ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 余は愚か者達に振り返る。
 荒事しか能のないクズと『時の指針書』を持たぬ異邦人共が、武器を余に向ける姿が滑稽だった。まるで蟷螂が鎌をもたげて威嚇するようで、なんら脅威に感じなかった。余に擦り傷すら付けられぬだろうに、その健気なまでの姿勢にいじらしさすら感じた。
 心地よく満ちる力。今までの人生で感じた全てを凌駕する多幸感。それらが、多くの人々が到達する栄光への道を閉ざそうとする愚か者達へ、余自ら福音を授ける慈悲となる。
「さぁ、『救国王ドミネウス』となる余が導く永遠の為に、その身を捧げよ!」
 剣神が振るう音速の剣戟も、神と等しき余の目には止まっているように見える。滑稽なほどに真剣な顔を覗き込み、ゆったりとした足取りで背後に回り込む。そんな何気ない動作でも、余は己の体が若き全盛期の頃の軽やかさであると気がついた。漲る力でさっと腕を振りろすと、輝く小箱が槌の形に集まりてサラリとした髪の上に落ちた。
「レナートさん!」
 甲高い童の声に、愚弟を彷彿とさせる髪がさっと横に流れる。小麦色の残像に流星が降り注ぎ、黄金色の水飛沫が高々と舞い上がった。
 短い息を吐き大きく下がった異邦人から、余は己の手のひらに視線を落とした。『時見の箱』から注がれた時渡りの力は膨大だ。それ故に扱いに、まだ慣れておらぬのだろう。
 一瞬で背後に回ったクズの攻撃を、一枚の板のように展開した小箱の集合体が受け止める。甲高い音を立てて打ち重なる鋼だが、停滞した時には如何なる力も食い込む事はできぬ。停滞した時は強靭な盾であると同時に、時の流れに身を置く全ての万物を破壊する矛でもある。一瞬にして光の剣へ形を変えた一撃が、クズを跳ね上げる。『時見の箱』の周囲を廻る無数の小箱に当たり、メレアーデが横たわる側に落下して動かなくなる。
 ふと、微風が触れるように未来が見える。小箱の中に紛れ込んだ赤毛の猫のような生き物が、脆弱な爪を余の体に食い込ませようと迫る未来だ。余は錫杖を突き出し小さな生き物を串刺しにする。己の死に気が付かぬまま大きく見開いた目に、異邦人の童の泣き顔が映る。
 余はにやりと笑みを浮かべた。
 これが時渡りの力。
 どんなに素早い攻撃も、強力な一撃も、予想外の不意打ちも、余には届かない。全ての存在が属する時間を支配した余に、敵など存在しない! 口を開け放ち高らかに笑い声を響かせる事が、なんと心地よいことか!
「慈悲である! 一瞬で息の根を止めてやろうぞ!」
 余は時渡りの力が見せる未来の通り、錫杖を突き出した。一瞬先の未来が陽炎のように見えて、それを追うだけで生き物が絶命する未来へ至る。生き物はまるで錫杖に吸い込まれるように飛び込んでくる。
 あぁ、なんて愚かな存在だ。
 エテーネ王国国王たる余以外の全ての存在が、こうまでも愚かであるならば、偉大なる導き手が必要なのも然もありなん。余はエテーネ王国の『救国王』のみに留まってはならない。この世界の全てを統べ、世界を栄光の未来へ導く存在にならねばならぬ!
 『時見の箱』の力を得し余ならば、それが可能である!
 いや、余だけしか成し得る事はできぬ!
 余は輝く未来に身を投じていた。エテーネ王国の繁栄が隅々にまで行き渡り、見渡す限り美しき自然に満ちた大地。『時見の箱』より全ての災いを回避する術を導き出せし余は、愚民達に慈悲深くも救いの手を差し伸べるのだ。余の言葉に涙を流し喜ぶ民は、自ら余の偉大さを崇め奉る。余の尊顔を見れる事に至福の喜びを感じ、余の言葉を生涯の宝とするであろう。『時の指針書』が行き渡る場所に、光り輝く未来がある。
 海を越え全ての種族達が頭を垂れる先にいるのは、偉大なる王冠を戴く『世界王ドミネウス』の姿!
 あぁ、なんと待ち遠しい! 早く、早くその時に至りたいものだ!
 貴様達の死がこの栄光の第一歩になることを、喜ぶがいいっ!


