ハコの厚みはここ次第!
■ Calendar ■
10 2024/11 12
S M T W T F S
1
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
□ search □
19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29

 梁から降り立った黒い獣の足元に敷かれた板が、着地の重みに折れて跳ね上げる。ローベルさんがちらりと目配せしたのに応じて、僕らは同時に獣に切り掛かった!
 蛇腹状に見える手の大きさの割に細い腕。切り飛ばせると剣を振り下ろした僕だったが、あまりの硬さに息を詰める。剣と打ち重なった反響音は金属音よりもずっと低い音だったが、滑らかな質感は金属に近い。全力を込めても、獣はびくともしなかった。
 僕の剣を跳ね除けて大きく爪を振り上げれば、立派な執務机が切り裂かれる。舞い上がる書類や転がるインク瓶や羽根ペンに、カーペットの上で後ずさっていたラゴウ隊長が窒息しそうな悲鳴をあげる。這いずって逃げる中年の背中と獣の間に、ローベルさんが立ち塞がる。
 ぐん、と獣が身を捩れば、鉤爪の付いた尾がローベルさんとラゴウ隊長を横薙ぐ為に迫る。ラゴウ隊長は間一髪攻撃範囲の外に逃れられたが、剣で尾の一撃を受け止めたローベルさんが吹っ飛んだ。切り裂かれた執務机の突っ込んで、頑丈な机が粉々に砕ける。
 黒い獣が僕を見据える。
 大量生産の剣では、この魔物の外殻を破壊する事はできないだろう。外殻の隙間に目を凝らすが、黒い体は闇に沈んでいて関節を見出せない。弱点は。走らせる視線は、角にはまった蛍光色の宝石や、手の甲に腕輪の装飾のように施された大人の掌くらいの紫水晶を映す。しかし、生物に当てはまるような、急所らしい急所を見つけられずにいる。
 弱点を探ろうと費やした時間は、大きな隙になった。
「レナート! 逃げろ!」
 ローベルさんの声に視線をあげると、獣の頭に生えた一本角に嵌まった宝石が輝いている!
 次の瞬間、宝石から僕に光が照射された!
 咄嗟に頭を腕で覆い、防御姿勢を取る。光は僕の体を融かさんばかりに強く降り注いだが、熱も寒さも何も感じない。訝しげに腕の下から体を見下ろせば、微かに魔力の流れを感じる。マホトラを使われたように体から力が抜けるが、魔法を使う為の魔力や生命力とは違う。
 なんだ? 何が流れ出しているんだ?
 ぴしっ!
 ヒビ割れる音がして顔を上げれば、角の根元に亀裂が走り、散った破片が光を弾く。
 ばきんっ!
 大きな音を一つ立て、根元から角が折れた。
 獣はまるで金属に剣先を擦り付けるような、生物とは思えぬ断末魔の声を上げて、前のめりに崩れ落ちた。魔物が消失するような黒い霧が外殻の間から漏れて、中身のない外殻がばらばらと床の上に広がっていく。
 突然の獣の死に呆気に取られた僕とローベルさんよりも早く、立ち上がって獣の遺骸に近づいたのはラゴウ隊長だった。真っ黒い外殻を蹴りつけると、何度も何度も踏みつける。
「このラゴウ様を脅かしおって! 愚かな獣め! いいザマだ!」
 残された外殻に害はないと判断し、息切れし出した隊長を横目にローベルさんが歩み寄る。僕に外傷がないか慎重に確かめた後、おずおずと訊ねた。
「敵の攻撃を受けたようだが、問題はないか?」
 なんともありません。僕は戸惑いながらも、そう答えた。

