ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 星空を焦がさんばかりに篝火が焚かれ、グレンの赤い岩壁を照らす。
 オーガ族の肉体美を余す事なく魅せつける、最低限の装束。毛皮のマントに隠れた僧帽筋が見えぬのが残念に思いながら、真紅の絨毯を踏み締め扉を開け放つ。修練をする為のグレン城で最も広い広間には、王の勝利宣言を待つ戦士達で溢れかえっていた。
 バグド王は隆々とした上腕二頭筋を振り上げ、拳を天へ突き上げた。
「ゾンガロンは死に危機は去った! 世界の滅亡という問題は解決してはいないが、先ずは目先の危機を乗り越えた今を祝おうではないか!」
 硬い岩盤を穿ち抜いた城を、歓声が揺るがした!
 倉庫から嬉々として運ばれて積まれた酒樽から、黄金の雫を迸しらせながら次々とジョッキを満たしていく。真っ白い泡が溢れる麦酒が注がれたジョッキを、腕を組んで飲み干す戦士達。台車に乗って運ばれた肉を満面の笑顔で食い、太鼓の音が響けばあちこちで戦の舞が披露される。
 そんな宴を自分達は片隅から見守っていた。
 長い年月オーガ族にとっては滅亡の脅威として存在していたゾンガロンが死に、世界滅亡に関わるという不気味な繭も消え去りカラッとした星空が広がっている。相対して死を覚悟していた戦士達は、生き残った喜びに今日だけはと羽目を外す。伝承で聞く多くの同胞が鬼人となり、同族同士で殺し合う事態にならなかった事を自分も喜ばしく思った。
 少年とメレアーデ嬢は少し離れた場所で再会を喜び、空白を埋めるように会話を弾ませている。そんな若者達の背に視線を投げかけていると、近づく足音に顔を向ける。
「浮かぬ顔をしておるな」
 そう声を掛けてきたのは、グレン城の主だ。
 なみなみと麦酒が注がれたジョッキを大きな指に掛けられるだけ掛け、もう片手には盛れるだけ肉を重ねた皿と、溢れん程に入れた木の実の深皿を器用に持っている。隙間があれば骨つき肉が差し込まれ、まるで扇を持っているようだ。腰に嵌めていたグレンの紋章が刻まれたベルトは肩がけにされているのは、宴の楽しさで膨らんだ腹に原因があるのだろう。
 バグド王は畏まろうとする隙も与えず、爆裂拳の勢いで馳走を渡し、熟練の盗賊さながらの手つきで空になったジョッキとすり替える。
 整った髭とオーガ族らしい厳つい顔が、にやりと笑みを浮かべる。
「戦いはまだ終わらぬ。今日この時だけは、存分に食らい、楽しみ、英気を養うのだ」
 恐らく神妙な顔で話し合っていた自分達が、これから戦いに身を投じるのだと察したのだろう。王の心遣いに、自分は心から感謝を述べる。
 下げた自分の後頭部に、あいたっと王の声が触れる。
「羽目を外しすぎて、明日に残らぬようにな」
「心得ておりますよ。エイドス様!」
 顔を上げれば杖で頭を小突かれた王の横で、老賢者が煙管を燻らせている。藁で編んだ帽子の切れ目から、鋭い視線が全てを射抜くように自分達を見つめた。
「叡智の冠も助力を惜しまぬ。何かあれば、グランゼドーラのルシェンダを頼るがいい」
 感謝の言葉を受け取る前に、こつこつと杖を突いて去っていく背。それを見送りながら、バグド王は誇らしげに言った。
「エイドス様は我の『聡明な兄』なのだよ」
 自分は王の顔を見上げた。オーガ族の無骨な顔立ち、赤い肌に頭から生える二本の角。人間の老賢者と血縁関係はあり得ぬだろう。それでも細められた目に、溢れんばかりの尊敬と親愛が込められているのを感じる。
 訝しげに見上げた自分に、王はジョッキを翳してみせる。こつんと杯を打ち合わせて口につける。喉に滑り落ちる痛みすら感じる強い炭酸が、爽快感となって胃に流れ落ちていく。旨いを有らん限りに混ぜた息を吐き、王は白い泡髭をぐいっと拭った。
「オルセコ王国で最も偉大な大王の称号を得たギルガランは、悪鬼との戦いで死んだ兄グリエの言葉を大切にしていた。兄であったらどうするか。『勇敢な弟』は『聡明な兄』と二人で国を治めていると、常々言っていたそうだ」
 あの対決の後に胸を満たす落胆は、自分があの方を尊敬していた証左に他ならない。
 空の自分に僅かに残る感覚を寄せ集め、朧げな影を凝視する。青い海から眩く浮き上がる白い石壁を進む背中は、白く霞んでいる。その背は時々振り返り、自分を傍に歩かせようとした。
 あぁ。自分は思い至る。
 バグド王が老賢者へ向けた尊敬と親愛。それと同じものを自分は主へ向けている。
「『勇敢な弟』は飾らぬ真実で『聡明な兄』を導いたという」
 頑張るが良い。
 こつんとジョッキが触れ、王は楽しげに喧嘩の輪に飛び込んでいく。人集りを押し割り、開けた空間でクロスカウンターが決まった二人をむんずと捕まえると、ぶんぶんと振り回し始めた。笑い声と囃し立てる声がどっと響いた。
 励ましが空の自分に注がれる。大丈夫だと、若者達の力になろうと、そして今度はあの方の生存ではなく真実を探そうと、前へ向かう力が湧いてくる。
 自分は対決した一部始終を振り返る。
 自分は知りたいのだ。
 あの方が、恐らく変わり果ててしまった、その理由を。
 
後日譚!!!!!!!!
ちょっと無理矢理感はありますが、何回かこねくり回してこの形に至った。
勇敢な弟と聡明な兄。御伽噺みたいにオーグリードの子供達に親しまれて欲しい。

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