ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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「破滅の未来が存在するとして、未来を変えられると思うかね?」
 そう問われて、私は専門外ながらに頷いた。
 なにせ、エテーネ国王は時見の神殿で未来を見るし、『時の指針書』には持ち主の未来が書き込まれる。大きな天災が訪れようと、この国ならば天災を退ける事など容易いと思うのは私だけではないだろう。
 しかし、ドミネウス王子は頭降った。
「破滅の未来を視るのは容易い。それは巨大な可能性として、今と未来の間に横たわっているからだ。重要なのはその横たわる破滅の未来を、いかにして避けるかだ」
 私は相槌を打った。真っ黒い雷雲が迫れば嵐が来ると誰もが分かる。その嵐をどうやって、やり過ごすかを見極めるのは難しいのだろう。頑丈な家に閉じこもって嵐が過ぎ去るのを待っていても、土石流が家を飲み込み死ぬかもしれない。巨木に落ちた落雷が森を焼き、逃げ場を失うかもしれない。人々がどの未来を選べば安全に嵐を越せるかを『時の指針書』に記す為、王族達は未来へ目を凝らし王国を導く義務があった。
「余は破滅の未来から王国を守ろうと、時見に挑んでいる」
 しかし。王子の厳しい顔が悲しげに俯かれた。
「余、一人では見えぬ。より多くの力が必要なのだ」
 なるほど。私はドミネウス王子の求めるものを理解した。
 実は研究の中でエテーネ王国の民だけに宿る、魔力因子が存在する事を突き止めている。同じレンダーシアの人間でも、エテーネ王国の民でない者には存在しない。王族に近ければ近い程に魔力因子は強く、辺境の村の子供ですら弱くとも持っている。
 エテーネ王国の民だけが持つ特別な力。
 それは時渡りの力と呼ばれている。
 最も身近なものは私達の未来を示す『時の指針書』を書く為、未来を覗き見る時見だ。この時見の精度を上げるのに、エテーネ王国の全ての民を招集するのは難しいだろう。しかし、この魔力保管の技術と、その魔力から時渡りの力だけを抽出出来れば、王子の望む破滅の未来を変える道筋を見出せる助力になるかもしれぬ。それを、王子は望んでおられるのだ。
 私は無力に打ちひしがれる王子を励まそうと、殊更声を明るくしていった。
「このヨンゲも、微力ながら王子のお力になりましょう!」
 王子は驚いたように目を見開くと、ふっと目を細めて微笑まれた。
「うむ。其方の研究が実を結ぶ事を期待しておるぞ」
 差し出された大きな手を、私は両手で捧げ持った。『時の指針書』にも研究に邁進すれば良い成果が結ぶと書かれた私は、研究に没頭していったのだ。

まだ名前だけだったドミネウスさん登場でっす。
割とドミネウスさんの目的って、登場した時言って終了だったので前出しします。良い目的だと思うし、王として頑張ってたんだと私は思ってますよ。

 気力を奮い立たせ、粘着く血を引き剥がす。足元はとても重量のあるものが踏み締めて、階段と錯覚するような凹凸を作っている。この先にある先進研究区画は研究員の少ない行き止まりで、死体の数は減り、錬金術研究所の頂点に相応しいあるべき姿を残していた。
 天井から吊るされた荘厳な光を放つ照明は、一日を通して窓もない空間でも昼間のように施設を照らしていた。壁は壁紙を引き剥がし頑丈な土台であろう石壁が剥き出しになる程に、数え切れぬ鋭い鉤爪が深く刻み込まれている。研究棟の寄木細工の床は鏡のように滑らかで、威光を示すような豪奢な装飾された壁が堅実の美を引き連れてそそり立っている。柱の間に並ぶ培養液を満たしていた水槽は、尽く破壊され鋭い牙のように残骸を尖らせる。床は培養液が乾いて成分がゼリー状に残り、表面を覆う油の膜が照明に七色に照っていた。
 錬金術師なら憧れる頂点。
 魔力や体力を譲渡する術に秀でていた私は、故郷では錬金術師というより名医として知られていた。様々な薬を生成する錬金術師が、医師に従事するのは珍しくない。しかし、私は薬だけではなく、譲渡する魔力や体力の質で薬の効果を高めるという手法で一つ抜きん出ていたのだ。『時の指針書』に王立アルケミアで研究を行うべしと書き込まれた時、両親は涙を流して喜び、故郷の人々は両手を上げて盛大に送り出してくれた。
 若かった私は希望を胸に、エテーネ王国の頂点へ足を踏み入れた。
 待っていたのは厳しい現実だった。
 エテーネ王国から選りすぐった錬金術師達は、皆が皆、優秀だった。私の研究は華々しい成果を齎す研究から程遠く、時期所長と期待されたワグミカは特に優秀だった。王立アルケミアの隅の研究室に閉じこもって、医師業の傍でしていた魔力や体力を保管する研究に明け暮れたが虚しいばかり。それでも、魔力や体力を物質などに保管し必要な時に誰でも取り出せれば、人々が直面する多くの危機を救うだろうと確信していた。一度、ワグミカと議論を交わした時『良い研究だ』と同意してくれたのを今でも覚えている。
 鬱々とした日々の転機は突然訪れた。
 当時エテーネ王国第一王位継承者だった、ドミネウス王子が王立アルケミアを視察なされたのだ。王族の視察は定期的に行われていて、王子が来る事も特別ではなかった。王立アルケミアは年に一度その成果を王宮に報告する義務があり、大きな成果は王都で国民に向けて披露された。王族が時見の結果から注力すべき研究を命じる事もあった。
 青紫の髪をゆるく首元で纏めた、アルケミアの錬金術師達が檜の棒に見える偉丈夫だ。端正な顔立ちは厳しいが、将来の王のお顔と見れば相応しい威厳さを醸していた。
 そんな王子が私の研究室に足を運び、『素晴らしい』と喜びを露わにした。
「これぞ、余が求めた栄光の未来へ至る力」
 激励に感動した私に、王子は熱く語り出した。

