ハコの厚みはここ次第!
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■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
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雲の平原の彼方に光る繭がある。
てっぺんの星が灯る暗い空から星を紡いだみたいに糸が伸びて、雲の上で巨大な繭を吊り下げてるんだ。暗い空から雲の平原まで紺色から水色にグラデーションしていく綺麗な空に、冗談キツいコラージュみたいに浮かんでる。接近したダズ兄の影が落ちる繭の糸は、一本一本が世界樹の枝くらいの太さがあった。
あの分厚い雲の下は吹雪いてるってんだから笑えねーよな。
「嫌な臭いだな…」
硬く目を閉ざした瞼をぎゅっと瞑って、眉間に皺を刻みながらダズ兄は吐き捨てた。ダズ兄の夜を溶かし込んだ角にしがみ付いていたオイラは、ダズ兄の虹色に光る銀色の鱗に視線を向ける。ダズ兄の鼻先が少しだけ上を向いて、息を吸い込んだのか膨らんだ。
「幾つもの生き物の匂いがする。ナドラガ様の匂い、魔族の臭い、生き物のニオイじゃねぇものも混ざってる。生き物なのか疑わしいってのに、心臓の音だけがしっかりと聞こえていやがる」
一体、繭の中身ってなんなんだろう?
オイラはくりんと首を傾げたけど、中身が何かなんて誰もわかんない。滅びの未来を見た相棒も、繭の中身を見る前に危なくて逃げてきたって話だからな。
ダズニフ殿。オイラを抱え込むように座るエリガン先生が、ぐいっと前のめりになる。
二人してゲルト海峡の勇気の儀式に使う縄を命綱にしてダズ兄と繋がっているけど、めちゃくちゃ高いから尻尾が縮こまっちゃうよ。ピュアスノーリリーな髪にオーガとは思えないハニーフェイスなのに、魔物が闊歩する遺跡に調査に行っちゃうガッツのある先生だ。ガノのじっちゃんも、エテーネの事を教えてくれたヒストリカ先生も、考古学者って活動的なんだな。
「ナドラガ神の力もあの繭に加わるとして、どんな力が想定されますか?」
繭と異形獣、そして黒い服を着た剣士がセットで現れるから、剣士が異形獣を使役する事で厄災の力を回収し繭の成長に用いるんじゃねーかって話だ。不死の力はグランゼドーラの王様が壊したから獲得できなかったけど、竜の神様の能力は得てるんじゃないかってダズ兄は言う。
「俺達にとって最悪な展開は、長き封印で心臓と結合しちまった創世の霊核だな」
ダズ兄の声が強風に勢いよく飛ばされていく。
「このアストルティアを創造したという神器だ。なんでもできる。だが、獲得しようって能力が不死や強制退化なんて希少で強力なものばかりだ。獲得した力を行使できる器の生成に、使われる可能性が高いと考えてる」
じりっと空気が熱を帯びる。
オイラが視線を落とせば、ガートランドの緑は消えてオルセコの赤銅色の荒野が広がり始めていた。ルミラ姐さんが来た頃は珍しい小雨が降っていたが、快晴の日は岩肌が太陽を反射して灼熱の大地になんだって。その過酷さは日中の砂漠並みで、オーガも弱音を吐く程らしい。陽射しに灼かれてじりじりぎらぎら。雪を落とした空っ風が、熱をこれでもかと焚きつけてくれる。
汗が目に入ってしぱしぱする視界の中で、ぐにゃぐにゃにとろけた剣が見える。
大きさ的に暑くて幻見てるかと思っちゃうけど、きちんと現実に存在してる大きな剣の形の岩だ。オルセコ高地に聳え立つ巨岩の中で、剣の形をしている旅人達の目印だ。丘みたいな斜面を土台に伸び上がる剣の岩からは、すり鉢状になったオルセコ高地の荒野を一望できた。
ダズ兄がひらりと降り立つと、先ずオイラ達は命綱を外して竜の背から降りる。
銀の竜は月の光みたいな柔らかい光に包まれて小さくなっていく。汗ひとつかいていない銀の鱗に黒い髪がふわふわと落ちる。大きな布を巻き付ける竜族の伝統衣装が、ダズ兄の筋肉質な体の線を浮かび上がらせたり熱風を含んで膨らんだり大忙しだ。鱗が覆う手が燦々と降り注ぐ太陽に向けて広げられると、口を開けて大笑いだ。
「あったけぇ! 良い天気だな!」
うへぇ。オイラ無理。もう、暑くて頭がぼんやりしてくる。
くらくらしてるオイラの前で、炎の民がきびきびと動いている。がごんと大岩を退かして ぽっかり開いた涼しげな闇に、先生はオイラをすっと入れてくれた。ひんやりとした空気が、水に飛び込んだようにオイラを包み込んでくれる。
すずしいー! 気持ちいい!
