ハコの厚みはここ次第!
■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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「シルビア。この剣、ちょっと見てくれない?」
僕は脱いで膝の上に丸めていた紫のコートを緩めて刀身を見えるようにすると、剥き出しの折れた剣を差し出した。新品と交換して手元にやってきた、哀れな折れた剣。
シルビアは柄を持ったり刀身を持ち上げてみたりして、断面が鏡のような剣を為つ眇めつ眺める。尖った唇を解くと、ぽつりと呟いた。
「ちょっと軸が歪んでるわね。全力で打ち合ったら、突然折れちゃうかしら」
やっぱり。僕も同意見だと頷けば、シルビアは折れた剣を光に翳した。
打ち直せば使える程度に鋼の質は良く、手入れもしっかりと行き届いている。訴えた若い闘士の言葉通りであれば妥当な金額で、売った商人は良心的だが伝説の武器商人のように武器を扱い整備する程の知識や経験が少ない。実際に剣を振るう者でなければ気がつけない、微細だが致命的な欠陥。
うっ! うっ! うおーーーーんっ! 耳の奥で買ったばかりの剣を折られた、悲しみの声が木霊する。僕が指摘すると、新品の剣を抱えて己の未熟さを大声で叫んでいたっけ。
「これはギルガラン王子が『もっとマシな武器を買え』って真っ二つにした剣なんだ」
へぇ。磨かれた刀身に映った瞳が、感心して細められる。
「これを一目で見抜いたとしたら、ギルガラン王子はなかなかの慧眼の持ち主ね」
先代の王が亡くなり、次期国王として振る舞うギルガラン王子の行動は確かに目に余る。
それでもギルガラン王子は、ただ乱暴で不器用な人ではない。
王子はこの剣の致命的な欠陥を見抜き、戦いの場で突如折れて持ち主が死んでは欲しくなかったのだろう。ただ剣をへし折り、『マシな武器を買い直せ』と財布が空になったばかりの闘士に言い放った、とても優しくない方法で指摘するのが駄目なのだ。
…いや。やっぱり、乱暴で不器用なだけかもしれない。
「もう少しグリエ様と仲良くして欲しいね」
ほんと、それよ。シルビアも深々と頷き、わっと沸き立った方へ顔を向けた。
市場の一角に人集りが出来ている。活気ある挨拶と心からの感謝の声が広がると、市場の商人達は次々に売り場から離れて人集りに加わっていく。『グリエ王子。先日は助けていただき、ありがとうございます!』『グリエ様! うちの新商品味見してお行きよ!』大なめくじの速度で人集りは前進し、感謝の言葉が途切れる事はない。オルセコの民は『グリエ様は先王様のように、お優しい方だねぇ』『グリエ王子は数え切れないくらい苦情を聞いてくれて、人が良いよな!』と囁き合って方々へ散って行った。ゆっくりと人集りが解れる頃には、両手いっぱいに感謝の品を抱えたグリエ王子とセーニャが僕達の目の前で笑っていた。
柔らかい白銀の髪の下に浮かぶ柔和な笑みは見る者に安らぎを与え、氷を彷彿とさせる色の薄い青の瞳がひたと見つめれば信頼できる真摯さが滲む。オーガ族に囲まれれば、人間であれば標準的な体格がオーガ族であれば貧弱であるのが、彼の唯一の欠点だった。
「レナートさん、シルビアさん。お手伝いくださり、ありがとうございます」
オルセコ王国のもう一人の王子、グリエ様が丁寧に頭を下げると、手からころりと林檎が落ちる。林檎をものめずらしく眺めるのは、赤い帽子を被ったヨッチと鞄を下げたクルッチ。白く丸い生き物が見えないグリエ様は、転がった林檎を拾い上げた僕に困ったように微笑んだ。
古代オルセコを語るに必須の、二人の王子の比較です。
