ハコの厚みはここ次第!
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■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 アーヴさんとエムリヤさんが隅々まで島を探索したけど、一箇所だけ未調査の遺跡があるんだって。遺跡の入り口が地盤沈下で沈んじゃってたんだって。今じゃ遺跡は土砂崩れに飲まれてしまって、天井の一部分だけが地上に顔を覗かせていた。
 人里から遠く離れた山奥の遺跡は、山から吹きおろす風に刺激臭を混ぜる悪臭の元凶だ。遺跡の周囲は植物が枯れ果て、動物の生息する形跡はない。土は妙に黒ずんでいて、踏み締めると新雪のように足が沈み込む。この妙な土壌の緩みが地盤沈下の原因なんだろう。この土に触れると、真っ赤に熟れた吃驚トマトみたいになって、パンパンに腫れ上がるんだって。嫌なものが染み込んでるんだろう。
 アーヴさんが呪文で天井に穴を開けて、ルアム君が頑丈に編んだ縄梯子を掛ける。澱んだ空気をバギで入れ替えてから、あたし達は遺跡の中に踏み込んだ。
 天井の穴から光が差し込んで浮かび上がった範囲では、荒れ果てた様子はあるけど魔物が住み着いている様子はなさそう。倉庫だったのか、沢山の木箱や中身の分からない物が詰められた瓶が転がっている。先に降りたアーヴさんとルアム君に近づくと、レミーラで光を灯してふわりと浮かべる。既にバーハが重ねられ、弓聖の守り星の加護が掛けられている。
「少しでも危険があれば、すぐに撤退します」
 短剣を抜いたルアム君に続いて、あたし達は遺跡の中を進んでいく。
 小さい骨は匙くらい、大きい骨は長剣サイズと様々な骨が堆く積もった牢屋。魔法陣を敷く為に、厳選された魔法伝導率の高い石畳が中央に敷かれた部屋。蒸留水を作り出す器具や、薬研、実験結果を書き留めた紙の束が転がる実験室。本棚にぎっしりと詰まって、床からも天井に届くほど本を積み上げた書庫。どの部屋も指で掬い取ると、こんもりと玉ができるくらい埃が積もってる。
 アーヴさんが錬金術に関わる施設か判断する為に調べている背中を眺めていると、ルアム君が話しかけてきた。視線を向けると、丁寧に頭を下げられて青紫の旋毛が見えた。
「兄さんを助けてくださって、ありがとうございます」
「お礼なんて良いって!」
 さぁさぁ。お顔上げて! あたしはルアム君の肩に触れて、顔を上げさせる。危険な場所だから警戒しなきゃってしっかりさんが、喜びが爆発しないよう精一杯堪えてる。年下なのに偉い子さん。ルアム君の潤んだ瞳に、青い瞳を細めてにこにこ笑うあたしが映る。
「いいえ。言い足りないくらいです。貴女に診て貰えなかったら、兄さんは一生目覚めなかったかもしれないから…」
 恐ろしい想像に、ぎゅっと拳が握られる。
 ルアム君と同じ名前のプクリポのお兄ちゃんは、『エテーネルキューブ』の初めての起動に巻き込まれてから意識がなかった。最初に飛ばされた先は王族のお屋敷で、主治医も匙を投げたらしい。専門の機関で詳しい検査をした方が良いと言われた矢先に、終末の光景が広がる時間に飛ばされる。そして戻ってきたエテーネ村で、あらゆる人に診てもらったが原因不明と首を横に振られちゃったとか。
 あたしが処置して、目が覚めたのは出発前日だったかな。ずっと眠っていたから、本調子になるまではエムリヤさんが看病してくれてる。
 あの。ルアム君がおずおずと訪ねる。
「原因は、なんだったんですか?」

