ハコの厚みはここ次第!
■ Calendar ■
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ||||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 14 | 15 | 16 | |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
□ search □
過去を振り返っていた意識が、微かな衝撃に今に向く。
音もなく滑らかに昇降機の扉が開くと、さらりとした闇が広がっていた。洞窟のような様々な生物をない混ぜた漆黒ではなく、ただ光が届かないだけの濃い影が闇となって澱んでいる。洞窟と違って空気は寒々しくさらりとしており、微かな水音に水の匂いが鼻を掠めた。
闇に目が慣れれば、下から光が湧き上がっているのに気がつく。昇降機から飛び出した赤い猫耳が、光を覗き込んで歓声を上げた。
エテーネ王宮は時見の神殿という聖域の上に建てられている。
地上からは巨大な岩の部分が神殿であり、地上の王宮と同じかそれ以上の規模を誇る。光を吸い込んで黒く沈む特殊な石を積み上げ、最下層の祭壇から最上部までの吹き抜けを生み出す。石の隙間から淡い黄緑色の光が漏れて、幾何学的な模様を刻んでいた。遥か下方まで円形に吹き抜けた空間には、建物くらいの大きさから、ちょっとした大箱くらいのものまで無数の黄金の立方体が浮かんでいる。立方体を構築する面は凪いだ湖面のように平らで、黄金の輝きに目を凝らせば精緻な模様が隙間なく施されているのが見えるだろう。まるで水の中で攪拌されているように、巨大な立方体の周りを小さい立方体が回っている。
「浮かんでいるのが、エテーネ王国の神具だ。災害や飢饉の訪れを事前に予知し、対策を講じる事で被害を最小限に押さえ、多くの民を助けてくれた存在だ」
猫耳の後ろから見下ろしていたルアムが首を傾げると、夕暮れの瞳が朝焼けに燃える。
「神具の力を借りないと、未来が見えないんですか?」
変な問いだったが、俺は『いや』と小さく首を振った。
「時渡りの力が優れている者の中には、神具の力を借りずに未来を見れる。しかし神具と交信し望んだ未来を引き出す力が優れた司祭の子孫が、今日の王族を務めている」
説明しながら、緩やかに降る坂道へ足を向ける。螺旋状に坂道を下っていくと、水が滝となって落ちるのを裏から見る。滝は細やかな雫となって最下層に降り注ぎ、神具の黄金を煌びやかなものにする。光は黒い神殿を藍色に切り取り、柱の黒とで二分して神秘的な雰囲気を醸した。
神具同士が共鳴する不思議な音と、ふわふわとした空気の流れが肌の上を這いずる。
最下層は水がくるぶしまで浸かり、硝子張りの床は頭上に輝く神具の光を照り返していた。さらさらと降り注ぐ霧雨のような雫が、神具の光を受けて丸く虹を描く。レナートが丈の短い外套のフードを被り、プクリポが身を振ってぐっしょりと濡れた毛皮から水を吹き飛ばす。
ここが時見の祭壇の筈だが、父上の姉さんの姿も見えない。
姉さんはどこに? 視線を巡らすと、流れ落ちる雫に逆らって金色の光が立ち上っている。ふわりふわりと淡い光の球が、最も大きな神具に吸い込まれるように向かう。その光の元を目で追うと、ガラス張りの床の端に設られた装置に辿り着く。同じ装置がいくつもある中、それだけが稼働しているようだ。
嫌な予感に急きたてられ、ばしゃばしゃと水を跳ね散らかして近づく。この神殿と同じ光を吸い込む黒い素材でできた装置の内側から溢れる光から、人の影が像を結ぶ。紫の髪が赤銅色に炙られ、明るい色のドレスが光に透けて溶けている。
誰か。確認するまでもなかった。
「姉さん!」
目を閉じ、薄く開いた唇。触れようとした手が、見えない何かに遮られる。
よく見れば硝子が姉さんの体を覆うように、装置に嵌め込まれている。素早く目を走らせ、手元の高さにある菱形の光に手を振れれば、硝子が上にスライドして外れる。膝が折れない絶妙な角度の傾斜に身を横たえる姉さんを抱き上げる。
固く閉じられた目は震える事なく、唇は呼吸をしていないかのように微動だにしない。それでも抱えた姉さんの体は冷え切ってはいたが、弱々しくも鼓動を感じていた。外傷は目に見える限りなく、ただ意識を失っているだけのようだ。
「装置に触れるな!」
吐こうとした安堵の息が、胸の奥で痞えた。
はーい!今回の舞台捏造ですよぉ!!!
