ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 俺は喜び合う兵士達にもみくちゃにされながら、燃え盛るハヌマーンを見ていた。
 賢者セレディーネが間に合い今を生き延びることができた事、雷撃を回避できた事、全てが運がよかった結果であると思うと自分の無力さを痛感する。ぐっと手の甲を貫いた傷口に爪を立てると、温かい熱が傷口を覆い痛みが消えていく。驚く俺が視線を脇に向けると、戦場に似つかわしくない乙女が俺の手に回復呪文を施しているところだった。
「すまぬ、賢者殿。俺よりも重傷の者を手当してやってくれ」
 いえ。翡翠色のまつ毛に縁取られた、青い瞳が潤んでいる。
「兵士の皆さんが、生存者の方々を探してくださっています。ハヌマーンの強襲を受ければ全滅も珍しくありませんが、今回は多くの生存者が見込めそうです」
 そう兵士達が戦場を徘徊する姿を見遣る。見つかったと声が上がると、周囲の兵士達が集まって折り重なった遺体の下から生存者を引き摺り出す。助けられた者達は泥や魔物の血を浴びて、真っ黒な影のように見えた。
 賢者セレディーネは回復呪文に特に秀でておられるのだが、このような劣悪な環境に塗れた体に悪戯に回復呪文を施せば、汚染された土や魔物の血といった害をなす物質を体内に取り込んでしまう。ある程度生存者を捜索してからベホマラーを戦場に放ち、最後の捜索をして撤退となるのだろう。
 しかし、生きて帰れたとしても次の戦場が待っている。
 俺には生き抜く確固たる目的があるが、全ての兵士達にそんな強い心を持てと言うのは酷な事だ。たとえ勇者という希望が存在したとしても、今回の戦場のように希望が及ばぬ事は少なくない。混乱していたとはいえ仲間に殺され掛けた恐怖、頭上を飛ぶ白金の影に刻みつけられた衝撃は一生涯拭い去る事はできないだろう。折れた心は荒み病んでしまう者を笑う事はできない。
 生き残った者達全てが、次の戦場に参加するとは限らないのだ。
「この戦いが長引けば、間違いなく人は魔王に敗北するだろうな」
 賢者らしい険しい表情でセレディーネ殿が頷いた。
「諾々と敗北を受け入れるつもりはありません」
 ドラスケ。ありがとう。賢者セレディーネが年相応の乙女の顔で、真紅の鱗を持つ巨竜の頭を撫でる。ごろごろと喉を鳴らし、セレディーネ殿の白魚の手に額を擦り付ける竜はまるで愛玩動物のように人馴れしている。
「どうすれば、死なぬ魔王を倒せるのだろうな?」
 魔王を倒してくれる者。世界を平和にしてくれるだろう存在。どんな不可能も可能にしてしまう奇跡を体現した存在。平和な未来に繋がるならばと、人々が命を散らしていく。全ての人々の希望がたった一人の青年の肩に重くのし掛かっている。
 ぽつりと、頬を滴が伝う。暗く蓋をされた空から雨が落ちてくる様に、言い様もなく息が詰まる。
 この状況で、平和な未来などやってくるのか?
 それでも、心の中で縋ってしまう。
 勇者。浮かんだ言葉に俺は苦々しく噛み締めた。

前編完走!お疲れ様でした!!!

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