ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 自分には錬金術などという、難しい事は分からぬ。
 回復呪文を掛ければ昏睡に至るまで消耗しそうな大怪我も、ゼフの調合した薬品を掛ければ見る見る肉が盛り上がり塞がったものだ。ゼフは神の奇跡のような業を『貴方のような体力お化けだから可能なのです』と言っていた。
 そんな自分は主の従者として、王立アルケミアに何度か足を運んだ事がある。我が主も錬金術は詳しくはなく、これで民の生活がより豊かになる事に感動するばかり。ご婚約が決まってからは同行されるマローネ様の方が真剣に耳を傾けて、王国の招待で訪れたリンジャーラ殿は研究者達と時間いっぱいまで難しい論議を交わしておられたものだ。
 難しい文字。使えぬ魔法。不器用な自分には薬草を調合する事も難しい。
 それでも、そこには良き思い出が多くあった。
 このエテーネ王国の発展の為に心血を注ぐ研究者達の熱意は、剣しか知らぬも主を守るべき己の決意に似たものを感じた。主を奥方を友人の喜びは、このファラスの喜びでもある。
 錬金術はよく分からぬ。それでも、素晴らしきものであると理解できれば十分であった。
 それが、このような事に使われようとは…。
 王立アルケミアの所長ヨンゲが目指していた先進研究区画は、足元が照らされるだけで暗い。等間隔に培養液に満たされた硝子の柱が立ち、ぶくぶくと気泡が沸き立つ液体の中には製造中の魔法生物が浮かんでいる。魔法生物に過剰な刺激がいかぬよう、あえて照明を落としているのだろう。硝子の柱の土台には錬金術を制御する為の装置が付いており、そこから大蛇の太さの管が床を這って覆っている。管を踏まぬよう、人が歩く場所は網状の金属の板が渡されていた。空間は清潔を保っていたが、蠱毒の壺の底のような不気味な光景が浮き上がっている。
 自分の前に二人のルアム達が足を止め、硝子の柱の中に浮かぶものを見上げていた。
 なぁ、なぁ、相棒。プクリポが少年の毛皮のコートの裾を引く。
「これって、いぎょーじゅーだよな?」
 絶句しているのは、何も少年だけではない。自分も言葉を失っていた。
 硝子の柱に満たされた培養液に浮かんでいるのは、長い尻尾を胸に抱くように寄せて胎児のように体を丸める生き物。冷たい色の光源に黒い金属めいた質感の表皮は白く照り、相対した時は血を塗り固めたような真紅の玉は暗く沈んでいる。どこからどう見ても、この王立アルケミアの研究者達を屠った異形獣であった。
 驚きはなかった。予感が的中したと思うくらいだ。
 主を守る為に剣の腕を磨く為、自分はエテーネ王国の全ての魔物と戦った。主の行先には全て付き従った故に、このレンダーシアの主要な地域の魔物達も把握している。それ故にこの異形獣がエテーネ王国には存在せず、どの魔物にも属さぬと断言できた。
 魔物でないなら、異形獣とは何か? その答えが目の前にあった。
「え? え? ここって、エテーネ王国お抱えの建物なんだろう? どーして、いぎょーじゅーがいるんだ?」
 早口で捲し立てる声が、混乱しているのを物語る。
 そう、ここは王立アルケミア。エテーネ王国が設立し運営する、王国直轄の研究施設だ。この研究施設で行われる研究の全てが王国へ公開され、民も申請すれば研究内容を閲覧できる。例え、所長のヨンゲが隠蔽しようとしても、研究所の全てに実施される監査から逃れる事はできない。しかもこれほど大規模に異形獣製造を実施して、隠し通せる訳がない。
 しかし、異形獣の製造は秘密裏に行われ、実際に軍部でも把握できていない。
 誰が異形獣を隠したか。
 目の前に答えがあっても、信じたくはなかった。

後半はファラスさん視点で、答え合わせです。
ゲームではもっと後になって、別の理由で来るのですが、まぁ、この段階で判明しても問題ないでしょうってところです。4.1は謎に対して甘めでありまして、クオードの疑惑も魔法生物事件くらいで確信に変わってるので、倣ってこの段階から疑惑を確定していきます。

