ハコの厚みはここ次第!
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■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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空になったカップにお茶を注いだ許嫁殿は、手の平を温めるようにカップを掬い上げた。ゆらゆらと揺れる紅茶の奥底を覗き込んでいた許嫁殿の冬の空の瞳が、紅葉の睫毛を押し退け向けられる。許嫁殿は不思議なお方だ。無邪気に振る舞ったと思えば、全てを見透かしたような目で僕を見る。
勿論です。そう答えながら、記憶が過去に向く。
許嫁殿との出会いは互いの婚約が決まった時、グランゼドーラ城で出会ったのが初顔合わせだろう。ファルエンデ王国はグランゼドーラから遠かったからこそ、初めて出会った許嫁殿は政略結婚である事を理解して乾いた目で僕を見ていた。
「グランゼドーラが同盟を強化すべき国として、ファルエンデの優先度は低いのです。ファルエンデはグランゼドーラから遠く、現在直面している不死の魔王との戦いで疲弊した軍需を補う為に差し出せるものはありません」
王族にとって他者が決めた婚約はよくあること。父も母も物心付いた頃に親が決めた許嫁同士だった。互いの子が婚約し、互いの血が混じって結束を深める行為を、レンダーシアに存在する王国や有力者達は何千年は言い過ぎではない年月繰り返していた。
政略結婚とはいえ、グランゼドーラのジュテ王とエメリヤ妃といえば他国も聞き及ぶおしどり夫婦。愛を育むのは、手を繋ぎ心を重ね共に足並みを揃えるステップにあると父は笑う。
許嫁殿に礼を失してはいけないよ。アルヴァン。
朗らかに笑みを浮かべながらも、有無を言わせぬ王の声で父は言う。
戦線が悪化しグランゼドーラになようやく戻れた時も、『身綺麗にしたら、許嫁殿にまず会いに行きなさい』と叱責されたくらい女性に気を配るよう言われている。もし、許嫁殿に礼儀を欠き、失態を犯したならばライデインが頭上に落ちてきたに違いない。
時間が許す限り許嫁殿と共に過ごした。お茶の時間を設け、花を愛でる為に中庭を歩き、兵士の訓練を見に来ては許嫁殿手ずから守りの刺繍を施した肌着やハンカチを差し出していた。
決して仲は悪くない。このまま婚約しても、良き夫婦であれると思っている。
喉が渇いていたのだろう。暖かい紅茶の香りが喉を焼くように通り過ぎ、胃を焼き尽くすような熱気が鼻に抜けていく。檸檬の酸味が痛む喉に追い打ちをかける。
許嫁殿の瞳が真実を見据えたように、僕を捕らえた。
「貴方は兄上を殺したカミルの命を救う為に、ファルエンデ国王にとって魅力的な勇者との婚姻を対価に差し出したのですね?」
「違います!」
僕は腰を浮かせ言い放った否定が、許嫁殿の前髪を浮かせた。
『不死の力を封じる禁忌の秘術を、ついに手に入れました』そう僕の隣で父上と母上に報告するカミルの誇らしげな顔は、この果てなき戦争についに終わりが見えた希望と安堵に輝いてすらいた。秘術の入手に尽力した許嫁殿の話に及べば、父上も母上もこの国に嫁ぐ嫁の勇ましい逸話に驚きを隠さなかった。
智将と名高いジャミラスを出し抜いた経緯を聴き終えた瞬間、父は『まことに天晴れなり!』と膝を叩いて賞賛した。淑女たる許嫁殿の大胆な行動は、勇猛果敢な父の琴線をかき鳴らしたようだ。
眉尻を下げ、隣に座った母上に上半身を捻って笑いかける。
『二人が結婚すれば国は安泰。のぅ、エメリヤ?』
えぇ。母上が嬉しげに頷いた。
『勇者に相応しい、献身と勇気ある娘は他におりますまい。魔王討伐が成ったならば、立派な婚礼をあげるがよいぞ、アルヴァン』
はい。しっかりと頷いた僕を睨めつけるのは、妹のフェリナだ。
許嫁殿の歳は僕よりもフェリナに近いだろう。戦争に貢献できないとされた許嫁殿に、フェリナは何かと張り合っていたように見えた。許嫁殿が来てから僕とカミル渡した刺繍守りは、兄の贔屓目を抜いても素晴らしいものだ。いつも縮こまり隠れるような妹が鮮烈な感情を向けてくる姿に、刺激となった許嫁殿には一生頭が上がらないだろうと思ってしまう。
それに。きりっとした盟友を横顔に、初めて見た笑顔が重なる。
僕ですら見た事がない、零れるような笑顔。初めて耳にする笑い声。普段から完璧な盟友であれと誰よりも己を強く律しているカミルが、誰よりも僕と共に過ごしているカミルが、年相応の娘のように笑う一面を引き出した許嫁殿に嫉妬さえしてしまった。
兄を殺した相手を笑顔に変える許嫁殿の底知れなさに、僕のお嫁さんはとんでもない人だと思うばかりだ。勇者の伴侶となりうる女性とはどんな人物だろうと思っていたが、許嫁殿は僕の想像を軽々と超えて傍にいた。
「許嫁殿! 貴女は僕の妻には勿体無いくらいの、素晴らしい女性です!」
公式のヴィスタリア姫は幼い感じなんでアルヴァンさんも『妹が増えた』程度しか感じてないのが、仕方がないとはいえ割とキレてる。わかってる。カミルが好きなのは鈍感で資格なしだし、王族だから政略結婚にドライな感じしてるし、それでもヴィスタリア姫に丁寧に接しているのはわかってるんだ。
それでもさー。
なので、ヴィスタリア姫をきちっとアルヴァンさんに伴侶として認識してほしかったなって稲野の欲が爆発してる。
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