ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 カミルは剣を納め、ゆるりと立ち上がった守護者へ頭を垂れた。
『其方の覚悟、太刀筋よりひしひしと伝わって来た。二つの対となる秘術を授けるに相応しい』
 差し出された手甲からこぼれ落ちた光をカミルが受け取ると、光は凝縮して一つの宝玉となったのです。宝玉はまるで水と油が混在しているように、黒と白い部分がとぷりとぷりと揺れ動いていました。天と地、水と気泡、どんなに揺れ動かしても混ざり合うことはないようでした。
『一つ目の秘術は邪魂の鎖。この世界に存在するありとあらゆる力であっても、この鎖がもたらす封印から逃れる術はない。それが可能になるのも、邪魂の鎖が術者の魂から生成されるからである』
 はっと顔を上げた瞬間には、鍛治の炉の炎のような熱が放たれた後でした。秘術を封じ込めた宝玉を破壊する為に放たれた火炎の球は、身を挺した守護者によって掻き消える。無数の光の粒となって消えていく守護者の向こうで、カミルが剣を抜いてこちらへ身構えたのです。
 凄まじい獣と血の匂いに振り返ろうとして、ゴワゴワとした毛皮のようなものに覆いかぶされる。頬に冷たく鋭いものが這った。
「貴様はジャミラス!」
 ジャミラス。魔軍十二将の中でも、知略に長けた『智将』の二つ名を得ている魔物。その魔物は器用にも わたくしを押さえつけながら、慇懃に会釈をしてみせたのでしょう。わたくしの白いドレスの前に夥しい血を吸って硬くこわばった羽根がぞろりと広がり、硫黄のような禍々しい凹凸が見えるほどの至近距離に わたくしをひと呑みにしそうな嘴が見えたのです。
『盟友に恋焦がれるヤスラムを演じるのは、楽しかったですよ。しかしこの姫がファルエンデから輿入れした時から入れ替わっておりましたが、王と王妃をくびり殺し、病弱な妹姫を陵辱の果てに殺し、兵士達を皆殺しにする栄誉が与えられぬ日々は鬱屈したものでしたが…』
 ヤスラムに化けていたジャミラスがねっとりと語りながら、わたくしの頬を爪先で撫でていく。
「姫に擦り傷一つでもつけたら、即刻首が落ちると思え!」
『私達は不死の魔王様のお力で何度でも蘇ります。死など、瑣末な問題です。あぁ、それでも盟友の鋭い剣は怖いですねぇ。手の震えが止まりませんよぉ』
 ぐっと顎を掴む手に力が込められ、わたくしは思わず呻き声をあげてしまいました。それを見て、カミルが剣を足下に置いたのです。
『あぁ、未来のグランゼドーラの王妃様の為に命を危険に晒すとは、なんという献身なのでしょう! 敵ながらに胸が打たれてしまいます』
 しかぁし。ジャミラスの舌が わたくしの頬を舐めて来て、あまりの生臭さに目をきつく閉じる。ヤスラムの時は口臭なんか気にならなかったのに…!
『我が主君、不死の魔王様は血が湧き肉踊る闘争をお望みです。その闘争に水を注す秘術を、ぜひ私にお預けください』
 秘術が封じられた宝玉が宙を舞い、ジャミラスは手に取ると恭しく頭を下げた。丁寧に礼を言うが、わたくしを拘束する手が一向に緩まないことは感じていました。武器を手放され、勇者の勝利に必要な秘術を明け渡され、なすがままの盟友。この卑劣な魔物が次に望むことなど、想像に容易かったのです。
「待ちなさい、ヤスラム。いいえ。智将ジャミラス」
 勇者の勝利と わたくしの命を天秤に掛けた盟友に、わたくしは激しい憤りを隠しませんでした。

うちのヴィスタリアちゃんなら、私ごと斬りなさいくらい言いそうですけどね。

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