ハコの厚みはここ次第!
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■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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人生で初めて馬に乗った。
エテーネ王国は、移動に魔法生物を使っていたからだ。王都に人口が集中して僻地が過疎化した関係で、魔物の討伐の必要性が弱まり、強い魔物の縄張りが街道に隣接している。その為、王都の外の移動は強そうな魔物の形をした魔法生物に乗るか、馬車を引かせるんだ。
勿論、エテーネ王国にも馬はいる。
しかし王都の人間は、あたしも含めて生きた馬に乗ろうと思わない。馬は魔物に遭遇すれば驚いて乗せた人間を落とすし、人間を置いて逃げ出すこともあるらしい。扱いが下手なら走りもしない。人間の為に最善を尽くす魔法生物の方が、安全であると分かっているのだ。
魔法生物を研究するあたしも、人々の判断を誇らしく思う。
だが、王国の命令で魔法生物が一掃された今、王都の外を高速で移動出来る手段は馬しかないのだ。現在エテーネ王国で乗馬出来る人で、最も技量に優れたレナートの駆る馬はとても早かった。キラーパンサー型やダッシュラン型の魔法生物にも決して後れを取らないだろう。
王都から海岸に向かって駆け降りていく様は、まさに風のようだった。
最短距離を最速で駆け抜ける。整備された街道からは外れ、なだらかな斜面ではなく川が削った段差を飛び降りる。丘に生えた木々をすり抜け、水溜りを跳ね散らかし、ももんじゃ溜まりの上を飛び越える。周囲の風景が線になって過ぎ去る速度に、振り落とされる恐怖がべったりと背に張り付いた。ぐんと大きい馬身に持ち上げられ、空に上がった瞬間落ちてく感覚に心臓が縮み上がった。悲鳴を上げられたのも最初だけ。今は真っ青になって、レナートに抱きつかなきゃならなかった。
「レ、レ、レナート! も、もう少し、ゆっく、ゆっくり走っておくれよ!」
レナートは決して意地悪している訳じゃない。あたしが『一刻も早くシャンテの元に連れて行っておくれ!』って言ったから、急いでくれているんだ。
細身にしては厚い胸板が、あたしに押し付けられた。
「喋ると舌を噛みますよ。しっかり掴まっていてください!」
馬がフォレストドラコの背を飛び越え、あたしは悲鳴を上げた。
エテーネ王国馬事情。
ある意味、魔法生物が禁止になったから、エテーネ王国の技術力が悪くいえばありふれた古代文明にまで落ちているんですよね。これが魔法生物に溢れる王国だったら情報が溢れてプレイヤーが置いてけぼりになっちゃう。ストーリーを作った人の計算高さが伺える。
でも禁止が解かれた先では、復活して良いんじゃね?とか思うんですよ。
きっと、魔法生物を幻魔みたいに使う、錬金術師とか職業で出てくる。私もハナちゃん使いたいな。もしくは主人公の兄弟姉妹をアンルシア並みに重用してほしい。でも錬金術師解禁クエストは、人生はクズとか言ってるあの人に来てほしい。
ぶっちゃけるとレナートくんがいなかったら、こんな展開にならんかった。エンジュに引き続き、リンカにもトラウマを受け付ける酷い創作者である。ごめんなぁ。急いでるんだよ。
拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!
