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ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 奇襲作戦の失敗。それは俺を完膚なきまでに打ちのめした。
 俺に付き従った7名のうち、3名が帰還できなかった。その内の一人に、愛するミアリアークがいた。
「ファルナン」
 親友のマシェンが執務室に引きこもり頭を抱える俺に食事を持ってきた。ランフェスバイナの郷土料理の香りが懐かしく、それに空腹を訴える体を腹立たしく思う。
「今回の失敗を責めちゃいけねぇ。女王陛下がお前を連れ戻すと宣言していなければ、俺達はお前の弔い合戦の為に全部隊で攻め入ったに違いない。そうなれば、あの白い奴に全滅させられていただろう」
 それは、高槻 守の人生を過ごしていた時に心配していたことでもあった。ファルナンは歴代の騎士団長でも屈指の実力と誉れ高く、多くの支持を得ていた。そのファルナンが殺されたとあれば、まともな判断が出来ていたか分からなかったのだ。恋人のミアリアークが副団長であったのも心配に拍車をかけた。冷静に見えて、彼女は熱い心を持っている。ファルナンの死は彼女の冷静さを奪う程度には、衝撃的なことに違いない。
「ありがとう、マシェン。でも、これは俺の失態でもある」
「いやいや、お前の失態? あの竜将軍にすら噛み付けたミアリアークの全力が完封されるなんて、誰が想像できたよ。あの白いのは厄介だ。下手をすれば竜将軍よりも手強いかもしれん」
 そう、あの白い何か。何の情報もない故に、全く対策の立てられない問題の種だ。
「ミアリアークは無事さ。ランフェスバイナの神の御加護がある」
 マシェンの大きな手が、慰めるように肩に触れた。
 ミアリアーク…。奇襲作戦に失敗した今、彼女を取り戻そうと大部隊を率いて攻め入ることは愚策でしかない。俺の不安をそろそろと撫で回すのは、彼女がアーゼに囚われても殺されているかもしれない懸念だった。ミアリアークは騎士団の副団長として、アーゼにも名と顔が知れ渡っている。誰もがはっと振り返るほどの美貌、騎士団で培われた美しい所作、そして戦場を一変させる強大な氷の魔法。『氷の魔女』と呼ばれた彼女に命を奪われたアーゼの兵士は多いことだろう。
 アーゼはそれぞれの自治領から兵士を派出し、それを将軍イゼフが統括している。イゼフは確かに兵士達をまとめる類稀な才があったが、騎士団よりも一枚岩ではない軍隊では復讐と称して彼女が殺されるのを止めることは難しいだろう。
 戦力差は明らかだった。ミアリアークを失った騎士団には、ミアリアークに代る魔力の持ち主はいない。対してアーゼには、魔力を失った竜将軍に代わる白い何かが現れている。このまま戦争を続けて、勝利どころか休戦に持ち込むことすら難しい。
 ランフェスバイナが敗北する。そんな未来が見えた。
「マシェン…俺は…」
「ファルナン、お前が負けを認めるなら俺達も地獄へ連れて行け」
 温かい日差しが差し込んで、まるで温室のような執務室にコンコンと音が響いた。窓から響く音が視線を導かれた先に、真っ黒い小鳥が窓を突いている。光を吸い込んでポッカリと鳥の形に切り抜かれた空間のように、その小鳥は嘴も瞳も羽一本一本すら見分けられない。その黒々とした闇に、俺達は一瞬にして臨戦態勢を取る。剣を抜き放ち、小鳥を油断なく見る。
 小鳥はこちらが気がついたことを認識したように、窓を突くのをやめた。そして器用にメモらしき小さい紙を咥えると、窓と床の隙間に差し入れた。翼を広げ飛び立つことはしなかった。小鳥は元々そこに居なかったかのように、消えてしまった。
 紙を取ろうと動き出した俺を、マシェンが制した。
「俺が取る。待っていろ」
 小鳥の消え方から、小鳥は白い何かの使者であることは明らかだった。紙が罠とは思えないが、用心に用心を重ね俺を守りたいマシェンの気持ちはありがたかった。締め切った窓からできる限りを伺い見た大きな背中は、猫のように丸くなって紙を拾い上げた。それを広げてみたのだろう。マシェンは戸惑った声をあげた。
「なんだ…これは?」
 しばらく紙を凝視していたマシェンは、俺に紙を手渡した。そこには、こう、書かれていた。
『近藤美亜の名に心当たりがある者は、先日、お会いした場所で。護衛は1名のみ認めます』
 驚きに言葉を失う。
「なんだ? 何が書いてあるんだ、ファルナン!」
 マシェンの大声が耳を右から左へ貫いた。この文字は、この世界の者が読むことも書くこともできないだろう。この紙に書かれた文字は、来世の俺が生きていた世界の言葉だ。
 そして、近藤美亜の文字。この名前の主は、ミアリアークの来世だ。俺が幼稚園児の時から、告白を繰り返している10歳年上の女性。この手紙の主はミアリアークを見て、近藤美亜が連想できる程度に知っている人物になる。そして近藤美亜を知っていて俺に手紙を寄越したということは、告白を繰り返し玉砕している俺も知っている可能性が高い。
 誰だ?
 この手紙の主は誰だ?