今回の緩く考えるシリーズはゲームのプレイ姿勢から。
まずはタイトルにある『タイパ』の前に『履修』について、軽く説明をさせていただきます。
どんなジャンルでも『不朽の名作』が存在し、その名作をオマージュとして己の創作に組み込む事があります。自分が知る中で最も古いのだと初代ゼルダの『ユウシャ ロト ココニ ネムル』あたりでしょうか。とにかく、このネタは『オマージュ元となった原作を知らないと分からないネタ』であり『オマージュ元が名作である』のです。
現在、全てのジャンルはそれなりに長く息のあるものになり、『不朽の名作』が礎となり始めています。手塚治虫先生は漫画における古典的地位があり、鳥山明先生はさまざまな漫画の礎として存在します。多くの漫画それらを読む事で、今に存在する漫画を深く理解できるのです。
逆に今のなろう転生ものは『ドラゴンクエスト』を筆頭とした和製RPGを土台にしており、これは和製RPGの常識が日本人の若者の常識として浸透しているとも読めます。
現代のさまざまなジャンルは、これらの現代の作家が愛した『不朽の名作』を知らなくても楽しめるが、知ればさらに楽しくなる。だから見るなりプレイするなりしようという行為を『履修』とここでは呼びます。私は『通っておきたい(ジャンル名)』なんて呼びますけどね。

さて、前置きが長くなりました。
私は最近ハーヴェステラというスクウェア・エニックス社のゲームをプレイしているのです。ゲームスタート時にラスボスと思われた存在をボコして、折り返し、というところまで来ています。
このゲームをプレイして思うのは

『最近のプレイヤー向けに作られたゲームだな』

ってことです。
何が『最近のプレイヤー向け』かと思うかというと…
美しいグラフィック
美麗な登場人物
王道で作り込まれた物語
良質な音楽
戦闘難易度が低い(SFC聖剣3を彷彿とさせます)(これは製作が意図した難易度です)
次にどこに進むべきか、細かに案内が出る

最近の傾向ではドットよりも美麗な映像に重きが置かれがちです。海外ではドットゲームの需要はインディーズには確実に存在しているのでゼロではないですが、どうにも没入感を求めているのかゲームがリアル指向が人気な印象を受けます。そういう意味では日本はドットやカートゥーン調といった幅広い映像にまだ市民権がありますね。
問題は最後です。
『最近のプレイヤー向け』でも『若者向け』なのが最後です。
これはどういう事か、ご説明します。
例えば『薬草を買ってきてほしい』というイベントが発生すると『道具屋にイベント進行で行くべきチェックポイントマークが付く』。そのマークを追って道具屋に行くとイベントが進行し、薬草採取に行くことになるとしましょう。すると『薬草の採取場所を教えてくれる人にチェックポイントマークが付く』のです、そのマークを追って採取場所が分かると『採取場所にチェックポイントマークが付く』。
チェックポイントマークを追いかけるだけなので、イベントもサクサク進んで楽ちん!てなります。でも、昔ながらのプレイヤーだと文面を追うと、チェックポイントマークを追いかけてるだけじゃない?ってなるでしょう。ちなみに最初のチュートリアルだけではなく、さいごまでこの配慮は続きます。
これこそが『若者向け』と稲野が思う所以です。
最近のプレイヤーはタイパ、つまりタイムパフォーマンスを非常に重視するらしい。自分も立ち食い蕎麦屋でちょっとお手伝いしていた時、たった数分蕎麦を食すのにスマートフォンの動画を見ながらの人を多く見かけたものです。若者である末弟も、スマートフォンで動画を見ながら飯を食っています。映画やアニメを倍速で見るとか、少しでも短時間で多くのものを得る。この情報が氾濫し多くの不朽の名作に溢れた世界ならではの事情でしょう。
まぁ、私も自分のペースで作品は消化したいので、アニメよりも漫画、ボイスドラマよりも小説といった具合ですので分からんでもないです。

