ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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「指針監督官は手段を選ばなくなっています。気をつけてください」
 ゼフ殿の親友であり私の恩師である、錬金術師アルテオには二人のお嬢さんがいた。一人は魔法生物錬金学の権威であったお父上の才能を受け継いだ、リンカ嬢。キィンベルの歌姫と称される妹のシャンテ嬢の美声は、誰の才能を受け継いだのか聡明な父上もついぞ明かせなかった。
 お父上が身罷られ、二人の身元はゼフ殿が引き受けた。
 今もゼフ殿の店を手伝う形で、リンカ嬢は魔法生物錬金学を研究している。王国の命令という形で、『家族』を失うなど我慢できるはずがないだろう。父と娘が誇りを持つ研究を露骨に否定する様は、師を侮辱されたも同然の私も怒りを覚えている。
 指針監督官の挑発に乗って手でも上げようものなら、公務執行妨害で逮捕され連行され、魔法生物を没収する口述を作ってしまう。
 それが分からないリンカ嬢ではない。しかし、先日のリンジャハルの崩壊で一時生死不明だった妹の死を肌で感じてしまった彼女は、『家族』の死に敏感になっている可能性がある。
 私が心配するまでもなく、ゼフ殿は何度も言い含めているだろう。
 リンカ嬢も指針監督官の挑発には乗るまいと、己を律しているだろう。
 それでもどんな姑息な手を使ってくるか分からないのが、指針監督官なのだ。
 ゼフ殿は空になったカップを置き、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。私達の身を案じてくれる人がいるというだけで、心強いものはありません」
 私は頭振り、席を立ったゼフ殿を大通りまで送る。
 明るい日差しが降り注ぐレトリウス通りには、今日も多くのエテーネの民が往来していた。同じ大きさと形に揃えられた石畳が美しく並び、花壇からは溢れんばかりに季節の花が咲き誇る。陽の光に暖められて綻んだ花々から甘い香りが漂い、今日は上着が要らない気温になると肌で感じる。中央広場には巨大な砂時計のオブジェが置かれ、中の砂が夜空に瞬く星のようだ。頭上に浮かぶ王宮の影が、軍部区画に掛かっている。
 目を眇めて見ていた私に、ゼフ殿が言った。
「良いんですか?」
 良いんです。私は黙って頷いた。
 今、私が座っていた席には指針監督官が駆け寄って、ゼフ殿が買ってきた差し入れをぶちまけて具に調べているのだろう。ゼフ殿の事だ。文房具屋の主人に『この棚の黒インクの中から一つ選んで欲しい』と、なるべく自身が関わらず無作為になるように買い物をしているに違いない。どんなに調べたとて、何も出ないに決まっている。
 それで、片付けないんだ。まるで軍隊蟻じゃないか。
 私は深々と息を吐いてから、吸った息で本音を囁いた。
「『家族』が元気なら、それ以上何も要りません」
 そうですね。心の底から同意した想いが、大通りの雑踏に踏み砕かれていく。


前編終了!魔法生物事件をさらりと説明したよ!
リンジャハルの話も説明しようと思ったけど、諄くなると私が面倒なのであっさりとね!

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