ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 え!
 肺の中の全ての空気が一つの音に圧縮されて迸った。
 エテーネ王国? レンダーシアの考古学者様が遥か昔の手記から見つけた名前。でも手記は捏造と疑われる程に痕跡のない王国だった。
 僕の故郷と同じ名前の王国。
 目の前の大陸全部、エテーネ王国? グランゼドーラよりも巨大な国じゃない?
 頭が真っ白になってる僕と、言葉を失って呆然とするレナートさんを見て、メレアーデ様は笑う。僕達をお茶の席まで引っ張って戻すと、『はい、どーぞ』っておかわりを注いでくれた。
「エテーネ王国の人はちょっとやそっとの事じゃ驚かないけど、貴方達がいきなりこの屋敷に現れた時は本当に驚いたわ。空中に浮かんでいるこの屋敷に来る方法は限定されていて、貴方達はそれを一切利用していない。屋敷を包む術式に何の反応もないから、空から侵入する可能性もないわ。クオードがどうやって侵入したんだって、眉間に皺寄せて考えてたのよ」
 そう言いながら、お嬢様は眉に指を乗せて眉間に皺を寄せるように押す。楽しそうに笑いながら、身を乗り出した。ねぇ。こっそりと潜められた声で、僕達に囁く。
「どんな方法を使ったの? おねーさんにこっそり教えてよ」
 僕の方が知りたいよ。僕はずずっとお茶を啜る。
 別れ際にテンレス兄さんから託された銀の箱。テンレス兄さんが使っていた時は、ひとりでに浮いたり動いたりして、凄い力を発していた。でも僕の手の上に乗せられてからは、ただの銀で出来た綺麗な箱だ。エンジュさんやガノさんが興味津々で調べ尽くしたし、錬金術師の知識を持つヤクウさんに見てもらっても、何一つわからない。
 それがいきなり光って、知らない場所にいて、兄さんが意識を失っている。
 全く訳がわからない。テンレス兄さんも、もう少し説明してから渡して欲しかったな。
 僕はですねぇ。そうレナートさんが話し出すのを横に聞きながら、僕は重要な事を思い出した。斬り上げるように顔を上げ、二人の肩が跳ねる。
「…銀の箱!」
 兄さんが意識を失ったことで頭がいっぱいだったけど、肝心の銀の箱が無くなってる! メレアーデ様に助けを求めてる直前に、兄さんの手から転げ落ちたのを見てぐったりしてるのに気がついたんだ。それまでは確かにあった。
 その後、どこにいったんだ?
 ざっと血の気が引く。大事な物であるのもそうだけれど、この状況に陥った原因が銀の箱にあるとしか思えない。その原因が行方不明になったら、意識を失った兄さんも、僕の故郷に帰る方法もわからないかもしれない!
 僕はテーブルの上に身を乗り出して、メレアーデ様に詰め寄った。
「メレアーデ様、銀の箱知りませんか? 血の繋がった兄がくれた大事な物なんです!」
 前髪が触れ合いそうな近さで、大きな瞳に僕が映る。長いまつ毛がぱちぱちと上下すると、身を引いて背もたれに身を預ける。うーんどうだったかなーって唸って、頬に指を添えながら首を傾げている。
「ルアム君がここ来たのは、その銀の箱が関係しているのかな?」
「今の所、それしか思い当たりません」
 レナートさんの問いに頷いた僕を見て、メレアーデ様は静かにお茶を含んだ。ゆっくり味わっているのを見ながら返事を待っていると、僕の熱くなった頭も冷えてくる。ことりとカップを置いたメレアーデ様は、僕をまっすぐ見て言った。きゅっと唇の端が持ち上がる。
「その銀の箱は大事な物なのね。なら、貴方に返さなくちゃ!」
 楽しそうなものを見つけたメレアーデ様の笑顔が光っている。
「私の部屋に落ちていた物を、使用人として雇っている者が勝手に持ち出すことはないわ。汚れや破損、安全性の問題で部屋から持ち出したなら、どんな些細な内容でも私に報告があるの」
 そう爛々と瞳を輝かせ状況を整理する。
 確かに、僕が迷い込んだ部屋には、メレアーデ様と彼女が飼っている黒猫がいただけだ。兄さんの手から零れ落ちた銀の箱が、僕の物であると断言出来るのはメレアーデ様だけ。メレアーデ様が銀の箱の所在を知らないなら、あの騒ぎの間に誰かが部屋から持ち出したんだろう。
 誰が。思い浮かぶのは僕らを拘束した、クオードというメレアーデ様の弟だろう。
 意識を失った兄さんを抱いて狼狽える僕達を、頭ごなしに侵入者って悪者と断定した乱暴者。年齢は僕と同じくらいで、僕の瞳と同じ色の吊り目に込められた敵意が脳裏に焼き付いている。
 しかし、あの銀の箱が姉の私物ではないと断定できるのか?
 同じ屋根の下で暮らしていたテンレス兄さんとは、全ての空間を共有していた。なんなら僕はテンレス兄さんの私物を、所有者本人よりも詳しく把握していた。ルアムー。あれ、どこいったっけ? 『あれ』で分かる僕もどうかと思うけど。
 でも、メレアーデ様とクオードは異性の姉弟だ。しかもお屋敷の主人の家族である彼女達は、完全にプライバシーが守られている。それなのに銀の箱はメレアーデ様の物じゃない、僕の物だと断定して持ち出しているとしたら、それはそれで怖い。
「だから、ルアムの銀の箱を持ち出したのはクオードで確定よ」
 本人が戻ってきたら聞きましょう。そう言おうとしたが、メレアーデ様の舌が止まらない。
「クオードの部屋に行って、銀の箱を取り戻しましょう!」
 本人に聞けば全て解決しそうだが、彼は僕らを怪しい侵入者と断定している。姉さんはコイツらに騙されているんだ! あの箱はやはり何かあるんだな! と拗れる予感しかしない。
 それでも年頃の弟の部屋を姉が家探しするって、かなり可哀想だ。
「メレアーデ様。それは流石にやり過ぎでは…?」
 大丈夫! 理解していない弾んだ声に、僕らは己の無力を噛み締めた。
「私はクオードの姉なのよ? そして王宮で執務に忙しい父から、長女である私が家を預かっているわ。私が良いと言うのだから良いのよ!」


メレアーデ様は娯楽に飢えておいでです。
絶対に暇はしていると思う。
アンルシア姫みたいに勇者としての責務として剣術や魔術の修練を日課として課している訳でもなく、没頭する趣味と言ったら猫ちゃんだし、エテーネの彼女の家にはメイドもいるから掃除だ洗濯だなんてやる必要もない完全なお貴族である。暇なんだろうなって思う。

実はこの辺までプクリポルアム視点で書いてましたが、意識を失ってるのが人間のルアム君じゃダメだろうってことに気がついて急遽書き直しています。
ナドラガンド編の最後にルアム君視点があったので、視点順序的にはプクリポルアムが順当だったんですよね。でも完全版で本にしたなら、その順番は崩れるので人間のルアム君でいっても大丈夫だろうと判断しました。

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