ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 オイラは氷の力を高めて、ヒャダルコの呪文を放つ。ぱきぱきと朝顔の花を咲かせ、蔓が空中にばら撒かれた扉の破片に絡みついて網目状に広がる。突然湧き上がった壁に、異形獣が一瞬だけ動きを止める。
 その一瞬で、ファラスのあんちゃんが黄金の雷光をまとわりつかせた二刀流を引っ提げて詰め寄った。ばちばちと爆ぜる黄金の光が、氷の朝顔に乱反射して眩い光で廊下を染め上げる。びりびりと空気を震わせ、渾身の一撃が異形獣に振り下ろされる。
 床が大きく揺れてヒビが走った次の瞬間、二階の床が崩落した!
 もうもうと舞い上がる埃が落ち着くと、黒くて硬い装甲を貫いて深々と背中に刺さった剣を引き抜き、あんちゃんが動かなくなった異形獣を見下ろしていた。滝のように流れる汗を拳で拭い、マローネママ様の無事を確かめようと窓へ視線を走らせた。視線が外れたのを見計らうように、ぴくりと、異形獣が身震いする。
「あんちゃん! まだだ!」
 はっと剣を身構えた体ごと、異形獣の尾があんちゃんを薙ぎ払う。一階の壁に激突し突き破ったあんちゃんに一瞥もくれず、異形獣は外へ視線を走らす。
 相棒! オイラが心の中で叫ぶと、相棒も即座に異形獣へ視線を向ける。転送の門へ向かうママ様の背中に叫ぶように言い放つ。
「振り返らないで、走って!」
 さっと弓を構えて矢を番えると、火打ち石を鏃にして爆弾石の欠片をつけた矢を放つ。異形獣には狙うべき急所がなくって、鎧みたいな硬い装甲が普通の矢を弾いてしまう。頭の良い相棒は異形獣の足元を狙って爆破させ、巻き上げた瓦礫を礫にして異形獣へぶつけた!
 さらに瓦礫に向かって矢を放ち、ちりっと走った火花が爆弾石を熱して爆発させる。至近距離でイオが炸裂する衝撃に、流石の異形獣も体勢を崩した。
 それでも、異形獣の足は止まらない。
 相棒は短剣を引き抜いて異形獣を迎え撃つ。瞬く間に迫った異形獣に短剣を振り下ろそうとしたけれど、開いた脇に尾が食い込んだ。相棒は大きく撥ね上げられて、お屋敷の白い花が咲き乱れる池の中に落下して水飛沫が上がる。
 相棒が水から浮上しようとするのを感じる。
 死にそうにないなら、マローネママ様と赤ちゃんを助けねーと!
 オイラは風の力を繰って二階から飛び出し、瞬く間に異形獣の頭上に迫った。異形獣の背中越しに、転んだママ様の背中が見える。赤ちゃんを守ろうと必死に抱きしめている背中に、異形獣が角を突きつけた。角から光が女の人に照射されると、ママ様が苦しげな声を上げる。
 異形獣はママさんを掴んでない。光から逃そうと引き摺ったら、オイラに標的が変わるかも!
 傍に着地したオイラを、ママ様は見た。
 ざらりと落ちたメルサンディの麦畑を彷彿とさせる髪の奥で、夜と朝の境の菫色の瞳が、太陽の光に灼かれるように燃えていた。まるでラギ雪原に取り残されたように震える体を叱咤して、女の人は胸に抱いた赤ちゃんをオイラに差し出しす。戦慄く唇が途絶え途絶えに、有無を言わせない強い意志を言葉にする。
「この子…を、お、願い…」
 熱い熱い、赤ちゃんの体温。それを受け取った途端、マローネママ様が、がくりと力尽きた。
 おんわぁ。おんわぁ。
 赤ちゃんの泣く声が、全ての音を押し退けて響いていた。

舞台ぶっ壊しで定評のある稲野です。
パドレア邸がびっくりするぐらいボコボコに壊されて、本当にすみませんって思う。エテーネ王国の国費で直してやってくれ。
マローネママ。語感がいい。

最初はもう少し先まで書こうと思ったのですが、蛇足が過ぎるかなぁと思ったのでこれでパドレア邸襲撃事件は終了としようと思います。

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

2024/06/20 12:23の方>>
プクに真っ先に反応してくれるの、アストルティアの冒険者さんなんですね! 辺境へ、ようこそ! プクの可愛いビビットが自分の塗りにマッチして、可愛さ爆増です!
裁縫も褒めていただいて、ありがとうございます! よそ様のうちの子や推しの子を可愛く表現できて、他の方にも可愛くみられて、嬉しい限りです!
ぱちぱちいっぱい、ありがとうございます!