神秘さをマシマシでお送りしてみた!
天の神よ、地の人よ、かの者をたたえよ。
危険な魔物を討ち滅ぼし、大エテーネ島に住まう諸氏族を支配せし、マデ氏族の長レトリウス。その威勢はレンダーシア全土に響くまでとなった。
レトリウスの武勇、キュレクスの叡智、ユマテルの秘術。それらが集い束ねられ、ここにレトリウスが冠を戴く偉大なる王国が生まれた。
国の名はエテーネ。
キュレクスより齎された名は、異邦の言葉で「永遠」を意味する。
■ □ ■ □
エテーネ王宮から最も離れた閑静な区域に、マローネ叔母さんに充てた小さな離宮がある。元々は出産直後や病気をした王族の療養として建てられた宮である為、王宮を凝縮したような贅を凝らした空間が広がっている。日当たりの良い一角には王宮の中央に聳える大樹を接木した大木が育ち、池の周辺にはラウラの花畑が出来ている。結界によって風雨から守られ、大樹の木陰で日差しの劣化もない宮は、美しい芸術品のように佇んでいた。
足早に離宮へ足を運ぶ俺に、警護にあたる兵士が敬礼する。短く問題ないという報告を聞き労いの言葉を返すと、俺は玄関の扉を開け放つ。建国王の逸話を描いたステンドグラスが美しい玄関広間から階段を登ると、壁のない広々とした空間に子守唄と木の葉擦れが囁き合うように聞こえていた。王宮の聞くに絶えない醜聞も、ここでは小鳥の囀りに退けられている。
傍に控えていたファラスの冬空の瞳がこちらを向くと、マローネ叔母さんにそっと声を掛ける。ぱっと顔を上げた叔母さんの小麦色の髪が、日差しに金色に輝いていた。赤子を膝に抱いた叔母さんの傍に歩み寄ると、あんな恐ろしい目に遭ったというのに、すやすやと眠る従兄弟を覗き込む。
「将来は大物になりそうですね」
叔母さんが愛おしそうに従兄弟の頬を、指の背で撫でる。
「助けてくれたプクリポ族の子が、祝福を授けてくれたそうなの」
隣国のリンジャハルは港町の関係で、生まれた赤子はウェディ族から祝福を受ける風習がある。ウェディ族の祝福を受けた子供は泳ぎが上手くなり、海の幸運に恵まれると言われている。エルフ族は聡明に育つ幸を授け、ドワーフ族の寿ぎは技巧を伸ばし、オーガ族の祝いは頑強な体を与える。とはいえ赤子を腕に抱き、赤子の幸福を願ってもらうだけの所詮験担ぎ。だがその風習はレンダーシアの各所にあり、訪れた異国の旅人を持て成すかわりに祝福を求めた。
プクリポ族の祝福は、幸運。
従兄弟の父はリンジャハルの悲劇で行方不明になり、先日には実の伯父に命を狙われた。時渡りの才能に恵まれた親を持てば、否応なくエテーネ王国を背負わされるだろう。波瀾万丈な星の下に生まれた従兄弟。どんなに過酷な運命を歩まされようと、幸せであって欲しいと願うならこれ以上ない祝福だ。
クオード。俺の手を握った叔母さんの切実な表情に、胸が一つ高鳴る。
「私とこの子を守ってくれた旅人達を、どうか助けてあげて」
叔母さんも姉さんも、父が旅人達を処刑する事に酷く心を痛めておいでだ。ドミネウス邸にミジンコのように湧いたルアムとレナートは、太々しい態度で気に入らなかった。しかし王都キィンベルで停滞した流通を支え、ファラスの要請に応じて叔母さんと従兄弟を守ろうとしてくれた事に心から感謝している。処刑を回避し救いたいと、俺だって思っているのだ。
