忍者ブログ
ハコの厚みはここ次第!
■ Calendar ■
07 2019/08 09
S M T W T F S
1 2 3
4 6 7 8 9 10
12 13 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
□ Profile □
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
■ Booklog ■
□ search □
1 2 3 4 5

 アンルシア。その名を呼ぼうとした声を飲み込んでしまう。
 私は彼女を生まれた時から見てきた。真っ白い布に包まれた福与かな赤子の姿。女らしさを窘められ、顔を真っ赤にして目を腫らすまで泣いた幼少時。兄の助けになりたい一心で、マントの裾を引いて魔法の指南を強請った瞳。剣術の才能に目覚め、長身の反対を押し切ってレイピアを賜った誇らしげな顔。そして、凛々しい面持ちで人々の期待を背負い、戦場へ向かったあの日。私はアンルシアの人生の全てを見知ってきた筈だった。
 だが、目の前の娘は、私の知るどのアンルシアでもなかった。
 アンルシアの姿ではあった。亜麻色の癖毛の跳ね具合も、彼女が一時期嫌っていた口元のホクロの位置も、あの美しい青い瞳も何もかもが記憶のままの姿だ。だが、その雰囲気は別人のようだった。魔王軍との戦いで行方知れずになった後、一体、どれほどの経験を積み重ねてきたのだろうか。その成長ぶりに感動すら覚える。
 突如湧き上がった強風と雷が至近距離で落ちたような音に、思わずよろける。思わず顔を庇った腕から覗いた世界は、まるで神話の戦いのようであった。魔物が放つ紫電と、アンルシアの放つ黄金の雷が真っ向からぶつかり合っているのだ。
 勇者。勇者アンルシア。その言葉が自分でも驚く程にすんなりと浮かんだ。
 生まれた赤子が成長しトーマの後を追って戦場に飛び出した頼もしい背を見て来ても、心のどこかでは勇者とは認められぬ自分がいた。覚醒の光がなかったから? まだ勇者として告知していなかったから? それでも彼女が勇者になる事は決定された未来であったはずなのに、彼女はまだまだ勇者にはなり得ぬ娘だと心の底では思っていた。
 彼女は勇者だ。この世界を覆う邪悪な闇を打ち払うことができる。心臓が高鳴り苦しさすら感じた。
 徐々に紫電の勢いが増す。劣勢になる黄金だったが、アンルシアの震える切っ先を誰かが背後から支える。そして小さな影がアンルシアの肩に飛び乗り、一枚の護符らしきものを投げた。
 瞬間、黄金が爆ぜた。
 暴走魔法陣の力が黄金の雷の力を倍増させ、輝く鳥になって魔物を撃ち抜いたのだ!鳥は勢いよく舞い上がり、上空に垂れ込めた暗雲を打ち抜き真っ青な晴天と太陽が差し込んだ。魔物は跡形もなく消え去り、温かで眩しい日差しは不安を尽く拭い去ってくれた。