ハーヴェステラは『若者向け』に考えられたゲームだと、プレイして熟感心しました。何のストレスもなくサクサクとプレイし、美しいグラフィック美麗な登場人物王道で作り込まれた物語良質な音楽を浴びて終わる。非常にたいぱに優れた作品でしょう。
さらにこれが『最近のプレイヤー向け』というのも、プレイヤーの年齢層が上がって、ゲームを頑張る体力がない。だからゲームシステムの難易度を下げてプレイできるようにする、介護的な意味もある。あー、おつらい。みんな、あたまつかおう? 受容ばっかしてると認知進むよ?
今後、こういう作品が溢れていくのだと、古い時間が掛かるゲームは淘汰されていくのだろうと思わされます。
同時に、ゲームが消耗品に成り下がるだろうとも思うのです。
スマホゲームでそうなってると思ってます。刀剣乱舞はブラウザ版で一年に一度燃えたらやりますが、それ以外は全く触れません。スマホでゲームをする。それだけで稲野のゲーム評価はマイナスにまで落ちます。偏見? 仕事中にゲームのことがどんなに気になっても業務が疎かになる事なく、利用者のQOLが下がるレベルの事故を絶対起こさないという自信がある奴だけ稲野を非難するといい。スマホゲーは責任など取らぬのだから、偏見くらい許してほしい。
実際に『若者向け』に作られたハーヴェステラは、物覚えの良い稲野がキャラクターの名前すら覚えていないまま中盤を折り返しております。自分の中に消化される前に物語が進んでしまうので、良いお話がぺらぺらと薄く感じております。このゲームは周回しない限り、稲野に『若者向け』を実感させた転換期のゲームとしか記憶に残らぬ事でしょう。
TwitterなどのSNSが登場してから、情報は消耗品になりました。流れるTLの情報は読めども頭の中に残らない。まさにシャワーを浴びるかのようです。
ゲームも『若者向け』に多く作られ消費されていきます。その消費に追いつく為、AIが活用されていくでしょう。ゲームクリエイターは社畜の度合いを増して、ゲームを作る志が砕ける未来が見えます。
それに抗うよう研鑽を重ねているのが任天堂だと思っています。スプラトゥーンもゼルダも非常にたいぱに抗える内容です。かの会社はたいぱの概念が生まれる前から、この状況を匂いのようなもので理解していたのかも知れません。

和製RPGはどうあるべきか
まずは古参と若者の求める度合いを、難易度として調整したら良いのではないかと思います。
元々は戦闘の苦手な人向けにテイルズ系で導入されている難易度ですが、これをシステムに導入するのです。先ほど例に出したチェックポイントを出す出さないを、プレイヤーが選択する事で難易度を調整できます。これはDQ10で既に実装済みですが、目的地が分からなかったら答えがみれるようで自分は良いシステムだと思います。
戦闘の難易度・システムの難易度、それらを調整する事で、ゲームクリアに必要な時間をプレイヤーが調整できる。システム難易度はチェックポイントを追うだけの人は最低限、全ての町の人から情報を聞く人は多くのシナリオの進行で変わるセリフを堪能して世界観に浸れる恩恵を得られる。バトル難易度調整はいわずもがなですね。

コンテンツは消失せず、これからも増え続ける。
たいぱはこれから先の未来に生きる人々を、縛っていくことでしょう。その中で、人々の中に『作品』としてプレイゲームが作られ続ける事を、稲野は願わずにはいられません。
たいぱは全てを薄くする。
創作は軽視されるでしょうが、貴重な資源であるでしょう。
多くの創作活動する方々は、消費される世界に折れる事なく、その熱意を燃やしてほしいものです。

