ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 オレンジのローブと空色のマントは大きく焼け落ちて、上半身は裸と言った状態だった。炎に炙られても白いままの王の素肌、肩や肘や膝には人形の関節のような球がはめ込まれ、二の腕にはメンテナンス用なのか開閉口がついている。
 極め付けは腹に嵌まった、人の頭と変わらない大きさの真紅の球だ。顔から滴った皮膚が垂れる。皮膚を失った顔の下にあるカラクリで上下する顎や、空洞の眼窩に不気味さは最高に達し、ドミネウス王ではないと理解した人々が逃げ出し始めた。
 魔法生物かはわからないが、ドミネウス王でないのは明らかだ!
「余コソ、エテーネの王ドミネウスなリ! 余ノ意に添わヌ者は、殺して、コロシテ、コロシツクス!」
 これで、目の前の敵を倒せる。互いに顔を見合わせ頷き合うと、鋭い叱責が響いた。
「何をしている! 民の避難を優先しろ!」
 呆然としていた近衛兵達が、雷に打たれたように走り出す。取り除かれた人垣の向こうから、抜き身の剣を引っ提げたクオード殿が駆け寄ってくる。この混乱の対処に追われていたのか、緑の軍服は乱れ首元のスカーフも大きく緩められている。
 軍団長を担う息子が、王だったものに目を向けて顔を大きく歪めた。服は大きく焼け落ちてはいるが、黒い鳥の羽飾りがついた王冠は残っていたのだ。小首を傾げた拍子に、さらりと青紫の髪が揺れる。
「なんだ貴様は?」
 王の格好をした異形に兵士達が戸惑いながらも槍や剣を構える中、ぽたぽたと皮膚を滴らせる王だったものが王の声で叫んだ。しかし、声は上擦り雑音が混じって耳障りな声となって迸る。
「父に剣ヲ向けルトは、血迷ッタかクオード! 今スグ剣を引けィ!」
 クオード殿の青紫の眉が嫌悪に大きく寄って、皺を刻む。
 ふらりと動いた拍子に、丈の短いオレンジのマントがふわりと揺れた。
 ふっと空気が動き、鋭い剣戟がドミネウス王のだったものの胸を袈裟斬りにする。赤い宝石は鋭利な断面を見せて切り裂かれ、胸から上がずるりと滑っていく。王だった物が目を瞬かせている間に、地面に落ちた上半身が砕けて中に詰まった数多の部品が飛び散っていった。
 血の滲むような日々の鍛錬を重ねた者だけが持つ体幹。実戦で多くのものを切り裂く感覚が体に染み付いているからできる、両断という業。
 エテーネ王国軍軍団長に相応しい会心の一撃だった。
 クオード殿は剣を鞘に収めると、切って捨てた塊を睥睨した。
「本物の父上なら、この太刀筋を避けるなど造作もない事。紛い物が父を騙るなど片腹痛い」
 軍団長は兵士達を見据え、腹の底から朗々とした声を響かせた。
「陛下を騙った替え玉の謀略により、罪人に仕立てられた者達は潔白である! 魔物の討伐の為王宮は一時閉鎖とし、全ての人員に避難を命じる! 各自、避難困難者の援助にあたれ!」
 兵士達は凛とした声で応じると、手際良く散っていく。僕達と共に逃げてきた人達は並べられて誘導され、軽い火傷をしているだろうディアンジさんや、恐怖に過呼吸を起こしているザグルフさんが兵士に付き添われ転送の門へ向かっていく。
 王だった物の残骸を見下ろしていたクオード殿に、僕は囁いた。
「こんな事をして大丈夫なんですか?」
 問題ない。冷静な光を湛える青紫の瞳が、こちらを向いた。
 これは容姿も人格も完璧に模倣する、王家の秘宝であると説明した。時に影武者として用いる時代もあり、ドミネウス王が己の代役として使役していたのだろうと続ける。そして苦いものを口に放り込んだような渋い顔をした。
「民の前ではあぁ言ったが、父上がお前達の処刑を指示した事は間違いないだろう」
 大きく息を吐き、ゆっくりと視線が周囲に向けられる。
 王宮に風が流れ込み、煙が晴れて騒動の跡が生々しく広がっていた。ごうごうと唸る風が、僕らの服をどこかへ連れ去ろうと強く引っ張っる。
「兵士や民の前で冤罪を証明出来たが、父がどう出るかはまだわからない。王国軍副団長のセオドルドが、地上でお前達をエテーネ王国から逃す手筈を整えている。姉さんが王位に就くまではこの国に近づかぬ事だ」
 そして踵を揃え、姿勢を正して僕らに向き直る。伏せた目元に長いまつ毛が覆いかぶさった。
「迷惑をかけて済まなかった」
 向けられた謝罪に僕達は互いに顔を見合わせる。
 僕らの処刑を良しと思わなかったクオード殿の意志を汲んで、ディアンジさんとザグルフさんは助けに来てくれた。地上に降りてエテーネ王国から逃す手伝いをしてくれるのは、クオード殿の指示。チャコルに『命を石』を持たせて『黄金刑』を回避させてくれたのは、メレアーデ様だ。
 この国の人に散々投げつけられた言葉は、気持ちの良いものじゃなかった。
 それでも僕らを救おうと動いてくれた人達のお陰で、嫌いにはきっとなれないだろう。
 謝罪を受け取ったと感じたクオード殿は、顔を上げて僕らを見据えた。
「行ってしまう前に、一つ聞きたい」
 切長の瞳に切実な光が浮かんでいた。
「姉さんを見なかったか?」

後半終了!
カッコいいのに、最後の最後で姉さんかよ!ってツッコミたい最後だった!

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