ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 私は無意識に首に触れた。ドレスと同じコーラルピンクのリボンに、たっぷりとフリルを施したチョーカーが指先に触れる。姉さんはこのチョーカーの下に、大災害で受けた恐ろしい傷があるから外してはいけないと言う。
 この首の傷のせいで、私は記憶と共に美しい歌声を失ってしまった。
 話し声は可憐な音を響かせ、大声を発すれば大通りの始まりから終わりにまで届く。それでも、歌として喉を振るわせると、聞くに堪えない酷い音を紡いでしまうのだ。以前のシャンテの歌声を知っていた人達は、深く同情してくれた。喉が傷ついて歌えなくなっても、生きているだけで未来は明るいと励ます人。記憶を失っても大災害の恐怖が拭えないのだろうと、涙ながらに抱きしめてくれる人もいた。
 姉さんは笑みに少しだけ哀しみを混ぜる。笑みが含んだ悲しみが、私の歌声を心から愛していたのだと胸を抉る。
「わからない…」
 首から下ろした手が、膝の上で固く握られる。
 正直、無い記憶を恐ろしくも思えなかった。むしろ、記憶がない事に気を使われ、同情され、励まされる方が気が重かった。いっそ、どんなに恐ろしくても心が傷つこうと、記憶を取り戻したいくらいだ。ネジガラミの根の薬草茶は、私が姉さんに頼んで作ってもらっているの。
「でも、記憶を失う前の、皆さんが愛した歌声が取り戻せたらって思うんです。取り戻せなくても、もっと上手に歌えるようになりたいんです」
 隣から姉さんのほっそりとした手が重ねられる。シャンテ。愛おしく私の名を呼んでくれる、世界で一番優しい声に耳を傾ける。
「誰がなんと言おうと、お前はあたしの最高の歌姫だ」
「ありがとう、姉さん」
 白い毛皮の縁取りが、押しつけた頬をふんわりと包み込む。頃合いを見計らっていたのか、納品された品と目録が相違無い事を確認し、サインした領収書を持ってレナートさんに歩み寄った。顰められた声でいくつか事務的な内容を交わすと、長剣を手にソファーから立ち上がった。ごちそうさまでしたと暇乞いして、店の外へ足を向ける。
 私は見送ろうと、店の外へ付いていく。
 太陽は随分と傾き、青空に浮かんだ雲がほんのり珊瑚の色を帯びている。鳥達が帰路につこうと並んだ影が、王宮の向こうへ消えていく。巨大な塀の中に犇く屋根の隙間から、街灯の眩い灯りが灯り始めた。塀の内側が明るくなり、夕焼けに染まろうとしていた空を暗く沈ませる。そんな都を、レナートさんは感慨深く眺めている。
 レナートさん。呼びかけに遠くから引き戻された視線に、私はおずおずと声を掛けた。
「あのね、お願いがあるの」

個人的に大災害の記憶を蘇らせる方が可哀想でないか?と思っています。リンカの薬草茶は『失った記憶を蘇らせる』的な物忘れに対する薬効が期待されている訳で、額面的には大災害の前の幸せな日々を思い出して欲しいという気持ちで飲ませてるんだとは思うんです。
でも、大災害の記憶が最も新しく鮮烈なわけです。死に瀕するやばい状況を思い出して、精神崩壊だってある。そんな事を、リンカが望んじゃうの?って思ったりしているんです。
なので、ここではシャンテちゃんが望んでるって方向で書いてます。

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