まあまあ、ヨンゲさん、根っからの悪人じゃないってことで。
ワグミカさんが忠告であれ助けようと思って手紙を出すくらいだから、志は真っ直ぐだったんだろうなぁと。

 こんなに走った事など、生まれて初めてだ。
 樽宛らに蓄えた腹の贅肉が、走る毎に上下に激しく揺れて膝に伸し掛かり激痛を走らせる。四十肩の痛みに満足に触れぬ腕を、水の中でもがくように振って少しでも早く進もうとした。しかし、尻から太腿にへばりついた肉は砂を詰めたように重く、私に座って休ませようと限界をちらつかせる。肉をまとった首は顎と胸を繋げ、隙間に流れ込んだ汗を集めて滝として下半身に向けて放流した。心臓はこれ以上もない程に激しく脈打ち、豊満な胸を小刻みに振るわせた。王立アルケミア所長である、このヨンゲの優秀な脳を血流は潰す勢いで揉んでいる。
 はっ。はっ。熱い息遣いが空間に響いている。覚束ない駆け足で激しく揺れる視界に映るのは、エテーネ王国の叡智が集う場所とは思えぬ凄惨な空間だった。
 天使の羽で織られたと評判の極上の柔らかさを持つ絨毯は、夥しい血を吸って乾き、最早、廃墟に放置された床板のようにガタガタと波打っていた。壁は芸術家が真紅の塗料をぶち撒けたように、芸術的な線で彩られている。
 床に転がっているのは、王立アルケミアで研究をする事を許された栄誉ある錬金術師達。ある者は胴体を切断されて絶命し、ある者は手足を断たれて失血して息絶え、ある者は踏み潰されて体がひしゃげた後も通路の真ん中にいた為に細かな肉塊と成り果ててしまった。
 息を吸えば口の中に血が溜まるような、濃厚な血の匂いで溢れかえっていた。
 どうして、こんなことになった? いや、理由は分かりきっている。
 口封じだ。
 王立アルケミアで研究されていた戦闘向きの魔法生物が残されてさえいれば、全滅は避けられただろう。しかし魔法生物を取り上げられてしまえば、錬金術師は魔力に優れた魔法使いだ。身体能力は優れてはおらず、距離を詰められ攻撃されれば抵抗できずに致命傷を負う。魔力が尽きれば赤子と変わらぬ。
 魔法生物の破棄を強いたのも、研究者達を皆殺しにする為だったのだ。
 私はどこの研究棟の錬金術師か知れぬ手を踏んで、大きくよろけた。所長である私を煩わせおって! 罰として手を蹴り飛ばすと、勢いよく壁に激突した。
 想像以上に大きな音がして、私は体を硬らせた。ずずっと建物が揺れ、窓硝子が音を立てて軋む。
 恐らく、最後の抵抗をしている研究棟で戦闘が始まったのだろう。私達を襲撃している連中は大きな物音に惹きつけられているようで、先進研究区画に向かう廊下は耳が痛くなるような静けさだった。先進研究区画から証拠を回収し、所長室から逃げ出すのだ。転送装置が生きていれば、先進研究区画から所長室に飛ぶ事が出来る。この先にある扉に飛び込んで閉鎖できれば、私の勝ちだ。精々、派手に暴れて注目を集めてくれたまえ。にまりと笑みが浮かぶ。
 アルケミアの研究者達を皆殺しにし、全てを闇に葬るつもりなのだろう。
 だが、私が生き延びれば全てが水泡と帰す。
「何が何でも、生き延びてやる!」
 そして全てを明らかにし、計画を台無しにしてやるのだ!