 私の背後に立った二人を見遣る。青紫の髪の少年は手に持った弓に矢を番えているし、白金の髪の男は二振の剣を抜いて立っている。はだけた服の間から隆々とした筋肉を覗かせ、男は抜き身の剣を提げて歩み寄り、私の顔を覗き込むように片膝をついた。
「こんな状況で落ち着けというのは、酷だと理解している。其方は王立アルケミアの所長、ヨンゲ殿で相違ないか?」
 ぐっと息を詰める。やはり私の命を目当てで追ってきたのだと確信した。
 既に王立アルケミアと王都を繋ぐ転送の門は、襲撃の時には封鎖されている。そうなれば、秘密の通路から侵入してきたのだろう。そこまでして、私を葬り去ろうとしているのだ!
「そうやって汚れ仕事を続ければな、貴様らも私と同じ運命を辿る事になるんだぞ。今から貴様らが手に掛ける相手の死に様こそ、未来の自分達の末路であると覚えておけ!」
 私は唾を飛ばしながら捲し立てると、少年が嫌そうな顔をして一歩下がった。弓に矢を番えたまま、やれやれと首を振る。
「王都の転送の門を直して欲しいと頼みに来ただけなのに、とんだ誤解ですね」
「異形獣によって同僚達が無惨に殺されているのを目の当たりにすれば、気が触れてしまうのも仕方のない事だ。施設内で異形獣が闊歩する状況は、何者かの襲撃と考えるべきだろう」
「とにかく、おじちゃん連れて逃げよーぜ。いぎょーじゅーおっかな過ぎじゃん」
 三者三様の反応は、場違いな程の長閑さだった。私は、口に溜まった唾を飲み下した。
「本当の本当に、貴様達はこの件と関係がないのか?」
 信じられなかった。
 なにせ、現在の王立アルケミアは口封じの為の虐殺の真っ最中だ。転送の門は封鎖されて外部から侵入する事は不可能だ。そんな中で、秘密の通路をわざわざ通ってくるのが、私の命を狙う殺し屋でないなら何だというのだ?
 王都の転送の門の修理依頼などという少年の言葉を、額面通り受け取って良いのか? この施設が襲撃されている現状を、訝しむ様子を演技だと疑うべきでは? この魔法生物の言葉を間に受けて、共に逃げて良いのか?
 だめだ。私は頭振り、よろよろと立ち上がった。
「証拠を持って脱出しなくてはならん。全ての錬金術師の研究が正しく使われる為に…」
 私は先進研究区画の鍵に手を伸ばし握りしめると、猫耳のぬいぐるみの横を通り抜ける。
 王立アルケミアの所長に、私は相応しくなかった。もっと優秀な錬金術師がいた筈なのに、なぜ私が選ばれたのか今なら分かる。所長の椅子に、可愛らしい娘の色香に、功績を築く事に、そして生きる事に、私は貪欲過ぎた。恐ろしい謀略も、己の欲望の為なら目を瞑る。そんな浅ましい錬金術師が必要で、それが私だったのだ。
 それでも、今は、今だけは、王立アルケミアの所長の責務を果たさねばならない。
 あ! 少年の声が弾け、私にぬいぐるみの軽い体がぶつかる。
 赤い猫耳の裏越しに、闇から真っ白い影がぬるりと這い出していた。強化型ヘルゲゴーグの銀色の長い爪が、闇の中で長い長い尾を引いて迫ってくる。私とヘルゲゴーグの爪の間に、赤毛のぬいぐるみが滑り込み、腕に嵌めた爪とヘルゲゴーグの爪が火花を散らした。
 しかし、悲しいかな。強化型ヘルゲゴーグの膂力は、通常型が破壊に苦労するプラチナ鉱石をバターよろしく切り分ける事ができるほどだ。綿毛を払うかのように純白の爪に押し退けられ、私の脇腹に爪が当たる。瞬く間に爪は私の上半身を抜けた。
 意識が激痛に焼かれ真っ白く塗りつぶされていく中、丁寧に腹の前で手を揃えた小柄な女が立っていた。声を発する事なく動く口は、かつての警告を告げていた。
 あぁ、ワグミカ。
 感謝の言葉か、謝罪の言葉か。
 告げようと思った言葉は、焼き切れて失われてしまった。

