ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 ふっくら柔らかくて美味しそうなクリーム色の頬は、今は青白く硬っている。浅く静かな息は、目を凝らしていても息をしているか分からない。いつもは猫みたいに暖かい体は熱を失い、ひんやりとした体に布団を重ねて魔力で熱を発する懐炉を入れて温める。
 力の抜けた兄さんの手を握っても、何も変わらないのはわかっていた。
 体に傷はなく、病気らしい症状もない。回復呪文は必要ないし、意識がなく眠り続ける兄さんに薬を飲ませるのは困難だ。
 エテーネ村を滅ぼされ一人アストルティアに放り出された僕に、ずっと寄り添ってくれた兄さん。冥王と戦い、故郷を探し、ナドラガンドへ共に来てくれた兄さん。あんなに僕が困った時に助けてくれた人が、いざ困った状況になって何もできない。ただ隣に座っているだけだなんて、気が狂ってしまいそうだ。
 無意識に力んだ肩に、そっと手が置かれた。
「お医者様も魔力の使い過ぎで、暫くすれば意識が戻られるだろうって言ってたじゃないか。少しは肩の力を抜いたらどうだい?」
 おっとりとした声が、僕の不安を分かち合おうと優しく語りかけてくる。
 顔を上げればテンレス兄さんくらいの年齢の人間が、僕を見下ろしていた。榛色の髪は雨露の糸のように濡れた光沢でもさらさらと肩まで落ちていて、狭い部屋に灯された灯りで金色に光っている。兄さんを心配し過ぎて参っちゃうんじゃない?って訴える瞳は、若葉の緑だ。トイレに行く時、この部屋の高さのない扉に派手におでこをぶつけて痛々しい。厚手の紫の布に、肩口や前を止める留金のラインに革を補強する頑丈な服。鞄やブーツも冒険者が好む実用的なものだ。引き締まった体つきや、戦いに秀でた者の仕草から、結構旅慣れてると察した。
 僕が頷いて兄さんの手を布団に入れると、水分前に部屋に持って来られていた食事が渡される。もう冷めてしまったスープと、放ったらかしたから固くなったパン。僕はスープにパンを浸して噛み締めるけど、味が分からない。ただ塊が喉を通っていく感覚しかない。
 僕が食べている間に、大きな背中が兄さんの横に椅子を引っ張って座る。摩り下ろした果実を包んだ布を、兄さんの口の上にとんとんと置く。水分とか栄養が体の中に入りますようにって、果汁をちょっとずつ口の中に含ませているのだ。
「ここのお屋敷のお嬢様もこの子を気に掛けてる。『意識がないのに、物置に閉じ込めるなんて酷い!』って、弟さんと大喧嘩したそうだよ。お医者様の手配も、賄いでも暖かい料理をいただけるなんてありがたいよ」
 デルカダールの地下牢に入れられた時の待遇を思えば、月とエビルタートルだよ。よくわからないけれど、この人はとっても苦労してるみたい。
 僕は飲み込む次いでに頷く。
「あのお嬢様には感謝しています。怪しい侵入者として外に放り出されても仕方ないですから」
 エテーネ村でテンレス兄さんが残した銀の箱を、兄さんが僕へ返した瞬間、光が迸った。
 何が起きたんだろうと思った時には、兄さんは意識を失ってぐったりしてる。さっきまで一緒にご飯食べてた仲間は誰一人いなくて、エテーネ村の僕の家じゃない。王宮みたいな部屋に、金の枠で縁取られた大きな窓。床に敷かれた絨毯は新芽の芝生みたいに柔らかくて、カーテンも調度品も高そうなのが遠目からでも分かる。
 にゃあお。口元が白い黒猫が僕の鼻先で鳴いた。首輪に付けられた星の飾りがきらりと光った向こうで、椅子に座っている紫の長い髪のが見えたんだ。
 僕は背中を向けて座っていた人間のお嬢様に、助けを求めた。だって、兄さんがぐったりして、普通じゃない。死んじゃうかもしれない。そんなの、嫌だ!
 必死な僕の叫びに驚いて振り返ったお嬢様は、倒れている兄さんに驚いた声をあげた。
 その声を聞きつけて飛び込んできたのが、お嬢様の弟。驚きの声が上がって直ぐ飛び込んできたから、隣の部屋から駆けつけたって間はなかった。丁度用事があって、部屋の前にいたんだろう。そうであって欲しいし、そうじゃなかったら怖い。
 兄さんが意識を失ってて助けて欲しいって、言う暇なんかなかった。僕と兄さんをクモノでぐるぐる巻きにして、この物置に乱暴に押し込んだんだ! 意識のない兄さんは、可哀相に頭にたんこぶ一つ作らされてしまった。意識が無いって誰が見てもわかるのに、なんて乱暴なんだろう!
 そんな物置部屋には先客がいた。
 それが目の前にいる、レナートさんだった。

アンソロジーまで読んでる人なら知っている、レナート君です。
デルカダールとか誤字ですか? この謎の青年ってだれですか? いやぁ、だれでしょう。

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