ハコの厚みはここ次第!
■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
□ search □
肺の奥から燃え上がるような荒い息が湧き上がり、僕は短い息をどうにか継いで水を泳ぐように進んでいた。
ゾンガロンのねぐらへ繋がるとされる岬への氷穴は、吹き込む海水によって岩が満遍なく凍りつき、潮が結晶化して世界に二つとない美しい光景だった。自身より大きな正方形の結晶が複雑に組み合わさって、氷穴の中に迷い込んだ僅かな光を真昼の陽光さながらに増幅させる。輝きの奥に潜む夜よりも濃厚な闇が、今にも膝が折れそうな視界の中でぐらぐらと揺すられていた。
潮風に撫で上げられ海水に飛び込んだような濃厚な磯の匂いの洞穴だが、時折顔を顰めたくなるほどの血の匂いがする。先発隊によって露払いされた魔物達が、まだ生暖かいのだろう。
ずるりと、足首があらぬ方向へ曲がった。
滑る血溜まりに足を取られたと気がついた時には、体は横転して空中にある。氷の粒が空気中に漂う静寂の中で、僕の体が氷筍に突き刺さる角度で倒れていくのを冷静に見る。
あ。声が漏れたのは死を認識したからじゃない。
腕を強引に引っ張られ、胸から空気が押し出された。そのまま、肩をがっしりと掴まれ、紫の衣が包む硬い胸に頬が押しつけられた。どっどっと早鐘を打つ心臓は、僕のものか相手のものか。
「グリエ様。少しだけ休みましょう」
魅力的な提案に頷きそうになった頭を押し付け、僕はレナートさんの胸に手を当てる。思いっきり押して体を離そうとしたけれど、それ以上の力でがっしりと掴まれてびくともしない。
ぽんぽんと大きな掌が背を叩いた。
「駄目よ。足元が覚束ないじゃない」
セーニャ。シルビアさんに声を掛けられ、セーニャさんが素早く傍に膝をつく。僕の胸の上に手を添え、讃美歌のような神々しい声でリホイミを唱える。新緑の光が僕を包み込むと、あんなに苦しく閊えていた息がすっと通り抜けるようになる。
自然治癒力を高めるだけのリホイミは、筋肉痛のような外傷に至らない小さな損傷や疲労に効果がある。僕のように体力が元々少ない者にホイミを施せば、たちまち寝込んでしまうほどに体力を消耗させられてしまうだろう。
自分の体が想像以上に消耗していたのを悟って、僕は美しい紫水晶の瞳を見て礼を言う。セーニャさんの柔らかく嬉しさを滲ませた笑みが、僕の焦燥を溶かしてくれた。
「まだ戦いの音は聞こえていないから、大丈夫ですよ」
「ゾンガロンを待ち構えてるか、仕掛ける機を窺って慎重になってるか。どっちかしらね?」
誰かが落としたのだろう毛皮の外套を敷き、押されるように座らされる。見上げる二人が話す内容が雑談に変わっていき、暖かくて甘いお茶を渡され、味が濃縮された干し魚を解した物を食んでいると高鳴る鼓動が落ち着いてくる。
「グリエ様はお兄様が大好きなんですね」
そんな言葉に横を向けば、セーニャさんの優しい横顔がある。
彼女には姉が居ると聞いている。そんなセーニャさんの姉という存在に、誰もが辛い過去に触れるように悲しい顔をした。恐らくは存命している人物ではないのだろう。この魔物が闊歩する世界を旅するならば、死に別れは珍しい事ではない。
セーニャさんは『妹』だから、ギルガランの『弟』である僕に親近感を持っているようだった。僕は申し訳なく思いながら、親近感を振り払うように首を振った。
「僕は『好き』とは違うんです」
古のオルセコ最終章!!ゾンガロンとの対決に向かいます!!!