 機械みたいな黒い体に赤い線が走る、王立アルケミアで遭遇した奴と同じ姿だ。
 オイラがサッと避けると、激突しそうになった壁に張り付き頭上に飛び上がる。そのまま車輪のように回転して振り下ろされる尻尾を、紙一重で避けた。標的をオイラに定めた異形獣を引き連れ、オイラは閉じた扉に向かって全速力で駆け出した。
 だけど、異形獣の方が早い!
 王立アルケミアは広い空間だったから撹乱も効いて逃げられたけれど、この狭い廊下じゃ逃げ場がない。オイラは背中から異形獣に突き上げられ、勢いそのままに扉を突き破った!
「おわぁああ!」
 木屑が飛び散った先は、吹き抜けの玄関広間だ。
 玄関だろう大きな扉が開け放たれ、逃げる為に集まっていた屋敷の人達が目を丸くしてオイラを見上げている。玄関扉から正面には階段があって、それが左右に分かれて二階につながっている。踊り場には赤ちゃんを抱いた女の人を背に庇った、ファラスのあんちゃんが異形獣へ鋭い視線を向けていた。
 吹き飛ばされたオイラは、そのまま玄関広間を照らす大きなシャンデリアにしがみついた。押し出される形で、大きな金属の輪と沢山のキラキラの石で連ねたシャンデリアが大きく揺れる。オイラは天井から吊るされた鎖に取り付くと、異形獣に向かって揺れるタイミングで鎖に爪を引っ掛けた。
 ぎぎっ。 ばぎん! 梃子の原理で歪められた鎖が、遠心力に引っ張られて千切れる。
 鎖が外れたシャンデリアが、異形獣の上に落下した! 二階の廊下へ続く扉周辺が崩落して、シャンデリアと異形獣が階段の真横に落ちていく。玄関前にいた人達が、悲鳴を上げて外へ飛び出していった。
 大きな音にびっくりしたんだろう。赤ちゃんが大きな声で泣き出した。
 鎖にぶら下がったオイラの思考の隅に、きらりと相棒の考えが翻る。
「ファラスのあんちゃん! 相棒がそっちの二階から逃がすって!」
 あんちゃんが素早く頷くと、赤ちゃんを抱いた女の人の背を押す。女の人は真っ白いお包をぎゅっと抱きしめて、緑のロングドレスを翻して異形獣から離れるように階段を登り始めた。シャンデリアの下から、異形獣が女の人の金色の麦の穂のような髪に顔を向ける。
「マローネ様、お早く! 立ち止まらないで、走るのです!」
 ファラスのあんちゃんが二振の片手剣を構えると、シャンデリアを押し退けて飛び出した異形獣に斬り掛かる。振り下ろした爪を受け流し、返す刀で関節の隙間に剣を差し込む。雄叫びのような気合を迸らせ剣が振り抜かれると、異形獣の片手が斬り飛ばされた!
 さっすが! 王立アルケミアで千切っては投げ千切っては投げって、無双した勇者様だぜ!
 鎖が無事な二階の扉に近づいたタイミングで手を離すと、丁度、相棒が二階の窓枠に足を掛けて赤ちゃんとマローネママ様を迎えている所だった。鉤爪のついたロープで窓を破りつつ、窓枠に引っ掛けて避難に使うつもりなんだ。
 相棒は赤ちゃんの泣き声に負けないよう、大声を張り上げる。
「こちらへ! 僕に掴まってください!」
 相棒が駆け寄るマローネママ様を抱きしめるように背中に手を回し、ママ様も赤ちゃんを抱いていない腕を相棒の肩に回す。しっかり密着して掴まったママ様を抱え、もう片手にロープを持って外へ身を投げ出そうとした。
 背後の扉が凄い音を立てて砕け、振り返ったオイラの体に破片が突き刺さる。
 異形獣がファラスのあんちゃんを振り切って、追ってきたんだ!