よく見ればラウラの花に隠れて、朽ちかけた墓石がいくつもある。遥か彼方の故郷を想って弔われただろう石は潮風に白くボロボロになっていて、真新しい墓石がなければただの石だと思っただろう。真新しいお墓も、膝を抱えた子供くらいの大きさの石に、ナイフで文字を刻んだ簡単なものだ。石の真下までラウラの花に埋もれているのを見るに、亡骸は弔われていないみたいだった。
墓石に近づこうとする私を遮るように、レナートさんが立った。
「崖が近いから、これ以上進んじゃ駄目だよ」
蜜は十分に集まったのかい? まるで墓石に近づけさせまいと話題を振るレナートさんの顔に、焦りが滲んでいた。彼の言葉に生返事を返しながら、脇を抜ける。
海の彼方に見える塔は、きっとリンジャハルのシンボル、リンジャの塔だ。その塔を臨むように建てられた真新しい墓石は、私が逃げ延びる事のできたリンジャハルの大災害の被害者か、その被害者を大切に想っていた誰かが弔われていると思った。そうでなくても、幸運に助かった命が、不運にも落とした命の為に祈ってい良いと思う。
「シャンテさん。待って。お願い、待ってくれ」
確かに崖は近かったが、転んで落ちてしまう程の距離じゃない。私はレナートさんの声を振り払って墓石の前に膝を付いた。手を組んで祈りを捧げると、祈るべき墓石の主の名前を知る為ナイフで刻まれた文字を見る。
シャンテ。
「え?」
思わず声が漏れた。
墓石には亡き者の名として、『シャンテ』と刻まれている。
リンジャハルの大災害は、王都キィンベルの人口に匹敵する死者が出たという。もしかしたら、私と同じ名前の人かもしれない。『シャンテ』の名の上に刻まれた、少し小さい文字へ視線を走らせる。
誰よりも歌を愛し、歌に愛されたエテーネの歌姫、ここに眠る。
シャンテ。その歌声は永遠の空に響き渡る。
私は墓石の前にへたり込んだ。
このお墓、なんなの? 同じ名前ならまだわかるけれど『エテーネの歌姫』って何? それは、記憶を失う前の私が呼ばれていた称号じゃないの?
『エテーネの歌姫 シャンテ』は死んでいる。
なら、私は?
私はきつく目を瞑って、深く深く項垂れた。地面が崩れ去り底なしの闇に落ちていくのは、私だけじゃない。今の私を構築する全ての記憶が、ばらばらと音を立てて崩れ潮騒に砕かれていく。
シャンテと呼ばれる、記憶のない私は何なの?
姉さんの笑顔が浮かんだ。金色の髪を高々と結って、豊かな髪を滝のように流した背を。私よりも色の濃い緑の瞳を細め、大きな口を開けて快活に笑う顔を。錬金釜を前に、指先まで集中を行き渡らせた真剣な手元を。シャンテ。真っ直ぐに私を呼ぶ声。
私はシャンテだ。姉さんにとって、私は確かにシャンテなんだ。
墓石に刻まれた名前を見る。
姉さんなら、何か知っているはず。
記憶のない私よりも、ずっとずっと、たくさんの事を…。
中編完結!!!!!!!
拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!
父さんの誕生日の日に歌をプレゼントしたら、どんな素晴らしい錬金術の品よりも素晴らしいと抱き上げられて褒めてくれた事。酒場で歌ったらお客さんがお駄賃を渡してくれて、そのお金で姉さんと美味しいお菓子を買って帰った事。コンギスさんの三匹の赤いドラゴンの赤ちゃんに、どらどらどらと囲まれて思わず泣いちゃった事。すぐにチュラリスが駆けつけて、ドラゴンの赤ちゃん達の頭を尻尾でくすぐって笑い転がした事。姉さんが作ったコポがあまりにも可愛らしくて、ずっと抱っこして過ごしていたら姉さんがコポを取り上げて『あたしのシャンテなの!』って大泣きした事。
記憶を失う前の、たくさんの思い出。こんな幸せな記憶を忘れているだなんて、嫌だなって思ったの。
でも、どんなに頑張っても思い出す事ができない。
姉さんの優しさに甘えてばかりじゃいけない。
だから、幸せな思い出を作っていきたいって思ったの。
記憶を失う前の私は、歌い過ぎて枯れた喉をラウラの花の蜜で癒していた。喉の調子が良くなったからって、歌が上手くなる訳じゃない。それでも、自分で選んでここに来た記憶は、今の私のものだって思うと誇らしかった。内緒でここに来ちゃった事は、後で姉さんに謝らなきゃいけないけど、それすらも楽しみに思えるくらいだった。この花をネジガラミのお茶に浮かべて飲んだら、美味しいかしら?
