ハコの厚みはここ次第!
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■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
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処刑台を支える柱に齧り付きこちらを見上げていたのは、樽のような体格の錬金術師らしい男性だ。屈託ない眩い笑顔には、だらだらと滝のような汗が流れている。猫耳君が『ディアンジのおじちゃん!』と抱きつけば、明るい色のローブを着た背後に暗い色の服を着た痩身の男が影のように立っているのに気がついた。
「皆さん、ご無事で何よりです」
ザグルフ、急いで。そうディアンジさんに急かされた痩身の男が、僕達全員の手枷を手品のように外して僕達の荷物を手渡してくる。牢屋に入れられた際に没収された時に零れて踏み折られたルアム君の矢は、きちんと矢筒に補充されていた。バディントだけは、なぜか黄色い皮に角飾りのついたマスクだ。悪人面とマスクどちらが目立つかは、流石の僕には分からない。
「僕らの逃走を手助けして、大丈夫なのですか?」
エテーネ王が極刑を言い渡した罪人を手引きするのは、王の決定に反する行為だ。極刑にならないとしても、エテーネの国民を巻き込むなんて出来ない。
僕の問いに、ディアンジさんのふっくらとした頬が硬くなる。
「ご心配なく。こんな私達でもクオード様のお役に立てるなら、なんだってします!」
さぁ。ディアンジさんが土煙が立ち込める先を示す。
よく見れば鏡面のような白いタイルの上に、転がった小さい丸薬が燻っている。ディアンジさんのぽっちゃりとした指先がメラの火を灯して、握った丸薬を炙るともうもうと煙が湧き上がってきた。この煙幕はディアンジさんが仕掛けたようだ。
風を読むように虚空へ視線を向けていたザグルフさんが、ひらりと煙に向かって歩きだす。
「さぁ、ずらかりますよ! 大丈夫。ザグルフの指示に従えば、安全に逃げられます」
「おいおい! 逃げるって、この黄金はどうすんだよ?」
マスクを被ってくぐもった声のバディントが、ぶんぶんと腕を振った。確かに地面には巨大な水溜まりのように黄金が広がっていて、足元に転がった飛沫は砂金のように硬くなっている。上手く持ち帰って換金できれば、ひと財産になるだろう。でも、僕達を黄金に作り替えようとした黄金だなんて、気持ち悪くて持ち帰ろうだなんて思えないな。
猫耳君が『好きにすればいいんじゃねー?』と言って、煙に消えた痩身を追いかけていった。先に飛び込んだ赤い尻尾が見えなくなる前に、僕とルアム君が煙に飛び込んだ。
手を伸ばした先が白く解ける世界で、ぼんやりと浮かんだ青紫の髪や鮮烈な赤い尻尾、暗い色の細い影やずんぐりとした体が切り裂く煙の跡を追って進む。足元は逃げ出した人々の靴や荷物が散乱していて、時々ゴールドマンが踏み締めてヒビ入ったタイルや気絶した兵士達を跨いだ。
泣き声を聞いて赤がさっと離れて暫くすると、母子を連れて戻ってきた。ポニーテールの可愛らしい女の子は、薄汚れた頬にくっきりと涙の跡が残っている。それを猫耳君が拭って『もう、大丈夫だぞ!』って言い切れば、嬉しそうに笑って抱きついた。
固い金属音にゴールデントーテムを蹴散らしてしまっていたのに気がついて、ごめんねって平謝り。ザグルフさんの選ぶ道には大きな魔物の姿はなかったが、煙の向こうでずずんと地響きが響いていた。
不意に先頭を進むザグルフさんが足を止めた。
「ザグルフ。どうしたんですか?」
あ。あ。ザグルフさんはがくがくと震えながら、逃げ道を求めるように視線を彷徨わす。
しゃらりしゃらりと涼やかな音を響かせ、煙が黒く影を刻む。薄くなった煙を払って現れたのは、ゴールドマンが拳を振り回して暴れ回り、ゴールデントーテムが足もをと掬い、ゴールデンスライムの巨体が全てを押し潰す危険地帯に居るはずがない存在。さらに煙が充満して見通しが悪いとなれば、力のある近衛兵でさえ不利な状況を判断して押し留める、この国で最も守らなくてはならぬ者。
第四十九代エテーネ王国ドミネウス。
僕達に極刑を下した王を前に、無意識に目を眇める。
本当に助けに来てくれて良い人だなって思う!
