ハコの厚みはここ次第!
■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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僕は竪琴を爪弾いては、音をひとつひとつと零しながら問う。
食へのこだわりが強い貴方が、食べたものを吐くとは思えません。排泄をした記憶はおありですか? さて、貴方が貪り食った数え切れぬオーガの民は、一体どこへ消えてしまったのでしょう?睡眠を必要としない貴方は、一睡もせず十の国を連続して滅ぼしたそうですね? 貴方はオーガ族を破滅の淵に追いやっていた時、疲労すら感じなかったのではないですか?
ひとつひとつ重ねた問いに、泳ぐ目を見据える。
「強力な加護は祝福であると同時に、呪いであり、枷でもあります」
『ランドンの戦神』と呼ばれた、邪悪なる神。その神がオーガ族を滅ぼす為に生み出したとされる悪鬼なのだから、戦う以外の能力など必要ないのです。食事は必要なく、睡眠も要らず、排泄は行われない。女と番っても子供を成す事もできないでしょう。全てが戦神と信奉した邪神の力で賄われている。
しかし。僕は言葉を区切り、一拍の間を置いて言葉を続けた。
「貴方が存在するだけでオーガ族の結束は高まり、復活する脅威に備えて弱体化する兆しすらない。貴方がどんなに戦神に己の有用性を主張しようと、もう邪魔でしかないのです」
戦神が用無しと判断し力を断てば、どうなるか。
自分で自分を生かす事のできない身体が、どうなるか。
僕が絶望に塗れた顔をじっくりと眺め、言葉をはっきりと紡いだ。
「貴方は死ぬ」
グォォォォオオォオオオッ!
身の毛が弥立つような咆哮がグレンを揺るがした。詰め込まれた憎悪の悍ましさはランドンの頂上に届かんばかりに響き、殺害した全てのオーガの絶望が跳ね返ってきた逃げようのない現在を威嚇するように終わりなく続く。誰もが一瞬でも怯む絶望の波だが、ゾンガロンにはそれで十分だったでしょう。
「ガライ!」
ガルードさんが警告した時には既に遅い。ゾンガロンの鋭い爪は、僕の首を切り裂こうと振り下ろされているところでした。前衛職ではない僕には、この凶刃を避ける術も防ぐ術もありません。
しかし僕は大変恵まれているんですよ。
『マスターガライ ニ 脅威接近。殺害許可ナシ。二度目ノ 警告射撃ヲ 実行スル』
ピピッ。耳の後ろから、生き物では発することもできぬ声が告げた直後。天から降り注いだ光が、ゾンガロンの腕を撫でた。水が蒸発するような音を認識できたのは、至近距離にいた僕だけでしょう。僕に振り下ろそうとしたゾンガロンの腕は綺麗さっぱり消失し、肩口が素晴らしい名刀で切断されたような綺麗な面を晒す。
ぎょろりと目が断面に向く。断面からじわりと血が溢れ、決壊したように血が迸るのと、ゾンガロンの絶叫が響いたのは同時でした。のたうち回るゾンガロンの断面から迸る鮮血が、遠慮なく掛かってきます。
「僕の友人は大変優秀です。貴方に一度警告射撃をしたことを、一千年ちょっと程度で忘れたりはしません」
お礼に一曲弾いて差し上げないとですね。僕は友人の好きな曲を考えながら、血の気を失って行く悪鬼を覗き込む。
「では、なぜ生きていると思いますか?」
僕の首に手を伸ばし縊り殺そうともできたゾンガロンですが、憎悪に濡れた瞳が瞬きひとつのうちに困惑に塗り替えられ、眼球が下を向く。グ、グゥ…。ゾンガロンの食いしばった口から うめき声が漏れ、残った腕が割れた腹筋をさする。
ぼこん! まるで音が響くように腹が膨れ上がった。
がっちりと閉じられていた口が開き、苦しみの声がぼたぼたと滴る唾液と共にこぼれ落ちる。立ち上がり首をあらんかぎりに下げて見下ろした腹は、ぼこぼこと膨らんでは萎み、右へ左と動いている。