小瓶の半分くらいまで溜まった蜜から視線を上げると、花畑の向こうでレナートさんが立っていた。籠の上にはボミエの魔法陣が縫い付けられた布が掛けられていて、花の鮮度が落ちないように摘んだ花を包んでいる。ふっくらと膨らんだ布の収まった籠を片手に、レナートさんは海を見ているようだった。
私が花畑の脇を通って近づけば、彼の視線の先に何があるか分かった。
青々とした海の果て、水平線の上に塔らしきものが浮かんでいた。ずんぐりと太くて屋根が丸い塔へ目を凝らせば、囲むように細い塔が寄り添っている。そんな塔を臨む岸壁には、一つ真新しい墓が建てられていた。
「こんな所にお墓があるのね」
レナートさんは近づいた私に、驚いたように振り返った。
一応、レナートくんは文字読めてるということで。
たしか8あたりから、DQ独自の文字(アストルティアではレンダーシア文字)が確立してるっぽいので。
王都キィンベルから子供の足でも一時間程度でたどり着ける場所に、ラウラの花が咲き乱れるラウラリエの丘がある。多くの国民がピクニックとして足を伸ばす道は、バントリユ地方へ向かう道のりは舗装されている。道から外れてさらに南を目指しても、土が剥き出しの道は歩きやすく踏み固められていた。
王都から南の海岸線は緩い坂道になって開けていて、日当たりの良い草むらではももんじゃ達が互いを毛繕いしあい、ぶっちズキーニャが光合成し、ドラゴンソルジャーが鱗を暖めている。大きな大木の横を通り抜ける時、居眠りをしていたフォレストドラゴの鼻息が掛かった。遥か彼方の砂浜では、砂のお城が岩飛び悪魔のラインダンスで崩れ去って、作ったプチアーノンがカンカンに怒っている。南から吹く潮風を受けながら、私とレナートさんは進んでいく。
下り坂が迫り上がった崖に急坂となって立ちはだかり、鬱蒼とした森を抜けると甘い花の香りに包まれる。崖に打ち付け地面を震わせる潮騒を聞きながら、目の前に突然開けた光景に目を奪われる。
「こんな綺麗な花園、私、初めて見るわ!」
地面を覆い尽くすラウラの花は満開だ。
シャンテの舞台衣装にも施されたラウラの花は、エテーネ王国領の固有種だ。一枚では透明に透ける薄い花弁が、幾重にも重なって桃色に色付いて見える。重なって大輪となった花は蜜をたっぷりと蓄えて重く、虫達を招き寄せる為にかうっとりとする良い香りを放っていた。この花の蜜を飲めば歌が上手になるような気がすると、記憶を失った私だって思ってしまう。
レナートさんも花畑の縁にしゃがんで、青空に花開くラウラの花を覗き込む。
「ラウラの花の蜜は喉飴の材料になるみたいだよ」
そう言って、レナートさんは採取用の瓶を取り出した。一つ花を茎から摘み取ると、花弁の根元をナイフで切断する。断面からとろりと滴った金色の蜜を瓶で受け止めた。一輪から採取できた蜜は、指で掬ったら一舐めで終わってしまう微々たる量だ。
「お花は捨ててしまうだなんて、勿体無いわね」
私の為に捨てられてしまった花を見て、申し訳ない気持ちになる。
「キィンベルでは、ラウラの花ごと煮てジャムにするそうだよ。岸壁側の潮風を受けた花は仄かな塩気があって、お菓子のアクセントにするんだとか。僕は岸壁側の花を摘んでくるけど、見える所にいて欲しいな」
はい。私が力一杯頷くと、レナートさんは森の草むらを伝って岸壁の方へ向かっていく。その背を見送ると、私は渡された瓶とナイフを握りしめて花の傍らに座り込んだ。花を摘んで、花弁の根元を切って、蜜を瓶に落とす単純作業をしていると、意識は記憶の海に飛び立ってしまう。
