ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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ついに書き上がった!!!!!書けたぞぉぉぉおお!!!!!
一回下げたグリエの予言を回収し、悪鬼の封印まで漕ぎ着けました。

僕らは獣ではない! ガズバラン様を種族神に戴く、誇り高きオーガだ!

これ以上熱いテーマなくない???????
どうして公式これ使わんのマジで謎???????

ゾンガロンが討伐されず封印され続けた理由として、最も妥当なところ(それでも無対策で現在に至ったの稲野は許してない)。現代のオーグリードにおいて、きちんとグリエくんの願いが結実したのは本当に嬉しい限りです。
歴史上ではいろんな人が強者と弱者が手を取り合う事を頑張ってくれます。ラダ・ガードさんもガミルゴさんも、ギルガランだってきちんと取り組んでくれるんですが、根深すぎて種程度にしかなれないというな。
現在はガートランドでは病弱な娘が唯一の世継ぎだし、騎士団が結成されて強者が弱者を守る体制が整っているので、もっともグリエくんの理想に近い状態になっていると思います。彼の願いを叶えるのに一千年以上の年月が必要だったなんて感慨深いなぁ。
ただ、想像以上にギルガランくん活躍させてあげられなくてごめんって思う。多分公式の推しなんだろうけど、私はイマジナリーフレンドと行くダンジョンはギルガランくんが実装される前からご無沙汰でしてね(本当にあれ、主人公が知らないだけとか思い込みで解釈違い発生してたら絶交されそうだけど大丈夫なんか?まぁ、本人が知らないままでいればノーダメージか)なんというか、力じゃ解決できないんだよって話になって行ったら、活躍の場がしゅーんと無くなってしまった。


これで、数ヶ月悩まされていた部分が無事解消されました!
めでたしめでたし。
って舌の根が乾かぬ翌日には手直し入ってるんだがな(死

いやぁ、願いの魔神戦と同じような感じになっちゃって、引き出しがねぇなぁって反省しちゃう。

拍手に感謝!反応おそくなってすみません!ぱちぱちっと嬉しいです!ありがとうございます!!