「誰だ!」
ゾンガロンが己の腹を殴打した。誰だ! 誰だ! そう叫びながら、ゾンガロンは爪を立てて己の腹を引き裂き始めた。一振りで真紅の筋肉組織が切り裂かれて弾け、二振りで内臓が白い液体を零しながら漏れ出る。己の腹に腕を突っ込み引き摺り出した腸が、ゾンガロンの足元でとぐろを巻いた。背に手をやれば翼を引き千切り、翼に連動した筋肉が持っていかれた奥で白い背骨が晒される。激痛から叫ぶ口とは裏腹に、ゾンガロンは己の中身を自分で掻き出して行くのだ。
居合わせた戦士達の唖然とした視線の中、僕はその正体を告げる。
「貴方は腹の中の生き物に、生かされていたのですよ」
胸を激しく掻きむしって肋骨を引き抜いていたゾンガロンの動きが、ぴたりと止んだ。
あ。あ。身体が天へ吊り上げられるように直立したと思うと、のけぞった口から噴水のように血が迸った。胸が内側から食い破られ、脈打つ心臓を咥えた命が顔をのぞかせる。
アハハ…。
笑い声を楽しげに漏らし、脈打つ心臓が噛み潰される。
それが、オーグリード大陸を壊滅にまで追い詰めた悪鬼の最後でした。
こんな死に様を書いている稲野は碌な死に方しないな。これが一度どころの話じゃねぇんだから救えんですわ。
そう思うようなゾンガロンの最後でしたわ。
悪鬼と僕の間にガルードさんが躍り出る。
雄々しい気合いと共に、彼の真紅の肉体が大きく膨れ上がったのです。そのあまりに見事な造形美に、集まってきたグレンの戦士達も感嘆の声を上げました。
「ガルードさん! 貴方に怯まぬ勇気を…!」
「オレ様ノ 伝説ガ 始マルッテ時ニ、誰ガ 怯ム カヨ!」
巨大な体が真っ向からぶつかり、吹雪が衝撃に弾き返される。巨大な巌をくり抜いて造られたグレンが、大きく揺さぶられます。力は互角か。そう思った次の瞬間には、互いの拳が顔面に炸裂する。オーガ族なら首の骨があらぬ方向に折れるような衝撃ですが、屈強なシールドオーガ族の彼は踏みとどまりました。鋼のような腹筋にめり込む鉄拳が、胸板が波打つ衝撃の一撃が、彼らの間に間髪なく激しい火花となって瞬く。
あ。その声が誰の声かを認識する前に、出来事は起きていました。
ガルードさんの腕が取られ、大きく振り回されグレンの壁面に叩きつけられる。背に背負った扉も緩衝材にはならない。ガルードさんは血を吐きながら、ずるりと大きくひび割れた壁面を滑って行く。
ゾンガロンの愉快そうな口元から、ぷっと血の混じった唾液を吐き出す。
曲を変えるか。僕が脳内で膨大な量の楽譜に指を掛けた時でした。
頑張れ!
その声は吹雪の音を割って響きました。
疾走感と音階を駆け上がる音が、大陸を滅ぼす脅威に一歩も引かぬ勇気を引き出す。その音はガルードさんだけでなく、集まった兵士達をも鼓舞したのです。いつの間にか声援が響き、篝火が吹雪を退け、太鼓の音が音楽に加わる。
その様子を忌々しそうに見遣ったゾンガロンの隙を、ガルードさんは見逃しませんでした。
彼は背に背負った扉を瞬く間に引き抜きながら、ゾンガロンに体当たりしたのです。思わずよろめいたゾンガロンでしたが、ガルードさんの姿を見て怪訝な顔をする。両開きの扉なので、左右に一枚づつ。それは防御を最大に高める背面の握りではなく、まるで扇のように扉の下方を摘むように持っていたのです。
びしり! ガルードさんの指が扉に食い込む。
不敵な笑みをニッと浮かべた彼の顔に、諦めは一片も存在しない。
「ピンチヲ 乗リ越エテコソ ヒーローダッ!」
気合い一閃、鋼鉄製の扉の重量と鋭角がもたらす鈍器の衝撃がゾンガロンを滅多打ちにする! 扉が振り回されることで生まれる間合いは槍と変わらず、さらに両手に一枚づつ持たれている為に隙が生まれにくい。ゾンガロンが拳を突き出そうとすれば叩き落とされ、戸惑っている間に肩に扉の縁が突き刺さる。
まさに扉乱舞!