あんまり、ルシェンダのアンルシアの呼び方が安定していないが、格納の時に直します。
PR

 王は苦痛に顔を歪め、苦しげに胸を押さえて体を折った。深く深く膝に額を擦り付けた頭部から、王冠が落ちて床に転がった。乾いた音が沈黙を叩く。呻くような声が平らになった静寂に爪を立てるように漏れた。
「私がトーマを殺したのだ」
 否定しようと口を開くが、王が言葉を次ぐ方が早かった。
「大魔王の軍勢は勇者を殺しにきたのだ。でなければ、トーマを殺め、アンルシアを戦闘不能にした陥落寸前のグランゼドーラから撤退するなどあり得ない」
 そう、大魔王の腹心の部下。魔軍師ゼルドラドが自ら赴いた、グランゼドーラやアラハギーロへの同時期の侵攻。その本当の目的が何なのかは、実は測りかねている。
 純粋に敵対している人間という種族の王国を滅ぼす為ならば、ゼルドラドの戦略は最大限に発揮され完璧に遂行されていた。グランゼドーラは勇者の橋まで攻め込まれ、最も強いとされる勇者を殺め王女も戦闘不能にした。アラハギーロもムーニス陛下を筆頭とした王国軍が壊滅にまで追い込まれ、王国の民はほぼ全員が避難した。あと一歩踏み込めば、目的と仮定された王国の破壊が完遂されたはずなのである。
 しかし、ゼルドラドはしなかった。
 ならば、私が想定した作戦を、ゼルドラドが放棄したと考えられる可能性を模索しなければならない。
 一つ目は、大魔王が撤退を指示した事。
 二つ目は、元々の目的が王国の破壊ではなく、別にある事。
 三つ目は、大魔王の指示を翻してでも作戦を中断すべきと判断させた事態が起きた事。
 可能性として一つ目は低いであろう。大魔王が勇者を殺したことで満足し撤退を指示したとしても、冷徹非情、大魔王の忠実な僕であるゼルドラドであるならば、大魔王の利益の為に王国を破壊する事だろう。私が彼の立場であったら、間違いなくそうする。
 可能性が増してきたのが、二つ目の目的。疑いの域を出ることのなかった、別の目的の為の侵攻であったこと。アラハギーロ国王ムーニス陛下が帰還されるまで、こことは似て非なる世界に居たという。五大陸の調査団が辿り着いたレンダーシアが、ムーニス陛下が連行された偽りのレンダーシアであること。これらを踏まえれば、大魔王の思惑は想像の範囲外にあると思わねばならない。
 そして、最後の可能性。あのゼルドラドが作戦を中断すべきと判断するほどの事態。
 そんな事態が起こり得るのか。あるとしたら、それは、おそらく一つだけ。
 アンルシア王女が、真の勇者であると敵に知れた。
 敵はトーマ王子が勇者であることを前提に動いている。しかし勇者が別に居たら。戦略を大きく変更しなくてはならないだろう。しかし、ゼルドラドが真の勇者の正体を知った後に、アンルシア姫を戦闘不能にしているならば、トドメを刺しているはず。勇者殺害を果たしたとして、大魔王の利益の為に王国を破壊しなかった理由は不透明なままだ。
「ムーニス殿は、五大陸の調査団の者達は、アンルシアらしき存在が生きていると告げた。だが、帰ってきた娘になんと言えばいい」
 帰還されたムーニス陛下、五大陸の調査団のウェディとドワーフが示した希望は確かに希望であった。
 ゼルドラドが真の勇者であるアンルシアを取り逃がした為、戦略を見直す為に撤退した。やや、しこりのような疑惑は残るものの、納得できなくはない筋書きではある。
 だが、王にとっては純粋に希望と受け取ることが出来ない。
「兄はお前の影武者として死んだ。真の勇者はお前だ、アンルシア。どんな顔をして、そんな真実が告げられよう!」
 真実を告げる役目は、王以外存在せぬだろう。一人の父として、勇者の国の王としての感情が辛苦の色の色を伴い、血反吐を撒き散らすが如く迸った。


本当に原作、ここ超ドライなんですけど、葛藤とかマジでなかったんですかね? アリオス王はスタンプおじさん言われるレベルで空気読めない、コミカルに寄った王様なんだけれども、本当にどの面下げてアンルシアに影武者と真の勇者の話したんでしょう?
今回はイサークとガノが先行して真レンダ入りしているので、原作の『アンちゃんが帰還して『私は影武者として守ってくださったトーマ兄様の意思を引き継ぎ、真の勇者として世界を平和に導きます』とかなんとか言ってご両親が感動する』状態がきません。精々、スタンプおじさんには苦悩していただく(外道)

刻の大地最新刊ゲットしたぜえええええ!!!!ひょああああああああ!!!!(昇天)


拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

B様>>
おかえりなさいませー! ちょっとラインにコメント飛ばしてみたので、届かなかったら連絡くださいー!
ごふぉ! こんなオタクな小説ばかりのブログををを…。日常系ちょっと今ボロボロしてるんで、良いこと起きたら書きます!