 カッと見開かれた眼が一瞬で朱に変わる。全身の筋肉が瞬く間に倍以上に膨れ上がり、飛び起きざまに組んだ手が鉄槌となって僕の頭へ振り落とされる。
「食材にもなれぬ弱者が、何をほざく!」
 轟音にかき消されながらも拾った父の言葉に一抹の哀しさを感じながらも、僕はゾンガロンの渾身の一撃を交差した腕で受け切った。衝撃が腕から腰、足へ抜け、踏ん張った足の裏の地面が衝撃に砕け散る。舞い上がった頑丈な岬の岩が、雪のようにゆっくりと赤い世界に舞っていた。
 僕はゆっくりと息を吐く。
 炎の音が喉から口へ勢いよく滑り出し、皮膚を破って炎が噴き出してくる。皮膚の上を火が舐め、体を芯に一つの巨大な篝火となって炎が上を目指して空を焦がしていく。
 ぶるぶると震えるゾンガロンの腕が、下半身から燃える炎を小刻みに揺らす。押しきれぬと悟ったのか、組んだ手を解いて一瞬にして間合いを開ける。悪鬼は両手を地面に突き、顎が地面に触れるほどに下げられる。悪鬼の爪が地面を砕いて体を押し出し、まるで迫り来る土砂の如く眼前へ飛び出す。僕の喉元を食いちぎろうとした巨大な顎は、整然と並んだ白い歯に縁取られ、オーガの地肉で塗り固められた絵画のようだった。
 燃える両手はゾンガロンの上顎と下顎を掴み、勢いを流して振り回す。崖へ放り投げると、強固な岩盤を砕きながらゾンガロンの体が沈み込んでいく。
 ゾンガロンの姿が黒い炎に飲まれ、その体の輪郭が消えた。
 世界が真っ暗になっているが、見渡す限りに炎が盛って眼を灼いている。
 その一つ一つが生きとし生ける者が胸に抱いている炎だ。レナートさんの炎からは芳醇な緑の香りが、シルビアさんは様々な色に移ろう魅力的な光を、セーニャさんは炎の中に励ますように輝く光を抱えている。ムニュ大臣の優しさと激しさが混じる炎、それぞれの王国の王達の勇ましい炎。ゾンガロンの汚れ切った真っ黒い炎。そして最も美しい青い炎はギルガランだろうと思うと、僕はふと温かい気持ちに満たされる。
 さぁ。さぁ。赤く輝く火の粉が、僕を急かすように舞い降りてくる。
 真っ黒い炎に手を掛けると、僕は大きく息を吸った。
 炎が燃える。
 僕の体を燃やし尽くし、僕の魂を燃やして、世界に轟音を響かせる!
 あぁ、僕は死ぬ。でも、常に傍にあった死が、想像と違ってこんなにも熱く激しいものだったなんて…! ギルガランに伝えたい事が溢れて、どうして伝えていなかったんだと焦りすら感じる。僕は声を振り絞って叫んだ。
「ギルガラン! 民を束ねろ! ゾンガロンへの脅威に備える事で、弱者と強者が手を携える世を作るんだ! 僕らは獣ではない! ガズバラン様を種族神に戴く、誇り高きオーガだ!」
 火災旋風となった僕の炎に、数えきれぬ火の粉が加わり勢いが増す。
「全てのオーガ族がガズバラン様の名の下に力を合わせれば、邪神の加護を得た獣など敵ではない!」
 火の粉はゾンガロンに殺されたオーガ達の魂だった。ゾンガロンに殺された無念が、愛すべき故郷を奪われた屈辱が、大事な人を奪われた憎しみが、僕の心を真っ黒に染めようとする。
 分かっている。
 その憎悪を、その絶望を、僕はよく理解している。
 でも僕は胸に灯った火は、どんな憎悪も絶望も消せぬ猛火になった。その炎が僕の最後の言葉となって、轟音と共に世界へ放たれた!
「ギルガラン! 君は良い王になる!」
 黒い炎がぼこぼこと大きく膨れ上がる。不安定な炎が、萎んだと思えば突然膨らみ、先端が引き攣れる。火の粉が黒い炎に一斉に群がると、黒い炎が引き裂かれる。
 瞬間。真っ白い炎が噴き出した!
 ありがとう。
 ありがとう。
 感謝の声が顔を撫で、遥か天へ舞い上がっていく。
 ゾンガロンに食われた多くの魂達が解放され、火の粉となって留まっていた魂達と天へ昇っていく。星空を真っ赤に焦がし、オーガ達は心弾む音を響かせて、踊るような足取りで逝ってしまう。
 僕は独り見送って、足元に視線を落とした。
 まるで炭のように小さくなった黒い炎を、そっと抱きしめる。
 父よ。
 一緒に、ギルガランを見守りましょう。

おっわり!!!!!!!!!!