あんな巨大な鉄の扉を、扇代わりに使えるのなんて世界広しと言えどガルードさんくらいなものでしょう。
ゾンガロンは大きく後退り、低く唸りながら片膝を付いたのです。ぎょろりとした目は憎悪に塗れていましたが、現在の状況が信じられぬという驚嘆がちかりと瞬いたのを僕は見逃しませんでした。僕は彼の驚きが生んだ心の隙間に、するりと言葉を滑り込ます。
「思ったより力が出ないですか? それは、貴方の思い違いではありません」
心を読まれたのか? そんな心情が出た顔面に、僕は穏やかに微笑み掛けました。
「貴方は既に、戦神から見放されているのです」
怯まぬ勇気は11の曲でっす!!!!!
ガルードくんはちょっとお調子者っぽい性格ですが、実力ピカイチ。扉の持ち手を変えて扇みたいに使うので、防御の堅実、拳の実直、力押しの扇持ちのトリッキー技と隙がなさそうです。
拍手に感謝!パチパチっとありがとうございます!
猛吹雪の中を一匹のシールドオーガが嵐となって駆けて行く。
グレン城を囲む多くの人が行き交う沿道も、溢れんばかりの人で犇く大地の方舟の駅舎と東側を繋ぐ吊り橋前の交差点も、白い雪に覆い隠され警戒の兵士が要所要所に立っているだけ。真っ黒い分厚い雪雲から吐き出される輝く息に沈黙した大地を、騒音を振り撒いて通り抜けて行くのです。
そっちに行ったぞ! 回り込んで挟み撃ちにしろ!
前からも後ろからも、吹雪に負けぬ声を張り上げる。
大きな足が凍りついた地面を滑る事なく捉えて立ち止まると、前を向いていた首がぐるりと周囲を見渡す。警笛が鳴り響き、がちゃがちゃと武具が打ち鳴らされる音がグレン全体に広がりつつありました。剣鷹のような鋭い鼻筋が向いたのは、傍に聳える壁。
周囲を見回しながら、僕を担いでいるシールドオーガに囁きました。
「ガルードさん。もう少し粘ってください」
種族で開催される力比べでオーグリード大陸で最強の称号を手にしたガルードさんは、シールドオーガ族でも一つ抜きん出た巨躯を持っていらっしゃいます。生半可な刃物すら通さぬ鉄壁の胸板、落石すらも受け止める巨木の腕、巨大な裸足が大地を蹴れば おおくちばしと並走するだろう巨体に見合わぬ速度を出すのです。背に背負った巨大な盾は、かつて鬼岩城の轟雷王の玉座の大扉だとか。腰のチャンピオンベルトにはドランド王国の紋章が刻まれています。
ガルードさんは赤い肌に真っ白い歯を三日月型に切り裂いて、牙を剥き出して笑ったのです。
「誰ニ 言ッテンダ! オ安イ 御用ヨ!」
壁に太い指が食い込んだと思えば、大岩のような巨体が飛び上がるように引き上げられるのです。屈強な両手足が全力で駆ける事に使われれば、その速度や迫力は格上の魔物ですら尻込みするほど。積もった雪を蹴散らしながら屋上を駆け抜け、巻き取られた日除けの布を張る為の綱を引っ掴み宙へ身を躍らせる。
しかし、屈強なシールドオーガの重量に耐え切れず、綱が千切れて落下する。強靭な足腰が地響きを響かせて地面を捉え、着地点に居合わせた兵士達が腰を抜かしたのです。背に背負った盾を掴んで振り下ろせば、ガルードさんの体を隠す大扉が生み出す風圧が雪を撒き散らしながらオーガ達を吹き飛ばしたのです!