 俺は高槻 守としての記憶を逆さに振って思い出す。しかし、ミアリアークの来世である美亜以外は、ぼんやりと霞んでいて思い出せなかった。美亜は転生して再会した時から、既に天才だった。海外留学を経験し、誰もが名を知る一流の大学を首席で卒業し、今では幹部候補生として公務員勤めをしているらしい。思い出せるのは彼女が中学の時、同級生だった男。比較的仲良く話しているのを見て、嫉妬したのを覚えている。
「マシェン、一緒に来てくれ」
「おい、何が書いてあったんだ?」
 行きながら話す。そう短く答えて、俺は手早く身支度を整え始めた。一刻も早く、全ての謎の答えが欲しかった。

 先日お会いした場所で。心当たりがあるとしたら、それは奇襲したアーゼの野営地。もう竜将軍は撤退した後なのか、広い空間で燃え残った焚き火の跡だけが先日の名残を残している。俺達が吹き飛ばされた側の大木が多くなぎ倒されており、先日の衝撃が凄まじかったことを再確認する。たっぷりとした日差しに、野の花がそよそよと揺れている。
「本当に敵の言葉を鵜呑みして、大丈夫なのか? あっちは、きっと白いのがくるぞ?」
 あの手紙の差し出し主が白い何かであるとは断言できないが、運搬を担ったのだ。ここに来る可能性は非常に高い。
「あえて来世の言語で接触してきたんだ。条件が合うなら手荒な真似はしないだろう」
 そう、来世の言語、来世の名前。その情報を出す利益は相手にはない。それに応じる俺も、ファルナンが転生した存在であることを明かすリスクが生じる。互いに、何か重要な情報のやり取りを行いたい、情報を得たいという意思が一致していなければ、ここに現れることはない。相手も俺も、そう思っているのだ。
 日差しはキツかった。俺達は森の木陰に馬を休ませながら、人影が現れるのを待った。陽が傾き始め、もう少ししたら夜気が漂い始める為に帰ろうとした矢先だった。
「誰か来たぞ」
 マシェンの言葉に体を起こすと、ちょうど馬が一頭森を抜けて来た所だった。茶色い駿馬に男が一人、白い何かを前に座らせている。男はイゼフではないが、見覚えがあった。ミアリアークの来世、近藤美亜の同級生の男だと思う。確信は持てないが、あんな顔だった気がすると掘り返した記憶の中で照らし合わせる。
 男は俺達をすぐに認め、呆れた顔で言った。
「本当に来てるよ」
 男は白いのを下ろすと、白いのを背後に庇うように俺達の前に立った。近づいてくる気配はない。お前らが来いと言わんばかりだ。マシェンが不機嫌そうな顔をしながらも、俺の前に立ってアーゼの兵士だろう男の前に進んでいく。
 男が剣を抜き放って、冷静な声色で告げた。
「兜を脱げ」
「そっちの白いのはフードを被ったまんまだが?」
 マシェンが苛立ちを隠さず言うと、男は間髪なく言い返した。
「顔を確認してから話をする」
 俺は振り返ったマシェンに頷いた。互いに兜を脱ぎ、素顔が見えるよう並ぶ。俺達の顔を見ようと、男の背後にいた白いのが体の位置をずらす。戦場でも場違いな程におっとりした雰囲気を醸していたが、今、目の前にいても一般市民と変わらぬ呑気な気配を感じる。
 白いのが頷くと、すっと手をあげた。黒い小鳥が指先に止まり、それがマシェンに向かって羽ばたく。びくりと身を固めたマシェンだが、黒い小鳥は肩に留まると毛繕いを始めた。よく見ると、アーゼの兵士の頭にも黒い小鳥が乗っている。
「高槻さんだとは半信半疑でしたが、確認いたしました。大きくなられましたね」
 来世の言葉だ。この世界の民には通じない言語だが、男もマシェンも驚いたように白いのを見る。おそらく、この黒い小鳥は言語を翻訳して伝える能力でもあるのだろう。便利だな。
「お前は誰だ?」
「失礼。今、フードを外します」
 白いのがフードに手をかける。すっと下ろして明かされた顔に、俺は息を飲んだ。脂っ気のない癖毛だからと、ぴっちりと後ろに束ねた髪。冴えない顔に自信のなさそうな笑みを浮かべた、若者を過ぎ去った女性だ。メガネを軽く握った指の関節で上げる妙な癖を職業病と言っていたのを覚えている。
 そう、その人を俺は知っている。その人は近藤美亜の同級生の男の姉だった。近藤美亜の友人関係で、最も長く続いている人物でもある。俺の告白が玉砕されるのを知っている人には一通り『どうして、近藤さんが好きなんだ?』と聞かれたが、実際にそのことを話した人が一人だけいた。その人はとても年上で女性で、ゲームや漫画やアニメに詳しい所謂オタク趣味を持った人だった。この人が、そうなのだ。
 俺の前世を誤解しながらも知っている、唯一の人物。
「佐々木さん…!」
「君の話を思い出したのは、ミアリアークさんにお会いしてからです。痛い目に遭わせて、申し訳なかった」
 申し訳なさそうに頭を下げる佐々木さんに、俺は声を荒げた。
「どうして、あんたがここに! いや、どうして、俺の敵なんだ!」
「それは、今回の主題じゃありません。今回はミアリアークさんの事について、お話があってお呼び立てしました。あぁ、ちなみに預かっている3名様は皆様元気にされております」
 自信のなさそうな笑みが拭うように消え、真剣味を帯びた表情が俺を見上げる。
「ミアリアークさんは、お子さんを身籠ってらっしゃる」
 誰の、とは言わなかった。おそらくも何も、ファルナンの子だ。高槻 守の子供ではないだろう。だからこその、あの手紙の内容だったに違いない。驚きと喜びと、今の俺にはあまり関係のない寂しさが内混ぜになって整理のつかないうちに、言葉は続いていく。
「子供がお腹にいても戦うとか馬鹿なこと言ってるので、捕虜として出産して安定されるまでお預かりします。イゼフさんには許可を頂きました」
 ミアリアークならやりかねない。子供を流産しようが、仲間のために戦い続けるだろう。俺が命令しても頑なな彼女は聞く耳を持たないだろう。恥ずかしい話ではあるが、この捕虜の件はありがたい申し出だった。美亜でさえ佐々木さんの言葉には従うことがあるから、ミアリアークも大人しくさせることができるだろう。
「わかった。よろしく頼む」
「頼み方が引っかかりますが、まぁ、良いでしょう。これで、お話は以上です。お疲れ様でした」
 フードを深々と被り直した佐々木さんに、俺は慌てて言った。
「待て! これで以上って、どういうことだよ!」
「これから先どうするかは、私が関知することではありません。私はあくまで客人で、この世界の行方を左右するような出しゃばりはしないつもりです」
 だが、お前の存在がこの戦況を左右するほどに強力なんだ! 詰め寄ろうとする俺の首を、佐々木さんは強引に引き寄せた。額にフードが押しつけられる。
「…私の気がかりは、来世の我々の関係が良好だということです。本当の敵は誰なのか、よく考えなさい」
 フードの隙間から見えた佐々木さんの表情は、俺にトドメを刺したイゼフによく似ていた。
 ぱっと手放して颯爽と歩み去っていく背に、俺は手を伸ばすことができなかった。



1話目の伏線回収ですよー!オタクの人、登場!