前編終了でっす!
この流れからお察しの通り、この前編ではこの王立研究所惨殺事件の主犯者が明かされない感じです。

 警告を受けても、いつだって逃げる機会がある。そう、私は自惚れていた。
 ワグミカが辞表を王国に叩きつけ、『時の指針書』を焼き払い、夜逃げ同然に自由人の集落に降った。人伝に聞いた話では、酒の溺れて廃人になっているそうだ。彼女は全てを賭けて抗議し、敗北したのだ。
 その後、私の『時の指針書』に王立アルケミアの所長になるよう書き込まれた。
 願ってもない栄誉だった。
 錬金術師なら誰もが一度は夢見る、王立アルケミアの所長の椅子に私は嬉々として座った。最高の座り心地で、権力も名誉も思うがまま。王都の美女達も所長の肩書きに、黄色い歓声をあげて持て囃した。故郷からエテーネ王国最高位の錬金術師誕生したという、吉報を伝えられたのが何よりも嬉しかった。
 研究は変わらず続けられ、魔法生物が生き物の魔力を収集し、保管し、放出するという一通りの成果が得られた頃から全てが狂い始めた。魔法生物研究の部門と連携し『時の指針書』の方針に従って、強固な魔法生物に私の研究結果を組み込む事になった。
 その魔法生物を見て、私は血の気が引いた。
 魔法生物の手には身の危険を感じる程に鋭い爪が生え、人間を遥かに上回る巨体を有していた。思わず後ずさって見た顔らしき部分には、目も鼻も口すらなく、巨大な丸い玉が嵌まっている。魔法生物は動物や魔物に似せた姿形をさせるが、これは魔物でも機械という鋼で出来た系統に似ていた。何をモデルにしたのかと問えば、お告げの通りに作ったと答えが返ってくる。
 魔法生物の頭から生えた角に、私の研究成果である魔力を保管する器官が宝石のように光を反射した。
 私の研究成果がどう使われようとしているのか、一目瞭然だ。
 培養液に浸っていながらに脅威を感じる存在が、人々に幸せを齎すなど想像もできなかった。その鋭い爪は私達を引き裂く為に存在したし、屈強な足腰は私達を追い詰める為にある。その尾は障害となる全てを薙ぎ払い、どんな抵抗も鋼のような外装に弾かれてしまうだろう。
 逃げようと思った時には全てが遅かった。
 一足先にアルケミアから降りた研究者は、数日のうちに死亡したと知らせが届いた。消されたのだと、私も逃げ出そうとすれば殺されるのだと瞬時に理解した。
 『時の指針書』に魔法生物を改良し増産せよ、と書き込まれるようになった。
 それに従っている間は、殺されるのを免れる。『時の指針書』は私が生き延びられる、最善の未来を知らせてくれているのだ。私は『時の指針書』に従い、魔法生物を生み出し改良していった。口封じに殺される未来など、書かれてなどいなかった!
 私の足は疲れに縺れ、何もない廊下で転倒した。
 もう少しで先進研究区画に着くからと、握りしめていた鍵が床に転がって音を立てる。床に押し当てた腹から、私を追いかけてくる複数の足音が這い上がってきた。この王立アルケミアを襲撃するものの足音ではない、軽やかな人間のものだ。
 肘を床に突いて上半身を捻れば、二人の人間と猫耳の魔法生物らしいものが向かってきていた。明らかに錬金術師ではない出立ちと、手にした武器に確信する。
 あれは私の口を封じ、証拠を隠滅させる為に差し向けられた殺し屋だ、と。
 赤い猫耳の魔法生物が、次の瞬間鳥のように滑空し頭上を飛び越えた。遥か先に小さく見える先進研究区画の扉を遮るように、ぬいぐるみのような体が立ち塞がる。赤い毛並みと、ぽってりとした尻尾は、レンダーシアの外で暮らす他種族を模した姿だ。
 愛らしい仕草で首を傾げ、スライムの口の形に開いた口が舌足らずな声を紡ぐ。
「おじちゃん、どーして逃げるんだよ?」
「どうして? 貴様らが一番良く分かっているだろう!」
 如何にも無害そうな体を装ったとて、このヨンゲは騙されんぞ!

公式では精神エネルギーを収集するんですが、この精神エネルギーってのが私の中で噛み砕けていなくてですねぇ。公式では主人公の精神エネルギーが莫大であったから、吸収量を凌駕し異形獣が逆にぶっ倒れたという経緯があります。
しかし、この精神エネルギーというのが何なのか。
ちなみに日本語直訳する『精神力』は実現に至らしめようとする集中力と解釈してる。
エテーネの民が持つ時渡りの力って、血統で引き継がれるので良いと思う。血統から精神に流れ込む時渡りの力。うーん。これだったら魔力で説明よくない?ってなるんですよね。
ちなみにハコの開きにおける魔力解釈も精神力に似たようなものなので、自分が混乱しない為にも魔力と表記しちゃう。バージョンが進んで精神エネルギーが正しい表記として受け入れられるようになったら、しれっと直すと思います。

