ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 三対の塔が優美なグランゼドーラ城の門を潜ると、不死の魔王との激闘を制した勇者アルヴァンの石像が訪問者を迎える。
 その大きさは大聖堂の高さに迫る天井に、その雄々しい頭髪が触れるほどの高さ。足元から見上げたとしたら、分厚い刀身のバスタードソードを軽々と捌いたとされる胸筋に顔が隠れてしまうだろう。引き締まり隆々と鍛え抜かれた筋肉は、オルセコの猛者達が『ガズバラン様と競える肉体美』と賞賛した逸話がある程だ。
 今代の勇者アンルシアが大魔王を制する少し前に、消失した勇者アルヴァンの盟友の像が復建された。盟友カミルはほっそりとした優美な女性で、風を含んで柔らかく皺を刻む服の下に女性らしい輪郭が浮かんでいた。フードを下ろした戦場の女神のような顔には、盟友としての固い決意が滲み出ている。盟友はレイピアと錯覚する程の細い刀身の剣を交差させるように掲げ、足をぴたりと揃えている姿勢に生真面目さが滲んでいる。
 勇者達の尊顔を見る為に、石像の前には城の内装と同じ作りの物見台が設られている。階段を上がり二階相当の高さに登れば、先代勇者と盟友の顔がはっきりと見えた。
 いつもなら観光客で列ができるのに、今は俺とケネスだけだ。
 勇者を輩出する王国の上に巨大な繭が出現して数日、ずっと不安定な天気が続いている。黒々とした雲からゴロゴロと威圧するような音が響いて、紫電が爆ぜて稲光が大地を照らした。大地の植物は突発的に降り注いた雨の多さに項垂れ、雨水を海に流す水路が溢れてグランゼドーラの大通りは踝まで水が溢れていた。
 ほぼ真上に巨大な繭が空から吊り下がっている。青白い光の糸を幾重にも巻いて作られた繭は、巨大な入道雲と大差ない大きさだろう。一際大きな満月くらいの光量は、太陽の日差しを阻む雲の下でも白夜の明るさで大地を照らしている。今はただ頭上に突如現れただけだけでも、その不気味さは人々を震え上がらせるには十分だった。
 大魔王を討った勇者が居る王国から諸外国へ抜ける唯一の関所は、入場規制が敷かれている。王国から関所に殺到している避難民達が作る馬車の列は、レビュール地方を縦断するくらいに長く伸びているそうだ。
「何なんだよ待機って。俺を巻き込むんじゃねぇよ」
 ケネスは火の入っていない煙管を咥えて、怠そうに目を眇めていた。城下町の人が普段使いしそうな布の服に、撥水を施し過ぎて重くてかる外套を羽織っている。腰に穿いた二振りの隼の剣が、喫煙できない苛立ちを代弁するように瞬いていた。
 元気になって良かった。
 ランガーオ村でアンテロが使った猛毒を吸い込んでしまったケネスは、毒の治験の為にナドラガンドに出向いていた。本当はもっと重篤なアロルドというオーガの若者が急がれたが、移動にもナドラガンドの過酷な環境に耐えられる状態じゃない。ケネスが治験を行って毒に有効な解毒剤を開発し、ガズバランの器のマイユが完成品を持ってアストルティアに帰還した。ケネスの元にはアロルドが介抱に向かっているという朗報が届いているそうだ。
 ただ、ナドラガンドへの旅はケネスにとって、嬉しくないものだったらしい。
 今ではナドラガンドの状況を一番よく分かっているという事で、世界宿屋協会のナドラガンド進出の全てを調整する羽目になっているとか。グランゼドーラの執務室の書類の洪水は、ドアを開けると廊下に溢れ出てしまうらしい。
「ケネス 勇者の 仲間 違う?」


グランゼドーラ編開始です!
一応、 ver2編でほぼ復建してますが、カミルの像がありまっす! 私が映えを求めてフードが吹き飛ばされてますが、まーあ瑣末な問題でしょう。