異形獣、スゴクカタイ問題。
後々困りそうなのに、書いてしまった。

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

 ホゥホゥと梟が鳴く声がする。星が一層明るく輝き深まる夜の中を、巡回の兵士が小走りで向かってくる。黒髪を闇に溶かしたディークという年上の兵士が、立ち上がった僕の前で駆け足を緩める。レナート。弾んだ息の間から僕を呼ぶ。
「厩舎に行ってくれないか? 馬達が落ち着かないんだ」
 分かった、と僕は頷いだ。
「ここを頼む」
 不寝番をディークと交代して厩舎に向かえば、ディークと歳の近いイガラが馬達の前で頭を抱えていた。どぅどぅと口先で言って撫でてみても、馬達が落ち着く様子はない。声を荒げないだけ偉いと思いながら近づけば、待ってましたと言わんばかりに振り返った。
「あぁ! 助かった! このままじゃ、馬達が怪我しちまうよ!」
 馬達は不穏そうに首を回らし、足を踏み鳴らしている。馬が一頭でも嘶けば、大騒ぎになって骨折する馬も出てくるような一触即発の空気がある。僕は馬達一頭一頭に向き合い、首筋を撫で落ち着かせてやる。最近は世話の回数も多かったからか、馬達は次第に落ち着きを取り戻していった。
 はぁー。イガラが大きな溜息を零した。
「助かったよ。馬達が怪我でもしたら、キツイ罰則が下るんだ」
 こんな高度な文明であっても、地上の移動は馬が最速だ。罰則の重さは馬の貴重さを物語っている。
 しかし、魔物の生息圏を駆け抜ける度胸のある駿馬達が、揃って不穏になるのはおかしい。
 イガラ。僕が赤毛の兵士の名を呼びながら振り返ろうとした時、悲鳴が聞こえた。静まり返った夜の空気を引き裂いて響いた悲鳴は、先ほど僕と交代したディークのものだ。がぁんがぁんと警鐘が鳴り響く中、僕はイガラと共に厩舎を飛び出した。剣を抜きながら、焚き火の炎を目指して駆ける。天幕から飛び出してきた寝起きの兵士に厩舎を頼むと言いながら、剥き出しの土を巻き上げながら進む。
 ディーク! イガラが叫びながら、僕を追い抜いた。
 辺境警備隊詰所の門が破壊されている。大人が手を回すほどの年輪を刻んだ丸太が、鋭利な断面を見せて地面に転がっていた。ごくりと生唾を呑んで、赤い後頭部へ視線を走らせる。
 先程、僕が座っていた場所から少し離れた場所に、イガラがしゃがみ込んだ。イガラの上から覗き込んで、僕は訝しげに顔を顰める。ディークは利き手に抜き身の剣を握ったまま、仰向けに倒れていた。あれ程の悲鳴を上げたと言うのに外傷はなく、虚ろな表情にうっすらと開かれた瞳はガラス玉のようで必死に声を掛ける同僚を認識しない。
 首筋に触れると、きちんと脈は打っている。死んではいないようだ。
 焚き火の向こうを見遣れば、剥き出しの土が大きく抉れている。かなり大きな生き物が、力強く大地を踏み締め焚き火を飛び越えてディークに襲い掛かったのだろう。
「たっ助け…! あぁああああ!」
 奥から再び悲鳴が上がる。
 僕はディークをイガラに任せて、奥へ駆ける。なだらかな坂道を駆け上がりながら水辺に視線を落とせば、水を浄化する装置の傍で私服の兵士が介抱されている。剣を握って警戒しながら、力無く倒れる同僚の肩を揺すっているが反応はないようだ。
 悲鳴はあちこちから上がり、状況を確認しようと誰かが声を荒げる。戦場の騒めきを割って坂を登り、辺境警備隊詰所の本部に上がり込む。
 本部の一階部分は三和土になっていて、多くの隊員が食事を取ったり交流する空間になっている。ここで過ごしていた隊員達が悲鳴を聞きつけて飛び出したのか、椅子が倒れ、湯気が上るカップが残されている。奥の調理場の手前に積み上げられた木箱から視線を上げた時、二階から情けない悲鳴が上がった。
 な。息が喉元で詰まった。
 緩やかに弧を描く階段を見上げれば、立派な梁に黒い生き物が乗り上がっている。蠍のような鉤爪が付いた長い尻尾を梁に絡め、発達した太腿で支え起こす上半身。竜を彷彿とさせる姿勢だが、その爪は大振りな短剣程の大きさで、機械のような外殻に覆われている。闇の中に沈む黒い外殻の上を、赤く輝く光が線を描いて走っている。特に顕著なのは前に垂れた顔だ。一本角が生えた場所が頭であるならば、顔らしい場所には口があっても目が無い。まるで蜥蜴のように、しゅるりと梁を這って二階に降り立とうとしている。
 僕は二段飛ばしで階段を駆け上がり、手擦りに掴まりながら方向を転換する。
「なにをぼさっとしている! さっ、さっさと、奴を殺せ!」
 二階の隊長の執務室の中央には、寝巻き姿の金髪の男性が腰を抜かしている。それでも口は達者で、唾を撒き散らしながら剣を構えるローベルさんに命令する。