一応、外伝の扱いで書くのが、このオタクの人、佐々木さん側の話になります。それはファルナンの話が完結してからですけどね!
これも夜勤の読物用として、早めにあげちゃう!
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 ランフェスバイナとアーゼの戦い歴史は、神話の時代にまで遡る。この世界を作り上げたランフェスバイナの神と、アーゼの獣が対立したことが発端とされる。神話の戦いは長く続き、互いに引き分けとなりそれぞれの名を冠した国に眠る形で幕を閉じる。
 次に歴史として残されているのは、アーゼの獣が魔王として蘇ったことだろう。ランフェスバイナの神に祝福された勇者が、アーゼの魔王を打ち倒す伝説は子供達が大好きな物語である。脚色は多少あるだろうが、この伝説が生まれた時代に大いに栄えたアーゼ王国は崩壊した。
 そしてアーゼ王国はいくつかの自治領に分かれ、現在はアーゼ自治連合という同盟関係で存続している。
 長らく不可侵の距離感を保っていた両国であったが、アーゼに竜将軍が現れてから戦いが激化した。俺の前世が竜将軍を止めていなければ、おそらく王国はアーゼに敗れていただろう。迫った敗北を回避することはできたが、まだ油断することはできない。
 アーゼはファルナンが転生し、再び戻ったことはまだ知られていない。竜将軍が油断しているこのタイミングでの奇襲作戦。心が躍る。絶対に成功するという確信があった。
 高槻 守として生きていても、修練を怠らなかったことが奇襲作戦早期決行に繋がった。ファルナンとしての剣術の腕も戦いの勘も、決して鈍ってはいなかった。むしろ、様々な部活を掛け持ちし、様々な運動を極めてきた為に技量が増した気すらする。
 それが表情に出ていたのだろう。マシェンがこつりと俺の肩を叩いた。
「嬉しそうだな」
「嬉しいさ」
 俺は無邪気な笑みを浮かべる。ファルナンよりも若々しい、しかしファルナンが持っていた自信に輝く笑みだろう。転生してから手を差し伸べることすらできない前世に想いを馳せてきた。ファルナンであることを忘れられたらどれだけ楽だろうと、何度思ったことだろう。
 だが、こうして肩を並べ仲間と共にある。これほど嬉しいことはない。信頼できる精鋭達が7名で、夜の森を駆ける。敵は油断しきっているのだろう。見張りすら立っていない。遠くに聞こえる狼の遠吠えが、近くを横切る獣の影が唯一俺達を縄張りに侵入する異物と認識している。まだ夜行性の獣も多く行動する時間帯であるがゆえに、俺達の踏み締めた木の葉が砕ける音もかき消してくれる。
 闇の奥に光が灯っているのが見えた。香ばしい肉の焼ける匂いや、美味しそうな料理の香りが鼻先を撫でていく。時折聞こえる笑い声が、風に乗って耳を掠めた。こちらが気取られている雰囲気は一切ない。
 アーゼの野営を草葉の陰から覗き見る。人数は十数名。おそらく、ファルナンを討ち取ったが故に大部隊を撤退させたのだろう。ほぼ全員で焚き火を囲んでいて、遠巻きからは黒々とした影が光の中に浮かんでいる。杯を交え肩を組み楽しそうな一時を過ごしている影を、俺は指差した。
 ミアリアークが小さく頷く。懐から本を取り出すと、その本が輝きを放つ。
 一瞬。
 まさに一瞬のことであった。
 焚き火の炎すら氷の中に閉じ込められた一瞬で、目の前の何もかもが氷の刃に貫かれた。巨大な魔法であればある程に必要となる膨大な詠唱や準備の時間を、ミアリアークは本の中に封じ込めることに成功した。彼女が高らかに魔法の発言を宣言するだけで、視界の全てを一変させる暴力が敵に反応する暇も与えずに発動するのだ。
「やったか?」
「最大出力です。全員死んだと見て良いでしょう」
 ミアリアークが感情のない声で返す。目の前の屈強な敵兵を殺しておきながら、眉一つ動かぬ横顔は女神のような人成らざる美しさを感じさせる。
 あっけない展開に気が緩みそうになる。しかし、この奇襲作戦はファルナンの命を賭けているのだ。敵の油断は相当のものだろう。俺は剣を抜き放ち、森が抱いていた闇から抜け出した。足元を撫でる冷気の下にビッシリと立った霜柱を踏み砕き、俺はいまだに燃えている凍りの中の炎を囲む人影へ歩み寄る。俺の後に一人、二人、敵の抵抗を予測して続く。
「ぐあっ!」
 悲鳴が上がる。敵! 俺は慌てて周囲を見渡す!