ダズ兄はくしゃみひとつしながら入ってきて、闇の中を見渡すように首を動かした。石畳が敷かれた灯りがないだけの神殿みたいな綺麗な空間で、薪や火打ち石などが揃っている。樽には未使用の松明が数本立てかけられ、焚き火の跡や、野営した名残が所々に残ってる。
先生が手慣れた様子で松明に火を灯すと、奥に続く階段が照らされた。
「ここは古代オルセコ王国の王族の墓所であり、オーガ族の聖地の一つです」
はーい!一週間くらいぽつぽつと拍手を頂いたので、そろそろ上げるかぁ!!!と復帰してまいりました。直近あたりの拍手は、たいっつーでカービィ小説のリンクを上げたからです。やっぱり支部にも流しておくもので、読んだことありました!大好きです!って告白されちゃあニコニコがとまらねぇな!!!ってなります。
拍手に感謝!皆様の拍手に推されて帰ってきたぜ!ぱちぱちっと拍手ありがとうございます!
ゴルガーレンがコドランの優しいミルクのような白いお腹の前に、黒い壺を置いた。白い雪原に穿たれた穴のような壺にゴルガーレンが手を翳すと、壺の中から白銀の輝きが溢れ出す。輝きは矢のように上へ飛び出し、パッと弾けて雪のようにコドランの頭上から降り注いでいく。
白銀の結晶体が赤い鱗に触れると、触れた場所が真っ白く輝いていくの。
本当に人間になっちゃうのかしら! 私は高鳴る胸を押さえながらコドランの変化から目を逸らせずにいた。
仰け反っちゃうくらい大きな体が、雪が溶けるかのように崩れてくる。一瞬翼かと見紛う大きな鰭は、くしゃくしゃと萎んでいってずんぐりとした横幅と一体化した。英雄譚に見るようなドラゴンにしてはずんぐりと大きい輪郭は、今や人間だった私よりも少し小柄なくらいに小さくなってきたわ。
その頃合いを見計らい、同行者が毛皮を裏打ちした針葉樹の葉のような濃い緑の外套を外し光に掛けた。光が薄れてきても外套の闇の中が、ぼんやりと光っている。
「わあっ!」
色の白いほっそりとした腕が、外套の中から出てまじまじと掌をひっくり返している。緑の闇の上に太陽の光のように金色の長い髪が流れ、真っ白い柔らかい女性の輪郭が外套の中で無邪気に跳ねた。
「人間ドラ! ボク、人間になったドラ!」
「ちょっ! 暴れないでください! 外套が落ちちゃうでしょう!」
元がドラゴンなだけあって、女性でも力強いらしいみたいね。非力な同行者を跳ね飛ばし、留金でどうにか体に掛かった外套の下で眩い裸体が丸見えよ! 健康的にふっくらして締まるところは引き締まった、ちょっと羨ましいプロポーションね!