俺は叔母さんの手を優しく握り返した。
「勿論です。姉上と共に救出の手を打っています」
ありがとう。叔母さんは潤む瞳で俺を見て、そっと頬を撫でた。包み込む花の香りと柔らかな熱、赤子から立ち上る甘い香りを目を閉じて胸いっぱいに吸い込んだ。
「貴方もメレアーデも無茶をしては駄目よ。貴方の無事を願っているわ、クオード」
叔母さんの傍に控えていたファラスも、誇らしげに俺をみている。
「クオード坊ちゃんの立派なお姿、我が主にもお見せしとうございました」
かっと顔が熱くなる。
パドレ叔父様の従者であるファラスは、俺が乳飲み子だった頃も知っている。幼い頃は従者のみならずパドレ叔父様の邸宅を守る使用人達も、俺を『坊ちゃん』と呼んでいた。だが、もう俺は坊ちゃんと呼ばれる年齢じゃない!
「俺を坊ちゃんと呼ぶのは禁止だ! 良いな!」
かしこまりました。ファラスの肩が笑いを堪えて震えていた。
祝福の話はありそうだなって事で書いてます。
ちょっとマローネママ様に触れておかないと、次に出てきた時誰この人状態になりかねないので、ここで出てもらいました。
オレンジのローブと空色のマントは大きく焼け落ちて、上半身は裸と言った状態だった。炎に炙られても白いままの王の素肌、肩や肘や膝には人形の関節のような球がはめ込まれ、二の腕にはメンテナンス用なのか開閉口がついている。
極め付けは腹に嵌まった、人の頭と変わらない大きさの真紅の球だ。顔から滴った皮膚が垂れる。皮膚を失った顔の下にあるカラクリで上下する顎や、空洞の眼窩に不気味さは最高に達し、ドミネウス王ではないと理解した人々が逃げ出し始めた。
魔法生物かはわからないが、ドミネウス王でないのは明らかだ!
「余コソ、エテーネの王ドミネウスなリ! 余ノ意に添わヌ者は、殺して、コロシテ、コロシツクス!」
これで、目の前の敵を倒せる。互いに顔を見合わせ頷き合うと、鋭い叱責が響いた。
「何をしている! 民の避難を優先しろ!」
呆然としていた近衛兵達が、雷に打たれたように走り出す。取り除かれた人垣の向こうから、抜き身の剣を引っ提げたクオード殿が駆け寄ってくる。この混乱の対処に追われていたのか、緑の軍服は乱れ首元のスカーフも大きく緩められている。
軍団長を担う息子が、王だったものに目を向けて顔を大きく歪めた。服は大きく焼け落ちてはいるが、黒い鳥の羽飾りがついた王冠は残っていたのだ。小首を傾げた拍子に、さらりと青紫の髪が揺れる。
「なんだ貴様は?」
王の格好をした異形に兵士達が戸惑いながらも槍や剣を構える中、ぽたぽたと皮膚を滴らせる王だったものが王の声で叫んだ。しかし、声は上擦り雑音が混じって耳障りな声となって迸る。
「父に剣ヲ向けルトは、血迷ッタかクオード! 今スグ剣を引けィ!」
クオード殿の青紫の眉が嫌悪に大きく寄って、皺を刻む。
ふらりと動いた拍子に、丈の短いオレンジのマントがふわりと揺れた。