 仲間達がミアリアークが展開した氷柱に体当たりするような勢いで、森から次々と現れる。中には森の中を警戒するように、盾を構える者もいる。背後。わずかな殺意に認識よりも先に体が反応する。闇から現れた殺意は矢という形で俺に迫り、剣で斬り伏せられる。
 察知されていたのか! 奇襲をかけられる状況でない我々の襲撃を、ここまで完璧に見切ることができるとは…!
 背後に巨大な氷の冷気を感じる。仲間達は森の闇から叩き出され、氷の中で燃え続ける炎を背に立たされている。闇の中に無数の殺気が、構えられた矢尻となって油断なくこちらを伺っている。形勢は逆転した。俺の失態だ。あまりの不甲斐なさに、奥歯を噛みしめる鈍い摩擦が脳に響く。
「やぁ、団長くん。きっちり殺したと思ったんだがねぇ」
 闇の中からねっとりとした声が俺に掛けられる。15年ぶりの声色だが、魂に刻み込まれているのか肌が粟立つのを堪えることができなかった。ぬっと闇から抜け出たのは、その声の主。ぼさぼさと脂気のない癖毛に、パッとしない冴えない中年の顔。中肉中背で胡散臭さを助長する薄ら笑いが、この男がランフェスバイナを追い詰める竜将軍であると誰も思いやしないだろう。
 俺は知っている。この男の、この表情は、本性を隠す仮面でしかない。
「…イゼフ」
 俺の声に、奴は手をゆっくりと広げる。ニヤリと笑って見えた白い歯が、三日月の形に輝いた。
「どうして奇襲が成功しなかったか、疑問かい? でも、失敗じゃないよ。ほら、君達が殺したがってる私が、ここにいるじゃないか! さぁ、殺しにきたんだろう? 向かっておいでよ?」
 イゼフの傍に白い影が駆け寄った。猫背で背が小さく見えるイゼフと比べても、子供と思いたくなる小柄な何かが、全身をすっぽり覆い隠すフード付きの外套を纏っている。アーゼの兵士達は全く統一性のない装いで、傭兵の集団にしか見えない。だがこの小柄な白い何かだけは、戦いに全く慣れた気配がない。イゼフの脇腹に触った指先は、大きな外套も相まって細く小さい。そんな小柄な何かを安心させるように、イゼフは笑顔を向けた。
「あぁ、まぁ、戦いだからね。君は無理しなくて良いよ。君のおかげで優位に立てたんだ、もう十分だよ」
 その言葉が紡がれる間に俺は考えを巡らす。
 ファルナンとしてアーゼの戦力を把握していた時、あのような白いフードと外套で身を隠している存在はいなかった。そしてイゼフの言った『君のおかげで優位に立てた』という言葉。この小柄な何かがイゼフの陣営に加わった新戦力で、俺達の奇襲を察知しこの状況に貶めた張本人であろう。
 奇襲作戦は失敗だ。今は一人でも欠けることなく、ここから撤退することだけを考えろ。それがどんなに難しい事であったとしても…。
 ふっと氷の中の炎が、ついに消えた。
 闇が支配し、わずかな月明かりがあたりを照らす。互いに火の光に目を焼かれていたがゆえに、ミアリアークの早技が誰よりも早く発動した。本を開き、瞬く間に練り上げられる魔力。驚いた敵が吸い込んだ息で、瞬く間に肺が凍りついていくだろう。次は冷気が結晶化する。赤を膨張させ肌を突き破り、命の温もりを瞬く間に奪う。
 これしかない。ミアリアークには負担になるだろうが、こうしなくては生き残る術はない。
「いけ! ミアリアーク!」
 月明かりが消えた。闇が落ちる。目の前の敵も、傍のミアリアークも、自分の指先すらも見えなくなる漆黒。ぬるりと、緩い空気を感じた時には、ぱたりとミアリアークの魔力が消失した。
 驚きに目を見開き、闇を凝視する。
 忘れもしない、イゼフの黒竜と同じ力。イゼフから分断した力であったが、誰か後継者がいたというのか? 例え今の俺達をなぎ払い叩き潰すような力はなくとも、全力に高められ発動したミアリアークの本気を一瞬にして無かったことにする。なんて、なんて恐ろしい脅威なんだ!
 誰だ。誰が。そう思う中でぽっと闇の中に浮かんだのは、白い影。手がゆっくりとこちらを向く。意識が向けられただけで、殺されるという根拠のない恐怖が腹の底から浮かんでくる。白い影にファルナンの胸にねじ込まれた長剣を下げたイゼフが重なる。
 殺されてなるものか。俺一人だけでない。俺の大切な仲間を、愛すべきただ一人の人を、俺は守らなくてはならない!