切り出した石を積み上げたオルセコ王国の天井は恵まれた体格のオーガ族の王国とあって高く、吊るされた篝火が地面に薄く積もった砂利をキラキラと煌めかせる。外側は窓一つない崖のような鉄壁さを誇るが、中央の闘技場側は柱のみの解放感でキツイ日差しが隅々まで行き渡った。緩やかなカーブを描く広々とした通路を進めば、闘技場の周囲を一周するように商店が軒を連ねる。馬車がそのまま入り込み、快活な民が一斉に荷卸する様は港町の活気に似た気持ちの良い雰囲気があった。
僕を追いかけていた将軍を思わせる屈強な体格の影の合間を、影がぶんぶんと手を振る。僕も応じて手を上げる間に、人波をワルツを踊るように軽やかにすり抜けて目の前だ。
「はぁーい。レナートちゃんも陳情書は片付いたのかしら?」
うん。頷いた僕に、剣を握る節くれだった手が食べ物を差し出した。
「依頼主さんの感謝のお気持ち。温かいうちに頂いちゃいなさい」
歯応えのあるパンは焼きたてでまだ柔らかく、スライスした肉がたっぷり挟まれている。肉はやや脂っ気の少ない赤身だが一緒に挟まれている薄切りの森のバターと呼ばれる果物と、果実のソースの甘酸っぱさが絶妙に絡んで口いっぱいに広がった。セーニャなら半分でお腹いっぱいになってしまう大きさで、武術が盛んなオーガ族ならではのサイズだろう。
僕がもぐもぐとサンドイッチを口に運んでいる間に、真横に腰を下ろした相手の香水が鼻先を撫でた。ワックスできっちりと整えた髪を撫で付け、凛々しい顔立ちが花のように綻ぶ。ふわりと胴を包むのは、白黒の縦縞に白いポンポンがついた道化のような服。体にぴったりと添う燕脂色の袖やグレーのズボンから浮き上がる、しなやかな四肢。身長はオーガ族の男性より少し低いけれど、鍛え抜かれた胸筋が道化の服を否応なく押し上げていた。腰に穿くのは使い込まれた片手剣。奇抜な格好と侮るオーガ族もいたらしいが、半日も掛からず実力を示した仲間のシルビアだ。
シルビアは既にお礼の食事を振る舞われた後だったらしく、手に持った包みはセーニャの手土産らしい。僕が食べている間に、陳情書の顛末を面白おかしく語ってくれた。
「ギルガラン王子の尻尾があっちこっちの商品薙ぎ倒して行ったって、市場はドランド平原の鬼人国が攻めてきたような大騒ぎ! あっちの肉は落ちて砂だらけ、こっちの野菜は木箱に挟まれぺっちゃんこ、背負った斧が引っかかって売り物の布は引き裂かれちゃって、挙げ句の果てには割れた卵で床が酷い有様だったわ!」
王国に提出される陳述書のほぼ全ては、ギルガラン王子に関する内容だ。
やれ、ギルガラン王子に乱暴されて怪我をした。それ、王子が棚に尻尾を引っ掛けて商品がダメになった。僕の手元にある剣も、大枚叩いて購入した新品を王子に真っ二つにされた代物だ。
あまりにも多くの陳情書を捌くグリエ王子の手伝いとして、僕達は王国を駆け回っている。
「肝心の王子様は『急ぎの用だ。許せ』って言い捨てて、どこかに行ってしまったそうよ」
手についたソースを舐めている横で、シルビアは顰めっ面の冷えた声真似をする。それを聞いたオルセコの民が『ギルガラン王子そっくりだぜ!』と囃し立てて通り過ぎていった。
武術が盛んなオーガ族の王子だ。膂力が高く、尻尾の一振りは鞭くらいの攻撃力があるかもしれない。実際に商品棚に尻尾を引っ掛ける事も、転びそうなのを助けたつもりで腕を取ったら力が入りすぎて怪我になってしまう事も、体が大きく力が強いオーガ族ならではの日常だ。
でもねぇ。シルビアが頬に手を添えて、明後日の方向を見て嘆息する。
「アタシだって羽根飾りを背中に背負ってる時は、周囲に気を使うわ。そうでなくても、武器を携帯する戦士は己の獲物と周囲の距離を常に把握するもの。ちょっと粗暴なだけか、傲慢なくらいの自信家か、どちらなのかしらね?」
足を止め、相手に目を合わせ、謝罪を述べれば、情の深いオーガ族は大抵許してくれる。
陳情書が書かれるに至ったのは、偏にギルガラン王子の誠意が足りないのが原因だった。
はーーーーーい!古代オルセコ王国編は、レナート君視点でっす!!!