バルザックの研究所に潜入ですよ!
まずは意識が戻ったプクリポルアムのことについてお話があります。

 それは四つ目の神話に登場する、悪い錬金術師の名前だった。
 勇者と共に世界を救うべく導かれし者達の中に、美麗な双子の姉妹がいた。太陽の眩さと苛烈さを宿した姉と、月の慎ましやかさと神秘さを宿した妹。そんな姉妹の育ての父が弟子の一人に殺害されてしまい、姉妹は復讐の旅に出る。四つ目の神話の姉妹の章の冒頭部分だ。
 姉妹の仇をバルザックという。
 バルザックは野心の強い男で、師匠である姉妹の父から研究結果を奪ったとも、錬金術を悪き目的で使おうとしたのを止めようとした師を殺害したとも、師の才能を妬んで殺したとも言われている。どんな諸説があろうとも、バルザックは姉妹の育ての親を殺し、悪の道に走り、最終的に異形の魔物の姿となって姉妹に討ち取られるのである。
『アーヴ。お前の祖父はバルザックという名前なんだ』
 今も懐疑的な父の秘密だった。正直、今だって冗談だと思っている。
 四つ目の神話の存在から『バルザック』という名前を我が子につける親などいない。私の祖父は四つ目の神話のバルザック本人か、神話の悪人の名前を好き好んで名乗ったのだろう。
『バルザックは狂っていたよ』
 断言した瞳は酷い恐怖に揺れていた。
 そこは最早、生き物が生活する空間ではなかった。『究極の錬金術』というあやふやな概念に取り憑かれ、見上げる背中は人の形を失っていた。魔力と生命力を食い尽くされた死体は、骨と皮に成り果てて、人成らざる生き物が身動ぐ振動だけで崩れていく。とても悪い空気で、少しの物音をも響かせぬ為に水瓶に頭を突っ込んで咳をした。このままでは、自分も地面に転がるものと同じになる。父は過呼吸になりながら私に言う。
『逃げた。逃げて逃げて、この村に辿り着いた』
 アーヴ。肩を掴んだ手がぎりぎりと食い込んで酷く痛んだが、父の血走った目が、口の端からこぼれ落ちる泡だった涎が恐ろしかった。はぁはぁと吹き付ける息から、血の香りがする。
『研究所には近づくな』
 頷くまで手は緩まなかった。『分かった。近づかない』そう言うと、父は何事もなかった様子で笑って『さぁ、晩御飯の支度をしよう』と立ち上がったものだ。
 父はその後、死ぬまでバルザックの話をすることはなかった。夢でも見たのかと思う程に、父は普段通りだった。確かに父はエテーネ村の外から来た余所者だったが、エテーネ村には十年に一度程度は迷い人がくるので珍しくはない。街へ嫁いだ者も、街から戻ってくる者もいる。悪さをしなければ問題視されないし、母と結婚し私という子を成して平凡な家庭を築いた。私が妻を迎え子供に恵まれても、父が語った神話の悪人の影は無かった。
 ただ、父は錬金術の才能があった。
 私も、息子のテンレスにも引き継がれている。
 その才能がバルザックに因るものなら?
 私は頭から音を立てて血が落ちていくのを感じていた。頭の中に氷が詰められたように冷え切り、心臓が弾けそうな程にがなりたてる。暗転した視界の中で、アバ様のぽっちゃりとした手が浮かんで私を指差した。
『お前達の息子は、いずれ恐ろしきものに成り果てる』
 私達の旅の始まりのお言葉が、闇の中に反響した。

うおおお!書き上がった!!!!!
読んだ通り、私は割とこの話に出てくるバルザックが本人かと言うと、どうかなー?ってクチです。DQ10では過去作のボスクラスの魔物達が出てきて、それらは本物扱いです。しかしそれら本物は魔法の迷宮やイベントの特殊空間という、非常に限られた特殊な空間のみ存在しています。
しかし、このバルザックに限っては、アストルティアという通常空間に存在しています。ゆえに本人と扱うのが軽々しく判断できないのです。幻影か、バルザックを騙った狂人か、悩ましいところですね。