無様にも折り重なった兵士達を見て、愉快そうな笑い声が響き渡ります。
「随分と楽しそうではないか!」
僕達に高みから声をかけてきたのは、繭から現れた異形獣を食らった悪鬼ゾンガロン。
旅の最中ありとあらゆる魔物を見てきた僕ですら、異様と思える体躯を持つ魔物です。指の間に皮膜を張ったような手のような形の翼に、膝くらいにまで達するバランスを欠いた発達をした剛腕。分厚い胸板や鍛え抜かれた上半身とは裏腹に、下半身は驚くほど小さい。しかし巨大な前腕が一度大地を掻けば、その巨体が放たれた礫のように勢いよく前進する。飛び降りた巨躯を受け止めた紅蓮の岩盤が砕け、翼が羽ばたけば篝火が固定された綱ごと薙ぎ倒される。
僕は礼を言ってガルードさんの広い肩から降りた。
ざくっと凍りついた雪を踏み締め、火傷しそうな憎悪の視線を真っ向から受け止める。帽子を外して胸に抱えると、煉獄鳥の炎が優美な弧を描いて吹雪を彩りました。半歩片足を下げ、慇懃に頭を下げる。
「轟雷王より貴方に死を告げるようにと、冥府より推参いたしました」
頭頂部に『ドランドを唆した人間か?』と信じられない呟きが触れる。しかし、それは小さい火花であっても、悪鬼の憎悪を焚きつけるには十分なものでした。次の瞬間には、悪鬼が烈火の如く怒り出したのです。
「貴様が関わった頃より、何もかもが上手く行かぬようになった! 貴様を生きたまま引き裂き、スープ代わりに血を一滴残らず飲み干してくれるわ!」
正直、ゾンガロンが覚えているかと問われれば微妙だったので、ガルードさんに派手に暴れ回って注目を集めてもらっても、僕に目を留めるかは賭けでありました。
しかし、彼は覚えていた。
僕は頭が下がっているのを良いことに、笑みを隠しませんでした。その笑みを拭うように真面目なものに正して顔を上げ、深々と帽子を被って銀の竪琴を構えました。
「出来るものなら、やってごらんなさい」
現代オーグリード決戦最終章!!!!!!!
ついに、あちこち暗躍していた『彼』の登場です! モンスターマスターとして戦いに、ドランド王国の末裔も参戦!