でも、流石に竜では感じなかった寒さも、人間じゃあ堪え切れないわ。一通り喜んだ後は、ぷしゅんとくしゃみがひとつ。自分で自分の体を抱きしめ震える背中に『ほら言わんこっちゃない』と言いたげに、同行者はメラの魔法陣を織り込んだ大きな布を体に巻きつけた。ゴルガーレンも手持ちの皮の巾着袋の中身を空けて、赤くかじかんだ足に靴のように履かせる。
「先ずは獅子門で服の調達だ」
歩き出したゴルガーレンに続こうとした同行者は、雪原に足を突き立てたままのコドランに振り返ったの。可愛らしい女の人になったコドランの顔は、不安げに曇っている。
そりゃあそうよね。いきなり、今までの自分とは違うものになっちゃったんだもの。私だっていきなり猫ちゃんになった時は、どうしたら良いか戸惑って大変だったわ。
コドランは胸に手を置いて、小さく息を吐いた。
「竜の姿じゃ槍で突かれて追い出された場所に行けるドラね。ボクは、本当に人間になったんだドラ…。好きな人を追いかけて隣にいられるってふわふわと、人間として生きていけるかってそわそわで胸がいっぱいドラ」
「もう後悔してんのか?」
ゴルガーレンが苛立たしげに言ったけれど、コドランはぶんぶんと首を振った。
「後悔はないドラ!」
細い脚が雪を踏み締め、ゴルガーレンを追い抜いていく。雪原に薄着の女の子が一人。慌てて追いかけるゴルガーレンの背を、ゆっくりと同行者が続いていく。
外套をコドランに貸してしまったので、私は雪深い地の木の樹皮のような深い茶色の髪に体を押し付け、襟巻きのように同行者の首回りにしがみついている。私の背筋を煉獄鳥の終生の尾羽が撫でるように揺れていた。
温和さを絵に描いたような唇が綻んで、雪原にそっと新月の夜の声色が押し出される。
「君は人間に戻らなくて良かったんですか?」
彼は私が人間だと知っている。でも、私の言葉は彼に届かない。彼曰く『君は人間の言葉で、猫の言葉を真似ているだけなんです』ですって! それでいて、彼は猫とおしゃべりできるのよ! ずるいわ! 私だって猫ちゃんとお話ししたい!
コドランのように人間の姿に戻りたいという気持ちは確かにあったけれど、数日しか生きられないほどに寿命を削られたら困っちゃうわ。私はエテーネ王国国王ドミネウスの娘メレアーデとしての責任を果たす為に、生きて帰らなくちゃならないの。でも、責務を果たすのに人間の姿である必要は必ずしも必要じゃないわ。コドランに示された選択肢のように、変化の杖を使って人々の前に姿を見せる時だけ人間であれば良い。信頼する者達なら、私がどんな姿でも大丈夫って信じているもの。
私の心を見透かしたように、前髪の影に黒くなった瞳が細められた。
「冗談ですよ」
さぁ、彼女も貴女もどんな物語を紡ぐのでしょうねぇ。
楽しそうな独り言に、私はにゃーおと答えた。
公式ではコドランはコンギスと同じ服を着てるし、竜族が竜から人間に戻る時は服着てるってルールのアストルティアの星ですが、ここではコドラン服着てないです!!!!
本当に竜族の竜化で服が弾け飛ぶ設定使いたいんだけど、ダズニフが目が見えないので服の管理を誰かにしてもらうってのがなんとも難題で…。稲野が好きな『うちの使い魔がすみません』では服が吹き飛ぶ設定なんですが、これが毎回竜化するとき大変で大変で。
まぁ、この時のコドランはドレスアップ設定してないってことでよろしくお願いしたい。
本当にドレスアップ強いな。ちょっとしたモシャスの原理使ってるぞこれ。
拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!
「僕は貴女に人間の姿に変える手段を与えられます。少し時間は掛かりますがモシャスを習得する事も、変化の杖を用意する事もできるでしょう」
ゴルガーレンが深々と頷く。
「人間社会に溶け込んで人間と暮らしたいって望みなら、その程度でも良いんじゃないか? お前の言葉は魔物っぽくないし、人間の常識を理解してるみたいだしな」
巨大な竜の口が、目の前に並んだ選択に引き結ばれる。
ふと頭上が明るくなった。あれほどの大ぶりの雪が止み、暑い雪雲が晴れて真っ黒に塗りつぶされた空に七色のカーテンが風に揺れるように棚引いている。
それを『オーロラ』と呼ぶのと、幼いクオードに教えた記憶があるわ。寒い日に空から落ちてくる白くて綺麗な『ゆき』、真っ赤に燃える水『ようがん』、黄金の砂場が見渡す限り続く『さばく』、海が世界の果てまで続く『すいへいせん』。どれもお母様や叔父様夫妻から聞いた話なのに、幼い私は何でも知ってる賢者のように鼻高々に弟に教えたわ。弟も『ねえさん すごい!』って、目をキラキラに輝かせてくれるんだもの。私は嬉しくて、もっと弟の瞳を輝かせたくって、本棚から引っ張り出した本を二人で覗き込んでいた。
ねえさん! ぜったい みに いこうね!