やばいやばい。
異形獣強すぎて、描写に息付く暇がない。あれか、パニック映画系な感じか。

うちの主人公であるルアム達はどうしても攻撃特化のつよーい主人公ではないので、こういう搦め手に強くなりますね。

 転送の門の安全が確保される少し前、ファラスのあんちゃんが硬い表情でオイラ達に言った。
『パドレア邸に同行してはくれまいか?』
 エテーネ王国の上にぷかぷか浮いてる浮島は、王国の大事な施設や王族のお家が建っているらしい。その一つであるパドレア邸はファラスのあんちゃんのご主人様である王様の弟のお屋敷で、ご主人様の奥さんと赤ちゃんが住んでいるんだって。あんちゃんが行きたがってた目的地だよね。
 どうして、一緒に来て欲しいんだろう? 首を傾げるオイラの横で相棒が口を開く。
『異形獣の襲撃があると、予想しているんですね?』
 あんちゃんが苦しげに頷いた。
『異形獣は時渡りの力を集める為に造られた魔法生物だと、王立アルケミアの資料から判明した。ならば、時渡りの力が強い者が標的にされると考えられる』
 エテーネ王国の人達が持ってる時渡りの力だけれど、王族に近い程、力が強いらしい。
『我が主パドレ様は現存する王族では最も強い時渡りの力を擁しておられた。奥方のマローネ様の力量は不明だが、御子息は父親である主の力を引き継ぎ、強い時渡りの力を持っているだろう』
『そこまで分かってんなら、王国軍に頼んで護衛を付けてもらえばいーじゃん』
 ファラスのあんちゃんが頭振った。後ろに流した砂色の髪が、さらさらと首筋を撫でる。太くて逞しい腕を緩く組んで、オイラ達に説明するように話し始めた。
 浮島への移動手段である転送の門は、強固な城壁でもある。結界が張られている為に飛行物体は入れず、地上と接していない為に侵入する方法は転送の門しかない。だからこそ、浮島の入り口となる地上の軍部区画では、転送の門の使用者に対し厳しい申請と審査が求められている。
 転送の門を使って浮島に上がれる者達は、一部の罪人を除いて身の清い者達ばかりだ。厳密な体制から、浮島には基本護衛となる軍人は配置されない。
『異形獣の被害が国内に広がりつつある今、護衛の申請は受理されるだろう』
 しかし。ファラスのあんちゃんが、ぎゅっと眉間に皺を寄せる。
『時渡りの力を集めているのは、ドミネウス国王陛下だ。軍団長を務めるクオード様がどんなに優秀な護衛を配置してくださっても、いくらでもやりようはある。マローネ様と御子息様の安全確保には至らん』
『どうするんですか?』
 相棒がわからねーんじゃ、オイラが分かる訳ねーよな。
『先ずは自分がマローネ様と御子息様の元へ、向かわなければならない。不眠不休でお二人を守る覚悟が、自分にはあるのでな!』
 ふみんふきゅーって、オイラなんか徹夜一回しただけで立ったまま寝ちゃうぞ。それでも、ファラスのあんちゃんのカラッとした笑顔が、マジで『一睡もしなくたって守り続ける!』って決意を感じさせる。
 それに最初は辺境だけだった異形獣の被害が、大きく大胆になってきている。閉鎖された浮島の出来事だから知れ渡ってないけど、王立アルケミアの研究員全員を口封じに殺した事が知れ渡るのなんか時間の問題だ。転送の門が開放され異形獣を送り込めて、ファラスのあんちゃんが守りたい人達の側に守ってくれる人がいない。ファラスのあんちゃんの余裕のない焦りを見てると、今が一番あぶねーんだろうって思うんだ。
『国民ではない旅人の其方らに頼むのは心苦しいが、正規の手続きを踏んで軍人達を動員する時間が惜しい』
 頼む。腰を直角に折って下げられた頭を、オイラ達は二人がかりで起こした。ここまで来たら、最後までお付き合いするってーの!
「絶対守るから、安心していーぞ!」
 オイラは不安そうな侍女の姉ちゃんに、にっかりと笑って言った。力が抜けた指からするりと手を抜くと、少し前まで赤ちゃんとママ様が幸せに過ごしていた部屋を飛び出す。
 日差しと影でくっきりと二分された世界に、ぬるっと異形獣が現れる。廊下に立つオイラを認めると、異形獣は頭を下げて前のめりになると凄い速度で突撃してきた。

状況説明だぜ!