 王が向かいに腰を掛け、小さく笑った。
「女の勇者が生まれるものなのか…そう問うたのはアンルシアが生まれて間もなくの事だったな。まるで先日の出来事のようだ」
「あの時は、今代に伝わる9つの神話の中で語られる勇者に、確かに女性が存在した。世界に光を灯せし最初の神話が語りし勇者は、勇気ある男の娘であった。勇者が男であると必ず定められてはいないのだ…と申し上げたと思います」
 ユリア妃が身篭った二つ目の命。それがこの地で産声を上げた時、それまで降り注いでいた雨はピタリと止み虹が掛かった。美しい青空に掛かる橋は、数々の神話に語られる勇者を導く虹の橋を彷彿とさせる見事なものだった。世界がこの子の誕生を祝福している、そう、誰もが思った。
 新たな命の誕生を喜ぶ声がまだ熱を帯びていた頃、まだ幼かったトーマ様が神妙な顔で王と私に言ったのだ。
 『僕はこの子を守る。勇者の影武者になって、魔王の目を欺く』
 その言葉に私達は言葉を失った。誕生した王女が勇者ではないかと思い始めていたが、確信に至らぬ段階であった。闇の気配は穏やかで、戦乱の気配は運命の振り子を揺らす事はなかったからだ。幼くとも成人の男性よりも硬い決意を決めた王子の言葉は、この先を思えば願ったり叶ったりの甘い誘惑であったかもしれぬ。我々は二つ返事で彼の願いを了承した。
「トーマは勇敢な男子だった。あの幼さで世界を背負う気概を見せた。勇者であると、誰が疑っただろう? 大魔王も、その配下も、そして、本物の勇者であるアンルシアでさえ、トーマが勇者であると思っていた」
 王子として公務に参加される事を許される歳に、彼は自らが勇者である事を宣言した。アンルシアの影武者である為の嘘だと気がつけた者など誰一人居らぬほど、グランゼドーラは王女の誕生と勇者の登場に熱狂した。
 トーマ王子は勇者に相応しい風格と実力を持っておられた。剣術の才に恵まれ、傭兵上がりの実力者である兵士長でさえ舌を巻いた。戦術は数々の軍師を輩出したアラハギーロに自ら出向き、ダーマにて数々の冒険者と行動を共にし柔軟性を高めた。民に優しく、決して驕らず、真っ直ぐに力を付けていく様は勇者のようであろう。
「トーマが勇者であれば良かった。ユリアはよく言っていた。こんなに可愛い娘に、剣を握らせ魔物を斬り殺し、血塗れた戦場に向かわせるなんて、神は何と意地悪な事をしてくれたのだ…とね」
 子を思う母の気持ちは、声を荒げ、腕を振り上げ、神を呪い罵りまでした。耳の奥を直に爪で引っ掻かれるような声が、今だに脳裏に焼き付いている。ユリア妃が身籠り、血肉を分け与えて産んだ子供の行く末を憂うのは仕方がないことだった。子には幸多からんことを。彼女こそアストルティアで最も子供達の幸せを願っているに違いない。
 しかし、グランゼドーラの王家の血筋であるアリオス王も、トーマ王子がどんなに努力をしても勇者にはなり得ぬことを知っている。勇者は神に選ばれるのだ。神の選定の結果を捻じ曲げる事は、如何なる存在にも出来はしないだろう。
「トーマ様は正しくアンルシア様の勇者になろうとしておられたのでしょう。彼は盟友を目指していた。盟友となり勇者と肩を並べて戦い、時に勇者の前に躍り出て守護する者になることを彼は望んでいたのです」
 王は昔を懐かしんでおられるのか、くしゃみを堪えるような笑みを浮かべた。
「アンルシアがレイピアを授かった日、あの子は笑った。『ほらね。僕の言った通り。でも、大丈夫。僕が盟友になってあの子を必ず守ってみせる』とな」

妖精図書館のトーマであろう人物の本より。
ユリア妃はややヒステリック気味なお母様って印象なのですが、まぁ、息子は死ぬわ娘は勇者だわ、心配性なお母様ならばヒステリックにならない訳がない。DQでは希少な普通のお母様でしょう。