「ランフェスバイナの神よ! 俺に、皆を守る力を…!」
 祈りの言葉に体がほのかに光る。女王陛下の祝福の暖かい光が、闇の中で星のように瞬く。俺は松明のように眩い光を剣に託し、白い影に切り込む! 阻んだ鋼の輝きと爆ぜた火花に、イゼフの鬼気迫る顔が照らされる。
 やる気のない無精髭の口元が、覇気を含んだ怒号を発する。
「ササ! 吹き飛ばせ!」
 闇が引き、目の前で爆ぜた。硬い何かを背中に押し付けられ、このまま押し潰されてしまいそうになる。しかし硬い物が砕けるほうが早かった。大きな氷の塊が、脇から前へ飛び出していく。闇が俺を飲み込み、いくつか巨大で硬い何かにぶつかって体が地面に打ち捨てられる。兜を被っていなかったら、おそらく死んでいただろう。交通事故でも頭部を守ることが大事だと言い聞かされてきたが、今、大事さを再認識する。
「撤退だ!」
 吹き飛ばした方向にはアーゼの軍はいなかったのだろう。ちょうど抜け穴に吹き飛ばされた幸運に、俺は仲間達に向かって叫んだ。追撃から逃れるように、吹き飛ばされた方向へ駆けていく。黒竜の力は俺達を追っては来なかった。きっと、逃げ切れる。
 奇襲作戦の失敗。アーゼの強さを改めて認識した。
 そして、高槻 守として生きてきて、考えていた様々な対抗策は所詮卓上の空論でしかないことを思い知らされた。
 俺は血の味を噛みしめながら、逃亡者として夜の森を駆け抜けた。


うわー。もう、なろう系から脱しちゃったよ。だってほら、なろう系って無双で、ご都合主義で、主人公補整掛かっちゃうんでしょ?こんな無様に敗北街道走っちゃうなろう小説は、まだ遭遇してないよ。
とりあえず、敵サイドの登場で、メインは全員出揃った感じです。

 ランフェスバイナの大聖堂は玉座の間。王は神の言葉を告げ、神の行動を代行する。特に現在女王として君臨しておられるシルフィニア陛下は、歴代の王族の中でも抜きんでたお力を持っておられた。神の力を行使するとまで言われた、絶大な光属性の魔法。慈悲は民の全てに行き渡り、冠婚葬祭の際には出来る限りお顔を見せる。空を覗き込むような蒼い瞳は、まるで神に覗き込まれているかのよう。容姿も人々が神を模した絵のような完璧さであった。
 そんなシルフィニア陛下が奇跡を起こす。なんら不思議ではない。
 俺は硬い床に足が付くのを感じた。そして体の重みが加わる。顔を上げて目を開けば、まず視界に入ったのは女王陛下のうっとりとするような微笑みだ。どんな功績をあげても、ここまで至近距離でこのお方を見上げたことはない。白金の睫毛のひとつひとつ、きめ細やかな頬、整った顔立ちの中央にすっと走る鼻梁、ふっくらと艶やかな唇。それらが、俺の帰還を喜ぶように綻んでいる。あまりにも誇らしく、顔が火照った俺は慌てて頭を垂れた。
「ファルナン団長!?」
 懐かしい声。俺は女王陛下の前なのに、勢いよく声の方に振り向いてしまった。
 真紅の絨毯の上に、純白のフルアーマーが窓から差し込む日光で輝いている。懐かしい顔ぶれだ。誰一人変わらない。俺は思わず涙が浮かんだ。高槻 守として生きてきた人生分の歳月が経っての再会であったけれど、名前も顔も誰一人忘れたことがない。
 声を上げた親友のマシェン。彼は来世でも友人だ。2つ年上だったからこそ、運動神経が良かった俺と仲良くしてくれる。それにミアリアーク! どれだけ会いたかったことか! 皆の前で抱きついたらきっと君は怒るだろうから、今は我慢しなくては…!
 俺は陛下に深々と頭を下げ、身を引いて階段を駆け下りた。鮮明になる仲間達に、俺は喜びを爆発させた。
「皆! 無事でよかった! 変わらないようで嬉しいよ!」
 少し怪訝な顔を見上げる。見上げる? 体格の特に良かったマシェンは、ファルナンでも見上げていた。しかし副団長であり恋人であるミアリアークと、同じくらいって変じゃないか?
 ようやく違和感を感じた俺に、ミアリアークが冷えた声色で呟いた。
「…子供?」
 そ、そうだ! 死んだ時のファルナンは27歳。今の俺よりも一回りは年上じゃないか! 身長も体付きも決して子供ではないけれど、まだ成人に達した後の大人びた顔つきには程遠い…! 剣道を極め重りをつけた木刀を振り回して修練していたが、騎士団のフルアーマーを装備して鋼鉄の剣を持って戦えるか。今までは自信に満ちていたが、急に不安になって萎んでいく。
「その方は確かにファルナンの来世です」
 陛下の声が集まった騎士達の疑惑をなぎ払った。そして、あろうことか陛下は段を下り、俺の目の前に歩み寄った。騎士達が慌てて畏る中、膝をつきそびれた俺の手を陛下はとった。まるで真綿に包まれるかのように柔らかくて暖かくて、良い香りがする。うっとりしてだらしなくなりそうな顔を、必死で真面目に繕う。
「貴方が死したファルナンの記憶を保持して来世を過ごしている献身の心に、我が国は甘えとうございます。ファルナンの命を賭した術で、アーゼの戦力は大きく落ちています。どうか我らが神が維持せし平和を乱す、アーゼの魔王バルダニガを倒してください」
 ふわりと完璧な掌が俺の顔にかざされる。光が溢れて体がじんわりと暖かくなるのを感じた。これは祝福だ。陛下は生まれたもの全員に祝福をお授けになる。全てのランフェスバイナの民の平穏と幸せを願って施される祝福は、歴代王族だけが施すことのできる秘儀だ。これで俺は心身共にランフェスバイナの民となれたのかも知れない。
 伏せられた白金が、畏る騎士達を見回した。
「皆もファルナンへ、惜しみない協力を…」