視界が黄金に眩み、ぐつぐつと煮え沸る黄金の熱が顔を舐め上げる。処刑台の前に設られた黄金がなみなみと注がれた釜は、大きな幌馬車がそのまま入ってしまう巨大なものだ。
僕は空気を含んで頬を膨らませると、舌の下から固い感触を引き出して唇の真裏に当てがう。
故郷でやった西瓜の種飛ばしの要領で、一つ輝きが口から飛び出した。
メレアーデ様の愛猫チャコルが運んできた『命の石』が、きらりと一つ瞬いてぽちゃりと沈んだ。まるで濃厚なコーンスープのようなとろみに緩く弧を描くと、ぷつぷつと沸騰する泡が何事もなかったかのように湧き出してきた。
「貴様! 一体、何を…」
怒りの声を迸らせたベルマが、ナイフを素早く振り上げた。しかし、いつまで経っても振り下ろされない。振り下ろせなかったのだろう。
「罪深き罪人に黄金の審判を!」
人々の声が地鳴りのように響く。ある者は笑顔で死を望む声を上げ、ある者は復活した極刑に興味津々と視線を注ぎ、ある者は己よりも弱い立場である罪人に対し嗜虐的な笑みを浮かべている。それらが次の瞬間、凍りついた。
嵐の前の静けさ。そんな不気味な静寂だからこそ、誰もがはっきりと感じ取った。
足の裏から微かな振動が這い上がってくる。それを自覚した時には、大きくどっしりとした錬金釜がぐらぐらと揺れ始めた。黄金がびしゃびしゃと錬金釜の縁からこぼれ落ちたのを見て、バディントが『うおっ! もったいねぇ!』って声が後頭部を叩いた。
皆が錬金釜から目を離せない中、釜から天高く黄金が噴き上がった。溶けた黄金の飛沫を浴びて熱い熱いと悲鳴が上がる中、元凶が黄金の中から現れる。
大きな大きな手。金塊を積み重ねたごつごつとした手が、捕まる所を探して僕目掛けて手の平を振り下ろす。僕が素早く下がると、目の前で舞台が破壊され砕けた板が舞い上がる。僕が回転してベルマの緩んだ手元から鎖を抜き取ると、そのまま大きく飛び退る。ベルマが気がついた時には、振り回した手の平に薙ぎ払われて吹き飛んでしまった。
サーカスのイリュージョンのように華麗に手枷から手を抜いた猫耳君が、花びらのように手の平を避けて煮え沸る黄金の中に『命の石』を投げ込む。どんと音を響かせ腕を振り回す巨大な上半身が錬金釜から押し出され、錬金釜ごと横倒しになった! ざばりと流れ出す黄金から、ぬるりぬるりとゴールデントーテムが生まれ、集まった群衆の中を駆け巡る。
錬金釜からようやく下半身が抜けた巨体は、ゴールドマンとなって立ち上がる。
黄金の巨人の背後で錬金釜は大きくヒビが走り、真っ二つになった残骸からゴールデンスライムが誇らしげな顔で現れた。
民衆達の悲鳴が上がり、我先にと背を向ける。転んだ者を踏み締め、足の遅い者を押し退け、進めずに足踏みする者の肩に乗り上がって踏みつけて逃げ出してた。
「すげーな! もう、処刑どころじゃねーな!」
おでこに手を翳して遠くを見る猫耳君に並んで、バディントがガタついた歯並びを見せびらかして豪快に笑う。いく筋も古傷が走る筋肉隆々の腕で、手の平に拳を打ち付けると景気の良い音がした。
「で。どうするんだ? 逃げちまうか?」
その言葉に僕達は改めて前を見る。逃げる人達が巻き上げた砂埃に乗じて、姿を眩ますのは簡単そうだった。人々が殺到すると思えば、紛れて転送の門を潜れるだろう。冤罪とはいえここに残っていれば殺されるんだから、逃げない選択はなかった。