ふっと空気が動き、鋭い剣戟がドミネウス王のだったものの胸を袈裟斬りにする。赤い宝石は鋭利な断面を見せて切り裂かれ、胸から上がずるりと滑っていく。王だった物が目を瞬かせている間に、地面に落ちた上半身が砕けて中に詰まった数多の部品が飛び散っていった。
血の滲むような日々の鍛錬を重ねた者だけが持つ体幹。実戦で多くのものを切り裂く感覚が体に染み付いているからできる、両断という業。
エテーネ王国軍軍団長に相応しい会心の一撃だった。
クオード殿は剣を鞘に収めると、切って捨てた塊を睥睨した。
「本物の父上なら、この太刀筋を避けるなど造作もない事。紛い物が父を騙るなど片腹痛い」
軍団長は兵士達を見据え、腹の底から朗々とした声を響かせた。
「陛下を騙った替え玉の謀略により、罪人に仕立てられた者達は潔白である! 魔物の討伐の為王宮は一時閉鎖とし、全ての人員に避難を命じる! 各自、避難困難者の援助にあたれ!」
兵士達は凛とした声で応じると、手際良く散っていく。僕達と共に逃げてきた人達は並べられて誘導され、軽い火傷をしているだろうディアンジさんや、恐怖に過呼吸を起こしているザグルフさんが兵士に付き添われ転送の門へ向かっていく。
王だった物の残骸を見下ろしていたクオード殿に、僕は囁いた。
「こんな事をして大丈夫なんですか?」
問題ない。冷静な光を湛える青紫の瞳が、こちらを向いた。
これは容姿も人格も完璧に模倣する、王家の秘宝であると説明した。時に影武者として用いる時代もあり、ドミネウス王が己の代役として使役していたのだろうと続ける。そして苦いものを口に放り込んだような渋い顔をした。
「民の前ではあぁ言ったが、父上がお前達の処刑を指示した事は間違いないだろう」
大きく息を吐き、ゆっくりと視線が周囲に向けられる。
王宮に風が流れ込み、煙が晴れて騒動の跡が生々しく広がっていた。ごうごうと唸る風が、僕らの服をどこかへ連れ去ろうと強く引っ張っる。
「兵士や民の前で冤罪を証明出来たが、父がどう出るかはまだわからない。王国軍副団長のセオドルドが、地上でお前達をエテーネ王国から逃す手筈を整えている。姉さんが王位に就くまではこの国に近づかぬ事だ」
そして踵を揃え、姿勢を正して僕らに向き直る。伏せた目元に長いまつ毛が覆いかぶさった。
「迷惑をかけて済まなかった」
向けられた謝罪に僕達は互いに顔を見合わせる。
僕らの処刑を良しと思わなかったクオード殿の意志を汲んで、ディアンジさんとザグルフさんは助けに来てくれた。地上に降りてエテーネ王国から逃す手伝いをしてくれるのは、クオード殿の指示。チャコルに『命を石』を持たせて『黄金刑』を回避させてくれたのは、メレアーデ様だ。
この国の人に散々投げつけられた言葉は、気持ちの良いものじゃなかった。
それでも僕らを救おうと動いてくれた人達のお陰で、嫌いにはきっとなれないだろう。
謝罪を受け取ったと感じたクオード殿は、顔を上げて僕らを見据えた。
「行ってしまう前に、一つ聞きたい」
切長の瞳に切実な光が浮かんでいた。
「姉さんを見なかったか?」
後半終了!
カッコいいのに、最後の最後で姉さんかよ!ってツッコミたい最後だった!
