ハコの厚みはここ次第!
■ Calendar ■
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ||||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 14 | 15 | 16 | |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
□ search □
結局、ワシは妻の視た未来を変える事はできなかった。同じく未来を視る力を授かった孫も同じ未来を視たとなれば、避けられぬと諦観した態度を取るようになった。それでも、まだ若い孫は未来を変えようと足掻き、妻の苦しみを分かち合ってくれた。ワシが村に滅多に戻らずに奔走できたのは、スマートでリライブルな孫のお陰じゃろう。
お祖母様は最後まで諦めない、強い人でした。そう、孫は妻の最後を語ってくれた。
片方の口元をぐいっと上げて、不遜に笑う妻が目に浮かぶわい。もしかしたら、妻は滅んだ村の未来、ワシが今見ている光景すら見通しておったのやもしれぬ。
先見の巫女の屋敷は記憶のままの石積みの壁であったが、よく見れば黒く焼け焦げたりしておる。教会を兼ねた屋敷は金属で補強された大きな扉とステンドグラスが嵌め込まれ、以前よりも窓が大きく作られ頑丈な木材で作られた鎧戸が備え付けられている。村が魔族に滅ぼされた教訓から、避難所として頑丈に作られたのが伺える。
しかし、眼下に広がる村の家は様相が一変している。元々、高温多湿で川の近い場所であった為に高床式であったが、その上に立つ家は屋敷と同じく石積みの壁で茅葺き屋根である。しかし、今のエテーネ村の建物は石積みと木造を掛け合わせ、通気性を重視して窓が大きく配されている。ツスクルの学びの庭を連想させる造りで、屋根はウェナ諸島で使われる耐水性のあるタイルが重ねられている。それでも村の夜は冷える。野外に作られている炊事場の熱を、家々の下に分配する構造はドワチャッカの技術じゃ。魔族の襲撃で壁材として使えなくなった石を土台に再利用しておるようじゃな。
水捌けが悪く腐った水が溜まった汚泥を取り除き、瓦礫の山を退けた場所には見事な畑の畝が作られ、瑞々しいハツラツ豆がすくすくと育っておる。水を引き込んだ稲田は鏡のように空を写し込み、水鳥がまだ小さい苗の合間をすいすいと泳いでおる。北の草原で採取した花々が美しく咲いてプクリポが好む華やかさが村を彩り、村を囲む石積みの壁はオーグリードの実直剛健さで野生の生き物と村を隔てる。
村の中央に聳える魔族の襲撃でも燃え残った大木は、その黒く焦げた幹から新緑を芽吹かせている。果実の実る木が寄せ植えられて、まるでブーケのようじゃ。北の草原で腹を満たした牛や羊達が、牧羊犬に追い立てられて村に戻ってくる。移住した商人達が店の軒先で鮮やかな敷物を広げて商売をする賑やかな声、炊事場で作られる夕食の良い香り、大木の下から発掘された古代文明の紋様を再現して家々の補強の飾りにしようと小気味良い音を響かせる大工。
復興というよりも、発展というべき様相じゃ。様々な種族の移住者が入り乱れ活気付く村を、ワシは胸がいっぱいになりながら見渡していた。潤む目元をぐいと拭い、その手で復興を成し遂げた若き孫の幼馴染の手を取った。
「世界中を探したとて、これ程にワンダフルでアメイジングな村は存在せぬじゃろう。ルアム君。エテーネ村で死んでしまった全ての村人に代わり、礼を言わせておくれ」
「そのお礼は僕だけが受け取る訳にはいきません」
そう恥ずかしそうに微笑むのは、竜の神ナドラガを討ち取った英雄とは思えぬ年相応の男の子。青紫の柔らかい髪の下で、昼と夜の合間の色彩の瞳が細められる。ジャングルリップで染め上げた原始獣のコートセットに、狩猟で使う弓と矢筒を背負う。日に焼けた胸元に妻が指に嵌めていた指輪が細い鎖に通されて掛けられており、空の色を映し取って赤金色に光った。
空は青空から夕暮れに移ろい、赤い空の下で森は一層に闇を蓄えて深くなる。家々の軒先に吊るされたランプに火が灯り、住人達が家の中にいそいそと消えていく。そんな中、橋を渡ってこちらに向かってくる人影が二つ。手に持ったランプの光で真っ白い衣が暖かい色に染めているのは、愛孫のシンイじゃ。孫の足元でスキップしながら並ぶプクリポが、大きく手を振った。
「相棒! ホーローのじいちゃん! ご飯にしよーぜ!」
ルアム君が嬉しそうに顔を綻ばすと、いきましょうかと促し歩き出す。
その後ろ姿を追いながら、ふと鼻先を香ばしい炒ったハツラツ豆の香りが掠めていく。ワシはふっと笑みを深めると、鼻歌を歌いながら階段を降りていった。
最初の話はエテーネ村の復興具合からです。
Comment