いやー、思った以上に文字数稼げたなぁ。
一応、時間の戦い方的な提示をしていきます。ゲームでは怪獣みたいな敵になっちゃうんだけど、せっかく時渡りの力を使ってるのでねぇ。これから、ver4最終戦までの間に戦い方をブラッシュアップしていきたいものですね。
ドミネウスくんの栄光の未来。普段の稲野なら、くっだらねぇとかいって3行で終わらせる所なんだけど、いっぱい書いてるよ。妄想たのしいねぇ。お花畑だねぇって思ってる。

拍手に感謝!久々に拍手いただけて、沁み入ります!ぱちぱちっとありがとうございます!!!

 エテーネ王国が現在の王都へ還都した際、時見の司祭が重要な神事を行った神殿を模して時見の神殿が作られている。現在も『時の指針書』の更新を始め、重要な神事が行われる場だ。
 一軒の家相当の大きさの立方体『時見の箱』は、この闇の中で太陽のように輝いている。その周囲には数え切れぬ程の小型の箱を従え、溢れ出る時渡りの力の神々しさは、このエテーネ王国が神に等しい尊き存在であると如実に語っていた。
 そして、その神器の力を身に纏う余は、神を体現したと言って良い。
 頭上に『時見の箱』を従え、王冠の周りに輪を、背には翼を形取る小箱達。小箱が崩れ無数の燐光となって余を包み込み、体は重力から解き放たれ頭上から降り注ぐ水は余を濡らす事はない。溢れ出る力は例えようもない高揚感をもたらし、全てが思うがままに成し遂げられると確信させる。
 余は眩い輝きを取り戻した『時見の箱』を満足そうに見上げた。
 やはりメレアーデは優秀だ。
 誰も彼もが余が時渡りの力を持たぬ、未熟な世継ぎを成すだろうと思っておった。愚弟に至っては『兄上。生まれる子が息災であれば、時渡りの力の優劣など瑣末な問題ですよ』と嘲笑った。爽やかな笑みを浮かべる愚弟の陰湿さに、吐き気が込み上げる。
 そして妻ルミラーハが成した第一子メレアーデは、愚弟には劣るとも強い時渡りの力を有した。第二子は時渡りの力に恵まれなかったが、メレアーデさえいれば余に時渡りの才能がないと嘲笑った者共を黙らせるには十分である! あの愚弟が亡き者となった今、メレアーデこそエテーネで最も強い時渡りの力の使い手なのだ! そしてその父は、このドミネウスである!
 込み上げる笑いを漏らし、余は『時見の箱』を抱き締めるように手を広げた。
「もう少しだ…」
 余は何を躊躇っていたのだろう。
 滅びの未来を回避する偉業の為なら、どんな犠牲も些細なものだ。
 あの愚弟の妻と子供を殺し損ねたが、僥倖だったと言える。それなりに時渡りの力を持っていよう女とあの愚弟の子であれば、メレアーデに劣るも『時見の箱』を満たすに違いない。このエテーネ王国の栄光を永遠のものとする礎になるなら、命尽きるまで時渡りの力を搾取されるのも本望であろう!
「目の前の雑音を排除すれば、滅びを回避する未来を『時見の箱』が見せてくれる」
 成人して始めて『時見の箱』と相対した時、余はエテーネ王国が滅ぶ未来を見た。
 先代国王であり余の父ルザイオスに、余は滅びの未来を再三に渡って説明し対策を立てるよう嘆願したが聞き入れられなかった。それどころか長子である余の存在がありながら、王位を愚弟に譲ると戯言を言い放つ。常に揚げ足を取り余を道化にしてきた愚弟の本性は、ついぞ余にしか知られる事はなかった。愚弟に協力を仰ぐなど死んでも御免被る。
 余だけが見える滅びの未来。
 この未来を回避する事ができるのは、この未来を知る余だけだ。
 エテーネ王国国王となった余だけが成し遂げられる、特別な使命なのだ!


うーん。ドミネウスくん、厨二病拗らせちゃって大人になっても治らなかったんだね。ってとっても生暖かい目になってしまう。あーあ。そうだよねぇ。一人だけ見えちゃうんだもん。傍には誰もが認める特別な弟がいるもんだから、自分だけ特別で誰もが認めてくれないのぴかぴかに磨いた泥団子みたいになっちゃうよね。しかたないね。大人になっても治らないのはどうかと思うけど。
たぶん、ドミネウスの時渡りの力の無さのプライドを、メレアーデの時渡りの強さで補っているところがあったんじゃないかなって思います。決して表沙汰にはならぬとも、メレアーデの威を借る父。個人的にはとっても情けないが、本人は大真面目なのだろうと思うと末期です。

