ハコの厚みはここ次第!
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■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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ホゥホゥと梟が鳴く声がする。星が一層明るく輝き深まる夜の中を、巡回の兵士が小走りで向かってくる。黒髪を闇に溶かしたディークという年上の兵士が、立ち上がった僕の前で駆け足を緩める。レナート。弾んだ息の間から僕を呼ぶ。
「厩舎に行ってくれないか? 馬達が落ち着かないんだ」
分かった、と僕は頷いだ。
「ここを頼む」
不寝番をディークと交代して厩舎に向かえば、ディークと歳の近いイガラが馬達の前で頭を抱えていた。どぅどぅと口先で言って撫でてみても、馬達が落ち着く様子はない。声を荒げないだけ偉いと思いながら近づけば、待ってましたと言わんばかりに振り返った。
「あぁ! 助かった! このままじゃ、馬達が怪我しちまうよ!」
馬達は不穏そうに首を回らし、足を踏み鳴らしている。馬が一頭でも嘶けば、大騒ぎになって骨折する馬も出てくるような一触即発の空気がある。僕は馬達一頭一頭に向き合い、首筋を撫で落ち着かせてやる。最近は世話の回数も多かったからか、馬達は次第に落ち着きを取り戻していった。
はぁー。イガラが大きな溜息を零した。
「助かったよ。馬達が怪我でもしたら、キツイ罰則が下るんだ」
こんな高度な文明であっても、地上の移動は馬が最速だ。罰則の重さは馬の貴重さを物語っている。
しかし、魔物の生息圏を駆け抜ける度胸のある駿馬達が、揃って不穏になるのはおかしい。
イガラ。僕が赤毛の兵士の名を呼びながら振り返ろうとした時、悲鳴が聞こえた。静まり返った夜の空気を引き裂いて響いた悲鳴は、先ほど僕と交代したディークのものだ。がぁんがぁんと警鐘が鳴り響く中、僕はイガラと共に厩舎を飛び出した。剣を抜きながら、焚き火の炎を目指して駆ける。天幕から飛び出してきた寝起きの兵士に厩舎を頼むと言いながら、剥き出しの土を巻き上げながら進む。
ディーク! イガラが叫びながら、僕を追い抜いた。
辺境警備隊詰所の門が破壊されている。大人が手を回すほどの年輪を刻んだ丸太が、鋭利な断面を見せて地面に転がっていた。ごくりと生唾を呑んで、赤い後頭部へ視線を走らせる。
先程、僕が座っていた場所から少し離れた場所に、イガラがしゃがみ込んだ。イガラの上から覗き込んで、僕は訝しげに顔を顰める。ディークは利き手に抜き身の剣を握ったまま、仰向けに倒れていた。あれ程の悲鳴を上げたと言うのに外傷はなく、虚ろな表情にうっすらと開かれた瞳はガラス玉のようで必死に声を掛ける同僚を認識しない。
首筋に触れると、きちんと脈は打っている。死んではいないようだ。
焚き火の向こうを見遣れば、剥き出しの土が大きく抉れている。かなり大きな生き物が、力強く大地を踏み締め焚き火を飛び越えてディークに襲い掛かったのだろう。
「たっ助け…! あぁああああ!」
奥から再び悲鳴が上がる。
僕はディークをイガラに任せて、奥へ駆ける。なだらかな坂道を駆け上がりながら水辺に視線を落とせば、水を浄化する装置の傍で私服の兵士が介抱されている。剣を握って警戒しながら、力無く倒れる同僚の肩を揺すっているが反応はないようだ。
悲鳴はあちこちから上がり、状況を確認しようと誰かが声を荒げる。戦場の騒めきを割って坂を登り、辺境警備隊詰所の本部に上がり込む。
本部の一階部分は三和土になっていて、多くの隊員が食事を取ったり交流する空間になっている。ここで過ごしていた隊員達が悲鳴を聞きつけて飛び出したのか、椅子が倒れ、湯気が上るカップが残されている。奥の調理場の手前に積み上げられた木箱から視線を上げた時、二階から情けない悲鳴が上がった。
な。息が喉元で詰まった。
緩やかに弧を描く階段を見上げれば、立派な梁に黒い生き物が乗り上がっている。蠍のような鉤爪が付いた長い尻尾を梁に絡め、発達した太腿で支え起こす上半身。竜を彷彿とさせる姿勢だが、その爪は大振りな短剣程の大きさで、機械のような外殻に覆われている。闇の中に沈む黒い外殻の上を、赤く輝く光が線を描いて走っている。特に顕著なのは前に垂れた顔だ。一本角が生えた場所が頭であるならば、顔らしい場所には口があっても目が無い。まるで蜥蜴のように、しゅるりと梁を這って二階に降り立とうとしている。
僕は二段飛ばしで階段を駆け上がり、手擦りに掴まりながら方向を転換する。
「なにをぼさっとしている! さっ、さっさと、奴を殺せ!」
二階の隊長の執務室の中央には、寝巻き姿の金髪の男性が腰を抜かしている。それでも口は達者で、唾を撒き散らしながら剣を構えるローベルさんに命令する。
めっちゃ修羅場である。
ラゴウ隊長ならナイトキャップつけて、ザ・パジャマみたいな格好してくれるって信じてる。
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