カッと見開かれた眼が一瞬で朱に変わる。全身の筋肉が瞬く間に倍以上に膨れ上がり、飛び起きざまに組んだ手が鉄槌となって僕の頭へ振り落とされる。
「食材にもなれぬ弱者が、何をほざく!」
轟音にかき消されながらも拾った父の言葉に一抹の哀しさを感じながらも、僕はゾンガロンの渾身の一撃を交差した腕で受け切った。衝撃が腕から腰、足へ抜け、踏ん張った足の裏の地面が衝撃に砕け散る。舞い上がった頑丈な岬の岩が、雪のようにゆっくりと赤い世界に舞っていた。
僕はゆっくりと息を吐く。
炎の音が喉から口へ勢いよく滑り出し、皮膚を破って炎が噴き出してくる。皮膚の上を火が舐め、体を芯に一つの巨大な篝火となって炎が上を目指して空を焦がしていく。
ぶるぶると震えるゾンガロンの腕が、下半身から燃える炎を小刻みに揺らす。押しきれぬと悟ったのか、組んだ手を解いて一瞬にして間合いを開ける。悪鬼は両手を地面に突き、顎が地面に触れるほどに下げられる。悪鬼の爪が地面を砕いて体を押し出し、まるで迫り来る土砂の如く眼前へ飛び出す。僕の喉元を食いちぎろうとした巨大な顎は、整然と並んだ白い歯に縁取られ、オーガの地肉で塗り固められた絵画のようだった。
燃える両手はゾンガロンの上顎と下顎を掴み、勢いを流して振り回す。崖へ放り投げると、強固な岩盤を砕きながらゾンガロンの体が沈み込んでいく。
ゾンガロンの姿が黒い炎に飲まれ、その体の輪郭が消えた。
世界が真っ暗になっているが、見渡す限りに炎が盛って眼を灼いている。
その一つ一つが生きとし生ける者が胸に抱いている炎だ。レナートさんの炎からは芳醇な緑の香りが、シルビアさんは様々な色に移ろう魅力的な光を、セーニャさんは炎の中に励ますように輝く光を抱えている。ムニュ大臣の優しさと激しさが混じる炎、それぞれの王国の王達の勇ましい炎。ゾンガロンの汚れ切った真っ黒い炎。そして最も美しい青い炎はギルガランだろうと思うと、僕はふと温かい気持ちに満たされる。
さぁ。さぁ。赤く輝く火の粉が、僕を急かすように舞い降りてくる。
真っ黒い炎に手を掛けると、僕は大きく息を吸った。
炎が燃える。
僕の体を燃やし尽くし、僕の魂を燃やして、世界に轟音を響かせる!
あぁ、僕は死ぬ。でも、常に傍にあった死が、想像と違ってこんなにも熱く激しいものだったなんて…! ギルガランに伝えたい事が溢れて、どうして伝えていなかったんだと焦りすら感じる。僕は声を振り絞って叫んだ。
「ギルガラン! 民を束ねろ! ゾンガロンへの脅威に備える事で、弱者と強者が手を携える世を作るんだ! 僕らは獣ではない! ガズバラン様を種族神に戴く、誇り高きオーガだ!」
火災旋風となった僕の炎に、数えきれぬ火の粉が加わり勢いが増す。
「全てのオーガ族がガズバラン様の名の下に力を合わせれば、邪神の加護を得た獣など敵ではない!」
火の粉はゾンガロンに殺されたオーガ達の魂だった。ゾンガロンに殺された無念が、愛すべき故郷を奪われた屈辱が、大事な人を奪われた憎しみが、僕の心を真っ黒に染めようとする。
分かっている。
その憎悪を、その絶望を、僕はよく理解している。
でも僕は胸に灯った火は、どんな憎悪も絶望も消せぬ猛火になった。その炎が僕の最後の言葉となって、轟音と共に世界へ放たれた!
「ギルガラン! 君は良い王になる!」
黒い炎がぼこぼこと大きく膨れ上がる。不安定な炎が、萎んだと思えば突然膨らみ、先端が引き攣れる。火の粉が黒い炎に一斉に群がると、黒い炎が引き裂かれる。
瞬間。真っ白い炎が噴き出した!
ありがとう。
ありがとう。
感謝の声が顔を撫で、遥か天へ舞い上がっていく。
ゾンガロンに食われた多くの魂達が解放され、火の粉となって留まっていた魂達と天へ昇っていく。星空を真っ赤に焦がし、オーガ達は心弾む音を響かせて、踊るような足取りで逝ってしまう。
僕は独り見送って、足元に視線を落とした。
まるで炭のように小さくなった黒い炎を、そっと抱きしめる。
父よ。
一緒に、ギルガランを見守りましょう。
おっわり!!!!!!!!!!