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

 まるで大木が聳え立つ森林。もしくは向日葵の畑。石畳の上に転がるルアム達の傍から、一点を見ている人々を見上げていた。ルアム達の体のあちこちに足が触れる程に人々は密集していて、潮風の湿度に妙な熱気を含んで息苦しいくらいだったキュ。人々は地面に寝転がる不審者達を一瞬見遣っただけで、それ以上の関心を寄せずに空を見上げていた。不安がさざめく声は強風に煽られる木々のようで、互いの不安を存分に掻き立てるキュ。
 人々の黒々とした影が切り取った空は、分厚くどんよりとした黒い雲が広がっているキュ。紫電が爆ぜる嵐の予感がする雲は、今にも大粒の雨がふってきそうだったキュ。
「なんだろう?」
 王宮の落下から立ち直った毛玉が立ち上がって、ルアムに手を貸したキュ。上半身を起こして、そのまま重たい頭を支えるように額に手をやる。自由落下中に時間跳躍を行ったので、ルアムにはちょっと無理をさせてしまったキュ。でも、あのまま落下すれば死ぬのだから、怠いくらいは許容するべきキュ。
 どうにか立ち上がったルアムに、周囲の人々が迷惑そうに視線を向ける。仕方なく一歩と動いて生まれた隙間にルアム達が立つと、人々の視線の先に目を向けたキュ。
 え。ルアムの口から驚きの声が漏れる。
 白と黒が支配した世界に、暖色に彩られたグランゼドーラ城が浮かび上がっていた。篝火を炊いて白亜の壁面が炎に炙られている城が目につき、そして黒い空へ滑った視線が否応なしにそれを視認する。
 黒い雲からいくつも輝く糸が伸びて、山よりも巨大な白い塊を吊り下げている。紫電を散らして白く発光するそれは、まるで積乱雲のように層になっていて、次第に虫が作る繭に認識が収束していく。あ。あ。ルアムが真っ青な顔で、悪夢を見るように繭を凝視していたキュ。
「あれは。あの繭は…」
 そう、あの繭こそ、ルアムが終焉の光景で見た繭。
『未来は変わったキュ』
 当然、滅びの未来の可能性が消え去る事はないキュ。実際に今までの行動を思い返せば、滅びの未来の消滅に関わるような行いは何一つ行っていなかったと断言できるキュ。
 ルアム達は出来る事をしたし、ボクから見ても行いは最善で善良だったと言えるキュ。でも、良い行いをしたから、最も良い選択を選んだから未来が都合のいい内容になるなんて簡単なものではないキュ。どんな選択も影響も全てを飲み込んでしまうのが、滅びの未来という大きな可能性だキュル。
『滅びの訪れが、早まったキュル』
 これがメレアーデの滅びの未来を回避する為の導きであるとしたら…。ボクは気品溢れる冒険者を思い返す。エテーネ王国の王族は強い時渡りの力を有しているキュル。あの未来のメレアーデが存在する未来へ導く為に画策する事は、決して不可能ではないキュ。
 一体、どんな未来キュ。
 少なくとも、黙って滅びの未来を受け入れた方が穏やかで楽だとは思うような、茨の道を歩かされるのは確実キュル。目の前に突きつけられた滅びの未来を回避しなければ、ボク達はすぐに滅んでしまうのだから…。
 ボクは空を見上げて、きゅう、と息を吐いた。
 常軌を逸しているキュルね。
 

エテーネ王国編完結っっっっ!!!!

拍手に感謝!いっぱいぱちぱちいただいて嬉しいです!ありがとうございます!