 騎士達の爆ぜるような返答が、大聖堂に響き渡った。

 ファルナンの装備一式は未だに残されていた。白銀に金の飾りと縁を持ち、空の青を彷彿とさせるマントの付属した特注のものだ。これは死際に着ていた物ではなく予備ではあるが、寸分違わぬ性能だろう。着てみれば少々大きいが、装具のベルトを調整すれば問題ない程度の誤差だ。そうして鏡の前に立った俺は、前世の記憶に残っているファルナンそのものだった。
「あぁ、ファルナン。帰ってきてくれて嬉しいよ!」
 そう屈強で強面なマシェンが顔を綻ばせた。俺がファルナンであることに懐疑的だったかつての仲間達も、俺の振る舞いや口調、仕草にかつてのファルナンを見出していた。もう俺がファルナンであることを疑う者はいない。
 いや、一人いる。皆の輪から少し離れた所で腕を組み眺めている、美しい立ち姿。
「そういえば、俺がイゼフに殺されてどれくらい経ったんだ?」
「まだ数日も経っていない。騎士団長は敵国将軍に重傷を負わされ治療中と、民には伝えてある」
 なるほど。俺が高槻 守に転生して過ごしてきた年月は、この世界には適応されないのだろう。おそらく、このまま俺が民の前に姿を表せば、ファルナンが死んだとは誰も思うまい。俺を殺した竜将軍だけは、さぞや驚くだろうがな。
 あの飄々とした中年男が驚く顔が目に浮かんで、小さく笑みを浮かべる。
「アーゼの様子は?」
「ファルナンを殺害して、竜将軍が王都に畳み掛けに来ると思ったが全く動きなしだ」
 竜将軍。俺の宿敵。あの男は頭の回る切れ者だ。俺の死に混乱した騎士団を畳み掛ける、このチャンスを逃すことはあり得ない。ましてやファルナンの死際、イゼフは大した怪我を負っていなかった。竜将軍の異名を持つ通り、規格外の強さを持っていたな。
 俺は笑みを深めた。
「…ということは、効いたんだな」
 何が? そう訝しげな仲間達に、俺は笑った。
「女王陛下より俺は秘術を賜った。対象の魔力を分断する秘術を、俺の命を対価に行ったんだ。奴が追撃してこなかったということは、秘術は成功したんだ。きっと、奴はもう黒竜を生み出すことができなくなっている」
 魔力は人に宿る。その魔力を分断するということは、魔力は人に宿れず、人も新たに魔力を宿すことはできない。
 当然、この世界には魔力を宿せぬ人は多くいる。だが、竜将軍と名を馳せるほどの強い魔力にものを言わせて攻めていたイゼフは、魔力が使えなくなって方向転換を余儀なくされたのだ。今までのような無敗の暴君のような攻め方はできまい。
「流石はファルナン! あの竜将軍の力を封じるなんて、お前にしかできやしない! お前なら、お前なら、アーゼの魔王をも滅ぼしてしまうに違いない!」
 俺の言葉に騎士達が表情を明るくし、喜びの雄叫びを上げた。歓迎の宴を開くぞと言えば、多くの人が動き出す。いや、マシェンが追い出したというべきだろう。瞬く間に人払いがされていく。
 そう、一人を除いて。
 ミアリアーク。俺の、ファルナンの恋人。
 一人部屋に残っていたミアリアークに、俺は歩み寄った。美しい腰まである藍色の髪。細められた瞳、薄い唇。どれもこれも長年焦がれた形のままだ。喜びのあまり抱きついてしまいそうだったが、それこそがミアリアークが嫌がることでもある。
「ファルナンの遺体を確認して、郊外の墓地に葬ったわ」
 俺は頷いた。ファルナンの死を隠すということは、国葬するべき英雄がひっそりと葬られたからだ。隠すべき死だった。俺をこうして呼ぶことも女王陛下が決断されていたならば、知らすべきではない死である。
「私の愛した人は死んだの。婚約の話は終わったわ」
「いや、俺はファルナンだよ。生まれ変わっても、ずっと君を想っていた。会いたいと願っていたんだ」
 嘘じゃない。本当のことだった。そして、この事実には理由がある。
 ミアリアークの来世にも会った。目の前のミアリアークに瓜二つで、性格もクールで厳しくて痺れるような人だ。出会った瞬間にミアリアークだと理解して、速攻で告白した。その告白は却下された。最初の告白の時、俺は幼稚園児だったし相手は中学生だった。そう、来世の俺とミアリアークは10も歳が離れていたのだ。諦めずに告白を続けていたが、未だに俺の想いが受け入れられたことはない。
 俺が恋人であるミアリアークに傾倒してしまうのには、来世の彼女への届かぬ思いがあるのだ。
「嘘よ」
 顔を背けるミアリアークに、俺はそっと触れた。小刻みに震える二の腕を支えるように。
「嘘だと思うなら、確かめる?」
 あぁ、ファルナン。前世の俺。お前は本当に大した男だ。目の前の彼女の絶望が、前世の俺の名で希望を宿すのがわかる。来世のミアリアークに想いひとつ届けられない俺とは、雲泥の差だ。年齢、立場、色々考え何度もシミュレーションしても現実しなかった、応じてくれる彼女。それが目の前にあるという現実が、俺を高揚させる。
「生まれ変わって15年。ずっとお前に焦がれていた俺の想い。受け取ってくれないか?」
 背丈が同じくらいには成長していた、成長期の自分に感謝している。こうして、キス一つするのに彼女に屈んでもらう必要がなかったことは、神様の計らいに違いない。抱き寄せた柔らかな体を留めて、俺を間近に見る蕩けるような眼差しを見る。求めていた眼差しに、俺が蕩けていくようだった。
「ミアリアーク…」
「ファルナン…」
 その言葉の先はいらない。俺とミアリアークは二度と戻らないと思っていた温もりを、確かめ合った。

爆走の2話。なろうっぽさを出すために、もう、なんか、最低限しか描かない!