めっちゃ修羅場である。
ラゴウ隊長ならナイトキャップつけて、ザ・パジャマみたいな格好してくれるって信じてる。

「王国の助力で時の指針書の検索をしてもらっても見つからぬなら、自由人の集落の者とも考えられる。即座に出来る手は尽くしてしまった以上、地道に探すしかないだろう」
 この国の民は、一つの命につき一冊与えられる冒険の書を彷彿とさせるハードカバー本を持っている。『時の指針書』と呼ばれる本には、所有者の未来が書き込まれるのだ。
 ローベルさんに見せてもらったが『王都から離れ暗闇を進む者達の篝火となり、脅威を退ける剣となれ』と書いてあった。エテーネ王国の王族は未来を予知し、王国をより良い未来へ導く責を担っている。その方法の一つである指針書を管理する王国なら、指針書の所有者の特定は簡単な事なのかもしれない。
 力になれぬ事を悔やんでいる横顔に、僕は深々と頭を下げる。
「異邦人の僕に、ここまで親身になってくれて感謝しています」
 ドミネウス邸を後にした僕は、この辺境警備隊詰所に身を寄せていた。
 行方不明になった、ルアム君を探す為だ。
 僕と共に地上に降りる為に転送装置前でメレアーデ様を待っていたら、突然掻き消えてしまったのだ。転送装置を起動した形跡がなかったので、驚いたメレアーデ様の命で屋敷が捜索されたがルアム君も同じ名前の猫耳の子もいなくなっていた。
 新王ドミネウスが誕生して暫くして、僕らが出会ったドミネウス邸は地上に墜落した。幸い、新王一家は王宮に居を移していた為に被害はなかった。
 墜落現場が辺境警備隊詰所に近かった為に、現在は護衛よりも墜落の原因調査が主な任務になっている。王宮に調査報告を早く出したいラゴウ隊長と、魔物の強さと多さに人命救助で手一杯だったローベル副隊長とで色々と揉めているようだ。
「僕は不寝番で明日は休みですが、副隊長はお仕事でしょう? そろそろ、休んでください」
 僕が穏やかに言うと、ローベルさんも小さく頷いた。『失礼する』と生真面目に言って去っていく背中を見つめながら、腰を下ろしていた岩の影に視線を落とす。
『ユーシャさま』
 秒針がカチコチ音を立てるような、独特な抑揚で僕を呼ぶ。
 真っ白い滑らかな塊に、細長く撚った手が地面に垂れ下がっている。肩掛けたショルダーバックはべったりと地面に置かれて、ちょこちょこと短い足が動く度にずるずると引き摺られている。幼馴染のエマの落書きみたいに、二つ並んだ目は真っ黒で大きく、その間に縦に細長い菱形の口がついてる。小さい足に比べれば寸胴な胴体が前のめりになると、そのままべたりと倒れ込みそうな姿勢になる。
『あの子は時間を飛び越えたッチ。探してもきっと見つからないッチ』
 あぁ。僕は小さく頷いた。焚き火の光を赤く透かし地面に影を刻まない存在を、僕以外の他人が見る事はできない。僕は形の良い丸い頭を撫でるように触れた。手の甲に、剣と広げた翼のような紋章が光っている。
「それでも、探さないといけないんだよ。クルッチ」

おおっっとぉ!クルッチですよ!実はついてクンで実装済みです!

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!
だいぶ前に更新したお話、初めて全部見てもらえてかなり嬉しいです!