 黒服の剣士が険しい顔で足元に崩れ落ちた亡骸を見ていたが、こちらに視線を向ける。誰に視線を向けているかは分からないが、剣士は眉間に寄った皺が消えてうっすらと笑みを浮かべたように見えたキュル。
 すっと剣を持っていない手を掲げると『箱』が光を放つ。光は太陽のように時見の神殿の中を白に染め上げ、時渡りの力が急激に高まっていくのを感じるキュ! とてつもない時渡りの力が溢れ出して、空間に流れる時間が乱れていく。停滞して澱んでいると思えば、一瞬にして赤子が老人になる時間が駆け抜け、後ずさるように時間が巻き戻っていくキュル。それらの影響から三人を守るので精一杯キュ!
 外に向かって溢れた光が、突然ピタリと動きを止めた。まるで星々の海に投げ出されたような神秘的な光景に見えるキュけど、光は振動し爆ぜるように瞬き出す。
 キュキュッ! 大規模な時空転移の予兆キュル!
「一刻も早くここを離れるキュ!」
 ボクの声と同時に凄まじい轟音が響き渡って、床が抜けたキュル! 三人は神殿の床と共にエテーネ王国上空に放り投げられる!『床、空気読みすぎだろぉお!』と赤毛玉の悲鳴が強風に拐われいくキュル。
 広大な海の彼方は、緑がかった空とは交わらず陸地が輪のように取り囲んでいる。光が空を貫かんと噴き出る山があれば、水のように火が流れ煙が塊のように空に投げ出される山もある。黄金の平原のような砂漠。豊かな水の流れる大地。視線を落とせば広大なエテーネ王国が、飲み込まんばかりの勢いで迫ってくるキュ! その間をばらばらと黒い神殿の建材が切り取っていく。
 崩壊する時見の神殿の瓦礫の合間を縫って、赤毛玉がルアムの所へ舞い込んだキュ。兄さん! そう言って赤毛玉を抱き寄せたルアムは、レナートの名前を叫んだキュ。
 周囲に散らばる瓦礫は、大人の男性の姿すら隠すほどに大きいキュ。レナートの応じる声も、瓦礫の向こうから聞こえてきたキュル。
「ルアム君! 君が未来を変えるというなら、また会えるだろう!」
 レナートさん! ルアムが喉も避けよと声を張り上げると、空の色が真っ白に塗り替えられた。空の色はまるで朝焼けに白むように白く染まり、雲が時の流れにかき消されていく。光の素である『箱』の光はエテーネ王宮を溶かすように広がり、ぎゅっと圧縮されて跡形もなく消し去ったキュ。
「たった今未来が変わったキュル!」
 もうこの時代にとどまる理由はないキュ。このまま落下する事はルアムの生命に重篤な損傷をもたらし機能停止する可能性が非常に高いため、元いた時代に帰還するキュ。緊急性が高い場合は、テンレスの『頼む』が優先されるキュ!
 ボクはルアムの鞄から『エテーネルキューブ』を呼び寄せると、その銀色の面を細い指で突いていくキュ。まるで五月雨のように触れた面が黄緑色に発光し、銀色の面が突き出たり凹んだり回ったりするキュ。
 大きく腕を振り上げ指を押し付けると、『エテーネルキューブ』は眩く光り輝きボク達を包み込んでいったキュ。黄緑色の光が溢れるトンネルを滑空するような感覚は一瞬で終わり、次の瞬間には放り出されたキュ。

今回のベストワード、床、空気読みすぎだろ

 この未来がメレアーデが導く『正しき未来』なのキュル?
 人間の価値観では、血縁者は尊ばれる。テンレスが弟のルアムを大切にしていたように、メレアーデにとってドミネウスは守る対象となるはずキュ。しかし、ドミネウスは心臓を貫かれ、ルアムの矢がトドメの一撃となって生命活動を停止したところキュル。
 生命活動が停止したドミネウスという個体が、ずるりと重力に引かれて崩れ落ちていキュ。背後に立つ個体が力尽きた巨体に引き摺られて剣を下ろせば、黄金の光を反射する水面に顔面から落ちていったキュル。夕焼けのような赤銅色が、円が広がる毎に濃くなっていキュ。
 傍に立っていたテンレスの弟が、驚きに掠れた声で『誰?』と囁いたキュ。
 ボクが博識な時の妖精キュルル様でも、流石に知らないキュルねぇ。
 その個体は成人した男性。手に持った両刃の長剣が物語る通り、怪しく照る黒塗りの鎧に身を固めているキュ。外套から肩から首元を覆う毛皮まで真っ黒な装いで、健康的な肌色が真っ白に見えるキュル。服からはぽたりぽたりと黒い液体が滴り、これが男の服を黒く染めているようキュル。
 ルアム達は得体の知れない剣士に見えるキュルけど、ボクには非常に強い時渡りの資質を持つ者であると察する事ができるキュ。突如現れたのも、異なる時代からこの瞬間に跳躍してきたんだキュル。
 黒い服の剣士は何気なく『箱』と呼ばれた、時間演算装置を見上げるキュ。
 頭上に輝く『箱』と呼ばれた立方体群は、この時間軸では最高峰の時間制御装置に違いないキュル。一際巨大な立方体を中心に、小型の演算装置と連動し大規模な時間制御を行うと思われるキュル。大規模と断言できるのも、立方体が巨大であればあるほど時渡りの力の貯蓄量と比例して行使できる力の規模が増すからであるキュ。
 次々と力を注ぎ尽くし、ヘルゲゴーグ達が前のめりに崩れ落ちていく。その度に、ぴしりと床から嫌な音が響いたキュル。それに反応した赤毛玉が、神経質そうに周囲を見回すキュ。
「な、なぁ。逃げていーなら、姫様達を担いで逃げよーぜ?」
 黒服の剣士を警戒していたレナートが、赤毛玉の言葉に頷く。突如現れた剣士にこちらを攻撃する意図がないと判断したのか、剣を構え目を離す事なくルアム達に急ぐよう手を振った。ルアム達が視線を交わして踵を返し、意識を失っているクオードとメレアーデの元に行こうとした時。
 びしっ。
 がくりとルアムが足を踏み外したように、体が傾く。びしっ。ばきっ。ばりん。音が足元から次々と湧き上がり、溜まっていた水が流れ出していく。三人は激しく揺れる床に立っていられず、膝をついてしまったキュ。