 王様の弟が暮らす家にしては、静かで質素だった。
 こじんまりとした二階建ての家は、古めかしい遺跡みたいな煉瓦造りの壁に蔦が這っている。家の前には大きな湖が広がっていて、一面に白い花が咲いて濃い色の空に光っているみたいだ。玄関横の庭園は自然な感じに手入れされていて、心地よい木陰には木から吊るされたブランコが揺れている。穏やかで心地よい時間を過ごすために、心が砕かれている印象だ。
 心配が杞憂だったと、ファラスのあんちゃんは硬い息をゆるりと吐き出した。
 ちょろちょろと水が流れ、さわさわと木々の葉っぱが擦れる音が広がる世界に踏み出そうとした瞬間。何かが落ちて壊れる大きな音が、オイラ達の安堵を打ち砕いた。
「…っ!」
 ファラスのあんちゃんが矢のように屋敷に向かって駆け出す。ラチックのあんちゃんみたいに筋肉ムキムキなのに、ダッシュランみたいに早いのな! オイラも相棒に短く目配せして、バギの力を繰ってファラスのあんちゃんを追い抜いた。
 お屋敷を左手に見つつ、転送の門から玄関に伸びる煉瓦が敷かれた道を走る。一階の窓が割れる音がして、女の人の悲鳴が上がる。オイラは玄関に向けた足をぐっと地面に押し付けて、バネのように方向を変えた。お屋敷の壁伝いに植えられた花々を超えて、メラのように割れた硝子に飛び込むと、腰が抜けた侍女の姉ちゃんと爪を振り上げた異形獣の間に出る。
「立って走って!」
 両手に装備した爪を交差して、異形獣の爪を受け止める。
 それでも力の強い異形獣の攻撃を止めるなんて、空中に浮いた状態じゃ無理だ。床に叩きつけられる直前に練り上げた強風で、異形獣の爪から逃れて足の間に滑り込む。そのまま尻尾に足を掛けて背後を取ると、頭にひゅるんと伸びた角に爪を叩き込む。びぃいいん。一撃に細長い角が震えて、異形獣の動きが止まる。
 その隙にオイラは階段を駆け上って、二階の部屋にいる姉ちゃんに追いつく。
 甘いミルクの匂いがする円形の部屋の真ん中には、可愛らしい星のモービルが吊るされていて、木製の揺籠が微かに動いていた。揺籠の中にはふかふかのクッションが敷き詰められて、寝ていた赤ちゃんの形に窪んで温もりが残っている。侍女の姉ちゃんが黒いロングスカートを捌きながら、隠れられそうなソファーの裏を覗き込んでホッと安堵の息を零す。
「マローネ様は御子息様と逃げられたのね」
 まだ湯気が立っている紅茶の横には、赤ちゃんの成長を細かく書いた日記がある。几帳面な綺麗な字で、絵もとても上手だ。可愛らしい赤ちゃんの笑顔の絵や、小さい手形や足形を取った紙が日記に挟まれて、マローネママ様がとっても赤ちゃんを大事にしているのが伝わってくる。
 ほんわかしてる場合じゃない。
 オイラの耳が、階段を上がってくる異形獣の足音を捉える。じゃり。じゃり。鋭い爪が絨毯にめり込んで、その下の床板を引っ掻く音が這い上がってくる。オイラは侍女の姉ちゃんを引っ張って、部屋の扉から一番遠い物陰に押し込んだ。
「オイラが囮になる。その隙に逃げるんだ」
 立ち上がって扉に向いたオイラの手を、姉ちゃんが掴んだ。必死な顔で、ぎゅっと強く手を握ってくる。
「マローネ様と、御子息様を、守ってください!」
 ファラスのあんちゃんの心配は、的中ってわけか。


