ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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「銀の小箱をクオード様のお部屋から持ち出したのは、私です。あまりに綺麗な箱だったので、つい、出来心で…。屋敷を追い出される覚悟はできております」
 覚悟を決めた固い言葉。銀の小箱が震える手で、ポーラさんの後悔を叫ぶように光を反射する。キツく後悔の原因を握りしめる手を、メレアーデ様が掬い上げるように取り、もう片手で包み込んだ。上がらない頭に巡っている断罪の恐怖を鎮めようと、メレアーデ様は子守唄でも歌うように穏やかに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、ポーラ。まだ、何か隠しているわね?」
 はっと上がった顔を、メレアーデ様は見定めるように見つめる。
「貴女がそんな理由で盗みを働く人じゃないって、私は知っているもの」
 メレアーデ様…! 黒縁の眼鏡の下を幾筋も涙が伝い、伏せた顔から嗚咽が漏れる。途切れ途切れに語ったのは、ポーラさんの母が病に倒れ、治療の為に高価な薬が必要なことだった。美しい銀の小箱を見て、これを売れば母の薬を工面できると思ってしまったこと。本当に申し訳ございませんでした。頭が床に付いてしまいそうな程に下げた後頭部に、メレアーデ様は問う。
「お母様の薬の為に換金するなら、屋敷に置いてある物を持ち出しても良かったのよ? なぜ、ルアムの箱を選んだの?」
「私はこの屋敷に勤める者。屋敷の物に手を出すことはなりません」
 なるほど、主人の物に手を出せば屋敷を追い出されるという制裁が降る。それに主人の物に手を出したという悪評は瞬く間に広がり、ポーラさんは侍女として誰かに仕えることは二度と出来なくなるだろう。しかし僕が諦めて熱りさえ冷めてしまえば、外部の人間の私物が紛失したことなど問題にすらならない。
 僕にとって非常に大事な物であったのが、ポーラさんの誤算だったんだ。
「貴女の罪を裁くのは、この屋敷を預かる私ではありません」
 メレアーデ様はポーラさんの手を離して、一歩身を引いた。
 僕の肩に細い手が置かれ、そっと背中を押される。メレアーデ様に並んだ僕は、黒い頭頂部にできた旋毛から見える白い頭皮が月のように光って見えた。
「この銀の箱の持ち主であるルアムが、貴女を裁きます。この屋敷で起きた全ての責任をドミネウスの娘メレアーデは負い、ルアムが下した沙汰を完全に遂行することを誓いましょう」
 え? 戸惑いが口から押し出された。
 確かに銀の小箱が持っていかれて、戻ってこないかもって思った。でも、目の前に銀の小箱はあって、ポーラさんは一緒に働く仲間の前で罪を暴かれ、罪を認めて後悔に打ち拉がれている。これ以上、僕に何を裁けって言うんだろう?
 ぶるぶると身を激しく振るわせ、立っているのもやっとなポーラさんが可哀想だった。僕は震えるポーラさんに一歩近づき、肘を支えた。驚いてびくりと跳ねた細い腕が、雨に打たれたように冷え切っている。
「僕は今、大事な人の意識が戻らず、このまま死ぬかもしれない不安で頭がいっぱいです。それは、きっと貴女がお母様が病気になって死ぬかもしれないと思う恐怖と同じだと思っています。助ける為なら、自分が破滅したって構わない。その気持ちが、今の僕には痛いほど分かります」
 歯の根も噛み合わず痙攣していた唇が開くと、大きな嗚咽が溢れた。膝が折れて崩れ落ちると、床に広がった白いエプロンに大粒の涙が次々に落ちてドレスの黒に塗り替えていく。
 僕は膝を付き、ゆっくりとポーラさんの手を膝の上に下ろした。
「銀の小箱を手放してください。僕はこの屋敷で見失った物を、この屋敷で発見して拾ったのです。何の問題がありましょうか?」
 真っ白くなるほどに銀の小箱に押し当てた指が、綻ぶように剥がれていく。雨樋に流れ込む水のように、箱は涙に濡れていく。指先と箱の間に滑り込んだ涙が滑り、銀の小箱はポーラさんのエプロンの上を転がって木の板を貼り合わせた床の上に落ちた。落ちた拍子に散った涙が、床の色を点々と塗り変える。
 僕は銀の小箱を拾い上げると、謝罪が綯い交ぜになった嗚咽を吐き続けるポーラさんに頭を下げた。
「ポーラさん。ありがとうございます」

前後編どころか前中後くらいの長さになってきて白目です。
しかし、レナート君視点は前編なら可能だが、まだ明かしたくない情報が出ちゃう可能性もあるし、後編は絶対どちらかのルアムである必要があってここの流れではエテーネルアム君だけ。
そうなるとルアム君でこのながーい話を駆け抜けねばならぬ。しんどい。ながい。削れない。

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