ルアム君は火打ち石を打ちつけてぱっと散った火花を、鏃の代わりに巻きつけた布に燃え移らせる。蝋燭の火程度の火が灯った矢を、ゆっくりと敵に向ける。
「レナートさん、少しの間だけ足止めしてください」
なるほど、服を焼き払うつもりなのか。あの機械仕掛けの魔物を彷彿とさせる手応えを思えば、人間にあるべき部位を精密に再現する必要はない。さらに生物ではない構造なら、あれほどの力を引き出す為に膨大な動力が必要になるはずだ。
まぁ。僕はうっすらと笑う。
どうせ極刑にさせられるのなら、王様の服を剥ぎ取るのは罪のうちにも入らないだろう。さらに服の下が人間じゃなかったら、僕達は王殺しにならずに済む。
僕は七色の光が這う白金の刀身を、ゆっくりと正眼に構える。翼を広げた鳳の鍔が、滑らかな黄金の光を反射して輝いた。手にしっくりと馴染んだ柄を両手に握り込み、僕はドミネウス王に切り掛かった。
剣を交えれば交える程、ドミネウス王の動きが人間離れしているのに気が付く。
反射神経は歴戦の猛者並みと言えるが、最も顕著なのが関節の可動範囲だ。人間なら決して曲がらない方向に関節が時折曲がり、関節が外れるのか腕の長さが伸びる。最も厄介だったのは、人間の常識では考えられない行動だ。
「ふつーはあちあちってなったら、消さねーか?」
本来なら人間は服に火が付けば、全てを投げ出して消火する。火が己の命を奪う脅威であると刻まれた本能が、地面を転げさせて水を求めて奔走させる。しかし、王はローブの裾に火がついているのに全く対応する様子がなかった。
「ぐっ!」
僕の手首を掴んだドミネウス王の手が外れると、手が放たれたメラのように明後日の方向に飛んでいく。手首を掴まれ引き剥がせず、僕の姿勢は完全に崩されて王の前で大きな隙を晒す。王が僕の頭の上に錫杖を振り上げたが、引っ張られた手を引き戻せずにいる。
やべっ! ロケットパンチかっこいい!って喜んでる場合じゃないだろ!
「レナートの兄ちゃん!」
猫耳君がドミネウス王の背後から仕掛ける。
反応速度も膂力も人間離れしているドミネウス王だが、全ての情報を視覚に頼っている。気配で反応できるような視覚の外からの不意打ちは、ほぼ命中していた。ただし僕の腰に届くかどうかの小さい体では一撃が軽いが、頭を打ち据えた事で狙いがずれて錫杖が真横を掠める。
僕が持ち替えた剣で切り離された王の手を叩き壊すと、ばらばらと小さい部品が零れて動かなくなった手が地面に落下した。凄まじい力で握られて、手が痺れる。
「兄さん!」
王に尻尾を掴まれて投げ飛ばされたプクリポが、悲鳴を上げながら風の呪文を高らかに唱えた。次の瞬間、旋風が王を捉え小さい火が大きく燃え上がった!
火炎旋風の中に閉じ込められた人影は、大きく腕を振り風を振り払う。陛下! 口々に周囲で観戦していた人々や近衛兵の歓声の声が、戸惑いに口を噤んでいく。
「小癪ナ真似を…!」
憎々しげに僕らを見るドミネウス王に、この場の全ての人々の視線が注がれた。
個人的に、ロケットパンチはこういう使い方が一番効率がいいと思っています。
もちろんホーミングミサイルみたいに追尾するロケットパンチも良いんですが、それなら飛ばさないで本体の自重をプラスした攻撃の重みの方が強い気がするんですよねー。
まさか、僕達を殺す為にわざわざ来たのか?
どうして? 身に覚えのない殺意の懐かしさに、胃の下がぎゅうっと痛んだ。
僕達もルアム君達も、この国に偶然立ち寄った旅人だ。この国がどんなに荒んで滅びの道を歩もうと、国外追放にされれば二度と立ち入る事はないくらい思い入れはない。王国で関わり信頼を得た人達が僕達が処刑される事で抱く反感は、簡単に王国が握りつぶせる。しかし国外追放なら、旅立ち別れる日が早まる程度で反感すら感じないだろう。
それ程までに『黄金刑』の復活は魅力的なのだろうか?