 炎が燃えている。この脆弱な体を燃やして、腕が、足が、体が軽くなるのが分かる。
 僕は燃える手で胸を貫いたゾンガロンの腕を握ると、細い指が分厚い筋肉の束にめり込んだ。力を込めれば腕は胸からずるりと擦れる感覚を残しながら、悪鬼の腕が抜けた。
 体の奥から血生臭い液体が込み上げたが、軽く咳き込むと赤い粉が出ただけだった。
「悪鬼が唆す前から、僕らは同族同士で殺し合っていた」
 戦い、殺し合い、奪い合う。
 オーガ族にとって相手となる国を滅ぼし、大きくなる国は最強の象徴だった。強者の言葉は絶対で、父はまさにオーグリードに君臨する王だったろう。
 しかし、最強の王と自惚れても、食卓に乗る豪勢な食事は王が作った者ではない。王よりも弱いオーガ族が丹精込めて育てた野菜や、一流の狩人が仕留めた肉が献上され、料理の腕の良い者が多彩な調味料や絶妙な火加減で料理を作り上げる。僕らが雨風を凌ぐこの建物は、遥か過去に大勢の弱者によって作られ、今も修繕を欠かせば快適な生活など簡単に瓦解する。
 多くの弱者に支えられ、強者と胸を張る父。
 その存在を否定することはしない。幼い僕にもドランドと対立して敗北すれば、オルセコの民が皆殺しになる事は十分に承知していた。父はいざという時、オルセコを背負い民を守る責務がある。
 それでも、ずっと考えていた。
 どうして、オーガ族は殺し合い続けているのか?
 ギルガラン。僕はその問いを、背後に立っているだろう兄弟へ投げかける。
「この共闘は、悪鬼という共通の敵が存在するから出来るんだ。ゾンガロンが討たれれば、再びオーガ族同士の戦いが始まる」
 ゾンガロンを討つ為に集まった、有志達による討伐隊。
 宿敵として互いに睨み合っていた国、滅ぼした国と滅ぼされた国、滅ぼそうと画策していた国と返り討ちにしてやろうと身構えていた国、互いに殺し合っていた国々の垣根を超え一つになったオーガ達。それは、いままでの歴史を思えば奇跡だった。
 しかし、その理由はただ一つ。
 脅威ゾンガロンへの復讐。
 彼らは今まで同族へ向けていた殺意を、ただゾンガロンへ向けているだけなのだ。
 ゾンガロンが討たれれば、復興の合間は短い平和がオーグリードに齎されるだろう。ここに集った戦士達はそれぞれに故郷へ帰り、生き残った者達で寄り添い、小さな集落から始まって、子供が産まれて規模が大きくなっていく。復興し軌道に乗るまでの間は、ただ生きていく事で全てが忙殺されていくに違いない。
 近隣の集落同士で小さな諍いが起こるだろう。その時、彼らは話し合いで落とし所を見つけ、諍いを鎮める事が出来るのか?
 否。僕はそこまで楽観的に未来を信じられない。
 戦って勝った者が正しいという今までのオーガ族のやり方が、調和の芽を飲み込んでいく。殺されぬ為に、守る為に、互いに武器を取り殺し合うだろう。
 轟々と音が溢れて止まらない。僕の言葉はギルガランにちゃんと届いているだろうか?
「僕達オーガ族が互いに手を取り合い、共に歩いていく為には、長い、気の遠くなる年月が必要なんだ」
 僕は拳を振り上げ、ゾンガロンの顔へ打ち下ろした。
 炎の拳はゾンガロンの顔にめり込み、数多のオーガを殺害した悪鬼が呆気なく大地に打ち付けられる。目玉が飛び出しそうなほどに見開いた悪鬼の驚きの顔を、僕は静かに見下ろした。
「我が父ゾルトグリン。数多の命を屠った罪を感じるならば、オーガ族の脅威として君臨し続けるんだ。貴方は誰からも尊敬されず、誰からも愛されない。恐ろしい化け物であり続け、オーガの憎悪を一身に引き受け続ける事が貴方の贖罪となる!」

ひゅーーーー!!!!
ある意味、炎の民オーガの最終形態というか、メガンテの自己強化版かってくらいの説得力がある。最終的に種族ごとに必殺技とかくるのかなー? 来て良いと思うなー。