 この世界の夜空は不思議な色をしている。
 天の頂は海の底のような漆黒を混ぜた濃紺色で、視線を大地に向けて下ろしていくと黄緑色の蛍光色に移り変わっていく。これは地上に滞留する魔力が、空から降り注ぐ光を屈折するかららしい。細かい原理は分からないが、この人類の叡智の限界に存在する大国特有の夜空の色だろう。
 満点の星空は、濃紺色の空を空色に塗り替えるほどに眩く群れている。星々の河を真っ黒く切り取るのは、エテーネ王国の要人の居住区や重要施設が建てられた浮島だ。
 どんなに技術や文明が発展しても、魔物の脅威を完全に取り除く事はできないらしい。地上には王都キィンベルを筆頭に、名が付けられる程度の規模を誇る集落が数カ所しか存在しない。利便性を追求し都市に集中した機能だが、人の住まぬ辺境が捨て置かれた訳ではない。辺境警備隊詰所は、その名の通り王都から遠く離れた辺境を行く民を守る為に作られた拠点だった。
 夜空を写し込む鏡になる程に秀麗な渓谷の水は緩やかに流れ、水辺には草花が微睡んでいる。最も大きな木造建築の本部を中心に、幾つもの天幕が大都会の屋根のように色とりどりに並んでいる。天幕は錬金術で作られた防水の糸で織った布や、メラ系の魔法陣の刺繍を施した布を重ね合わせて、露天の下とは思えない空間を作り出す。兵士達は天幕の柱に布を渡して寝床を吊り上げて、どうにもできない床の硬さから逃れていた。
 不寝番として固く閉ざされた門を見据える位置に詰めていると、本部の建物から人影がこちらに向かってくる。焚き火の光に炙り出されたのは、浅葱色の髪を引っ詰めた幼馴染の父親くらいの男性だ。勤務を終えた者達は酒を飲んだりカードゲームに興じたりして寛いでいるのに、きっちりと鎧を着込んでいる姿に真面目さが滲んでいる。
 辺境警備隊の副隊長を務めるローベルさんは、焚き火の光に目を眇めた。
「今日はレナート殿が不寝番か」
 夜なのにきびきびとした口調で、手に持ったお皿を差し出してくる。隊長のラゴウ殿は酒豪なので、今日届いた酒樽を早々に開けて皆で飲んだらしい。お皿に乗っているのは、炒った木の実や魚の乾物、燻製したチーズや生ハムといった酒の肴だ。
 わぁ! 思わず歓声を上げてしまう。
「ありがとうございます!」
 そうお礼を言いながら受け取ると、ローベルさんは隣に腰掛ける。小振りの鍋に注がれているのは、体を温めるスパイスと共に煮出したお茶だ。この島は比較的温暖だが、夜が冷えない訳じゃない。焚き火に鍋を寄せると、僕とローベルさんの分を掬って渡す。
「王都から報告が届いた」
 ローベルさんはカップを傾けて唇を湿らしてから話し出す。
「結果は空振りだ。だが『ルアム』は、この地方では有り触れた名前だから気落ちするな」
 この錬金術が発展した国では、錬金術の素材から名前を肖る事が多い。
 一つの素材としては小さい効果しかないが、他の素材と掛け合わせる事で大いなる力になる。そんな錬金術のあり方が、エテーネ王国建国の歴史と相まって人々に浸透していた。
 素材の名前をそのまま使うのではなく、昔はアナグラムにして組み直したものだったが、今では一文字組み込むだけという名前もあるとか。植物の素材は生命力と美しさから女性に、金属の素材は強靭さと一族が永続に続く事を願って男性に多い。『ルアム』は昔からこの国で親しまれた響きで、年齢を問わず名付けられている。髪や瞳の色、年齢である程度絞られても、探し出す事は難しいらしい。

はーい!舞台は再びエテーネ王国。ドミネウスの屋敷で出会ったレナートさんを中心に語ってまいります。最初はエテーネ王国の基礎知識あたりを説明していく話になるんだろうな!
ちなみに、ルアムの名前は『アルミニウム』から、兄のテンレスは『ステンレス』から取っています。十年くらい前に名付けた法則がこんな方法で生かされようとは、当時の私も思いもよらなかったろうな。

