!!
すでに破綻している箇所もあって、真っ青だな!(時期的に執筆前に確認できたかすら謎)
修正が今から掛かっています。

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

 この世界には自分の家にバギクロスを放つ馬鹿者は存在しないと思っていたが、まさか自分がそうであったとは思うまい。
 『そこまで言うなら、好きなだけ探せば良い!』そんな一言で、家の中は嵐が過ぎ去った廃墟同然だ。蝶番が付けられて開閉できる扉は全て開け放たれ、人の足の広さ程度ある床は全て仕掛けがないか乱暴に踏みしめられた。本棚に綺麗に並べた本は全て床に投げ出され、薬品瓶は全て開けられて中身を検査にかける。ベッドシーツもカーテンも引き剥がされ、林檎や肉の塊は全て真っ二つに割られた。納屋の奥に固まった綿埃まで掻き出し、男所帯にしては小綺麗だった部屋は埃っぽくて咳を堪えられない空間に変えられてしまった。
 我が家をこんな状態にした実行犯達は、荒らすだけ荒らして帰っていく。
 それが一度だけなら、綺麗に片付けようと思うものだろう。しかし、細く欠けた月が丸く満ちる間に三度も行われたのだ。今、私は宿泊費という無駄な出費を強いられている。
 分解さればら撒かれた論文を整えていると、部屋がノックされる。思わず身構えたが、奴らならノックという高度な礼儀作法など無しに扉を開けて踏み込んでくるに違いない。強張った体から力を抜き、『なにか?』と返す。
「フロントにゼフ様がお見えになっております」
 世界宿屋協会のコンシェルジュの丁寧な言葉遣いに、荒れた心が慰められる。そして、来客の名前に驚いて腰を上げた。『そのまま、待たせてください』そう言ったかも定かでなく、私は見苦しくない体裁を繕ってから部屋を出る。
 塵一つなく鏡のように磨かれた廊下を進んで階段を降りると、フロントから少し離れたラウンジに見知った姿が手を振った。両手を前に組んで控えていたコンシェルジュにお茶と茶菓子を頼み、オレンジのバンダナの後頭部が踵を返すのを見送らずに進む。
 建国者レトリウスの名を冠した通りが見える窓の前で、ゼフ殿が立ち上がって出迎えてくれた。我が恩師の親友であるゼフ殿は、陽の光を浴びぬ錬金術師らしい色白い肌をしていたが、今は青白くさえ見える。眼鏡の奥の瞳に疲れの色が見え、痩身は窶れて一回り小さく感じた。お元気そうで何よりです。互いに親しげな笑みを浮かべ、五体満足である事を喜ぶ。
 どうぞ、座ってください。そう促して互いに、綿が詰め込まれた柔らかいソファーに身を沈める。天鵞絨の手触りが窓から差し込む日差しに温められ、眠気を誘われる心地よさだ。
「災難でしたね。コンギスさん」
 いいえ。私は頭振った。
 ゼフ殿が差し入れをテーブルに並べる。キィンベル最大の文房具店の紙袋からは、論文を書くのに適した用紙の束、書きやすい赤い硝子のペンに、黒いインク瓶は徳用サイズだ。恩師が好んでいたチョコレートも添えられている。
 ゼフ殿の心遣いを、私は深々と頭を下げて受け取った。

舞台は王都キィンベル!コンギスさんが誰かは、わかる人ならわかるでしょう!