鼻先が触れ合う程の距離にある弟の瞳には、エテーネの明るい空で見える星々よりも多くの輝きが宿っていた。私達は本の中でしか見れない光景が、簡単に見れるものだと思っていたのよ。
だって、私達のお祖父様はエテーネ王国の王様で、私達は物心付く前から世界の全てを手にできる程の何もかもに囲まれていた。病気になれば一流の錬金術師が訪れて薬を処方されて、一晩寝ればすっかり元気になってしまうの。怪我をすれば直ぐに回復呪文が施されて、傷なんか残らない。お腹が空くなんて想像もできなくて、ちょっと手を伸ばすだけで侍女や執事が用意してくれた美味しいお菓子を摘む事ができた。
お祖父様やお父様に頼めば、なんでも叶うと思っていた子供達。
あの頃が一番幸せだったとは言わない。
それでも、胸が締め付けられる程に眩い日々だった。
視線を上げれば身を切るような冷たく研ぎ澄まされた空気に、空は真っ暗に沈んでいる。そんな深淵からこの世界のありとあらゆる色彩を織り込んだ布が、粉雪の風を孕んで揺れている。水平線の向こうから顔を覗かせた眩い黄金色。どこまでも高く広がる雲ひとつない青空の色と、色とりどりの珊瑚や魚を抱いたエテーネの空のような海の色。芽吹いたばかりの瑞々しい緑、魔法生物の証である透明感の奥で燃える生命溢れる赤。その色彩がドレスに幾重にも重ねたレースのように複雑で美しくて、表す言葉を突き詰めれば突き詰める程つまらないものになってしまう。
なんて素敵な光景なんでしょう。クオードにも見せてあげたいわ。
『昔、コンギスのおっさんは言ったドラ。命より大事なものを見つけてみろ…って』
耳をくすぐる生暖かい吐息に視線を向ければ、ぐっと身を屈めて金色の瞳が私を覗き込んでいる。まるで姿見のように大きな瞳に映るのは、一匹の猫ちゃん。
艶やかな黒猫は夜空のように煌めいて、口元と尻尾の先の白い毛並みがお月様のようにふんわりと光っていて、私の心を撃ち抜くぱっちりと開いたお揃いの空色の瞳。首輪についた星型のチャームと尻尾に結んだ大きな赤いリボンが、とってもよく似合っているわ。私が夢に見たような理想の猫ちゃん!
そう、私の飼い猫。愛しいチャコル!
寄せた鼻の穴が大きく膨らむと、体が吸い込まれるような風が鼻の中へ流れる! 体が引っ張られて、猫には大きな鼻の穴の中に頭が入ってしまいそうよ!
『この猫から懐かしい匂いがするドラ。おっさんや、兄弟達にすごく会いたい気持ちでいっぱいドラ。兄弟達と遊んで、おっさんの足元に集まってゴロゴロするのが大好きだったドラ』
ふーっ! 私が毛を逆立ててドラゴンの鼻面を抑えていると、愉快そうにゴロゴロと笑う。
そして、体を起こしてゴルガーレンを真っ直ぐに見て断言した。
『それでも人間になって、好きな人と一緒になりたいドラ』
わかった。そんな声がオーロラの下に消えて行った。
ここで今回の視点が誰だか分かったかなーー!!!
