ハコの厚みはここ次第!
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■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
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きっぱりと告げた先で、許嫁殿が花が綻ぶように笑った。そして肩を震わせ、口元を隠し、弾けるように愉快な声を上げた。喜んでいるとは思えない反応に、口を開けて見守っているうちに許嫁殿は滲んだ涙を拭って落ち着かれる。
「貴方とカミルは不死の魔王を討伐するまで、愛だの恋だの結婚だなんて気が回らないでしょう。ただ、婚約者がいるだけで煩わしい話題から逃れられるなら、私は良い緩衝材になったのでしょうね。わたくしの役目は勇者のお役に立ち、グランゼドーラの勝利に貢献する事。十分に役目を果たしたと思っております」
そんな事は…! 否定の言葉を迸ろうとした口に、ほっそりとした指が当てられる。
「もう、わたくしの心は決まっております」
まるで不死の魔王の如き威圧に、ひゅっと喉に言葉が詰まった。口に当てた指に力を込められて椅子に腰を下ろした僕を見ると、許嫁殿は母上に似た威厳ある声で告げる。
「貴方にカミルを救ってもらいたいのです」
どういう事ですか? 掠れて声にならない吐息が、口から溢れた。
許嫁殿は兄上の死の真相を、父親であるファルエンデ国王から聞かされているだろう。許嫁殿から兄妹仲が良好だった事を聞けば、兄を殺した張本人を恨みこそすれ、救ってほしいなどと願えるものだろうか?
いや、許嫁殿はできる。
彼女は正しく、一国の主に相応しい気量を持つ女性だ。
「秘術が生み出す『邪魂の鎖』は術者の魂から生成される。そう、秘術の守護者は申しました。全ての力を封じる秘術は、魂を対価とする禁術やもしれません」
温い困惑に浸った胸に、ひやりと冷たいものが流れ込む。
なぜ、気が付かなかったのだろう?
三つ目の神話で世界を照らすための力を、己の魂でもって生み出した女王がいた。九つ目の神話で己が大国を守る為に、魔神に同盟国を差し出した王がいた。あの、僕達を散々苦しめた不死の力すら封じる行為に、どれ程の対価が必要であるかなど、少し考えればすぐに思い至れた筈だ。
いつもの無表情に僕だけが分かる喜びを浮かべて、カミルは秘術を見つけたと言った。この秘術を使えば、不死の魔王を倒せるのだと感慨深く言った。カミルの言葉に僕も父も母も、グランゼドーラの民全てが喜んだ。もうすぐ戦いが終わる。勇者が勝つと、夜も明けるというのに宴は終わる様子がない。
その勝利を手にする為に、カミルが、死ぬ?
嘘だ。そんな事、カミルは一言も言ってない。
カミルは僕の盟友だ。どんな絶望の戦場でも僕と共に乗り込み切り開き、どんな強敵も力を合わせれば負ける事なんてなかった。言葉を交わさずとも、たった一目視線を交わすだけで互いの全てが伝わった。あのまっすぐな瞳に、嘘はかけらも感じなかった。
「カミルは敢えて、貴方に秘術の全てを伝えなかった。それは、不完全な状態であっても不死の魔王を打破する効力があるからです」
許嫁殿は苦しそうに目を眇めた。
「不死の魔王を討つ為…というのは建前。カミルはアルヴァン様の為に、己の魂を捧げるつもりなのです」
カミル…!
僕は勢いよく立ち上がり、椅子が大きな音を立てて倒れた。心臓が握りつぶされそうな程に痛み、胸の中の空気は空っぽで頭が落ちそうな眩暈が世界をぐるぐると回している。不死の魔王を倒さなくては。グランゼドーラを、世界を、守らなくては。カミルが死ぬだなんて嫌だ! 感情が脳を掻き回すような激痛となって、全ての色が混ざった漆黒の世界に反響する。
この感覚を覚えている。
そうだ、カミルと初めて出会ったオルセコの地。
ほーんと、カミルなら絶対にそうするって辺りが、あの石頭っぷりで確信しちゃう。
たぶん、カミルはこの戦いで死にたかったんだと思う。心の底からアルヴァンの伴侶にヴィスタリアが相応しいって思うし祝福するけど、フェリナあたりに本当にそれでよかったの?って突っ込まれる程度に無理した余生を送るかもしれない。それならば、いっそ死んで未来なんか見ないで済むならそれで良いし、彼女の生命に頓着しない気質がアルヴァンの代わりに死ねると加わって率先と秘術を使う事を決めさせるんですよ。絶対に他の選択を考えないの、石頭だなって思う。
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