 違う! 父上の否定が悲鳴のように空間を引き裂き、俺の言葉を振り払うように腕を振り回す。歯を食いしばった必死の形相で、黄金に眩く輝く神具に訴える。
「時見の箱よ! 神殿の祭司たる余に、繁栄と栄光の未来を見せよ!」
 巨大な神具の周りに浮遊する小さな立方体が、父を取り囲む。父の周りを様々な速度で回る立方体で光り輝く体に、神具から一条の光が額辺りに降り注ぐ。
 狂ったように笑っていた父が、驚きの声をあげ身を強張らせた。
「滅びの未来を回避すべき未来予知が上手く行かぬのは、『時の指針書』に従わぬ異邦人が存在するからか! 余が手ずから排除する事で、栄光の未来が開かれるのだな?」
 立方体は父の王冠の周りに輪のように広がり、背に翼のように一対に並んだ。その耀き姿は九つ目の神話に語られる守護天使より遣われし使徒を彷彿とさせる。しかし神聖な見た目とは裏腹に、瞳は欲望に塗れ殺意が溢れ、口元はいやらしい愉悦に歪んでいた。
「おぉ…! なんという全能感…! これが時渡りの力なのか!」
 哀れなり、ドミネウス!
 鼻先にちらつかされた栄光に目が眩み、自ら思考と決断を放棄するとは! 貴様もまた『時の指針書』に躍らされた悲しき暗愚の王よ! まだ国民達が愚かさに気がつく前に退位し、凡庸な王として歴史を刻むのが子としての最後の手向けになるだろう!
「この瞬間より、貴様を父と呼ぶ事はあるまい!」
 俺はレナートとルアム達の前に立ち、ドミネウスに剣を向けた。
 不思議な事に実の父に剣を向けているというのに、怯む気持ちは一欠片も浮かばなかった。それどころか実の子に剣を向けられ否定されているというのに、悲しみの表情ひとつ滲ませぬドミネウスの姿に剣を持つ手に力がこもっていく。
「歴代の王が守りし崇高なる王座を汚す者に、聖王を名乗る資格はない!」
 この愚か者め! そう叫んだドミネウスの声は、魔物の咆哮そのものだった。

戦いの火蓋ざっくり!!!!
これからエテーネ王国編、最終戦が始まるのです!

 少なくとも父は俺を納得させようと、説明してくれたのだろう。全く要点を欠いて目的が見えず、民を害したのは己だと自供し、我が子を道具とする人として有るまじき行為。どれをとっても納得も理解もできないが、少なくとも父の誠意だったと思いたかった。
 しかし同時に、父が己は何も悪き事をしていないという、弁明を連ねているようにも感じた。実の娘の命を脅かす行為は、己の本意ではなく王国の為だと責任を転嫁する。俺が従えば己の弁明は正当化されるのだろう。
 俺は姉さんを抱き上げ装置に向き直るのを見て、父が満足そうに頷いた。
「あと少しで時見の箱が、余にエテーネ王国の滅びを回避する未来を見せてくれる」
 もう父の目に俺は映っていない。
 俺が装置の前に姉さんを横たえた、水が少しでも避けられるように外套を掛けたのにも気がつけない。愛しい人を見上げるような熱のこもった眼差しが神具に注がれ、うっとりと陶酔した横顔が見えるばかり。
 ぐずる子供を宥める風を装ったような、雑な扱い。衰弱した子供を心配すらしない、親としての自覚の無さ。世界が己を中心に回っている王は、抱き留めるように神具に手を広げる。
「滅びの未来を回避すれば、余の名は『救国王ドミネウス』として未来永劫語り継がれる! 余の功績は太陽のように燦然と輝き、愚弟など家系図を汚す惨めなシミになるであろう!」
 鞘の中を刃が駆け抜け、涼やかな音を立てて抜き放った。
「パドレ叔父さんへの劣等感だけで、これだけの事をしでかしたのか!」
 なんて愚かな!
 時渡りの力が弱い事は、王家の恥。その劣等感は、父だけのものではない。
 姉さんは時渡りの力があろうとなかろうと、俺を受け入れてくれた。父が俺を疎ましく思っていると知っていても、姉さんの太陽のような笑みがあればいくらでも耐えられた。
 叔父さんも叔母さんも、クオードという一人の人間として見てくれた。どんなに王宮の高官達が陰口を囁こうと、実力を否定する事はできないと、時渡りの力に変わるものを模索する俺を応援してくれた。軍団長に就任した時、叔父さんは父よりも早く祝いの言葉と品を持って駆けつけた。俺が今も愛用している剣を差して立って見せると、誇らしげに目を細めて喜んでくれて心底嬉しかった。
 ディアンジとザグルフが俺に向ける尊敬の眼差しを、どれほど誇らしく思えたか。王国軍の軍人達が、俺を王族の子でなく一人の仲間として受け入れられた時、どんなに胸を焦がしたか。
 俺は父と同じく時渡りの力の弱い、王族の恥だろう。
 だが、俺はクオードとして受け入れてくれた人々が、誇れる存在でありたい。
 だからこそ、俺は俺を卑下しない!