彼女視点で何度か挑んでると、必ずエテーネ王宮の事とか遭難した事とか触れてくどいなーってなってたので今回はそれを完全に省いています。そこら辺はもう少し後でさらっと触れていきたいものです。
眉間に皺を寄せたゴルガーレンは真っ白い塊の溜息を吐き出した。
「無理難題と思った道具と素材の調達までやってのけたのだ。今更、出来んと言って諦めるつもりはないのだろう?」
ゴルガーレンはオーグリード大陸でも、名の知れた呪術師なの。
呪文は精霊や世界に干渉しさまざまな力を具現するけれど、呪術は体内や魂に干渉し能力を発揮する。遺留品なんかに強い呪術が施されていて呪いを振り撒くから、身につけた者が王宮の出入りを断られる事もあるそうね。呪いといえば人を殺したり、病気になったりと怖い不利益だけれどそれだけじゃない。病気を治す呪い、相手の心を得ようとするのも呪いなの。その為に『のろい』ではなく『まじない』と呼ばれて分けられているわ。
暗示すら呪いの一種だと言う呪術師もいるわ。
回復呪文や薬学の認識が低いオーグリード大陸じゃあ、医者みたいな扱いを受けている。ゴルガーレンは多くの病を治し、戦士達の心を蝕む恐怖を追い払ってきた。
そんな彼について、ある噂が流れた。
ゴルガーレンは、どんな生き物も望みの姿に変えてしまう。
その噂を聞きつけ、多くの人が鬼人に成り果てた大事な人をゴルガーレンの元に連れて行ったそうなの。しかしその都度、ゴルガーレンは無理難題を押し付けて追い返してしまう。大事な人の為にと無理難題に挑んだオーガは多かったけれど、この白銀の結晶体をみっちり入れた黒い壺を見つけられずに断念する者が続出したらしいわ。
結果、心象を悪くしてゴルガーレンの名声は地に落ちてしまったみたいなの。誰も彼が望みの姿なんて与えられないと思っていた中、こうして彼の課題を乗り越える者が現れてしまった。
じろりと眇めた鮮血色の瞳が、雪深い地の木の樹皮のような深い茶色の瞳を睨む。睨まれた本人は朗らかに笑って見せた。ゴルガーレンは小さく舌打ちをした後、赤い竜を見上げる。
「人間にする前に、大事な確認だ」
赤い竜はゴルガーレンとしっかりを目を合わせ、小さく頷いた。顔の横の鰭のような器官を大きく広げ、ゴルガーレンの言葉を一言も聞き逃さないよう耳を傾ける。
「俺がこれからお前に施す呪いは、望みの姿を与える代償として使用者の寿命を大きく削ってしまう」
竜の黄金色の瞳が、意味を良く理解できずに瞬いた。
「俺は姉を鬼人からオーガに戻す為に、この呪いを施した。姉はオーガに戻ったが、数日と生きる事は出来なかった。お前が人間になれたとして、何年も生きられる保証はない」
ゴルガーレンの視線には『それでも、やるのか?』という問いが込められていた。
なるほど。これがゴルガーレンが無理難題を押し付ける形で断っていた理由なのね。
きっと、後悔をしているのでしょう。
鬼人になってしまったお姉様は、残る理性の中で切実にオーガに戻る事を望んだに違いない。それを叶えたゴルガーレンの行いは正しかったし、お姉様は取り戻したオーガの姿に涙ながらに喜んだでしょう。理性が野生に食い潰され己が己で無くなっていく恐怖を、野生を受け入れ生きる難しさを、ドランドの鬼人達と共に過ごしたからこそ良くわかる。
しかし、その呪いはお姉様の寿命を残り数日にまで削ってしまった。それはゴルガーレンの予期しない事だったのでしょう。
それでも、私はお姉様はゴルガーレンに感謝したと思う。
そして、独り弟を残す後悔はあるけれど、決して恨む事はないわ。
私もお姉さんだから、分かるの。
コドランさん。同行者が真摯な声で赤い竜へ呼びかけた。
「僕からも、最後に確認しましょう」
