ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 鋭い剣戟に巨体が切り伏せられ、巨木を切り倒すようにゆっくりと赤い体が傾いでいく。
 大量の血を流しているシールドオーガに縋る魔物使いが、大声で名を呼んでいるだろうに。魔物使いとその仲間を守れと、盾を担ぎ駆け出した音が脳髄を貫いたろうに。戦況が一変し周囲のオーガ族の戦士達が目まぐるしく動き出し、まるで赤い渦の中に放り込まれたような視界なのに。まるで雪原に取り残されたように無音で、その背から片時も目が離せなかった。
「ファラスさん?」
 少年の声が傍から聞こえてきた。
 ファラス。その名が自分の名だと、少年から聞いていた。少年は自分の事について知る限りを教えてくれた。自分はこの時代より五千年前の時代を生きている人間であること。マローネという婦人の名も、その婦人に赤子がいる事も聞いている。自分はその二人を命懸けで守る覚悟を決めていた…と。
 記憶にない。
 本来なら忘れてはならない存在だろうに、自分の中に一切存在しなかった。
 時の妖精を自称する不思議な生き物が、時渡りの弊害だと教えてくれた。どんなに力ある時渡りの力の使い手であっても、時間を超越する行為は相当の負担になる。その負担の中で記憶喪失は大変軽度な分類に属するらしい。自分は相当強い時渡りの力の使い手によって、時渡りを施されたからだろうと感心していた。
 いずれ、記憶は戻るだろう。そう、楽観的に捉えていた。
 それでも世界は知らないで溢れた冷たい海のようで、湧き上がる不安は空腹のように腹の底から飢えを訴え、喉の渇きのように無視できぬ苦痛となり、疲労のように体の動きを奪い、眠気となって思考を沈めてしまう。
 その不安は明確に形があったはずだ。
 その不安だけが、記憶のない自分の中にしっかりと残っている。
 形が明確になり、手に触れ、そこに有ると確信することを切望していた。しかし、どんなに沢山の人々に訊ねても、どんなに遠くへ探しに行っても、探し求めていたものの手がかりすらない。
 こんなに手を尽くしても無いならば、それは『ない』となるだろう。
 だが、自分はそれを認めてはならなかった。それが『ない』と受け入れてしまったら、不安が絶望に変わることを自分は知っていた。
 そして、それが簡単に『なくなる』とも思えなかった。
 どこかに必ず『ある』。
 神の存在よりも、自分はそれを確信していた。
 踵が返り、黒い外套が広がりながら体がこちらを向いてくる。その足捌き、グローブの形、肩から胸元を覆う鎧の形、どれもが渇望していたものにぴたりと当てはまっていく。高い鼻筋から口元と顎へ至る美しい横顔の線。難しいことを考える時に寄る眉間の皺、真一文字の唇。真っ直ぐな髪の隙間から、こちらを見つめる瞳。
 あぁ。息が漏れる。
 探していた。自分はずっと探していた。
 ついに見つけたという安堵が、生きていたという感動が、自分の中から湧いて湧いて尽きることはなかった。

オーグリード編最終話!!!
現代にやってきたファラスさん視点で開始でっす!!!!

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