ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 カッと見開かれた眼が一瞬で朱に変わる。全身の筋肉が瞬く間に倍以上に膨れ上がり、飛び起きざまに組んだ手が鉄槌となって僕の頭へ振り落とされる。
「食材にもなれぬ弱者が、何をほざく!」
 轟音にかき消されながらも拾った父の言葉に一抹の哀しさを感じながらも、僕はゾンガロンの渾身の一撃を交差した腕で受け切った。衝撃が腕から腰、足へ抜け、踏ん張った足の裏の地面が衝撃に砕け散る。舞い上がった頑丈な岬の岩が、雪のようにゆっくりと赤い世界に舞っていた。
 僕はゆっくりと息を吐く。
 炎の音が喉から口へ勢いよく滑り出し、皮膚を破って炎が噴き出してくる。皮膚の上を火が舐め、体を芯に一つの巨大な篝火となって炎が上を目指して空を焦がしていく。
 ぶるぶると震えるゾンガロンの腕が、下半身から燃える炎を小刻みに揺らす。押しきれぬと悟ったのか、組んだ手を解いて一瞬にして間合いを開ける。悪鬼は両手を地面に突き、顎が地面に触れるほどに下げられる。悪鬼の爪が地面を砕いて体を押し出し、まるで迫り来る土砂の如く眼前へ飛び出す。僕の喉元を食いちぎろうとした巨大な顎は、整然と並んだ白い歯に縁取られ、オーガの地肉で塗り固められた絵画のようだった。
 燃える両手はゾンガロンの上顎と下顎を掴み、勢いを流して振り回す。崖へ放り投げると、強固な岩盤を砕きながらゾンガロンの体が沈み込んでいく。
 ゾンガロンの姿が黒い炎に飲まれ、その体の輪郭が消えた。
 世界が真っ暗になっているが、見渡す限りに炎が盛って眼を灼いている。
 その一つ一つが生きとし生ける者が胸に抱いている炎だ。レナートさんの炎からは芳醇な緑の香りが、シルビアさんは様々な色に移ろう魅力的な光を、セーニャさんは炎の中に励ますように輝く光を抱えている。ムニュ大臣の優しさと激しさが混じる炎、それぞれの王国の王達の勇ましい炎。ゾンガロンの汚れ切った真っ黒い炎。そして最も美しい青い炎はギルガランだろうと思うと、僕はふと温かい気持ちに満たされる。
 さぁ。さぁ。赤く輝く火の粉が、僕を急かすように舞い降りてくる。
 真っ黒い炎に手を掛けると、僕は大きく息を吸った。
 炎が燃える。
 僕の体を燃やし尽くし、僕の魂を燃やして、世界に轟音を響かせる!
 あぁ、僕は死ぬ。でも、常に傍にあった死が、想像と違ってこんなにも熱く激しいものだったなんて…! ギルガランに伝えたい事が溢れて、どうして伝えていなかったんだと焦りすら感じる。僕は声を振り絞って叫んだ。
「ギルガラン! 民を束ねろ! ゾンガロンへの脅威に備える事で、弱者と強者が手を携える世を作るんだ! 僕らは獣ではない! ガズバラン様を種族神に戴く、誇り高きオーガだ!」
 火災旋風となった僕の炎に、数えきれぬ火の粉が加わり勢いが増す。
「全てのオーガ族がガズバラン様の名の下に力を合わせれば、邪神の加護を得た獣など敵ではない!」
 火の粉はゾンガロンに殺されたオーガ達の魂だった。ゾンガロンに殺された無念が、愛すべき故郷を奪われた屈辱が、大事な人を奪われた憎しみが、僕の心を真っ黒に染めようとする。
 分かっている。
 その憎悪を、その絶望を、僕はよく理解している。
 でも僕は胸に灯った火は、どんな憎悪も絶望も消せぬ猛火になった。その炎が僕の最後の言葉となって、轟音と共に世界へ放たれた!
「ギルガラン! 君は良い王になる!」
 黒い炎がぼこぼこと大きく膨れ上がる。不安定な炎が、萎んだと思えば突然膨らみ、先端が引き攣れる。火の粉が黒い炎に一斉に群がると、黒い炎が引き裂かれる。
 瞬間。真っ白い炎が噴き出した!
 ありがとう。
 ありがとう。
 感謝の声が顔を撫で、遥か天へ舞い上がっていく。
 ゾンガロンに食われた多くの魂達が解放され、火の粉となって留まっていた魂達と天へ昇っていく。星空を真っ赤に焦がし、オーガ達は心弾む音を響かせて、踊るような足取りで逝ってしまう。
 僕は独り見送って、足元に視線を落とした。
 まるで炭のように小さくなった黒い炎を、そっと抱きしめる。
 父よ。
 一緒に、ギルガランを見守りましょう。

おっわり!!!!!!!!!!

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