弱かろうと現場に一番で駆けつけるルアムは良い子だなって思う。
今回は短めの4話構成でお送りしまっす。

 最大出力の閃光を放った事で壊れた『星華のライト』から、光が失われていきます。もう、私の前にはキングリザードの駒も、真っ二つに割れた盤と底なしの亀裂も、山のように巨大なメレアーデ様の姿もありません。転送の門の丸みを帯びた壁面と、ザグルフを含めた行方不明になっていた人々が眠っていました。
 ここは王都キィンベルの転送の門でしょう。戻ってこれたようですね。
 眠る人々の真ん中で、ランプを抱えた女性が座り込んでいました。アルケミアの研究者が好む白いローブの上に、美しい銀髪が流れるように落ちている。美しかっただろう面影はあれど、その顔はやつれて髑髏に白い皮膚を被せたようでした。
 ランプには美しいステンドグラスのガラスが嵌め込まれています。森のステンドグラスの光が当たった壁には、遥か海を超えた先にあるエルフの神エルドナの大陸に聳え立つ世界樹がそこにあるかのように映し出されています。美しい海のステンドグラスの先にはエテーネ王国の近海では決して見ることのできない美しい真っ青な海と空が、真っ白な雪原のステンドグラスには雪原と夜空に浮かぶオーロラが、まるで窓の向こうの景色のようにそこにありました。
 レイミリア幻想機。
 かつて、王立アルケミアにはレイミリアという所長がいました。彼女が研究していたのは、使用者の思念を投射するというもの。この研究が実を結べば、使用者の経験を他者に己の事のように追体験させる事ができるようになっていたでしょう。
「レイミリア様」
 私はランプを抱く女性に歩み寄る。身を強ばらせ、壊されまいとランプをキツく抱き締めるレイミリア様の前に、私は膝を折って目線を合わせました。ランプに額を押し付け、白い頭皮と銀の渦が生み出す旋毛を見据えます。
「貴方の研究成果は、貴方が満足する結果には程遠いものだったかもしれません」
 使用者の思念を投射する。
 『星華のライト』の閃光は、使用者の思念を驚きと眩しさで染め上げました。そうして生まれた綻びのお陰で、私は思念の主であるレイミリア様に対峙する事ができたのです。
「しかし、レイミリア様の幻想機を使えば、病床から起き上がれない病人に広い世界を見せる事も、愛した人を亡くした苦しみにもがく者に再会の機会を与える事すらできるでしょう」
 私はレイミリア様の手に、そっと自分の手を添えた。冷たく氷のような手でした。
「レイミリア様。貴方の研究はとても素晴らしい」
 そっと、萎れた花が水を吸ってもたげるように、才色兼備をほしいままにした女性の顔が上がりました。今まで金食い虫と罵られた研究を素晴らしいと褒められ、呆気にとられた無防備な顔にさっと朱が走るのを、私は美しいと思いました。
 レイミリア様は、アルケミアの所長としては不名誉な退場を強いられていました。多額の費用を投じても成果が出なかった責任を取って辞任をしたのです。
 結果の出ない研究を続ける苦しみを、完成させたいという執念と願望を、私はどんな才能溢れる錬金術師達よりも理解できると言い切りましょう。不要と切り捨てられた絶望を、顧みられない孤独を、私はレイミリア様と同じくらいに知っています。
 こんな私だったから、レイミリア様のことを知っていたのです。
 クオード様。私は、私を救ってくれた生涯の主を想う。
 貴方が私に手を差し伸べたように、私は彼女を救う事が出来るのでしょうか?
 私の問いに主は微笑んだ。いつも気難しい顔で眉間に皺が寄っているけれど、姉上様とご一緒の時は常に、忘れた頃に時々私達臣下に向けてくださる笑み。その笑みが私達の存在を受け入れてくれていると、私達を信じていると実感させてくれるのです。
 私はレイミリア様に尊敬の念を込めて、微笑みかけました。
「このような素晴らしい研究を完成してくださり、ありがとうございます」
 レイミリア様の瞳から大粒の涙がこぼれ、大きな口を開けて天を仰いだ。幻想機の光を透かした涙が、彼女の苦悩に満ちた人生を映し出す。次第に彼女の家族だろう父と母の姿が、故郷の小さい村が、エテーネの空が映し出され、最後は何も写さなくなった。
「貴女の研究を、私が責任をもって正しく使いましょう」
 私は幻想機を受け取り、レイミリア様に誓いました。


っしゃああああ!!!!
転送の門閉鎖事件完走でっす!!!!

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