私の夜勤の読物用に、早めに上げちゃう。

 俺の名は高槻 守(たかつき まもる)。ごく普通の高校一年生、とは断言できない。
 どう普通でないかというと、まず剣道の腕が良い。幼い頃から始めた剣道は無敗ともいえる輝かしい勝率で、今では強化選手として招集されるほどだ。運動神経がいいから、サッカーも柔道もバスケットボールもどの部活の部長よりも上手くできる。
 学業だって決して悪い点数ではない。学年トップ10に食い込むことは難しいが、全科目を平均より上に留める程度にはできる。人当たりや物腰は乱暴ではなく、運動ができるから、勉強もそこそこだからと鼻持ちならない態度は取らない。
 見た目も良い。ストレートの髪はさらさらで、日に焼けた肌、切れ長の瞳。ファッションモデル雑誌のスカウトも時々来る。
 そんな俺は、当然、いや必然的にモテる。この学年、この学校、この学区、それらで手紙を出そうと勇気を持つ女子達からは、余さずラブレターをもらった。丁寧に返事を返し、彼女らの甘やかな失恋談として人生の思い出になった。泣く子もいた、なぜフるのかと傷ついた子の代わりに殴り込んでくる勇ましい子もいた。そんな彼女らに、俺はこう答えた。
 『俺には好きな女性がいるんだ』
 そういえば、ほぼ全員が納得してくれた。
 だが、好奇心のある一部の者は首を傾げる。なぜなら、今の俺には女子と付き合っている時間はない。剣道の練習に、運動部の応援。塾にすら行く暇がないので、自宅に帰れば自習を欠かすことはできない。今時の同年代がするゲームや映画などの娯楽を楽しむ時間もないのだ。女子と仲良く過ごす時間を捻り出すことは、俺だって出来やしない。
 それでも『俺には好きな女性がいるんだ』と言うし、嘘ではない。本当に好きで、愛して、結婚を約束した女性がいるのだ。
 名前はミアリアーク。美しくて、仕事熱心で、恋人である俺にすら冷たい目で見下ろしてくる。華麗な剣術はまるでダンスのように優雅で、高い魔力で生み出された氷の魔術は芸術だ。騎士団内だけでなく敵国にすら『氷の魔女』と恐れられている。
 いま、ゲームの女の子に恋してるのかって思っただろう?
 実際にそのことを話した人が一人だけいた。その人はとても年上で女性で、ゲームや漫画やアニメに詳しい所謂オタク趣味を持った人だった。案の定、ここまで話したら『君はゲームかアニメのキャラクターが好きなのか?』と言われてしまった。しかし、流石はオタク。そこで卑下するように笑ったりはしない。検索をかけてどんなキャラなのかを探ったが、検索結果に出てこないことに頭を抱える羽目になった。うーん、創作? インディーズゲームか? そう唸って検索の幅を広げていく姿は正直申し訳なく思ったものだ。
 そう、ミアリアークは創作でもインディーズでも、ゲームやアニメや漫画のキャラでもない。
 俺の前世の恋人なのだ。
 俺はごく普通の高校一年生ではない。前世の記憶を持ったまま生きているのだ。
 いま、中二病かと思っただろ?
 実際にそのことを話した人が一人だけいた。その人はとても年上で女性で、ゲームや漫画やアニメに詳しい所謂オタク趣味を持った人だった。さっきの前世の恋人のことを話した人だ。その人は微笑んで肩に手を置き『いずれ、治るよ』と優しく言った。違うんだ!中二病じゃねぇ!俺の秘められた右腕がなんて馬鹿なこと思ったりしない!
 実際に前世の最後の記憶だってあるんだ。
 あれはアーゼ連合国の将軍に追い詰められた時のことだった。竜将軍と呼ばれる彼は黒い竜を具現化させる強大な魔力の持ち主で、たった一人で戦局をひっくり返すとんでもない男だった。剣技も一流で頭も回る。奴を前に敗北を喫した回数は数知れない。そいつに胸に長剣を突き立てられた。思い出しただけで心臓がぎゅっと痛む。
 だが、ランフェスバイナ王国の騎士団長である俺もただで殺されてやるわけがない。残された部下のため、そして愛するミアリアークのために、この後の戦局を少しでも有利に持ち込みたかった。
 相手の癖毛が額に掛かる程に間近にいた宿敵。その肩を掴んで、俺は笑った。いつまでも竜将軍なんて、俺達を虫けらのように遇らう日々が続くと思うなよって笑って見せた。もう、肺に血が流れ込んで半分溺れて言葉なんか喋れなかった。俺は命を対価に秘密裏に女王陛下から賜った禁術、相手の魔力を分断する術を解き放ったのだ。
 そこで前世の記憶は終わっている。間違いなく、そのまま息絶えただろう。
 実際にそのことを話した人が一人だけいた。そう、オタクの人。その人はもう、俺を馬鹿にしたりはしなかった。ひどく真面目な顔で話を聞いて『君は作家の道に進んだ方が良いんじゃないか? 最近は素人もアイデア次第で書籍化する小説を生み出すんだ。学生なら、それだけで注目も集まるかもしれない』と話してきた。違うって!俺の死際を勝手に創作にしないでくれ!
 本当ならオタクの人の言葉を飲んで、普通の高校一年生として生きることもできたと思う。
 でも、俺は前世のファルナンの記憶を忘れたくないと思っている。
 なぜかって、そりゃあ、こんな平凡で平和な世界よりも刺激的だ。それに生まれた時から記憶がある。前世の記憶は俺の一部と片付けるには大きな範囲を占めていた。俺が剣道や運動にこれだけ秀でているのも、前世の経験に助けられているからだ。それにインターネットで検索すると、前世の記憶を持っている人だっているのだ。俺が前世の記憶を持ったまま生きていたって、良いんだ。
 はぁ。ため息が溢れて、目の前を走っていくトラックに轢かれていく。行き交う人の喧騒、車や電車の騒音。それが俺の独り言をかき消してくれる。
「残してきた騎士団の仲間達。守りたかった王国の民達。彼らのことを忘れたくない。例えゲームだろうが中二病だろうが創作だろうが思われたって良い。忘れないで、胸に秘めて、生きていく。それくらいは、しても良いだろう?」
『ファルナン…覚えていたのですね』
 柔らかな声が記憶を叩く。忘れもしない。ファルナンが前世の俺が剣を捧げた女王、シルフィニア陛下だ…!
