ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 元々明るかった氷穴の風景が、真っ白に溶けた。針で体を貫かれるような凍てついた風が、ぬるりと温まり体を撫で上げる。ざざん、ざばんと岸壁に叩きつける波の音が、下から突き上げてきた。
 氷穴を抜けた! 外の光に目が慣れていけば、そこは巨大な戦場の最後尾でした。
 怪我を負った者が運ばれて回復呪文や応急処置が施され、積み上げた物資の向こうでは矢を番えた戦士達が弓を引き絞っている。母の治療でオルセコに滞在していた事のあるゴルガーレンさんが、怪我人から顔を上げて『グリエ様!』と驚いた声を上げた。
 レナートさんが短くセーニャさんへ目配せすれば、セーニャさんは竪琴を爪弾き美しい讃美歌を歌い出す。その声に織り交ぜた回復呪文の祝詞が、ベホマラーとなって戦士達に降り注いだのです。
 戦士達が驚いている間に、人波をステップで掻き分けるのはシルビアさん。あら、ごめんなさい。なんてウインクをしながら割った道を、レナートさんと僕が続く。
「グリエ様! これ以上先は行っちゃ駄目だ!」
 静止する為に飛び出したムニュ大臣に、レナートさんが迫る。ちらりと振り返った翠の瞳が、僕に先へ進めと言っていた。
 ありがとう!
 言うべき言葉が、全て駆け出す為の呼吸に使われて言葉を紡ぐ事ができない。
 心臓が脈打ち、全身を打ち付ける程に強く血液を送り出す。鼓動の音は轟音の炎のようで、口を開ければ炎が噴き出すように体が燃えたぎっている。
 鬼人になって首と胴体が離れた遺体を飛び越え、どうにか下がる戦士達とすれ違い、岬の先端へ走る。潮風を切り裂いて、ギルガランの戦斧の音が響くんだ。
 ゾンガロンの不快な笑い声が、風下に木霊した。
「追い詰められたスライムは竜をも噛む! ようやく我が獲物に相応しくなったな!」
 白い空に白い太陽。迫り来る潮騒と、鼻から脳裏に抜ける強烈な磯の香り。
 夢に何度も見た光景だった。
 蜂蜜のように重い空気の中でもがきながら進む僕の前で、ギルガランが殺されてしまう夢。その夢を見始めた頃は当然の報いと眺めていた僕だったが、今は違う。
 胸から溢れる炎が背を押す。
 僕の命を燃やして、炎が僕を前へ突き動かす。
 僕と同じ新雪の髪の下に輝く瞳が、僕らの国の紋章を背負う背中が、どっしりと踏み締めた両足が、彼が生きているのを告げる。ゾンガロンの光と、ギルガランが手にした鏡が反射した光がその場の全てを溶かした。
 真っ白い世界で岬は溶け、誰もが思わず何もない空間で身を硬らせた。ただ一人 光から最も遠い邪神の加護を受けた者だけが、好奇とばかりに爪を振り上げる。
 間に合え。僕は駆ける。
 奪うな! 僕は叫ぶ。
 その子は、僕の王様だ!
 僕はギルガランの前へ躍り出る。背中に感じたギルガランのさらりとした服に、彼が無傷であるのを感じる。間に合った。僕は間に合ったんだ。
 そう思った瞬間、胸を衝撃が貫く。僕の体は見えない壁に吹き飛ばされたように、背後のギルガランの腹に当たり、衝撃が抜け切らない体を逞しい腕が抱き止める。
 グリエ! 聞いたことのない驚きに掠れたギルガランの声に被さるように、ゾンガロンの高笑いが降り注ぐ。雨粒のように降る涎の向こうで、悍ましい笑みを満面に浮かべた悪鬼の顔がある。瞳は三日月のように細められ、笑みを浮かべた口からは滑る長い舌が見え隠れする。
「ギルガラン! グリエが倒れたぞ! さぁ、どうす…」
 両手を叩きはしゃぐ子供のようなゾンガロンの顔が、凍りついた。

グリエくん間に合った!!!頑張った!!!!

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