「皆さん、こっちへ!」
突然横から掛けられた言葉に、僕達は弾かれるように顔を向けた。
ゴールドマン以外にも出てきちゃったのは、稲野の趣味です。
人々が一斉に首を垂れ、荒波が一瞬にして凪ぐ。
儀仗兵が恭しく下がると、しゃらりしゃらりと涼やかな音を響かせて壮年の男性が現れる。黒い鳥の尾羽で飾った王冠を戴いた偉丈夫で、戦士と言っても差し支えない頑強な体つきがオレンジ色のローブから浮き上がっている。空色のマントを留めた胸元で、金の留金に刻まれた王章が輝いた。
一瞬、人生で初めて出会った王様が脳裏を過ったのは、僕らの殺害を画策する首謀者だからかもしれない。黒い羽飾りは王冠の飾りとして流行ってるんだろうか? 王は畏まる民をゆっくりと見回した。
「皆のもの、面を上げよ」
ざぁっと顔を上げた民が見るのは、青紫の長髪を後ろに流し、鋭い眼光と整えた髭が相応しい威厳を醸す彼らの王の姿だろう。民の顔に畏怖と、かの王を戴く誇らしげな感情が浮かんだ。
ドミネウス王はゆっくりと腕を開き、どっしりとした声で語り始めた。
「極刑なき慈悲に付け上がる罪人達に害される苦しみを、無辜なる民に強いてしまった。これ以上罪人達を放逐する事は、民を守る王の責務を放棄する事と同義である!」
へっ。お綺麗なこって。窃盗、強姦、殺人、あらゆる罪に手を染めたと言っていたバディントは、嫌味ったらしく吐き捨てた。ぼさぼさと脂っ気のない髪と髭の隙間から、ぎらぎらと欲望に塗れた瞳が国王を睨め付けていた。
「第四十九代エテーネ王国ドミネウスの名において『黄金刑』の復活を宣言する!」
わっと歓声が湧き上がり、ドミネウス王を讃える言葉が口々に上がる。拍手は鳴り止まず、足踏みが地面を揺るがし、口笛が歓喜の音を引き裂いて響く。
じゃらりと後ろ手に手枷を繋いだ鎖が引かれ、現実に引き戻される。耳元に触れた生暖かい吐息は、笑い声を含んでいた。
「最高の眺めじゃないか。なぁ、レナート?」
声の主を確認しようとするが、両腕を引っ張るように鎖を強く引かれ胸が張って振り返れない。だが、女性の声に聞き覚えがあった。ゼフさんの店で再三魔法生物の破棄を迫った、指針監督官ベルマだろう。
恐らく魔法生物の破棄を妨害し、彼女の『時の指針書』の内容を遵守できなかった事を根に持っているのだろう。僕が異形獣を切り倒さなけば彼女こそ死んでいたんだけれど、彼女にとって殉死は望むところだったのかもしれない。
「ドミネウス陛下はどんな無価値なクズであろうと、眩い黄金に相当する価値ある人間に矯正する機会を与えてくださる。貴様には勿体無い御慈悲だ」
愉悦に歪む顔がありありと描けるような、ねっとりとした声。
やはり『黄金刑』は事実上の極刑なのだろう。この黄金の煮え沸る釜に飛び込んだだけで全身大火傷で死にそうだけど、それ以外に絶対に死に至るカラクリが存在するんだ。
背中にちくりとナイフの切っ先が当たる。刺されぬよう自然に足が前に出る中、僕を繋いだ鎖を持ったベルマの声が高らかに響き渡った。
「黄金の釜が汝に更生の輝きを見出したのなら、今一度汝を信じよう!」
しつこくて嫌われちゃう女、ベルマちゃん。
どうして忘れていたのだろう?