エテーネ王国以来のレナート君ですね。今回はシルビアさんも一緒!先ずは、オルセコ王国の事情のお話になります!
拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!
一体、どうなっている?
俺はジーガンフだ。目の前の男はレギオンだったはずなのに、何故、俺の姿に成り代わっている? 今俺が着ている修練着も、刃を防ぐ為の鋼鉄の手甲も見慣れたものだ。
いや、目の前の男は間違いなくレギオンではなくジーガンフだ。
封印された悪鬼に操られるまでもなく、俺は周囲を侮っていた。村一番の実力者でありながら、村王の娘であるマイユが俺よりも弱いアロルドに惹かれているのを心底理解できなかった。アロルドに勝利する為の対決で手加減されたのに気がついた時、血が沸くほどの怒りを感じた。
俺よりも弱いアロルドに手加減されるなぞ、屈辱以外なんと表現したらいい?
手加減などされずとも、完封するまでに強くなろうと思った。
明け暮れた修行の中で、世界は姿形が変わっていた。
最初の変化は魔物だった。弱いか強いかで認識していた為に、ランガーオ山地に生息するスライムや一角兎の見分けが付かなくなった。それは次第にランガーオ村の人々にまで伝播し、住んでいる場所やいつもいる場所で見分けるようになる。その変化を俺は何とも思わなかった。
強く。
強くなろうとした。
その意思が、俺から人らしさを削ぎ取っていく。
ゾンガロンに操られた時でさえ怒りに満たされた世界は代わり映えなく、ランガーオ村の人々を認識できなかった。あの時、マイユとアロルドが止めてくれなかったら、俺は母をくびり殺していただろう。
今、レギオンにしようとしたように、母を母と認識せず、オーガとも思わぬうちに。
心臓が萎んで凍りついていく。
狂っているから、殺していい。
その免罪符が、目の前に魅力的な香りを放ってぶら下がる。俺の手が、香りに引き寄せられる蝶のように頼りなく伸ばされていく。
「ジーガンフ! 惑わされるなっ!」
声が閃光のように貫いた。
声の方へ向けば小さな窓がある。白い雪で眩いランガーオ村の窓は、大口をあけた魔物の口のように暗かった。その窓の下の方に、形の良い小さな白金の丸が転がっている。丸がひょこっと動くと、くりっとした瞳が俺を見て嬉しそうに細められた。闇から浮かび上がり雪に白く照らされた青白い頬に、さっと朱が走る。手に触れたら溶けてしまう淡い雪のような、美しい娘。
そんな幼馴染はスライムより弱いかった。家から出ただけで風邪をひいて昇天の梯を登ってしまうという母の言葉に、冗談と笑って落とされた拳骨が人生初めての気絶だったろう。
弱い。
弱いけれど、俺はその弱さを卑下しようとは思わなかった。
なぜ? 幼い俺が窓に触れると、幼馴染みは恥ずかしそうに枯れ枝のような指先を窓に這わせた。 硝子が互いの体温にほんのりと温まる。嬉しそうに微笑む顔を、具合が悪く苦しむ辛そうな息遣いを、悲しげに伏せた長いまつ毛が隠す目元を、俺は窓越しに見ていた。
笑った顔が、一番好きだった。
「お前は姉が恋焦がれた、最強の男だ!」
心が燃える。心臓が激しく脈打ち、熱を全身に送り込む。足が地面をしっかりと捉え、根を張ったように揺るがぬ点から己の肉体が構築される。血を巡らす筋肉が躍動し、膨らんだ筋力が点から前へ力を送り出す。その動きは無意識にまで体に染み付き、儀式の為に一晩踊り抜く戦いの舞そのものだった。
俺の正拳突きは窓を突き破り、今は亡き幼馴染の背後に立っていたレギオンの胸を貫いた! 泡を吹いて昏倒したレギオンの向こうで、窓越しの彼女と同じ顔で、似ても似つかぬ快活な笑みがある。
その笑みに、ほっと熱い息が溢れた。
しゃあああああああ!!!!!!!!!!後半終了!!!!!!!!!
何故だ? ここに戻る前に、ゾンガロンと接触したか?
いや、オーガ族に強い憎しみを持つゾンガロンが襲撃するなら、都市部に赴き一人でも多くを屠ろうと考えるはずだ。往年の力を取り戻す事に全てを費やす状況では、オルセコを一人歩くレギオンに興味など持たぬだろう。
なら、今のレギオンの状態は一体何だと言うのだ!