炎が燃えている。この脆弱な体を燃やして、腕が、足が、体が軽くなるのが分かる。
僕は燃える手で胸を貫いたゾンガロンの腕を握ると、細い指が分厚い筋肉の束にめり込んだ。力を込めれば腕は胸からずるりと擦れる感覚を残しながら、悪鬼の腕が抜けた。
体の奥から血生臭い液体が込み上げたが、軽く咳き込むと赤い粉が出ただけだった。
「悪鬼が唆す前から、僕らは同族同士で殺し合っていた」
戦い、殺し合い、奪い合う。
オーガ族にとって相手となる国を滅ぼし、大きくなる国は最強の象徴だった。強者の言葉は絶対で、父はまさにオーグリードに君臨する王だったろう。
しかし、最強の王と自惚れても、食卓に乗る豪勢な食事は王が作った者ではない。王よりも弱いオーガ族が丹精込めて育てた野菜や、一流の狩人が仕留めた肉が献上され、料理の腕の良い者が多彩な調味料や絶妙な火加減で料理を作り上げる。僕らが雨風を凌ぐこの建物は、遥か過去に大勢の弱者によって作られ、今も修繕を欠かせば快適な生活など簡単に瓦解する。
多くの弱者に支えられ、強者と胸を張る父。
その存在を否定することはしない。幼い僕にもドランドと対立して敗北すれば、オルセコの民が皆殺しになる事は十分に承知していた。父はいざという時、オルセコを背負い民を守る責務がある。
それでも、ずっと考えていた。
どうして、オーガ族は殺し合い続けているのか?
ギルガラン。僕はその問いを、背後に立っているだろう兄弟へ投げかける。
「この共闘は、悪鬼という共通の敵が存在するから出来るんだ。ゾンガロンが討たれれば、再びオーガ族同士の戦いが始まる」
ゾンガロンを討つ為に集まった、有志達による討伐隊。
宿敵として互いに睨み合っていた国、滅ぼした国と滅ぼされた国、滅ぼそうと画策していた国と返り討ちにしてやろうと身構えていた国、互いに殺し合っていた国々の垣根を超え一つになったオーガ達。それは、いままでの歴史を思えば奇跡だった。
しかし、その理由はただ一つ。
脅威ゾンガロンへの復讐。
彼らは今まで同族へ向けていた殺意を、ただゾンガロンへ向けているだけなのだ。
ゾンガロンが討たれれば、復興の合間は短い平和がオーグリードに齎されるだろう。ここに集った戦士達はそれぞれに故郷へ帰り、生き残った者達で寄り添い、小さな集落から始まって、子供が産まれて規模が大きくなっていく。復興し軌道に乗るまでの間は、ただ生きていく事で全てが忙殺されていくに違いない。
近隣の集落同士で小さな諍いが起こるだろう。その時、彼らは話し合いで落とし所を見つけ、諍いを鎮める事が出来るのか?
否。僕はそこまで楽観的に未来を信じられない。
戦って勝った者が正しいという今までのオーガ族のやり方が、調和の芽を飲み込んでいく。殺されぬ為に、守る為に、互いに武器を取り殺し合うだろう。
轟々と音が溢れて止まらない。僕の言葉はギルガランにちゃんと届いているだろうか?
「僕達オーガ族が互いに手を取り合い、共に歩いていく為には、長い、気の遠くなる年月が必要なんだ」
僕は拳を振り上げ、ゾンガロンの顔へ打ち下ろした。
炎の拳はゾンガロンの顔にめり込み、数多のオーガを殺害した悪鬼が呆気なく大地に打ち付けられる。目玉が飛び出しそうなほどに見開いた悪鬼の驚きの顔を、僕は静かに見下ろした。
「我が父ゾルトグリン。数多の命を屠った罪を感じるならば、オーガ族の脅威として君臨し続けるんだ。貴方は誰からも尊敬されず、誰からも愛されない。恐ろしい化け物であり続け、オーガの憎悪を一身に引き受け続ける事が貴方の贖罪となる!」
ひゅーーーー!!!!
ある意味、炎の民オーガの最終形態というか、メガンテの自己強化版かってくらいの説得力がある。最終的に種族ごとに必殺技とかくるのかなー? 来て良いと思うなー。