まじないしのローブセットは彼が発端なのではというくらい、プレイヤーが遭遇する初めての呪術師です。魔界のマッドサイエンティスト呪術師ちゃんが出て霞みがちだが、運用的にゴルガーレンさんのほうがまじない師として正しいと思ってます。
へぇー。赤い竜が大きく目を見開いて、くりんと体を傾けた。
大きな双眸が見守る先で、同行者は集落で借りてきた鍬を金髪に差し入れた。鍬。それもそのはずで、完全に裏返ったシルバリヌスの白目だけで、今の私の身長と変わらないんだもの。豊かなシルバリヌスの金髪なんて、人間の姿だった私が横になっても余るくらい長い。そっと櫛の要領で金髪を梳くと、鍬に白銀の煌めきが引っかかっているわ。
小さいものならちょっとした木の実くらい。大きいものなら男性の握り拳くらい。複雑な雪の結晶が知恵の輪のように絡み合った白銀の塊は、同じものが二つとなくてとても綺麗ね。大小様々な結晶を乗せたグローブを、私達は覗き込んだ。
「髪に付着した雪とシルバリヌスの魔力が結合し、白銀の結晶体となります。結構大きく育ってしまうと髪の毛を切る事になってしまうので、手入れを欠かす事はできないんですよね」
とあるところに、ものぐさなシルバリヌスがいました。
そう同行者は魔物が闊歩し、純白の死神がうろつく極寒の地で呑気に語り出したの。
彼はシルバリヌスの象徴である金髪に石のような結晶体をぶら下げて、仲間からは『だらしのないやつめ』と笑われていました。しかし、一年、二年。笑っても、叱っても、何もしないものぐさに、ついに誰も何も言わなくなってしまいました。それを快適と思っていたシルバリヌスの頭には、大岩にまで育った結晶体がこびり付いていました。
そして、ある日。
ついに重さに耐えかねて、ごっそりと見事な金髪が抜け落ちてしまったではありませんか!
大きく禿げた金髪に、仲間達は雪崩も起きよと笑い転げました。流石の面倒臭がりも、種族の象徴である金髪が無惨な有様に声も出ません。仲間の嘲笑に震え、誰も見られぬよう洞穴の中に逃げ込んだのです。
そして天罰か、ものぐさのシルバリヌスに二度と金髪は生えることはありませんでした。
「アストルティアの魔物達は、この話に笑っている場合じゃありませんけどね」
遠巻きで見る分なら綺麗な金髪だったけれど、間近で見るとうねって絡んで下手をすると結びついてる。ちょっとした小話を語る同行者は汗だくで鍬を引き、どうしてもダメな所はナイフで切り取って整えていく。ようやく美しく真っ直ぐな金髪になって、体が温まって襟元を緩めた同行者は腰を伸ばした。
「元が雪の結晶なので気温の変化ですぐに溶けてしまい、衝撃にすぐ破損するほどに脆い。存在自体知られていない希少な素材です。完全な状態であれば、それに越したことはないでしょう?」
ねぇ、ゴルガーレンさん?
同行者に声を掛けられ方を向けば、少し離れた所で成り行きを見守っていた壮年のオーガ族が一人。赤とグレーに染めた呪い師のローブセットから、魔法を用いる職種だとわかるけれど、王立アルケミアでは絶対にいない立派な体格ね。白髪混じりに雪がこびり付いてボリュームが増した口髭を指で払いながら、真っ黒いおどろおどろしい壺いっぱいに溜まった白銀の結晶体を覗き込む。
そんなオーガ族の男の上から、赤い竜が嬉々として言う。
『ゴルスラ! …じゃなかったドラ。えーと、ゴルバ! …じゃないドラな。えっーと、ゴルなんとかのおっさん! これで、ボクは人間になれるドラ?』
ゴルガーレンと呼ばれたオーガは渋い顔で頷いた。名前もちゃんと覚えてなくて、さらに『おっさん』と呼ばれたら誰だってショックよね。
実はゴルガーレンさん、めっちゃ誤字ってましてね。検索しようにも名前がうろ覚えで引っかからないとか地獄見てました。
終盤もゴルガーゲンになってたりとかして、めちゃくちゃでしたよとほほい。
拍手に感謝!早速ぱちぱちっとありがとうございます!!