 いや、違う! 私は心の中で強く否定した。
 テンレスが作ったのは、ただの道具だ。道具は使う者次第。テンレスがルアムに『エテーネルキューブ』を託したのは、善き目的に使うと分かっているからだ。
「『エテーネルキューブ』を緊急起動し、ルアムの時渡りの力を使って終焉の時間から脱出したキュ」
 考えを分断するように、生き物が腰を下ろしたまま小箱は回転しました、生き物は何事もないように腰を下ろし続け、逆さになったまま喋っていた。
「状況は理解できた。一つ聞きたいのだが、えっと…」
「ボクは『エテーネルキューブ』に宿り、時を渡る力を制御することから『時の妖精』と名乗っているキュ。でも、個体名としてキュルルと呼ぶキュ」
 私が生き物をどう呼ぶべきか、考えあぐねているのを察したのか。感情に乏しい機械的な思考の生き物かと思ったが、感情はあるにはあるようだ。
 一つ頷くと、『では、キュルル』と切り出した。
「私が『エテーネルキューブ』を使って、ルアムが見た世界の終焉の時間に飛ぶ事は可能か?」
 私の腕の中でルアムが『お父さん!』と叫んだ。
 ルアムが未来で見てきた光る繭から生まれる存在によって、世界が終焉を迎えると推定できる。繭になる前の状態を予測し、その存在を葬ることで世界の終焉を回避できるやもしれぬ。光る繭を観察できれば、繭になる前の段階を予測できるかもしれん。
 キュルルが私を覗き込むように前のめりになり、黒い瞳に私の顔が写り込んだ。ふいっと首を振ると、後頭部から伸びる新芽のような突起が揺れる。
「『エテーネルキューブ』に貯蔵されたエネルギー残量が、ゼロに近いキュ。時間跳躍を行うなら、エネルギーの補給を要請するキュ」
「具体的にどう行うのだ?」
 箱が回転して、キュルルが重力に従った座位に戻ります。
「エネルギーの補給に用いる素材は、錬金術の残留物キュ。特殊な方法でエネルギーに変換できるキュ。残り僅かなエネルギー残量を考慮し、『エテーネルキューブ』の活動を制限するキュ」
 ぽんと音を立てたように、キュルルが黄緑色の光の粒子となって空気へ溶けていった。くらりと傾いた小箱が地面に向かって落ちていくのを、慌てて受け止める。
 ひんやりと手の平に乗る小箱には、首を傾げる皆の姿が映り込んでいた。
 錬金術の残留物。アストルティアの人々が想像する錬金術は、ツボやランプを用いて道具に能力を付加するもの。職人ギルドが結成され、今も何百何千と職人達によって繰り広げられる錬金は、失敗であろうと大成功であろうと残留物など発生しない。私も錬金術師として錬金釜で数多くの物を作り出したが、残留物が発生したことはない。
 錬金術で生み出すのでは無く、生み出した過程で生まれる残留物。
 そんなものが発生するのであるならば、釜には止まらないもっと大規模な施設で、強大な物を作らねばならない。アストルティアにそんな錬金術の施設が存在するのか?
 長老様に率いられ巡った世界、妻と共に旅をした道のり、子供達を授かった懐かしき村の景色。記憶を遡るほどに私は若くなる。妻と出会った頃、まだ両親が生きていた幼い頃。父が振り返り、いつもの優しい笑みとはかけ離れた険しい顔で私に秘密を打ち明ける。
 あ。私は思わず声を漏らした。
「バルザック…」

はい!突然のバルザック!
実は公式であるDQ10では、主人公の兄弟姉妹の親がバルザックと関係があるという設定でしてね!ここまで母親視点で書いた時『そうだ、両親のクエストと繋げよう』と思い至って完全描き直しです!吐血しちゃう!