 王立アルケミアは定期的に行われる人事異動で、随分と様変わりした。病気の治療や健康維持に寄与する不老長寿の研究部門が縮小され、魔法生物の部門が拡大する傾向が見て取れた。私の研究にも多くの予算が与えられるようになり、助手も付くようになった。私は所属し続ける錬金術師の中では古株の方となり、新たな所長としてワグミカが就任して随分と経った頃だ。
 所長室に呼び出された私は、大きな机の前に立つワグミカと向き合っていた。
「王都で酒池肉林の宴を開いたそうですね」
 私は二日酔いの頭を抱える。だって、研究室で飲むお酒は美味しくないし、王立アルケミアには美しい女性が圧倒的に足りない。私だって既婚者に手を出さない常識は弁えているんだから、このくらいは目を瞑ってほしいものだ。助手達も同僚達も私の宴を楽しみにしてくれていた。
 所長室に呼び出される時は、決まって注意のお小言である。
「まぁ、貴方は二日酔いという罰が、既に神から与えられています。これ以上は言いますまい」
 ワグミカは人間の女性としても大変小柄で、同じく小柄な私と比べても胸くらいしかないだろう。くるりと内巻きになった髪は愛らしく、大きな瞳やふっくらとした頬は子供のあどけなさを彷彿とさせる童顔っぷりだ。それでも丁寧に前に重ねられ指先まで伸ばして揃えた所作や、ぽってりとした唇が紡ぐ錬金術師の祖と討論できるような知識量が、所長に相応しき者だと皆に認めさせていた。ワグミカはふわりと誇らしげに微笑むと、ゆったりと頭を下げた。
「ヨンゲ殿。魔力保管系統を、魔法生物に制御させる研究が完成したと聞きました。まずは、完成おめでとうございます」
 研究が完成すると、所長直々に祝いのお言葉をいただく。所長のワグミカはそんな儀式めいた事をしたがったし、所属する錬金術師達は憧れの所長の言葉をいただける栄誉に喜んだ。互いに所属年数が長いだけあって浮き立つ事はないが、所長直々の祝辞は感慨深く染み入った。
 王子の激励の後、私は『時の指針書』の方針に従って保管するエネルギーを魔力に限定して研究を深めた。魔力切れを起こした場合、魔力回復の方法は魔力を含んだ精製水を摂取する他ない。しかし、この研究があれば、昏睡して精製水を摂取できない状況でも魔力を対象に補充し命の危険を遠ざける事が出来る。特にエテーネ王国では魔法を使う分野が盛んなだけに、需要も救われる命も多いだろう。
 最初は古くは二つ目の神話にあった『祈りの指輪』に着想を得て、保管方法を道具の形状にしようとした。しかし『時の指針書』が魔法生物に組み込むよう示したのだ。
 確かに魔法生物が管理すれば、意識を失い道具を使えない対象者を助ける事が出来る。さらに魔法生物に魔力保管を制御させる事で、錬金術の補充なく連続した活動が期待できる。魔法生物の活躍の場はますます広がり、王国の発展に貢献するだろう。すでの多くの部署から、この研究を活用したいと申し出が寄せられていた。
「ありがとうございます」
 私もゆるりと頭を下げて祝辞を受け取る。ヨンゲ殿。名前を呼ばれて顔を上げる。
「この研究を凍結し故郷へ帰りなさい。貴方の成果は世に広く伝えられ、故郷に錦を飾ることになるでしょう」
「何を言っているのです。この研究はこれから発展していくのですよ?」
 私が語気を強めて問えば、ワグミカは『わかっています』と苦々しく囁いた。
 ワグミカが私の研究を横取りし、己の功績にしようと考えていない事はわかっていた。そんな事をせずともワグミカが本気になって研究すれば、どの分野も五十年前進すると言われているのだから横取りなど必要ない。
「しかし、今はなりません。どんな良薬も、使い方を誤れば毒薬となります」
 使い方を誤れば。その言葉を汲んだ私は、声を潜めた。
「誰かが、私の研究を悪き事に使おうとしていると…?」
「私は錬金術に人生を捧げた身です。私は全ての権限、知識、命を賭けて、全ての錬金術師の研究が正しく使われるよう抗議します。しかし、それでも及ばぬ場合は…」
 肯定して頷いたワグミカは、己の無力を噛み締めるように唇を閉ざしてしまった。だが、その先は既に遠回しに言われていた。
 逃げろ。と。

公式だとほぼ割愛してるんだけど、こんな感じかなーって。
綺麗なワグミカとヨンゲで笑ってしまう。二次創作なんだし、いいじゃないか。

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