ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 そう思った瞬間、闇が風に吹き払われるように書き消え、オーガ族の大陸独特の赤い地層が剥き出しになった荒涼とした大地が飛び込んできた。乾燥して白くすら見える薄い青空と、真っ赤な大地の間を渡る風が髪を引っ掴み体を押し退ける。
 まるで大規模な落石でもあったかのような、歓声にはっと目を向いた。
 世界中から武勇を響かせる猛者が集まる武術大会。オルセコの中心に作られた闘技場を、囲むように作られた王城や居住区から溢れ落ちそうなくらい多くの人々が戦いを見つめていた。
 その門戸は他種族にも開かれ、招待客として各種族の戦士達が招かれていた。一瞬で相手の武器を両断する圧倒的剣技を見せるエルフの剣豪。如何なる豪剣も寄せ付けぬ盾一枚で、倍以上の偉丈夫を薙ぎ倒したドワーフの騎士。まるで流水と戯れるように攻撃を往なし、いつの間にか地に伏せさせる妖艶なウェディの武道家。姿を見せず一瞬で相手を昏倒させる素早さと技量を持つ、プクリポの盗賊。
 そんな古今東西の猛者達の中で、カミルは一際暗く澱んでいた。
 世界でも名を馳せる戦士達は、己の力を誇りにしていたし、相手の力に尊敬の念を抱いていた。エルフの剣豪は己の武器を念入りに手入れし曇りなき刀身でもって相手の礼儀とし、ドワーフの騎士は無傷の敗北という侮辱を与えんが為に誰もが納得するような苛烈な戦いを繰り広げた。互いの全力を尽くす事が、相手への敬意となる世界。
 その世界において、カミルの力は抜きん出ていた。華麗な剣捌きも、的確な判断も、全ての試合において相手を圧倒し勝利してみせた。彼女は初戦から優勝候補として注目されていた。
 だから、彼女の行動が目につくのだ。
 カミルにとってその素晴らしい剣技は、ただの方法でしかなかった。相手に向き合っても感情の一つも浮かべず、相手の技量に翻弄されても悔しさも嫉妬も浮かばず硝子のような冷静な瞳で見るのみ。勝利の際に一礼はするも、相手を讃えることもなく立ち去る姿にオルセコの闘士達は相当鬱憤を募らせていた。終盤では入場と共に野次が飛ぶ程だった。
 最初は来るべき大魔王の斥候かと思った。
 大魔王の手の者かどうか確信したのは、ファルエンデ王国の王子が殺された瞬間だった。
 どんなにファルエンデの王子が気が短く殺気を放ってしまったとしても、カミルには相手を昏倒させるなりして戦闘不能にさせる力量の差を持っていた。それなのになぜ、殺害に至ってしまったのか。
 彼女はうっかり、王子を殺してしまったのだ。
 それを、その場にいる誰もが理解した。相手への敬意もなく、戦いへの意欲も低く、そして己を律する意志の弱さ。闘士達が最低な剣士に対して、唾を吐きつけ、恐ろしい呪いの言葉で空を震わせ、足踏みは地面を揺すり上げた。指が槍衾のようにカミルに突きつけられ、息子の仇を討とうとしたファルエンデ国王に向かって『殺せ! 殺せ!』と声が上がる。
 僕は震え上がった。なんと恐ろしい光景なのだろう、と。
 カミルを助けなければ。そう立ち上がった時、周囲を囲む人々はグランゼドーラの者に代わっていた。『カミル殿が秘術を使えば魔王は滅ぶであろう』と喜ばしく笑う父上。『魔王との戦いに命を賭すのも厭わぬカミルは、世界の誇りであろう』と誇らしく微笑む母上。盟友カミル万歳と、諸手を挙げて褒め称える国民達が見渡す限りに見える。
『やめろ! このままではカミルは死んでしまうのかもしれないんだ!』
 僕がどんなに叫んでも、歓声が滝のように降り注いで誰にも届かない。笑みを浮かべる人々の波の中に、カミルの姿が見えた。感謝の言葉を受け、握手を求められ、群衆にもみくちゃにされたカミルは、僕を見つけるとふわりと可憐な笑みを見せた。
 胸の上に手を置きゆったりと頭を下げると、白いフードの中から白金の細い髪が溢れる。
『アルヴァン。盟友として為すべき使命を、果たしにいってまいります』
『カミル! 行かないでくれ!』
 どんなに群衆を押し退け掻き分けても、道を開けられ進んでいくカミルの背中がどんどん遠ざかっていく。盟友は勇者の盾。魔王との戦いの為に死ぬのは名誉な事であるから、誰もカミルの死を悼まない。魔王に勝つ為なら、カミルの死は望むんべき事で、未来に美談として語り継がれていく。そんな! そんなこと、あってはならないはずなのに、目の前の想像はあまりにも現実味を帯びていた。
 これでは、どちらが魔の者かわからないではないか!

まぁねー。オルセコでカミルが綺麗で有能でいい感情持ちました。むしろ自覚してないけれど一目惚れですなんてありきたりなことはしない。基本は最低からスタートの稲野の恋愛です。

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