正義感が憎悪よりも恐ろしい暴力となって、心に深い傷を付ける事を…。
見渡す限り、人、ひと、ヒト。白い肌も、小麦色の肌も、日に焼けて黒い肌も、黒、茶、金と様々な髪の色も、全てが溶け合って大きく波打つ海のように眼前に広がっている。時折、舞台の上に並べられた罪人を見る為に跳ねる頭、肩車して一つ抜けた子供達。全く同じ色がない瞳は一様に熱狂に濡れて、大きく開かれた口からは僕らの死を望む声が迸る。
しかし、人々は僕達に傷つけられた訳ではない。人々の生命を脅かしたり、大事なものを壊したり、生活を損ねたり、彼らが害に感じる事は何一つしてこなかったと断言できる。目の前の人々の殆どと僕らは言葉を交わした事はないだろうし、下手をすれば僕らの名前すら知らないだろう。
共に処刑されるバディントも多くの罪を重ねて極刑が妥当なのかもしれないし、目の前の群衆の中にはバディントに苦しめられた者もいるだろう。だからといって命で罪を贖う以上の責め苦が、必要だとは思えない。
彼らは僕らが憎くて、僕らの死を望んでいるのではない。
僕らの死を望んでいるのは、ドミネウスというこの国の王だ。
王が断罪する僕らの価値は、この国の何よりも低い。人々は王が極刑を言い渡した罪人を裁くべきだと鵜呑みにし、無邪気な正義感を振り翳して無抵抗な罪人を言葉で殴打する。極刑が執行される罪人だ。死んで終えば報復の心配もない。だから心置きなく普段言う事もできない言葉を大にして言い放ち、理性が抑え込んだ鬱屈を晴らしているのだろう。投げる石があったら雨霰と降り注いでいたに違いない。
彼らは彼らで楽しいだろう。
だが、こちらはたまったものじゃない。
僕は傍に視線を向ければ、小刻みに揺れる青紫の髪が見える。その目は乾き切って硝子玉のようで、浅い息が戦慄く唇の間から出入りする。極刑で死ぬ恐怖ではなく、目の前の群衆が振り翳す正義感に打ちのめされている。暖かい故郷と優しい仲間達に囲まれ、困っている人に手を差し伸べる善良な心を、人々の無邪気な暴言がへし折っている。見ているだけで胸が締め付けられるような、痛ましい姿だった。ルアム君の瞳にまだ光が灯っていられるのも、魂が繋がる同じ名前のプクリポの励ましがあるからだろう。
少年の向こうに見えるプクリポは、怒りで赤いふわふわとした毛が逆立って一回り膨らんでいた。赤い瞳が映る者全てを焼き尽くさんと赤々と光り、食いしばる糸切り歯が口の隙間から覗く。傍に立つバディントも、哀れな少年を気の毒そうな顔で見ていた。
腹の底が冷えて、首筋から頭を貫かれ燃えるように頭が痛む。
時を渡れる彼らなら、今この瞬間にこの時代から離れる事ができるのになぜしない? 一体、彼らは何を成そうとしているのだろう?
広場に集まった群衆と、黄金が煮え沸る錬金釜を前にした処刑台を見渡せるバルコニーから、槍衾のように金色のトランペットが突き出された。雲一つないエテーネ王国の空を突き抜けるような音色が、高らかに響き渡った。白金の胸当てにエテーネ王国の紋章が施された豪奢な鎧を着込んだ儀仗兵が、バルコニーに立って民衆達に高らかに告げた。
「第四十九代エテーネ王国国王、ドミネウス陛下の御成である!」
はぁああああああいいい!!!!黄金刑事件後半!!!
ようやく書けた。難産が過ぎる。
ルアム君が冥王以降の新たなトラウマになりそうで、とっても可哀想。ナドラガンドは教団が敵対して、相容れぬ理由ゆえに死亡もある程度納得できたでしょうが、こんな悪意のない正義感でぼこぼこに殴ってくるの普通に良い気分ではない。私だったらエテーネ王国嫌いになってる。ゲームでよく許してもらったって流れにできるもんだな。あーん?って公式にガンつけちゃう(やめろ)
まぁ、これも全ては新しい職場で覚える事いっぱいなので、あっぷあっぷしている為です。最近とっても暑くて、西日がきつい自分の部屋は夜になってもなかなか冷えず、汗疹と相まって寝苦しい日々を強いられたりしますつらひ。来週梅雨が明けるだなんて、震えるしかないです。
そのせいでゲームのモチベーションが非常に低くて、Switchすら立ち上げられない重度です。
DQ10も新しいアップデートでストーリーが進んだはずなんですけど、やる気が起きません。海レースが来週に始まるらしいので、復帰するならそこら辺かなぁとおもってます。来週あたりに独り立ちを目指して動き出しており、大丈夫かなぁとか不安いっぱい。
(いや、さすが介護業界最大手。研修期間一ヶ月見てくれるので、教えるのとても丁寧。普通の介護現場なんか2日目くらいは教えた業務独り立ちなので。ただ、相当飲み込みが早いらしく、夜勤研修が前倒しになる予定である。利用者の名前も一日の流れも、まだ覚えきれてないんだが大丈夫か?)
一応、DQ9小説の通販も始まったんですが、自家通販の敷居が高いせいか反応はないので、のんびりとイベント準備を始めていこうかと思います。
拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!
2024/7/12 12:43の方>>
祝いのお言葉ありがとうございます!無反応ながらに新しい仕事であっぷあっぷして、全然実感が湧かなかったので、お言葉いただいて完成したんだって感動を改めて噛み締めています!