王立研究所惨殺事件編が始まりました!
前後編で、前編はヨンゲ所長です。卑しい感じを頑張って出しています。

 一枚の手紙を囲んで頭を突き合わせる大中小の影を見遣っていると、背後からヒヒッと声が漏れました。
「彼らがアルケミアの錬金術師を連れてきてくれれば、僕らが転送の門を修繕できませんでしたって書き連ねられる事はないね。よかったよかった」
 明日から気兼ねなく、家族にふわふわパンケーキが焼けるよ。そう嬉しそうに語るルオンに、私も口元が和らいでしまいます。リンカの元に新しい魔法生物の注文が殺到しているとはいえ、この店が傾いて良い事など何一つありませんからね。
 ねぇ、兄さん。ルオンが隣の部屋から声を掛けてくる。
「覚えてる? 魔法生物破棄が言い渡されたのは、軍団長が遠征に出て間も無くの頃だって…」
 えぇ。私は小さく頷きました。
 クオード軍団長が王都に滞在していれば、今回の強引とも言える魔法生物の破棄騒動は起きなかったでしょう。魔法生物の破棄が『時の指針書』に書き込まれたのは、反対するだろう軍団長が長期で王都を開ける頃合いを見計らったかのようだったのです。
 ルオンの言う通り、タイミングが良過ぎたでしょう。
「ベルマ達はシャンテの破壊が目的だったそうじゃないか。『時の指針書』に書かれていたからって、異形獣に影響を与える存在を無きものにしようとしたんだろうね」
 レナートが辺境警備隊詰所で遭遇した異形獣を、ベルマ達は使役しています。指針監督官は軍部の特殊部隊とはいえ、異形獣の爪は王国の内部にまで及んでいるのです。
 しかし、異形獣に影響を齎す魔法生物を予見しておきながら、シャンテそのものを特定する事はできなかったのは何故なのでしょう。
 異形獣の被害にあった兵士達、そして今回転送の門で失踪した人々の『時の指針書』には、自分の身に降りかかる未来の事について何も記されていなかったそうです。
 不鮮明な『時の指針書』。
 未来が見え、最善の未来を選び取ってきたエテーネ王国が揺らいでいるように見えました。
「異形獣がエテーネ王国に生息する魔物の変異種じゃないなら、魔法生物である可能性が高い。大きければ大きいほど、強ければ強く、素早く動ければ動けるだけ、優れたものにするのは個人じゃ不可能だ」
 人型の魔法生物という奇跡の産物であるシャンテでさえ、人間よりも非力です。ただし、彼女は戦う力のないシャンテを目指して作られているので、力がなくても早く走れなくても問題はないのです。しかし、人型の魔法生物の技術が確立したとしても、力の強い兵士を生み出すとなると途方もない予算と労力が必要になるのです。それはどんな形の魔法生物にも当てはまります。
「ワグミカ女史が辞表を出したのは、異形獣の研究を拒絶する為…?」
 彼女は錬金術が人々の生活をより豊かにすることに、誇りを持っていました。そんな女史が錬金術を捨てた原因が、人々を死に苦しめる錬金術を拒絶したからでは? 『時の指針書』を焼き捨てたのは、『時の指針書』に異形獣の研究をしろと書き込まれていた? 酒を喰らい心身共に摩耗していく事で、女史が絶対に加担できない状況を生み出しているとしたら…。
 女史の次に所長に就任したヨンゲ。
 ワグミカ女史が俗物と呼ばわるのには、何らかの理由があるのでしょう。例えば、異形獣の研究をする代わりに、錬金術師最高の栄誉である所長の座を与える…と唆されたとか。
 しかし『時の指針書』に、王立アルケミアの所長に就任せよと書かれていたでしょう。誰がどんな好条件をチラつかせても、『時の指針書』に書き込む事はできないのです。
 ただ一人を除いて。
 時見の神殿にて『時の指針書』の書き換えを行う、時見の祭司以外には…。
「この問題は、この王国の最も高い所まで及んでいるのかもね」
 ルオンが向けている疑惑へ、私も目を向けた。遥か高みから光のごとく降り注ぐ、未来への啓示。一体、この国で何が起きようとしているのでしょう。
 腰の鞄に収められた『時の指針書』が、重苦しい鎖のように感じられたのです。


うわわああああ!
考察勢が火を吹くぜ!!
のんだくれなワグミカ女史の新たな見方!!!!!そうだな、そんな見方もできるよな!!!!
べろべろで手がぶるぶるじゃあ、どんな優秀な錬金術師も役立たねぇや!になるよな!策士!!!!!!モモンタルたんが見捨てない気持ちがよくわかるぜ!