 首を巡らそうとした時には、白く輝く光が傍で弾けた。まず見えたのは雲ひとつない晴天を閉じ込めたような色彩。光が肌を、踝まで伸びた豊かな髪へと形作っていく。純粋無垢を意味する純白のドレスが視認できた時、黄金の輪を嵌めた腕が俺に伸びて涼やかな音を立てた。
『どうか…再び力を…』
 喜びで震える。ファルナンが嘘でなかったことが、死んでなお求められていたことが、嬉しかった。皆が俺のことを覚えていることが、俺と同じ気持ちであったことに涙が滲んだ。平凡な生活から抜け出して、スリルと波乱に満ちた世界に心が躍る。
 俺は恭しく膝をつき、その手を取った。


なろうっぽい小説始めました!(たぶん ノット エイプリルフーーーール!!)
いやさ、なろう小説読んで、表現足りねぇよとか、文句言うならてめぇが書けよってなるじゃん。私が筆者だったら言うわ。ってことで、なろうっぽい小説始めます。実は初めてのオリジナルですよー!

なろう小説っぽいタイトル。最近の伝統に則って、超絶説明的でロングなタイトルにしたんですが、なかなかにバランスの難しい作業でした。で、転生系にして、恋愛盛り込んで、稲野的にはちょっとライトなノリにしてみた!結構なろうっぽくね!主人公で8話、外伝5話構成(もしかしたら増えるかも)でいくぜ!

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

 ヨークランドは田舎という表現が最も似合うリージョンであろう。
 青空を微睡むようにのんびりと横断する太陽の下では、甘やかな風に愛撫された黄金色の実り達。住民達の時刻という概念は時計の形をしておらず、日の傾きと空の明るさで決まっている。機械仕掛けの車より、牛や馬が荷車を運んでいる。この地が反トリニティの革命家達と、トリニティとで激しい戦闘の舞台であったことなど、当時を知る者ですら忘れられつつある。
 いや、忘れてはいない。田舎なだけあって近隣住民の誰もが顔見知り。死んでしまった可哀想な若者を、残された可哀想な妻を、残された可哀想な幼子を皆知っていた。政治犯と汚名を着せられ口汚く罵るテレビジョンは鉄屑として、スクラップ行きのシップに乗せた。住民達は皆で可哀想を拭った。拭って拭って、彼らが可哀想な政治犯の家族ではなく、普通のヨークランドの住民になるよう尽くした。それは実を結び、最も名の知られた政治犯の息子は笑顔の眩しい親の脛齧り。
 なんと平和な事だろう。でも親のスネをいつまでも齧る事が出来ないのは、世の摂理。一人の若者が次に来るのは随分と先の待ち合わせの為に、シップ発着所のベンチで座っている。あの立派なシップには乗れないのかと、落胆する気配もない。待ってれば、いつかくる。そんな呑気な気配が、若者から感じられる。
 乗れるはずのないシップには、そんな若者を同情してか乗せてくれる人がいた。
 ヨークランドとは違う時間の流れに身を任せていると、日向ぼっこをあと何日する気なのか分からぬ待ちぼうけを見ているのは自身の精神衛生上よろしくないと思ったのだろう。温かいヨークランドでは野宿は容易いが、ご飯はどうするつもりなのだろうと考え始めれば切りがない。
「乗せてくれて、ありがとう!」
 若者の明るい感謝の言葉に、男は小さく笑みを浮かべた。このシップに乗った誰よりも身分の高い、この世界でも彼よりも身分の高いものを数えたら指の数だけで足りてしまう、そんな男。気まぐれで、血に塗れた覇道を歩んだ残酷さは、名前を聞けば知る者が挙って身震いするだろう、そんな男。だからこそ、若者の無知は非常に危うくて、壁の一部になろうとする生き物達は息を飲む。
「感謝は必要ない。…だが、そうだな、一つ運賃替わりに質問しよう」
 男はすっと手を後ろに組む。胸が自然に張り、男の威厳が際立つ。
 若者は男のサングラス越しに見る目元が和らぐのを見た。彼はいい人だ。直感的に若者は思う。
「ヨークランドは、良い所かい?」
「うん! 自慢の故郷だよ!」
 若者の即答に、男はそうかと視線を前へ戻した。若者の見えぬところで、男は笑みを深くした。男の名を知って連想するような、悪事や陰謀の絡む暗い笑みではない。まるで美しいものや想像を超える美味を前に人間は笑うしかないという。そんな、当人が呑まれ包まれて、訪れる感情として喜びのみが残されたような純粋な笑み。
 ヨークランドは男にとって天国だった。革命の争いで荒廃し、トリニティの手で徹底的に管理され全てを作り変えられる運命だった大地。男は運命を変えたいと願って、生き方を変えた。愛した天が支配する時間を、愛した地が齎す恵みを、愛した人々の優しさを、何一つ失いたくなかった。あの地で、唯一男を憎む事が許された若者。彼が男と同じく天国を愛している事が嬉しかった。若者が天国を愛している事が嬉しかった。若者の一言で全てが報われる思いだった。
 若者と男は並んで、混沌がシップによって掻き分けられるのを見ていた。ディスプレイにはマンハッタンへの到着時間や運行状況などが、目まぐるしく映し出されていた。しかし、若者から故郷の、彼らの天国の香りがする。相反する事柄が同席したこの一時は、後にも先にも二度とあるまいと男は感じていた。


サガフロンティアのある小説サイトが素晴らしくてですねー。すっごく運良く流れ着いたんですけど、そこは広く知られることを拒絶してる感があるのでご紹介できないのがとてもつらい。
ですが、すごいペースで更新してるのを見てると、サガフロ熱が上がってきます。
結果、個人的に好きだった出発シーンを一筆しました。情熱に当てられるって、本当にサイトの世界は良い世界。

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