ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 剣を抜いたレナートと矢を番えたルアムの間に、声の主の姿が見えた。青紫の直毛を肩口で切り揃え、黒羽で飾った黄金の冠を戴く大柄の男の影。しゃらりしゃらりと錫杖の輪を打ち重ねる音を響かせ、祭壇へ続く階段を一歩一歩と降りていく。水を吸った髪の毛から雫が滴り落ちる俺達と異なり、その空色の外套も真紅の紋様が美しいオレンジのローブも濡れている様子がない。
 第四十九代エテーネ王国ドミネウス。
 俺は姉さんを抱えたまま、形だけ頭を下げる。
「父上、ご無事で何よりです。父上を騙る人形を討伐いたしましたが、肝心の父上の無事が確認できず最悪の事態も脳裏を過ぎった次第です。杞憂に終わっ…」
「政務など人形任せで良い」
 俺の言葉を遮り、父は苛立ちを隠さずに言い放つ。
「時見の祭司である余の双肩に、王国の未来と臣民の命が掛かっておる。貴重な時間を雑事になぞ費やせるものか」
 王国の民の生活を左右する政が、人形に任せる程度の雑事。それがエテーネ王国の現国王であり、血の繋がった父から発せられた言葉であると理解するのに時間が必要だった。
 頭のどこかで、何かしら理由があるのだと信じたくない気持ちがあった。
 しかし、気がついた時には腑の熱が口から迸った。
「なんて無責任な! 国王のする事ではないっ!」
「口答えをするでない! メレアーデを装置に戻せっ!」
 血走った目を見開き、青筋を立てて父は怒鳴る。力任せに振り下ろした錫杖が、足元の階段を貫いて破片が飛び散った。
 姉さんを戻せ? この装置の中に?
 俺は腕の中に抱いた姉さんを見下ろす。神具の放つ黄金色の光で気がつかなかったが顔色は蒼白で、呼吸は虫の息だ。異形獣に襲われた者達によく似た状態だと結びつけば、この状況にした原因が姉さんを閉じ込めていた装置であろうと容易に推測できる。父の言葉の通り装置に戻せば、命を失うかもしれない。
「良いか、クオード。余はエテーネ王国の為に、神具を時渡りの力で満たさねばならぬ」
 姉さんの肩を抱く手に力を込めた俺に、父は威厳ある声で語りかけてきた。
「元々の予定ではヘルゲゴーグで効率良く収集し、神具を満たす筈であった。しかし高純度の時渡りのチカラを抽出するならば、やはりこの方法に勝るものはない」
 ヘルゲゴーグ。ヨンゲの研究資料からしか知れぬ、異形獣の正式名称。しかし、俺が証拠を突きつけた段階で人形が王に成り代わっていたならば、本来なら知る由もない名前のはずだ。
 やはり父はヨンゲに異形獣の作成を命じた。そればかりかエテーネの民に異形獣を嗾け、マローネ叔母さんや生まれて間もない従兄弟の命を危険に晒す。効率が良いからと実の娘を便利な道具のように扱うなど、到底理解できなかった。
 こんな男を王に戴く事に、こんな男が俺の父である事に、頭の中を素手で掻き回されるような激情が苛む。恥ずかしいとも、愚かしいとも、呆れたとも、言い切れないようなさまざまな負の感情が煮詰まって思考が焼き切れてしまいそうだ!
「メレアーデはお前と違い優秀だから、エテーネ王国の為に喜んで身を捧ぐだろう!」
 姉さんはエテーネの民の為なら、己の身を捧ぐ事を躊躇ったりしないだろう。ただし父の目的が不明瞭で、姉さんの意思も分からぬ以上、俺が姉さんを装置に戻したりは絶対にしない。
「さあ、もう気は済んだだろう。メレアーデを装置に戻すのだ」
 目を眇め心底面倒そうに言った父の言葉が、俺の冷静な怒りに油を注ぐ。


あーもーこのモラルハラスメント親父はよぉ………。

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