 『出鱈目だ!』『真実キュ!』そう言い合う二人を前に、私は思わず呟いた。
「世界中を巡ってきたつもりだが、光る繭も、世界が滅亡するような異常もなかったぞ」
 妻も同意するように、隣で頷いている。
 私達は世界の機微を感じ取れるよう、常に目を光らせ感覚を研ぎ澄ましていた。ルアムが見てきた未来が真実だとしても、俄に信じられぬ平穏が今の世に満ちている。確かにここ近年は大魔王の襲撃に、ナドラガンドとアストルティアが再び結びつくなど、世界が傾ぐ出来事が立て続いた。それらを乗り越える力がある世界を滅ぼす厄災など、想像もできなかった。
 それよりも、だ。
 私は徐に立ち上がると、興奮する息子の背後に回る。まだ小さい肩に腕を回し、背中から抱き竦めた。
「少し静かにしていなさい」
 大声を出そうと息を吸い込んだ口に手で蓋をすると、ルアムが不満げに もごもご言う。
「初めまして、私はアーヴ。テンレスとルアムの父だ。息子の話からして、危機を救ってくれたのは君ではないかね? 礼を言わせて欲しい。息子を救ってくれてありがとう」
 水色の肌の生き物は、無感情に私の感謝の言葉を受け取った。
「状況の結果、ルアムを救出する形になっただけキュ」
 そして小さな生き物は銀の小箱にどかりと腰を下ろすと、手でぺちぺちと銀の面を叩いた。
「この銀の小箱は『エテーネルキューブ』。時間跳躍制御装置キュ」
 ほう。その場全員の視線が、銀の小箱に注がれる。
 美しく鏡のように磨かれた銀の生立方体。目を凝らせば全ての面に精緻な紋様がうっすらと刻まれていて、芸術品の美しさを兼ね備えている。箱だけでも、一流の道具鍛冶職人の技量が必要な難易度だ。この小箱がテンレスからルアムに託されたのなら、錬金術で作られたのだろう。用途はまだ把握しきれないが、錬金術師としては親である私を既に超えているに違いない。
「エテーネの民はその身に宿す時渡りの力で、時間と空間を越える事が出来るキュ。どんなに強い時渡りの力を宿しても、時間と空間を越える事ですら難しいキュ。目的とした時間からズレたり、目的地とは見当違いな場所に出たり、まぁ、碌な事にはならないキュ」
 実際に見てきたかのように、生き物は呆れた表情で遠くを見遣った。
 この生き物が思い返しているのが息子のテンレスなら、なるほど、技量は上がっても性格は変わらないのだろう。失敗しても憎めない笑みを浮かべて、諦めないのが目に浮かぶ。
「つまり、時渡りの力を持つエテーネの民が『エテーネルキューブ』を使う事で、任意の時間と空間へ正確に移動できるという訳だね?」
 私の確認に、生き物がこくりと頷いた。
「流石はテンレスと血縁関係にある個体キュ。理解が早いキュ」
 テンレスはなんというものを作ったのだろう。私は息子の才能に激しい嫉妬を覚えた。
 我々が呪文として行使する魔法は、世界に存在する力をほんの一部引き出すことしかできない。圧倒的に使用者が少なく解明されていない力が殆どで、魔法や呪文として確立していないものばかりだ。エテーネの民の時に関わる力も、その一つといえるだろう。
 解明されていない魔法の何が難しいかといえば、魔法を起因する呪文や、魔法を発生させる仕組みが不明なのが大きな原因といえるだろう。その為に資質を持っている者でも、魔法を使う難易度は非常に高いのだ。『エテーネルキューブ』はエテーネの時渡りの力に限定したものとはいえ、魔法への理解が乏しくとも魔法を発動させてしまう道具なのだ。
 これをエテーネの民に持たせれば、アバ様やシンイ様以外の者でも未来が見えるし、ルアム以外にも時を渡る事が可能となる。村が滅ぼされず存続していれば、エテーネの民は多くの国が喉から手が出る程の垂涎の力を擁した事だろう。
 そこまで考えて、ぞっと悪寒が走る。
 エテーネの民は古くからここに存在した。
 この村を、民を滅ぼそうとしたタイミングが、なぜ今なのだ?
 エテーネ村を滅ぼした魔族は、その事を知っていた? 魔族の背後にエテーネの民を滅ぼせと唆した者がいるのではないか? そうであるならば、その者は『エテーネルキューブ』の存在を知っていた事になる。時に関わるエテーネの民と『エテーネルキューブ』を結び付けぬ為に…。
 テンレスが間接的に村を滅ぼす切っ掛けを生み出した。


