ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 胸に収まったコポが『シャンテ だいじょうぶ。 だいじょうぶだよ』と囁いてくる。
 部屋の薄暗がりの中で燻んだ灰色にすら見える薄い碧色の体を強く抱きしめれば、ふわふわの見た目通りの柔らかい感触が伝わってくる。春の日差しのような暖かさが胸を温め、目を閉じて暗い世界に爽やかな新緑の香りが広がる。まるで綿毛の精に手足を生やした『おむつっこり』と呼ばれる魔物の姿だが、その胸には冷たく輝く赤い宝石があった。
「やれるもんなら、やってみやがれってんだ!」
 磨かれた飴色の床板を下から叩くような、激しい姉さんの声が聞こえた。いつも優しい姉さんの声とは思えない、燃えたぎる憎悪が篭った声だ。
 最近、私達を引き取ってくれたゼフさんのお店には、『悪いお客さん』がくるんだって。チュラリスが言うには、『悪いお客さん』はお店に来ても買い物も依頼もしないで帰ってしまうんだって。ゼフさんは錬金術のお店を営んでいるから、ひやかすだけのお客さんが『悪いお客』と言われてしまうのは仕方がない事なのかもしれないわね。
 でも、その『悪いお客さん』に対して、姉さんは声を荒げる。
 姉さんは意味もなく他人を攻撃したりしない。一体、どんな『悪いお客さん』なんだろうと訊ねれば、『シャンテが気にする事じゃない』とぶっきらぼうに言うの。ゼフさんも『悪いお客さん』がきている時は、二階の私の部屋にいなさいと言っている。確かに、私は錬金術師じゃないから何の役にも立てそうにない。
「あたしたちは権力や脅しには、屈しないよ! 錬金術師としてのプライドに賭けてね!」
 脅し。穏やかじゃない言葉が聞こえて、部屋の扉を薄く開ける。
 丁度王宮の影が差し込む時間帯で、店の中は夜のように暗かった。店である一階で灯る暖かい光に照らされて、吹き抜けた大きな壁一面に大きな三つの人影が揺らめいている。まぁ、良い。女性にしては低い声と共に、真ん中の人影が片手を軽く上げた。
「『時の指針書』に導かれ築かれた栄光を鑑みれば、強情な反発は国家への反逆と見做される。私とて無辜の民に手荒な真似はしたくはないのだよ」
 淡々と冷えた声色だったが、粘着く感情が部屋の中を這いずり回った。
 吹き抜けに面した床から黒い帽子を被った頭が覗く。慌てて頭を下げると、手すりの隙間に見えた店の扉が開け放たれる。『悪いお客さん』は去り際に、妙に明るい声を店内に向けた。
「貴様らの賢明な判断を期待しているぞ」
 複数の足音が外へ出ていくと、扉が勢い良く閉まって大きな音を立てた。思わずコポを抱きしめて体を竦めたが、首だけそろりと伸ばせば固く閉ざされた扉の前には誰もいない。
 私はほっと息を吐いて、店内の張り詰めた空気が緩もうとした時だった。
 こんこん。
 扉を叩いた軽快なノックに、緊張が走る。
 一拍の間を置いて開けて扉を潜ったのは、若い冒険者。肩口で切り揃えられた茶色の髪は、王宮の影が動いた事で黄金の艶を這わせる。日に焼けた健康的な顔立ちは整っていて、人好きする笑みが浮かんでいた。フード付きの外套の上から、大きなベルトを掛けて背に長剣を背負っている。皮を裏打ちした袖なしの紫の長衣を捌きながら、カウンターへ進み出た青年はメモへ落としていた視線を上げた。ただならぬ雰囲気に、翠の瞳がぱちぱちと瞬く。
「素材の配達なんですけど、後の方が良いですか?」

再びのレナートくん!
このベルマさんとのやりとりが長くなりそうだなぁと思って、前編にしれっと加筆しています

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