 時の力? 僕が訝しげな顔をした先で、クルッチはぴしっと長い腕を振った。
『でも、ユーシャさまの使う力と、この国のヒトが持ってる力は元が違うッチ。源流が異なる時の流れが反発して、あの獣に流れる時間をメチャクチャにしたッチ』
 レナート殿? 掛けられた声に顔を上げると、心配そうな顔がある。僕は慌てて取り繕った。
「僕がエテーネ出身じゃないからでは?」
 嘘ではない。
 クルッチの言葉が正しければ、あの獣の光線はエテーネの人間にしか作用しないのだろう。しかしエテーネ王国の出身でなくても、力が同じものだったら僕も昏睡状態だった。どんな結果であれ、僕は攻撃を受けたのだ。運が良かっただけで、誉められたものではない。
 なるほど。ローベルさんは納得したように報告書に視線を落とした。几帳面な文字が、白い紙の上に次々と書き込まれていく。
「それが理由とは軽々しく判断できないが、特記事項として君がエテーネ王国出身者でない事を記しておこう」
 そうだ! ラゴウ隊長が喜色満面で声を上げた。手紙に齧り付くように筆を走らせる。
「異形の獣! 異形獣! 我ながら気の利いた名前じゃないか!」
 うきうきと心が弾む様子を隠しきれず、隊長は蝋を乗せたスプーンをアルコールランプの火に掛けて溶かす。手紙を収めた封筒に溶かした青い蝋を垂らすと、王国軍の印璽を押す。
「突如現れた異形獣を撃退した功績! 私が王都に招聘され昇進するのは間違いない!」
 封蝋した手紙を翳すと、明るい未来が見えているのか高らかに笑い出す。
 そんな様子を呆れもせず真面目な顔で見ていたローベルさんも、分厚くなった報告書を封筒に収めた。僕に向けて差し出された封筒は、襲撃の状況や、獣の攻撃動作、被害者の状況など、沢山の報告書を収めて重たげに撓んで垂れている。ラゴウ隊長がたった一枚の報告書で浮かれているのとは対照的だ。
「君が馬を最も早く駆れる。不寝番で疲れている所に悪いのだが、この報告書を至急王都キィンベルに届けてほしい」
 わかりました。そう応えて封筒を受け取ると、ずっしりとした重みが腕に伝わった。
 今すぐに厩舎へ向かい、緊急事態に備えて鞍を着けられた馬に跨って駆けて行ってしまいそうな僕の肩を、副隊長は労うように叩いた。生真面目な顔が綻んで、うっすらと笑みが浮かぶ。
「腹が減っては戦闘は出来ぬ。朝食を用意する間、仮眠してくると良い」
 僕は恥ずかしさに頬が熱くなった。
 大エテーネ島全土に及ぶ王国は、大陸と呼ぶには小振り程度の広大な国土を擁している。王都キィンベルまで、馬を飛ばしても一日は掛かる。意識を失った隊員を馬車で運ぶのに、三日を予定していた。一睡もせずに馬を飛ばして、うっかり眠気に意識が落ちてしまったら馬に怪我をさせてしまう。
 なだらかな坂の上に建った本部を出ると、辺境が一望できた。
 島国全体は日中は暑く蒸すが、夜になるとからりと乾燥して冷える。磨かれた空気に朝日が黄金色となって辺境の自然に降り注いだ。雪を冠る程の標高がない山々は、頭のてっぺんから少しずつ濃い緑の衣を脱いでいる。島全体に無数の川が走り、増水した川に削られて起伏に富んだ渓谷を生み出していた。人の住処が王都に集中している関係か、大地は手付かずの豊かな森林が萌黄色に染まる。
 故郷とは全く違うが、自然豊かな田舎の風情に心が落ち着いた。
 僕は大きなあくびを一つ漏らして、草むらに横たわる。涼しげな風が僕の顔を撫でて目を閉じさせ、暖かい日差しが掛けられて緊張した体を解していく。一緒に王都に行く子は誰だろう。そんな考えがふわふわと浮かんだ。
 お前って本当に寝付き良いな。そんな相棒の声が聞こえた気がした。

ラゴウさんの小物っぷりが面白い。自分が描かないキャラを描いてる感がすごくする。

 空が白じむ頃、辺境警備隊詰所の被害が明らかになった。
 ディークを含む五人の隊員が、黒い獣に襲われて意識不明に陥っている。脈も正常で命に別状はないが意識が戻らない状態で、馬車の手配が済み次第、王都へ移送される事になった。
 本部二階の執務室に残された遺骸は、王都の軍部より鑑識を要請するとの事。軍部より返事が来るまで獣の遺骸はそのままの状態で置かれる為、ラゴウ隊長が顔を真っ赤にして癇癪を起こした。『軍は貴重なサンプルを重要視するでしょう』と副隊長が取り成すまで、子供のように駄々を捏ねていた。
 ラゴウ隊長は無事だったサイドテーブルの上で報告書を認めながら、目の前に転がる遺骸を見下ろしていた。うーむ。随分と深刻そうな顔で顎を撫でる。
「エテーネ王国では見た事のない魔物だ。呼び名がなければ、報告書が書けぬな…」
 手に持った角を矯めつ眇めつ眺める隊長を見遣りながら、僕はローベルさんに囁いた。
「なぜ、今回の襲撃が『時の指針書』に書かれていなかったのでしょう?」
 『こんな事が起きるだなんて、指針書に書かれていない!』そんな声を襲撃の合間に何度も聞いた。戦闘を行い汚れる事もあると携帯していないローベルさんだが、隊員の多くがこの指針書を持ち歩いている。専用のブックポーチはいつでも指針書を取り出し読めるように工夫が凝らされた品で、隊員達は暇さえあれば指針書を読んでいた。
 起こり得る未来が書かれた指針書。未来に備える利点が、どうして今回に限って発動しなかったのか。特に今回の襲撃で異常な状態に陥ったディーク達の指針書に、何も書かれていないのはおかしい。
 わからん。ローベルさんのきつく結った頭髪が、左右に振れる。
「『時の指針書』は所有者が死亡する少し前から、更新が止まる。もしかしたら、今回の襲撃で負傷した者は全員死んでしまうのかもしれん」
 悔しさに沈んだ声に、僕も歯噛みする。
 正直、魔物の棲家と隣接する辺境警備隊詰所の体制は薄いと思っていた。確かに辺境を訪れるのは素材となる植物や鉱物を採取する商人達で、それらを護衛する役目なら人員を多く割く必要はないだろう。今回のような襲撃が『時の指針書』で先読みできるなら、必要な時だけ人員を増やす事ができる。未来が見えない僕からしたら傲慢な人事が、この国にはあった。
 しかし、その根拠である『時の指針書』のお告げが意味を成さないなら、増員を王国に申し立てるべきだ。ただ『時の指針書』を盲信していると言って良いこの国の人間が、それを受け入れるのだろうか?
 でも、それは部外者である僕が言うべき事ではない。
「しかし、なぜ、レナート殿は無事だったのだろう?」
 顎に手を当てて考えている横顔から視線を足元に向けると、足に背中を預けて座っているクルッチが顔を上げた。僕の無言の問いかけに、クルッチはぴょこんと立ち上がった。
『あの魔物は時の力を奪おうとしたッチ』

すかさず問題提起するぞ!

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