ゼフさんのお店の二階の部屋は、記憶を失う前から私の部屋だった。その戸棚の奥に仕舞われていた日記には、記憶を失う前の私の日常がたくさん書かれていた。
薔薇ジャムとか普通にあるらしいで。ちなみに、桜の塩漬け付きの和菓子とか結構好きです。
キィンベルも特産でラウラの花ジャムとか売ってそう。無難なお土産。
私は無意識に首に触れた。ドレスと同じコーラルピンクのリボンに、たっぷりとフリルを施したチョーカーが指先に触れる。姉さんはこのチョーカーの下に、大災害で受けた恐ろしい傷があるから外してはいけないと言う。
この首の傷のせいで、私は記憶と共に美しい歌声を失ってしまった。
話し声は可憐な音を響かせ、大声を発すれば大通りの始まりから終わりにまで届く。それでも、歌として喉を振るわせると、聞くに堪えない酷い音を紡いでしまうのだ。以前のシャンテの歌声を知っていた人達は、深く同情してくれた。喉が傷ついて歌えなくなっても、生きているだけで未来は明るいと励ます人。記憶を失っても大災害の恐怖が拭えないのだろうと、涙ながらに抱きしめてくれる人もいた。
姉さんは笑みに少しだけ哀しみを混ぜる。笑みが含んだ悲しみが、私の歌声を心から愛していたのだと胸を抉る。
「わからない…」
首から下ろした手が、膝の上で固く握られる。
正直、無い記憶を恐ろしくも思えなかった。むしろ、記憶がない事に気を使われ、同情され、励まされる方が気が重かった。いっそ、どんなに恐ろしくても心が傷つこうと、記憶を取り戻したいくらいだ。ネジガラミの根の薬草茶は、私が姉さんに頼んで作ってもらっているの。
「でも、記憶を失う前の、皆さんが愛した歌声が取り戻せたらって思うんです。取り戻せなくても、もっと上手に歌えるようになりたいんです」
隣から姉さんのほっそりとした手が重ねられる。シャンテ。愛おしく私の名を呼んでくれる、世界で一番優しい声に耳を傾ける。
「誰がなんと言おうと、お前はあたしの最高の歌姫だ」
「ありがとう、姉さん」
白い毛皮の縁取りが、押しつけた頬をふんわりと包み込む。頃合いを見計らっていたのか、納品された品と目録が相違無い事を確認し、サインした領収書を持ってレナートさんに歩み寄った。顰められた声でいくつか事務的な内容を交わすと、長剣を手にソファーから立ち上がった。ごちそうさまでしたと暇乞いして、店の外へ足を向ける。
私は見送ろうと、店の外へ付いていく。
太陽は随分と傾き、青空に浮かんだ雲がほんのり珊瑚の色を帯びている。鳥達が帰路につこうと並んだ影が、王宮の向こうへ消えていく。巨大な塀の中に犇く屋根の隙間から、街灯の眩い灯りが灯り始めた。塀の内側が明るくなり、夕焼けに染まろうとしていた空を暗く沈ませる。そんな都を、レナートさんは感慨深く眺めている。
レナートさん。呼びかけに遠くから引き戻された視線に、私はおずおずと声を掛けた。
「あのね、お願いがあるの」
個人的に大災害の記憶を蘇らせる方が可哀想でないか?と思っています。リンカの薬草茶は『失った記憶を蘇らせる』的な物忘れに対する薬効が期待されている訳で、額面的には大災害の前の幸せな日々を思い出して欲しいという気持ちで飲ませてるんだとは思うんです。
でも、大災害の記憶が最も新しく鮮烈なわけです。死に瀕するやばい状況を思い出して、精神崩壊だってある。そんな事を、リンカが望んじゃうの?って思ったりしているんです。
なので、ここではシャンテちゃんが望んでるって方向で書いてます。
拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!