ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 大滝の音に飲まれ無視できていたが、湿った岩の上を鼻歌混じりに登ってくる足音は聞こえていた。ついにドランド王国の謁見の間に相当する位置まで登ってきたのは、宣戦布告を聞いて乗り込んできたギルガラン王子ではなくオーガの地では珍しい人間族の男だった。
 人間族の基準であれば中肉中背の凡庸な体格であろうが、オーガ族の子供よりも貧相な男だ。武術を嗜んだ身のこなしもなく、魔術に秀でた気配もなく、銀の竪琴を持つ手だけが歪に歪んでいる。古い血溜まりのような髪と瞳、目鼻立ちは見苦しくはない程度でしかない大衆に埋没するような男。しかし、男の身につけた服は極寒の地を行くような毛皮を裏打ちした分厚い旅人の靴であり、靴は履き潰されて草臥れている。
 なによりも不気味なのは、鬼人の国と化したドランドに散歩のついでといった体で踏み込んできた事だ。蛆が湧く不乱肢体がそこかしこに転がる道を平然と進み、腐った血溜まりに躊躇いなく踏み込んでいく。鬼人達はこの男を襲う事はせず、男はまるで知人に話しかけるように獣に語りかけていた。帽子に挿した魔鳥の尾羽が、呪いの火の粉を振り撒いて妖しく輝く。
 誰だ。何者なのだ、この男は。
 オーグリードを旅する人間。オーガ族の中に他種族が混ざる事は、水の中に油を垂らすように目立つ。今まで数多の王国を滅ぼす中で、陽光を反射するような光り物を手にした男を見逃すとは思えない。不愉快さに、今までの陶酔が氷水を打ち撒けられたように醒めていく。
 肩に黒い猫を乗せた男は、我を見て慇懃に会釈をしてみせた。
「目障りだ。去ね」
 かっと口を開き、数えきれぬオーガ族を獣に堕とした光を照射する。大空洞の闇が消える程の光が元の暗さに戻る前に、ぽろんと竪琴が爪弾かれる音が響いた。
「申し訳ありませんが、僕は貴方が行儀悪く足掛けている方に用事があるのです」
 男は我に対してなんの警戒もせず、獣に成り果てたドランド王の傍に膝をついた。
 垂れた顔を覗き見る、さも殴ってくださいと言わんばかりの無防備な側頭部。尾羽の挿さった帽子の上に拳を振り下ろしてみれば、金属を引っ掻く音が一瞬して、拳を糸のような細い光が貫いていく! 大した傷ではないが痛みはある。咄嗟に手を引いてみれば、針を突き刺した程度の小さな傷から、ぷっくりと血が玉を結ぶ。
 男は我の反応を一瞥もせず、ドランド王に語りかけた。
「間も無く、オルセコ軍がこの国に攻め込んできます。このまま戦えば、互いに多くの被害が出るでしょう」
「若造ニ、何ガ判ル」
 ドランドの王は微動だにせず返した。
「如何ナル 強キ者モ 賢キ者モ、圧倒的チカラ ヲ 前ニ 頭ヲ垂レ、敗北ノ 味ヲ 甘受スル 時ガ来ル」
 我はふっと口元を緩めた。
 己が手で数えきれぬ同胞を殺してしまった罪と、折った心に我の洗脳は良く効いた。獣に堕ちれは純粋な力は増すが、どうしても知能は落ちて馬鹿になる。轟雷王を実力を奪わず、従順な下僕にするのはなかなかに苦心した。
「何者の風下に立つ事を決して許さなかった、誇り高き『轟雷王』。この国の王は貴方だ」
 獣に説教など片腹痛い! しかし、我は愉快な気持ちには一切なれなかった。
「貴方と貴方の民は獣に成り果てた。それは終わりではありません」

いきなり出てきてなんだこいつですが、ドランド公の最後の言葉を生かす為に出てきてもらいました。

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