 うむ。立ち上がって棚を見据えたファラスと、再びカウンターに乗り上がってぶらぶらする足を待っていたかのように、棚からヒヒッと笑い声が聞こえました。
「転送の門の原型は、錬金術師の祖ユマテルが生み出した技術だ。それを発展させ、改良を加えた最新の状態がキィンベルの軍部区画に置かれた転送の門なんだ」
 つまりね。棚は勿体ぶるように、間を開けます。
「型が古いものは機密の問題から技術の凍結か破棄かされるんだけど、錬金術は完璧ではないという前提から、必ず同じ条件で再現できるだけの資料が残っているんだ。王立アルケミアなら、いつでも再現できる。そして再現された一つが、所長の特権の一つ『秘密の通路』なんだよ」
 『秘密の通路』というだけあって本来は秘密であるのですが、最近はヨンゲ所長のせいで公になってしまったのです。ヨンゲ所長は非常に目立つのがお好きな方で、酒場で気に入った娘に甘く囁かれれば、国家機密すら喋ってしまうような所がありましたからね。
「では、秘密の通路を使えば王宮へ行けるのか?」
 前のめりになるファラスに、私は緩く首を横に振る。
「秘密の通路と呼ばれるそれは、王立アルケミアと歴代所長に与えられた邸宅を繋いでいます。王宮に行く事はできませんし、アルケミアの機密を守る為に誰もが使える訳ではありません」
 しかし。私はきょとんと見上げるプクリポさんを示します。
「先代所長ワグミカが現所長ヨンゲの元へ行くよう指示したのなら、彼らなら秘密の通路を通る事ができるでしょう」
 そうそう。棚は同意して引き攣った笑い声を漏らしました。
「彼らに王立アルケミアの錬金術師を連れてきてもらえれば、転送の門を直してもらって王宮に行けるようになるよ」
「なんという名案!」
 ファラスはその大きな手をプクリポの脇の下に手に入れると、軽々と持ち上げてしまいました。軽々と天井に舞い上がった赤を受け止めると、ぐっと伸びた手に高々と掲げられる。道が目的地へ繋がった喜びに、驚きに目を白黒するプクリポの様子など気がつかないでしょう。
「ルアム殿! このファラスも、同行させてもらう! こう見えて、腕には自信があるのだ! 」
「え! あ! 待って! 相棒の意見も、き、聞かな、わわっ!」
 勢いよく振り回されては、元気に跳ね回る種族でも目を回してしまうのですね。あいぼーう! 悲鳴がぐるんぐるんと振り撒かれる中で、入店を告げるベルが鳴ったのです。
「兄さんったら、そんな大声出さなくても聞こえるよ」
 ファラスの身に染みついた剣士としての、動きだったのでしょう。ぴたりと動きを止め、反撃出来るように肩幅に開いた足に力が籠もる。すっと素早く巡らせた視線が入り口に立つ少年へ向けられると、後ろに撫で付けた髪から、一房がはらりと額に落ちる。
 背に背負った弓が歩く度に背で跳ね、腰の矢筒からざらざらと矢が動く音が聞こえます。森の緑に溶け込むように染色された原始獣のコートが、高度な文明に臆する事なく堂々と踏み込んできます。ふんわりとした髪の輪郭が朝露に濡れたラベンダーの色の線を描き、逆光に沈んだ闇の中から双眸が煌々と光っていました。店内のまろやかな明かりに闇は叩き落とされ、小麦色の健康的な少年が立っていました。
 ファラスの手から液体が滴るように抜け出した赤毛が、少年の足にしがみつきます。あいぼーう。情けない声に、少年は呆れたように一つ息を零して優しい笑みを浮かべました。
 どんな強敵にも事態にも臆さぬファラスが、ぎこちなく少年に向き合いました。喉の渇きに喘ぐように唇を戦慄かせ、一つの名前を囁いた。その囁きに少年は笑みを深めた。
「はい。僕もルアムです。初めまして、ファラスさん」

あぁー。あからさまで技量のなさを感じるー。

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