クオードくんもトビアスくんに似た気配がするなぁ。
王道熱血主人公。ただ、彼には迷いがないというか、揺るがないんだろうなぁって思います。トビアスくんはルアム達やルビーちゃん、他の領界の竜族と関わって視野が広がって大きくなったけれど、クオード君はすでに完成されている気がします。
これから彼を描いてどう変わっていくのか、ちょっと楽しみです。

 剣を抜いたレナートと矢を番えたルアムの間に、声の主の姿が見えた。青紫の直毛を肩口で切り揃え、黒羽で飾った黄金の冠を戴く大柄の男の影。しゃらりしゃらりと錫杖の輪を打ち重ねる音を響かせ、祭壇へ続く階段を一歩一歩と降りていく。水を吸った髪の毛から雫が滴り落ちる俺達と異なり、その空色の外套も真紅の紋様が美しいオレンジのローブも濡れている様子がない。
 第四十九代エテーネ王国ドミネウス。
 俺は姉さんを抱えたまま、形だけ頭を下げる。
「父上、ご無事で何よりです。父上を騙る人形を討伐いたしましたが、肝心の父上の無事が確認できず最悪の事態も脳裏を過ぎった次第です。杞憂に終わっ…」
「政務など人形任せで良い」
 俺の言葉を遮り、父は苛立ちを隠さずに言い放つ。
「時見の祭司である余の双肩に、王国の未来と臣民の命が掛かっておる。貴重な時間を雑事になぞ費やせるものか」
 王国の民の生活を左右する政が、人形に任せる程度の雑事。それがエテーネ王国の現国王であり、血の繋がった父から発せられた言葉であると理解するのに時間が必要だった。
 頭のどこかで、何かしら理由があるのだと信じたくない気持ちがあった。
 しかし、気がついた時には腑の熱が口から迸った。
「なんて無責任な! 国王のする事ではないっ!」
「口答えをするでない! メレアーデを装置に戻せっ!」
 血走った目を見開き、青筋を立てて父は怒鳴る。力任せに振り下ろした錫杖が、足元の階段を貫いて破片が飛び散った。
 姉さんを戻せ? この装置の中に?
 俺は腕の中に抱いた姉さんを見下ろす。神具の放つ黄金色の光で気がつかなかったが顔色は蒼白で、呼吸は虫の息だ。異形獣に襲われた者達によく似た状態だと結びつけば、この状況にした原因が姉さんを閉じ込めていた装置であろうと容易に推測できる。父の言葉の通り装置に戻せば、命を失うかもしれない。
「良いか、クオード。余はエテーネ王国の為に、神具を時渡りの力で満たさねばならぬ」
 姉さんの肩を抱く手に力を込めた俺に、父は威厳ある声で語りかけてきた。
「元々の予定ではヘルゲゴーグで効率良く収集し、神具を満たす筈であった。しかし高純度の時渡りのチカラを抽出するならば、やはりこの方法に勝るものはない」
 ヘルゲゴーグ。ヨンゲの研究資料からしか知れぬ、異形獣の正式名称。しかし、俺が証拠を突きつけた段階で人形が王に成り代わっていたならば、本来なら知る由もない名前のはずだ。
 やはり父はヨンゲに異形獣の作成を命じた。そればかりかエテーネの民に異形獣を嗾け、マローネ叔母さんや生まれて間もない従兄弟の命を危険に晒す。効率が良いからと実の娘を便利な道具のように扱うなど、到底理解できなかった。
 こんな男を王に戴く事に、こんな男が俺の父である事に、頭の中を素手で掻き回されるような激情が苛む。恥ずかしいとも、愚かしいとも、呆れたとも、言い切れないようなさまざまな負の感情が煮詰まって思考が焼き切れてしまいそうだ!
「メレアーデはお前と違い優秀だから、エテーネ王国の為に喜んで身を捧ぐだろう!」
 姉さんはエテーネの民の為なら、己の身を捧ぐ事を躊躇ったりしないだろう。ただし父の目的が不明瞭で、姉さんの意思も分からぬ以上、俺が姉さんを装置に戻したりは絶対にしない。
「さあ、もう気は済んだだろう。メレアーデを装置に戻すのだ」
 目を眇め心底面倒そうに言った父の言葉が、俺の冷静な怒りに油を注ぐ。


あーもーこのモラルハラスメント親父はよぉ………。

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