そういえば、完全にアリオス王の名前をジュテ王と勘違いしたので、今回から訂正してます。

 グランゼドーラ城には王族専用の礼拝堂がある。小さな村の教会程度の広さに、10人座れる程度の長椅子が置かれている。王族、賢者、侍従頭や兵士長など限られた人数にしか知る事は許されぬ場所である。
 そんな王城の小さな礼拝堂は、謁見の間に負けぬ華美さが施されていた。正面のステンドグラスには、グランゼドーラ王国の建国者にして勇者と盟友であった兄弟の姿を金の枠に納めている。人間の守護神の眷属にして、勇者を乗せて天を駆けるペガサスの彫刻は天井いっぱいに施されて今にも舞い降りて来ると錯覚するほどに素晴らしい。地面に施されたタイルの幾何学模様は、真紅のカーペットに隠されてしまうのは惜しい美しさ。長椅子も説教台も磨かれた木目が、長年使われて飴色に輝いている。王城が建設された時代と変わらない古き一角である。
 そんな美しい礼拝堂は、長年王国の苦しみに寄り添ってきた。
 礼拝堂を任される神父やシスターは、生まれつき足や目の悪い者を聖職者として王国に招く。生涯、何不自由なく生きる安寧を与えるかわり、王族の懺悔を墓まで持っていく事を誓った者達だった。
 今日も現グランゼドーラ王国 国王であるジュテ王が、ステンドグラスの光を浴びて深々と頭を垂れて祈っている。玉座に座れば威厳に満ちた壮年の面差しに、よく響く声は凛として勇ましい。王族に相応しい恵まれた体格は武芸に秀で、国民を思う気持ちは行動として現れ民から尊敬を集めた。勇者の国に相応しい賢き王。ジュテ王は言葉を体現した、立派な王である。
 そんな王が勇者の父になる。賢者としてこの国に召し抱えられるようになった私は、彼が勇者を立派に育て上げ世界を平和に導くだろうと確信していた。不安材料など何一つなかった。
「ルシェンダ殿か…」
 ジュテ王は足取り重く立ち上がり、私は跪き敬意を表す。
 トーマ様の国葬を行った時に比べれば随分と痩せてしまったと実感する。だが彼の妻ユリア妃の憔悴を思えば、気がつけぬ程度のやつれである。子供二人を失っても力強く民を率い大魔王と戦う王からは想像もできぬ、弱々しい表情だった。
「珍しいな。貴女がここに足を運ばれるとは…。そうだ、今日は神父ではなく、貴女に私の懺悔を聞いてもらうとしよう」
 さぁ、どうぞ。長椅子の向かいを示され、私はそこに腰を掛けた。控えていた神父もシスターも、王の言葉を聞いてか物陰から姿が消えている。グランゼドーラ屈指の王国の城とは思えぬ静寂さは、光の粒子が漂う音まで聞こえてきそうだった。


もともと、グランゼドーラ編の一行プロットの段階では、出てこなかった二人です。
アンルシアが元々いた本当のグランゼドーラの、アンルシアの父親と賢者ルシェンダです。

ちなみにグランゼドーラのジュテ王は公式である設定があるんですが、某御方に気がついてもらえるかなぁ。ブログだし10小説だし気がつかれないよなぁとか思ってます。でも、そういうことされてる人だから、気がついてくれると個人的に嬉しい。