 元々明るかった氷穴の風景が、真っ白に溶けた。針で体を貫かれるような凍てついた風が、ぬるりと温まり体を撫で上げる。ざざん、ざばんと岸壁に叩きつける波の音が、下から突き上げてきた。
 氷穴を抜けた! 外の光に目が慣れていけば、そこは巨大な戦場の最後尾でした。
 怪我を負った者が運ばれて回復呪文や応急処置が施され、積み上げた物資の向こうでは矢を番えた戦士達が弓を引き絞っている。母の治療でオルセコに滞在していた事のあるゴルガーレンさんが、怪我人から顔を上げて『グリエ様!』と驚いた声を上げた。
 レナートさんが短くセーニャさんへ目配せすれば、セーニャさんは竪琴を爪弾き美しい讃美歌を歌い出す。その声に織り交ぜた回復呪文の祝詞が、ベホマラーとなって戦士達に降り注いだのです。
 戦士達が驚いている間に、人波をステップで掻き分けるのはシルビアさん。あら、ごめんなさい。なんてウインクをしながら割った道を、レナートさんと僕が続く。
「グリエ様! これ以上先は行っちゃ駄目だ!」
 静止する為に飛び出したムニュ大臣に、レナートさんが迫る。ちらりと振り返った翠の瞳が、僕に先へ進めと言っていた。
 ありがとう!
 言うべき言葉が、全て駆け出す為の呼吸に使われて言葉を紡ぐ事ができない。
 心臓が脈打ち、全身を打ち付ける程に強く血液を送り出す。鼓動の音は轟音の炎のようで、口を開ければ炎が噴き出すように体が燃えたぎっている。
 鬼人になって首と胴体が離れた遺体を飛び越え、どうにか下がる戦士達とすれ違い、岬の先端へ走る。潮風を切り裂いて、ギルガランの戦斧の音が響くんだ。
 ゾンガロンの不快な笑い声が、風下に木霊した。
「追い詰められたスライムは竜をも噛む! ようやく我が獲物に相応しくなったな!」
 白い空に白い太陽。迫り来る潮騒と、鼻から脳裏に抜ける強烈な磯の香り。
 夢に何度も見た光景だった。
 蜂蜜のように重い空気の中でもがきながら進む僕の前で、ギルガランが殺されてしまう夢。その夢を見始めた頃は当然の報いと眺めていた僕だったが、今は違う。
 胸から溢れる炎が背を押す。
 僕の命を燃やして、炎が僕を前へ突き動かす。
 僕と同じ新雪の髪の下に輝く瞳が、僕らの国の紋章を背負う背中が、どっしりと踏み締めた両足が、彼が生きているのを告げる。ゾンガロンの光と、ギルガランが手にした鏡が反射した光がその場の全てを溶かした。
 真っ白い世界で岬は溶け、誰もが思わず何もない空間で身を硬らせた。ただ一人 光から最も遠い邪神の加護を受けた者だけが、好奇とばかりに爪を振り上げる。
 間に合え。僕は駆ける。
 奪うな! 僕は叫ぶ。
 その子は、僕の王様だ!
 僕はギルガランの前へ躍り出る。背中に感じたギルガランのさらりとした服に、彼が無傷であるのを感じる。間に合った。僕は間に合ったんだ。
 そう思った瞬間、胸を衝撃が貫く。僕の体は見えない壁に吹き飛ばされたように、背後のギルガランの腹に当たり、衝撃が抜け切らない体を逞しい腕が抱き止める。
 グリエ! 聞いたことのない驚きに掠れたギルガランの声に被さるように、ゾンガロンの高笑いが降り注ぐ。雨粒のように降る涎の向こうで、悍ましい笑みを満面に浮かべた悪鬼の顔がある。瞳は三日月のように細められ、笑みを浮かべた口からは滑る長い舌が見え隠れする。
「ギルガラン! グリエが倒れたぞ! さぁ、どうす…」
 両手を叩きはしゃぐ子供のようなゾンガロンの顔が、凍りついた。

グリエくん間に合った!!!頑張った!!!!