キーマンこと黒衣の剣士様いらっしゃいませー!
あーごめんなさい。一話にしては長くなりすぎちゃって分割するんだけど、そうすると一話にしては短くなるんですよねー。しおしお。

「運命という激流に流されるのは容易いけれど、逆らうのは難しい。未来を変えようとがむしゃらに行動しても、結局同じ滅びの未来へ流されてしまう」
 メレアーデはボクの言葉を肯定しながらも、『ですが』と続けた。
「別の至る未来への分岐点は、確かに存在するのです。大切なのは、一歩一歩望んだ未来に向けて歩みを止めない事…」
 ボクは否定できなかった。
 滅びの未来はアストルティアの未来に横たわる、圧倒的確率で発生する可能性の一つでしかない。可能性が可能性である限り、滅びの未来が発生しない可能性もまた存在している。それをボクは揺らぎとして観測するキュ。
 揺らぎ。不安定で脆弱ではあるが、有るべき時間、有るべき選択を経て収束し現在へと確定する。その確定した現在が、滅びの未来の可能性を再計算する。
 滅びの未来を回避する可能性がある『かも』しれないキュ。
 でも、希望を与えるには弱すぎる可能性キュ。
 圧倒的確率で発生し、いつかは必ず発生する滅びの未来。この滅びの未来には時間の修正力が加わっているキュ。この世界の時間がアストルティアが滅亡する未来へ向かっている以上、抗う事は世界を相手取るようなものキュ。
 キュルル。声に顔を上げると、メレアーデがボクに美味しそうなショコラを差し出した。角の丸い立方体で、つやつやと輝く面から香ばしいカカオの香りが立ち上っているキュ! キュキュ! 赤毛玉が目覚めてからチョコレートを強奪していたキュルけど、お腹の熱で溶けたり固まったりを繰り返していて、あんまり美味しくなかったんだキュル。
 製作者のテンレスが良くチョコレートをくれたキュル。でも、テンレスの温かい手の上ですぐ溶けちゃう経験から、反射で受け取ってしまうキュ!
 嘴でショコラを齧れば、ぱきりと割れた香ばしいチョコレートが、柔らかく甘い層を包み込んでいるキュ。口の中でぱきぱきと楽しげに砕けていくかけらと、とろりとミルクのように混ざり合って口の中が美味しさで溢れかえるキュル!
 キュー! とっても美味しくて空中で一回転するキュ!
 ふふ。チョコレートを頬張るボクを、メレアーデが嬉しそうに見ていたキュル。
「今後もルアムの良き友として、支えになってあげて下さいね」
 『ルアムを頼む』そう言ったテンレスの声が重なる。チョコレートから顔を上げると、もう見える範囲にメレアーデは居なかったキュ。

チョコレート大好き設定!いや、偽りのドミネウス邸の出番をまるっとディアンジに取られたので、キュルルの出番ってマジでない。だからどうしても情報が多い話になっちゃうんですよねー。あー技量がないのつらいわー。

拍手に感謝!ちょっと創作上手くいかなかったので、ぱちぱちいただけて心が癒されました!ありがとうございます!

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