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

 その声に待っていましたとばかりに『ひょーっひょっひょひょ』と耳障りな笑い声が響いた。その声に気が向いてしまったようで、いきなり現れ深く踏み込んだ兵士の一撃を飛んで避ける。勇者姫の周りには3人の兵士と、魔道士風の老人がいつの間にか立っていた。魔道士風の男が彼自身よりも長い両手杖を高々と掲げた。
「お声が掛かるのを、お待ちしておりましたぞ。さぁ、今こそ、使命を果たす時!」
 三人の兵士達は徐に、短剣を抜き放ち自分自身に刃を向けた。
「我らが命、アンルシア様のために!」「悲願たる勇者へ至る道の、礎とならん!」「勇者姫に栄光あれ!」
 三者三様に声を張り上げ、その素っ首を搔き切るまでに止める間もなかった。あっという間にあり得ない方向に傾いだ首の断面から、想像を絶するほどの魔瘴が吹き上がる。それが空に立ち込めた雲を、深夜の夜空のように真っ黒く塗りつぶして行く。老人が変な笑い声を上げながら杖を振るえば、真っ黒い空に紫色の禍々しい気配を放つ魔法陣が描かれて行く。
「勇者姫。貴女にこの世界に満ちる、創世の力を与えましょうぞ!」
 魔法陣の輝きが瞬く間に強くなり、勇者姫を飲み込んだ。禍々しい気配が強まり膨れ上がる。
「ミシュア!」
「近づかないで! 彼女は、私が打ち倒さなければならないの!」
 ラチックさんの声に、私は自分に言い聞かすように叫んだ。
 光の中の気配は、もう光の中に収まっているとは思えぬほどに強くなる。突き出された手は勇者姫のほっそりとした手ではなく、まるで籠手を彷彿とさせるような硬い殻に覆われている。足は竜の彫刻を思わせる太さを持ち、長く現れた尾は黄金色に輝いた。もう、人の姿ではない。悪魔。魔族の類であると誰もがわかる異形の姿が、光を引き裂き、アストルティアの空気を震撼させるおぞましい産声を上げた。咆哮は衝撃波になって炎で脆くなった町並みを、薙ぎ払って何もなかったかのように均して行く。
「おぉ…、まさに、魔の勇者」
 感極まった老人は、光から飛び出した魔物に踏み潰された。まるで果実が踏み潰されるように、黄金色の魔物の足元を赤いものが弾けて石畳に散った。
 これが。これが、勇者姫が選んだ事。
 人を捨て、悪魔に魂を売ってまで、勇者となるために選択した結果。国を、民を、仲間を犠牲にし、自分自身も後戻りが出来ぬ場所まで来てしまった。彼女は止まらないだろう。私を殺し、勇者となろうとするまでに至った全ての行為が報われるまで。
 彼女はアンルシアだ。
 ミシュアを知らないアンルシアだ。
 兄様を失い絶望し、ミシュアを知らぬままに生きたアンルシアが目の前にいる。兄が影武者であった事を隠した、両親や賢者への不信。されど勇者として目覚めなくてはならない重責。迫る脅威は待ってはくれない。彼女は勇者とは何か考え抜き、できることは全てしただろう。それでもきっと、勇者として目覚めなかっただろう。勇者姫の焦りは他人事と片付けるには、あまりにも現実味があった。
 頬を、涙が伝った。
「貴女は勇者だわ。私よりも勇者に相応しい努力を重ねてきた」
 ミシュアであったことが無駄であるとは、決して思わない。けれど、彼女は私がミシュアであった間もずっと、勇者になろうと研鑽し考え抜いたのだ。私が勇者の力に目覚めていなければ、殺されていたのは私の方だろう。
「でも、私も勇者なの。だから、貴女を打ち砕かねばならない。貴女が二度と立ち上がることが出来ないほどに…」
 大好きな勇者の物語だったけれど、いつも不思議だった。勇者は優しいのに、どうして魔物を殺し魔王を倒したのだろうか…と。今ならわかる。決して相容れぬ双方、庇うべき存在の前に勇者として立ち続けるのであるならば、倒さねばならなかったのだ。
 ごめんなさい。口から漏れそうになった言葉を飲み込んだ。
 どんなに哀れな感情が相手を救えと懇願しても、相手を賞賛し認める自分があったとしても、謝罪を口にすることは相手への冒涜に他ならない。私の都合を押し通すならば、謝罪など口が裂けても言うべきではないのだ。
「勇者、アンルシア! 推して参る!」
 咆哮が応じた。見た事もない程に巨大な鉤爪が、紫電を帯びて爆ぜる。
 私も構えたレイピアに、黄金色の雷光が爆ぜる。勇者が扱う神鳴りの呪文、それが剣に圧縮されているのだ。
 突き出すのは同時。真っ向から打つかる力が、瓦礫を巻き上げ空を掻き回す。暗雲が渦を巻き、晴天の日差しが大地に降り注ぐ。気合いとも悲鳴ともつかない叫び声が、稲妻の爆ぜる音と押し合う力の轟音にかき消されていく。互角の力。その均衡が徐々に押され気味になって行く。創世の力と老人が言っていた力が、異形の怪物になった勇者姫から尽きる気配がない。
 勇者姫が笑った。相手が勝利を確信したのが、わかった。
 でも、私は諦める訳にはいかない。
 『大切な人を守りたい気持ち。それさえあれば、誰もが勇者になれる』そう、兄様は言った。勇者姫には、兄様の言った勇者になる心構えが欠けている。彼女は勇者になることがゴールであって、勇者になった後の事を考えていない。
 相手の力が強まり、手が震え、切っ先までもが震える。力の集約が少しでも乱れれば、紫の稲妻が私を貫いてしまうだろう。
 負けるな、アンルシア! 貴女は、兄様が命を無駄にしてはいけない! 仲間を背後に庇っているのよ! 決して、負けては、いけない!
 歯をくいしばる音が、脳をぎりりと締め付ける。込めた力が安定しなくて、さらに震える。止まらない。
「ミシュア 頑張れ!」
 震える手を、大きな手が支えてくれる。暖かく力強い手は、震える剣先をピタリと止めてくれた。
 肩に誰かが乗った。目の前を一枚の紙が翻ると、金色の稲妻はそれを瞬く間に食い破った。紙から光がほとばしり、暴走魔法陣が目の前に描かれる。一瞬にして増幅した力は、ライデインよりもさらに強力なギガデインになって、目の前を貫いた!
 なにか、硬いものが砕ける音がして、それから全ての音が風に吹き払われて行く。
 光が収まると、そこにはもう誰もいなかった。勇者姫がいた場所に落ちていた砕けた宝石が、空から差し込む光にキラリと瞬いていた。


あっっつ!こんなに熱い戦いになるとは、私自身が想像していなかった(いつも書いてのお楽しみ状態)グランゼドーラ編、後半終了です!

Copyright © ハコの裏側 All Rights Reserved.
Powered by Ninjya Blog
忍者ブログ・[PR]