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

 それは二階建ての一軒家に相当する、見上げる程に大きな魔物だ。にたりと笑った口からこぼれ落ちた舌は、毒々しい紫の斑模様になって爛れている。体を覆う紫色の鱗は所々に剥がれ落ち、真っ黒いぶよぶよとした肉を覗かせていた。尾は途中で腐って落ち、巨体を持ち上げるには小さすぎる翼は根本から折れて垂れ下がっている。そしてでっぷりとした青白い腹には大きな穴が空いていて、腐った内臓がこぼれ落ちていた。
 生命活動がとっくに停止している肉体に、何らかの方法で魂を縛り付けているんだろう。
『貴様ラヲ喰ライ、我ガ糧ニシテクレル!』
 大木のような腕が掴んだのは折れた柱。大きく振りかぶるのを見て、アーヴさんがあたしの腕を引いて駆け出した。緩慢な動きは誰もいない場所に攻撃を振り下ろし、柱が砕けて扉を塞いでしまう。
 アーヴさんが自分にバイキルトを掛けて、魔力を杖に込める。
「ルアム! 私が前に出る! 援護を頼むぞ!」
 ルアム君の返事が舞い上がる土埃の向こうから聞こえる。
 アーヴさんは一気に駆け出すと、バルザックの肘に杖を叩き込んだ! 不自然な方向に折れ曲がった腕から、折れた骨が突き出る。本来なら絶叫する痛みのはずの一撃でも、バルザックは平然としている。痛覚を遮断しているか、感じる機能が腐ってしまっているんだろう。
 アーヴさんを薙ぎ払おうとした尾に、爆薬を仕込んだ矢が射掛けられて根本から吹っ飛び空振りに終わる。惰性で迫った尾を、アーヴさんは受け流した。
 錬金術師という後方の魔法使い系の職業のアーヴさんだが、戦士と変わらない戦い方ができる。自らにバイキルトを施し、魔力を攻撃力に変換させる理力の杖で殴打する。攻撃力は片手剣を使う戦士に負けないくらいあるらしい。オバリスのおじいちゃんに出会う前、エムリヤさんを守る為にこの戦い方になったそうだ。
 短剣と弓という大型の敵には不向きなルアム君に代わって、どんどんバルザックを打っていく。体が腐っている為に、アーヴさんの一撃でどんどん体が壊れていく。
 己の体が不自由になるのを実感したらしく、バルザックが憎々しげに吠えた。
 急激に部屋の温度が下がり、空気が凍りついて輝き出す。バルザックの腐った体も凍り出して、アーヴさんの一撃も、ルアム君の矢も通らなくなる。その様子を愉快そうに眺めていたバルザックは、体を仰け反らせ空間に反響する大声で呪文を唱えた。
『マヒャデドス!』
 勝利を確信した誇らしげな声が、輝く空気に吸い込まれる。
 吸い込まれて、それっきり。
 空気の水分が巨大な氷を形成し、目障りなアーヴさんやルアム君を押しつぶす事はない。その状況に愕然したのか、信じられないと言わんばかりにバルザックが叫んだ。
『ナゼ呪文ガ発動シナイ!』
 呪文が唱えられるのに、魔法が発動しない事に驚いてるのね。
 マホトーンは相手の声を奪う呪文だ。
 でも、実は声を奪われた程度では、魔法が使えない状態にはならない。術者が呪文を声に出して唱える事で魔法が発動するから、声を奪う方法が魔法を封じ込めるという結果になるだけなの。そもそも、呪文で起因する結果が大きいから、魔法が呪文によって発動する力と勘違いしているところから破綻してる。魔法が発動する道具の存在を知らないのかな?
 実は魔法は世界の理そのもの。世界を吹き渡る風も、満たされた海も、心臓が脈打ち血が全身を巡る事すら全てが魔法と言って良い。
 あたしは世界の理に干渉して、魔法の発動を阻害しただけだ。
 理の干渉と言っても、呪文を唱える事と大差はない。
 メラを唱えても火の玉は生み出せず、火打ち石をいくら打ち付けても火花一つ出ない。魔法を封じ込めるとは、本来はこういう事を言うんだ。
「魔法が発動する原理も分からずに、バルザックなんか名乗らない方が良いよ」
 まぁ、頭が腐って忘れちゃったのかもしれないけどね。
 あたしの言葉が相当癇に障ったらしい。バルザックは憎しみに真っ赤に燃えた目で、あたしを睨んだ。折れていない手をグッと伸ばしてくる。
『貴様ハ誰ダ!』
 あたし? そう小首を傾げて笑う。
 握り潰そうと姿勢を低くしたバルザックの頭に、アーヴさんの会心の一撃が突き刺さった。頭に王冠のように生えた角を粉々に割り、杖が叩きつけられた頭が陥没して口腔に抜ける。あたしを守る為に駆け寄ってきてくれたルアム君が、腹の空洞にカンテラを放り込み火薬仕込みの矢を射掛ける。爆発と共に腑が勢いよく燃え出した。
 炎は全身にまわり、バルザックの体が崩れていく。バルザックは『嘘ダ!』とか『コノワタシガ!』と叫んでいたが、そのうち叫び声は聞こえなくなり灰の山になってしまった。
 警戒を解いて武器を下ろした二人を横目に、肺の山に歩み寄った。
 流石に魂を留める器としては機能しないだろう。
 後は地下に廃棄された残留物を精製して、『エテーネルキューブ』をお腹いっぱいにするんだよね。それはアーヴさんがやってくれるし、後は帰るだけかな。
 …あぁ、そうだ。
 漂う魂に聞こえるように、あたしは名乗った。
「あたしはロトよ」


はーーーーーい!ロトちゃん、いらっしゃいませーーーー!!!!
ガライさん来たんでロトちゃんも来るよねー、っていうかカンダタ月クエストの時には登場確定でしたからねー!前回のプクランドで、で気がついた人はいたかな?

Copyright © ハコの裏側 All Rights Reserved.
Powered by Ninjya Blog