悪鬼の力がなくとも、オーガ族はこのような状態に陥ると言うのか?
両手を交差して全体重を乗せた一撃を振り下ろす敵の表情が、間近に迫った。
まるで笑っているようにも、怒りに震えているようにも見えたが、それらの印象は目を見た瞬間に消え失せた。目は、狂気に爛々と光り、瞬きする事も忘れてヒビ入った眼球から血が玉のように転がり落ちていった。
狂っている。
俺は拳を握り込み全身に力を込め、一気に間合いを詰めた。急所を狙う事に執着するレギオンの動きは、決まりきった動きしか許されぬダンスだ。予測された剣の軌道が銀の線になって空間に描かれて行く。そこに立ち入らなければ、俺は傷1つ受ける事はないだろう。
俺の手がレギオンの首に至る道が見える。
そこに拳を乗せるだけで、吸い込まれるように俺の大きな手がレギオンの太い首を掴んだ。頸椎は繊細ゆえに、ちょっと力を込めるだけで筋肉ごと粉砕できるに違いない。
狂ったそれは、レギオンではない。
それは、オーガではない。
指先に力を込めた瞬間、嘲笑が耳を打った。
「やはり、貴様は俺と同じ…」
俺は、ジーガンフと呼ばれた男の首を掴んでいた。
ほらああああああああ!!!!!!!こえええええええええええ!!!!!!!
十年前よりもホラー味が増してますよおおおおお!!!!!!!
拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!
咄嗟に体が動いていた。『死にたくない!』と悲鳴を上げる声を踏み抜き、『逃げなくたって殺すくせに!』と非難する声を押し退け、『お母さん!』とここに居ない者を叫ぶ声を掻き分け、振り下ろそうとした手首をがっちりと掴んだ。レギオンの筋肉が倍以上に膨らみ、俺の体が宙を舞う。光が一閃するごとに、悲鳴を上げてそれっきり。
レギオンは血まみれの剣を片手に、振り落とされて足元に転がる俺を見下ろした。
「俺に逆らうのか?」
何故だ? そんな言葉が脳裏を埋め尽くす。
三人の怯えた態度と、止めに入った俺ごと剣を振り抜く膂力を思えば、レギオンは恐怖で彼らを完全に支配していたのだろう。逃亡の素振りで殺すのなら、襲撃の混乱に紛れて逃げる事は許されないだろう。襲撃で重傷を負っただけで、止めに殺害する程度の暴君ぶりだったに違いない。しかし、三人を留めたのはレギオンであり、少なくとも有象無象の世界の中で個別に認識されていたはずである。
ぽたり。目の前を白い液体が滴り落ちていった。
地面に丸いシミを作ったそれから、視線を上げる。闇に浸されたレギオンの口から顎に伝う唾液が、篝火の僅かな光を吸って赤く光っていた。ぞっと背後を撫で上げた戦慄に、意思とは裏腹に身体は咄嗟に地面を蹴って大きく後ずさる。目の前を銀色の線が過ったのを感じて、全身から冷や汗が吹き出た。
身体の全ての細胞を揺るがす程の悍ましい雄叫びが、レギオンの口から迸った。
「レギオン…?」
目に焼き付いた銀の線の向こうに、レギオンが剣を抜いて立っている。斬り臥した仲間の返り血を浴びて尚どす黒い肌は大きく膨れ上がり、理性を失った瞳は獣のように爛々と光っている。そう認識した次の瞬間には、自分の分厚い金属の小手とレギオンの剣が眼前で火花を散らしていた。
加勢しようと短剣を引き抜いたルミラに、俺は喉も裂けよと叫んだ。
「近づくな!」
レギオンは俺を殺すつもりだ。正確に急所を狙って来る軌道と鋭く速い剣撃とは裏腹に、子供の剣術のようにあからさまで避ける事も防ぐ事も簡単だった。騎士殺しまで犯した強敵が、まるで獣のようではないか?
いや、この戦い方を俺は知っている。
ゾンガロンの光を浴びて獣にされた者の戦い方だ。
いえぇぇぇぇええええいいいっっっ!!!!!繋げましたあああああ!!!!!!