だとしても、国王が危険な場所いわざわざ足を運んで、逃げる僕達を殺そうと深追いしている。なぜ、この王は、こうまでして僕達を殺そうとするのだろう? 考えれば考える程に理解できない殺意を、心底不気味に感じた過去はもう懐かしく思うほど昔の事だ。
僕は悟った。ルアム君達はこの国の未来に大きく関わる。彼らを守る事は、きっとこのアストルティアの未来を守る事に繋がるのだろう…と。
あの世界が崩壊し多くの人が死んだ大災害。あの時に感じた絶望を、背負わされる重責を、この幼さの残る子供に強いちゃいけない。僕はルアム君達の前に立ちはだかり、王に剣を向けた。
「逃さぬぞ! 国王直々に裁きを下してくれよう!」
毅然とした声が煙を吹き払うように響き渡った。
いや、頬に真っ直ぐと落ちていた髪が、さわさわと頬を撫でる。無風の為に立ち込めていた煙が、ゆっくりと動いているようだ。
歩み寄ってくるドミネウス王を前に、普段は物怖じしない猫耳君が後退りした。耳を前にペッタリと折り、顔に露骨なまでの不快感を張り付かせる。ぎゅっと噤んだ口を薄く緩めると、呻くように言葉が漏れる。
「なんだ、この王様…。人間じゃねーのか?」
目を凝らし王に意識を集中すると、微かに布だけのローブを着た人間から発する筈がない音が聞こえてきた。がちゃり、がちゃり。きり、きり。きっ。引き攣る音がひとつして、王が軽く膝を曲げた。
「え?」
反射で動いた剣と錫杖が鍔競り合う。吐息が掛かる程近くに、ドミネウス王の顔があった。
何があった? 僕は錫杖に押し潰されないよう、渾身の力を込める。
飛び込む予備動作もなく、一瞬にして踏み込まれた。例え軽く曲げた膝と足首の力で踏み込んだとしても、あんな巨体がこんなに素早く、間合いの外から飛び込むなんて無理な話だ。そして口の中に鉄の味がしそうなくらい強烈な金属臭。もしかして、これってドミネウス王の口臭なのか?
がちんと剣越しに鈍い衝撃が伝わると、相手の膂力が増す。このままでは押し潰されると、僕は咄嗟に錫杖を受け流した。勢いよく地面を打ちつけた錫杖が、磨かれたタイルを粉砕し破片が飛び散る。
飛び退って間合いを開けると、一瞬の鍔競合いであったにもかかわらず全身がびしょ濡れなほどに汗が吹き出していた。顎をから滴る汗を拳で拭うと、王から視線を外さずに仲間に言う。
「強敵だ。早く対策を立てないと全滅するぞ」
「でも、王様殺しちゃったらヤバいんじゃねーの?」
あぁ。その通りだ。僕は相槌を打ちながら、周囲に素早く視線を走らせた。煙幕は全て吹き払われ、逃げ惑っていた人々が足を止めてこちらを見ている。
王を追ってきた近衛兵が避難を促しているが、王が直々に罪人を処刑する様子に人々は目を輝かせていた。ドミネウス王を応援する声が一つ上がれば、この場は黄金煮え沸る釜の前と変わらぬ空間に変えられてしまう。王の名を叫ぶ声が、正義の執行を称える声が、そして僕達の死を望む声が押しかかる。
周囲の異様な熱狂に、猫耳君が途中で助けてきた女の子が母親の腕の中で大泣きした。何かを訴えているが、その声は僕達の死を望む声に掻き消されてしまう。
「エテーネ王国の民の前で王殺しになれば、冤罪だったはずの国家反逆罪が本当の事になってしまう。例え、目の前の王が人間でないと、僕達が気がついていたとしても、だ」
「どーすればいいんだ?」
完全に周囲は観客に囲まれているし、転送の門を封鎖されてしまえば逃げ道はない。このままドミネウス王と交戦を続けている限りは、民の避難が優先されて封鎖はされないだろう。
メレアーデ様やクオード様は人間なのだから、その親であるドミネウス王も当然人間だろう。だが、目の前の王が人間でないのを、僕は一撃を交えて体感した。つまり、影武者か何かなのだ。
ルアム君が夕暮れと夜の合間の瞳を、ゆっくりと王へ向けた。
「目の前の敵の正体を暴きましょう」
まぁ、ゲームだと足止め的にディアンジが火の壁作るんですが、流石に混乱の最中に軽率では?とか思ったので、正体を暴くのもこっちでやります。