ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 いえいえ、大丈夫です。そうゼフさんが返事をし、店は素材の搬入で一気に慌ただしくなった。大きな木箱を逞しい背が悠々と運び、開け放たれた中身を総出で棚に納めていく。賑やかな一階の店舗に降りれば、冒険者さんへお茶を淹れている姉さんが手招いた。
 私が前に腰掛ければ、優しい顔がにこりと微笑みかけてくる。
 王都キィンベルに滞在している彼は、この店が素材を買い付ける道具屋さんに一時的に雇われている冒険者だ。魔法生物が姿を消したキィンベルでは、今は深刻な人手不足。特に護衛や運搬役として使っていた魔法生物を手放した商人達は、棚が空っぽで、何もしなくても高い王都の家賃が発生するという、阿鼻叫喚の地獄絵図の様相らしい。商人が素材を販売できなければ、それを購入して錬金する錬金術師の店も干上がってしまう。
 そんな地獄で喘ぐ者達に手を差し伸べたのが、辺境からやってきたレナートさんなんだって。
 辺境警備隊詰所で兵士と勤務していたので実力は言うに及ばないし、魔法生物が普及して乗り手が少なくなった馬を軍の兵士の誰よりも上手に乗りこなす。レナートさんはどんな難しい採取も二つ返事で引き受けてくれるから、神様みたいに拝んでいる商人のいるとか…。
 チュラリスがピンクのふわふわのしっぽを揺らして、小さい手に大きなお盆を乗せて運んでくる。『レナートさま どうぞ!』と少女のような舌っ足らずな声で、お客様用のお茶菓子をお出しする。ふわふわとしたクリームを絞ったような体にモノクルをつけたジョニールが、カップの遥か高みからお茶を華麗に注いでみせる。『このジョニール会心の一杯をご賞味あれ!』と蝶ネクタイを着けた胸が誇らしげに反る。
 私も姉さんからネジガラミの根を使った薬草茶を受け取る。
「何事もなく退いたようで安心しました」
 穏やかな雰囲気を見回して、レナートさんは小さな貝殻の形のマドレーヌを食んだ。気を揉ませてしまった事を申し訳なく思ったのか、ゼフさんがリストから顔を上げた。オリーブの実を彷彿とさせる燻んだ緑の髪の間で、丸い眼鏡のレンズが光る。
「貴方は『時の指針書』を持たない異邦人なので、指針監督官も深く関わろうとしません。しかし、貴方が採取途中の『不慮の事故』で死ぬ可能性もあり得ます」
 あいつらなら、やりかねないな。姉さんが使った錬金釜を片付けながら吐き捨てる。
「軍団長殿がお戻りになったら面会の予定があるので、それまでは大丈夫でしょう」
 軍団長って指針監督官よりも偉い人だよね。ふんわりと笑ってお茶を飲む横顔を盗み見ながら、レナートさんってすごい人なんだなぁって思う。
 その横顔が私の方を向いて、じっと見られてしまう。どぎまぎする私とレナートさんの間を、姉さんの夕暮れから夜空に移り変わる色彩に、金糸で星を縫い取ったマントが遮った。
「おっと、色男。あたしの妹に手を出したら承知しないぜ?」

異形獣の報告で宿代は軍部こと王国の負担なのですが、なんだかんだで働いてしまうレナートくんです。魔法生物事件はマジで百害あって一利なし物件っぽくて、書いても想像巡らせても利益が浮かばないんですけど。壁に囲まれたキィンベルが魔物の被害がないだけで、こんだけ苦しんでるのに、魔法生物を戦力として数えてそうな辺境警備隊詰所なんかお察しである。

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