ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 ロウ様は、孫を守りきれなかった私を責めなかった。濁流に消えて行った産まれたばかりの孫よりも、運良く川岸に引っかかって助かった私を抱きしめて喜んでくれた。
 毎日鍛錬を欠かさず様々な魔物に挑んで討伐する実力を得た今なら、当時の幼い私が赤子を守りきるのは奇跡に他ならないだろう。エレノア様は例え私と赤子が助からないとしても、追手を引きつけ囮となって、少しでも子供達が生き延びる可能性を生み出す最善を尽くした。
 エレノア様が犠牲になった事。赤子を守れなかった事。それを、責める者は誰もいない。
 それが、どんなに辛いことか。
 自分の無力を呪うしかない。その呪いを自分への怒りに変えて、己を苛め抜いた結果が今の鍛え抜かれた体と死を恐れず魔物を翻弄し討伐する戦い方になった。しかし、死ぬ事はロウ様から固く禁じられた。エレノア様が命を懸けて守った私の命を、粗末にしてはならないと戒める。
 息苦しさが、鎖のように私を雁字搦めにする。
 しかし目の前で背を丸めるフェリナ姫の鎖は、己の病弱な体だろう。
 グランゼドーラ王国の第二子であられるフェリナ姫は、名前を授けるよりも早く棺桶が用意されたと逸話のある病弱な姫と言われていた。艶のない白髪を結い上げた小柄で痩せた体は、貧困街の少年を彷彿とさせる。朝に一瞬だけ見られる淡い紫色のローブの裾から覗く手足は、骨に皮を貼り付けたように骨張っていて、白磁のような青白い肌色だ。寝床から起き上がる事すら難儀する彼女が、こうして自室から出ている事すら、兄のアルヴァン様が聞いたら満面の笑顔で喜ばれる出来事に違いない。
 今、フェリナ様は刺繍をしておられた。
 刺繍は淑女の嗜みであるのは世界共通だ。この魔法が発達した世界において、刺繍はただの飾りではない。魔法陣が書かれた巻物を読み上げれば魔力が少ない者でも呪文が発動させられるように、正確に刺繍された魔法陣は効果を発揮する。死の呪文を防ぐ魔法陣を縫い込めばザギを防ぎ、メラ系の魔法陣が縫い込まれた肌着は寒さから持ち主を守る。解毒の魔法陣を縫い込んだ布を傷口に当てれば炎症を防ぎ、癒しの魔法陣は治癒力を高める。
 二つ目の神話で兄の無事を祈り、呪いすら弾き返す刺繍を施す妹姫の物語は淑女達が針を持つ時に必ず聞かされる。私はホメロスに白馬を見せてもらえるって舞い上がって、全然聞いていなかったけれど。
 刺繍はフェリナ様にとって、数少ない王国への貢献であった。
 休み休み時間を掛けて完成させるが、その完成度は兄である勇者アルヴァンと盟友カミルに捧げられた。全く刺繍のできない私から見れば、緻密で繊細な糸遣いと、センスの良い色選びは勇者に捧げる逸品に相応しかった。
 技術もセンスも確かなフェリナ様の手は、絡みついた鎖に小刻みに震えていた。普段なら疲れたら直ぐに横になれるベッド上での作業になるのに、今日は針子達が集まる部屋で他人と作業をしているのだ。クッションが敷かれている椅子に座っているが、ずっと同じ姿勢で休まず数時間と作業をすれば疲れが出るのは当然だった。
 もう、お休みされるよう声を掛けねば。身を乗り出した私より早く、震える指先を華奢な手が押さえた。
「フェリナ様。作業をお止めなさい」

数年振りにフェリナ姫様が再登場でございます!!
あーよかった。流石に二話もいれぶんのオープニングですか?って内容じゃあ怒られちゃいますものね。一応、盛り込めるものは皆盛り込むのが稲野スタイルのつもりです。
ちなみに二番目の神話の妹姫はサマルトリアの王女。ハコの開きでは刺繍がとても上手い子です。

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