進捗も楽しんでいただけて何よりです! 分厚い薄い本、とってもボリューミーでお得感あって良いです!
ふぅと熱い息を吐き出すと、カーテンが開け放たれ燦々と日が差し込む窓辺へ目を向ける。
半年前、ドミネウス邸でお茶をしたのが遠い昔のよう。種族すら違う他人を兄と慕い、嵐のような不安の中で必死に希望の光を灯し続けた少年。穏やかな眼差しの奥に、時折雷光のような光が走る青年。あの時テーブルを囲んだ二人の瞳は、とても真っ直ぐで澄んでいた。
彼らはエテーネ王国の諍いとは、全く関係のない旅人だ。
時渡りの力を収集する異形獣を倒したレナートを、父は目的遂行の障害と捉えたのだろう。王立アルケミアから国王の指揮下の元異形獣が製造された、国王に引き渡された証拠を持ち出したルアム達を目障りに感じたのだろう。でも、理由なんて関係ない。彼らが父の野望の為に殺されようとしているのを、娘の私こそが阻止しなくてはならないのよ!
正攻法を好む弟は、まずはこの証拠を手に父を糾弾するだろう。ここに本物があるのは、取り上げられ隠滅されるのを防ぐ為だ。
父が素直に異形獣を封印し極刑を翻すとは、クオードこそ思ってはいない。
むしろ、この証拠が捏造されたものだと、この証拠そのものを否定しにかかるに違いない。エテーネ王国の裁判では、双方の『時の指針書』が行動の証拠として提出される。この場合ならヨンゲ所長の『時の指針書』にどれだけ異形獣の研究が王の命令であると書かれていても、王の『時の指針書』に異形獣の研究を命じよと書かれていなければ、どちらが正しいかという検証が行われる。
クオードは可笑しい話だと笑っていたわね。その者の行った行動が書かれた訳でもない『時の指針書』を証拠とするのは可笑しいと。
当然、検証は行われないでしょう。王立アルケミアの所長は既に亡く、エテーネ王国国王に向かって不正を正すなんて誰もできない。最終的に父がその証拠は捏造であると断言するだろう。下手をすれば、その証拠は発見者である異邦人達がエテーネ王国転覆の為に仕組んだ罠として、三人の国家反逆罪を正当化する要因にされてしまう。
父は絶対に極刑を翻さない。
でも、クオードはそんな無駄な行為を敢えてしようとしている。
これは陽動ね。
錬金術は完璧ではない。多くの民を処刑してきた『黄金刑』にも、何らかの欠点があるはずうよ。国王の目の光る状況では、その欠点を突く事はできない。
でも、流石に王の子供が王を訴えれば、王も臣下への体裁を繕う為に対応しなければならない。証拠を捏造と断言し、異邦人達に下した国家反逆罪の正当化に躍起になれば大きな隙が生まれる。クオードなら抜かりなく軍団長が国王陛下を糾弾するという噂を流して、王宮全体の注意を引き寄せてくれるだろう。その隙に『黄金刑』を回避する秘策を、施さなければならない。
制限時間はクオードが父に謁見するまでの間。
それまでの間に、『黄金刑』を回避する方法を見つけ出さなくちゃ!
にゃーお。
クロちゃんにそっと頬擦りされて初めて、自分の体と心が強張っているのを知った。あぁ、ダメね。チェス盤を挟んで向こうに座る弟に『そんなに前のめりじゃ勝てる勝負も勝てないわよ!』って言ったばかりだったのに。
私は可愛い猫をそっと撫でる。ごろごろと喉が愛らしく鳴った。
あぁ! クールなクロちゃんが、珍しく甘えん坊! やだ! とっても可愛いいわ!
「クロちゃん、私を応援してくれるの? ほら、もっと甘えて良いのよ!」
がばっと可愛い黒と白の猫を抱き寄せて、わしわし撫で回して、すりすり頬擦りする。腕の中で迷惑そうににゃーおと鳴いて、クロちゃんはするりと腕の中から抜け出してしまった。少し離れた所に座ると、おすまし顔で顔を掻く。
頬杖で潰れた頬が、にっこりと沈んでいく。
んもう。猫ってどうして、こんなに可愛いのかしら?
せっかくカッコいい軍師メレアーデ様も、最後のオチは猫バカで落ち着きました。