書いてみると、ここらへんのつながりあんまり公式は書いてないんだよなぁーとか思ってます。ここらへんはプレイヤーの解釈に任せている部分だと思っています。

 長老様の促しに応じて、ルアムが訥々と語り出した。
「僕達がこの村から突然消えてしまったのは、ご存じですよね?」
 それは私達がこの村にやってくる少し前の出来事だ。ルアムの友人達やホーロー様やシンイ様の目の前で、突然息子と同じ名前のプクリポの二人が消えてしまったそうだ。直ぐにルアムの友人達は探す手がかりを求めて世界に散り、ホーロー様は勇者の王国の賢者様に相談しに旅立ち、シンイ様はひたすら無事を願って待ち続けた。
 消えるのが唐突であったように、帰還も唐突だったそうだ。ある日、ルアムとプクリポは消えた場所に倒れ伏していたのだ。
 こちらでは月が一度満ち欠けた時間が過ぎていたのに、ルアムにとっては数日間の出来事であったそうだ。何があったかは、シンイ様も未だに聞けてはいない。戻ってきたルアムは昏睡状態で、意識が戻っても同じ名前のプクリポの容体が気になってそれどころではなかったとか。
「この村に戻ってくる直前に、僕は悪夢を見たんです」
 ルアムは曇った表情で語り出した。
 空は瘴気を含んだドス黒い雲に覆われて、真夜中のような暗闇がありました。冷たく乾燥した風が、闇の中をごうごうと唸りを上げて吹き荒んでいます。暗雲の中を紫電が走って、近くに兄さんを包んでいた原始獣のコートの裾が見えました。干魃した亀裂が縦横無尽に走る地面を這う体はすごく重くて、凄い時間を掛けて兄さんの元に辿り着きました。
 微かに息のある兄さんでしたが、意識を失ったまま。
 それでも死んでいないのを確認して、僕はようやく周囲の状況を見回したのです。
 黒く分厚い雲が強風に流されて線を描いて動くのが分かるのは、何か明るいものを透かしているからでした。目を凝らしていると、雲の隙間に明るいものの正体が見えたのです。
 それは、光る繭でした。
「光る繭?」
 仲間達が互いに顔を見合わせ、首を傾げた。『しっ』と他の仲間に静かにするよう促がされ口を紡ぐと、息子は静寂の中で再び口を開いた。
 繭はそれはもう、大きなものでした。遥か上空から大地へ天へと糸を伸ばして浮かんでいる為に、その大きさは山と例えても良い位に巨大なものでしょう。繭は不気味な薄紫色の光を放ち、闇に沈んでいた世界を浮かび上がらせました。
 先ず目に入ったのは、アラハギーロのデフェル荒野に建つ天に届かんばかりの魔塔が折れている姿でした。そしてその手前に、ドラクロン山の天を突く峰が見えました。背後にグランゼドーラが見える位置にいるのだと、僕は理解して振り返ったのです。
 グランゼドーラの南は緑豊かな地域なのに、周囲には草木も生き物の姿もありません。ただただ、荒涼としたひび割れた地面があるばかり。そしてグランゼドーラ城の三対の尖塔が、ボロボロになって建っているのが見えたのです。尖塔の一つは無惨に崩れて半分になっていて、屋根がない塔、形は残っていても虫食いようにポッカリと壁に穴が開いているのです。薄紫の光に照らされた世界に、人間も、魔物も、植物も、ありとあらゆる生き物が死に絶えているのだと突きつけられました。
 光が強くなり、僕の真っ黒い影が灰色の地面に長く長く果てしなく向こうまで伸びていく。
 繭に背を向けていた僕は、その光が繭から放たれているのがわかりました。あれ程冷たかった空気が、瞬く間に温まり、熱を帯びていく。じりじりと剥き出しの肌に痛みを感じ、僕を殺そうとしているのだと思った時でした。
 テンレス兄さんの残してくれた銀の小箱が浮き上がり、反発するように光ったのです。
「気がついた時には、エテーネ村の自宅の寝床の上でした」
 ルアムが全てを語ったと口を閉ざすと、どっかりと沈黙が座り込んだ。誰もが『世界の滅亡だなんて!』と冗談めかす物言いはしない。あまりにも生々しい語りと、世界の滅びを見てきただろうルアムの絶望し切った表情に、誰もが黙り込み『滅亡の未来』という衝撃に打ち拉がれる。
「ルアムが見た光景が、未来の滅亡を迎えたレンダーシアだキュ!」
 そんな沈黙をものともせず、銀の小箱の上に座った生き物が得意げに言い放った。

崩壊した未来のびょうしゃー!
まぁ、悪夢って言って良いよね。まだ、プクリポルアムの容体も良くならないし、ナドラガンドみたいに世界規模の厄災って感じの存在もない。現実味もないんじゃあ、ルアム君も真に受けんでしょ。

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