 好きか、嫌いか。二択で問うならば、嫌いと即答するだろう。
 ギルガランがいなければ。そう思った回数など星の数に匹敵するに違いない。父ゾルトグリンから受け継いだオーガでも類稀な肉体は、巨大な魔物に引けを取らぬ剛力と、風をも追い抜く俊足を持ち、全てを引き離す持久力を持っている。戦う才能はオルセコ最強であった父でさえ舌を巻き、幼くしてオルセコの未来は明るいと讃えられた。整った目鼻立ちは女性の美的感覚的に物足りなくはあったが、母譲りの顔立ちを父は愛していた。現代のオーガが求める全てを手に入れた、種族神に最も近い男だったろう。
 同じ両親から生まれれば、比べられない訳がない。
 血縁者でもない赤の他人が比べるなら、まだ我慢できただろう。だが、僕とギルガランを比べたのは他でもない父だった。幼くとも頑強で健康なギルガランが王に相応しいとは思っていたが、僕が遠い親戚に預けられると決まれば理解せざる得ない。母は僕と共にオルセコを離れると父に直訴したそうだが、母を溺愛する父はそれを許さなかった。
 母とギルガランは必要で、僕は要らない子供。
 父にそう突きつけられた時、僕の心にべったりと絶望と憎悪が塗りたくられた。
 母が死に、僕の知識と聡明さに利用価値を見出した父の都合でオルセコに戻った時、どれだけ腑が煮え繰り返った事だろう。ギルガランの弟は病弱でオーガの出来損ないと、オルセコの国民から揶揄われる日々。父は価値がなければ再び捨てるだけだろうと思えば、僕は石に齧り付いてでも耐え忍び価値を示さなくてはならなかった。
 我儘で自由なギルガランが、羨ましくてたまらなかった。
 健康で強いギルガランが、憎くてたまらなかった。
 同じ父、同じ母の元に産まれておきながら、この差は一体なんなんだろう? こんな惨めな想いをするのなら、産まれて間も無く死ねればよかったのにとガズバラン様を恨みもした。
 戦士達に囲まれ、己の弱さを突きつけられる日々。僕を見下ろし、嘲笑を浴びせる者達。全てを知っても表沙汰に出来ず、悔しげに目を伏せ顔を背ける者。価値しか求めぬ王。全てが恵まれ順風満帆な兄弟。
 憎かった。
 何も出来ない僕も含めて、全てが。
 そんな真っ暗な日々をギルガランが蹴散らした。
 僕を弱いと揶揄う戦士達を降参するまで殴り倒し、僕を笑う者を睨んで黙らせる。僕と相手の間に立ちはだかる、オルセコの紋章を縫い付けた真紅の外套から浮かび上がる肩甲骨の大きなこと!
「誰かを守る事を躊躇わぬギルガランに、僕は王の器を見ました」
 僕はオーガ族にとって必要のない者のはずだった。そんな僕に、ギルガランは言ったんだ。
『お前の思慮深さは俺にはないものだ』
 座り込んだ僕に差し出された手は、初めて出会った時とは比べようもなく大きくなっていた。
『俺にしか出来ない事があるように、お前にしか出来ないことがある』
 なんて、眩い言葉なんだろう。
 真っ黒い感情に、火を投げ込まれたようだった。
「僕はギルガランを、立派な王に育てると決めたのです」
 ふふっ。セーニャさんの笑い声が小さく漏れた。休憩が終わるのか立ち上がると、人間族のほっそりとした白い手が差し出された。
「そんな大変な事、好きじゃなきゃ出来ないですよ」
 手をとって立ち上がったとほぼ同時に、戦いが始まったとわかる衝撃が氷穴を揺らした。休憩を挟んだお陰で復活した足取りだったけれど、激しさを増す戦いの気配は、一秒が一年に感じるもどかしさを生んだ。
 あまりにも長い道。あまりにも遠いギルガランの背。
 僕は胸元に仕舞ったギルガランの手紙が、くしゃりと音を立てたのを感じていた。俺は王の器ではなかったなどと、殊勝な事を書いた手紙。あの粗暴さとは裏腹に美しい文字で、僕ならどれほど良い国が作れただろうとか書いてあるんだ。オルセコを任すだなんて、自信しか口から出ないからって手紙で書くなんて明日はもこもこ獣の猛吹雪だ。
 ギルガランの大馬鹿野郎! 僕は胸を掴んで手紙をぐしゃぐしゃにした。
 僕は、君を絶対に死なせたりしない!

なんなんだろう。滅茶苦茶濃密で滅茶苦茶足早なんだけど、大丈夫?
スピード違反で逮捕されねぇ?????

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