ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 音は弦楽器を使う者によくある、歪な掌からでした。
 手袋をしていない手は白魚の青白さすら感じる白さで、針葉樹林の葉を思わせるような深い緑の袖が腕を包む。胸元に抱え込んでいるのは重量がありそうな銀の竪琴で、肩から胸にかけて服と同じ色で毛皮を裏打ちした防寒の外套が覆っています。帽子に挿した煉獄鳥の尾羽が、肩で寛いでいる黒猫を妖しい光で照らしています。樹皮を思わせる焦茶色の前髪が上がると、穴を穿ったような黒と見紛う茶色の瞳が私達を捉えたのです。
 その男性の肩には尻尾に大きなリボンを付けた黒い猫。旅人と共に世界を巡っている割には、ふっくらと毛艶が良く可愛らしい趣味の装飾品が光っています。
 黒猫を連れた人間。
 その人はグリエ様が探していた、鬼人と心を通わせたという存在でした。
 失礼。新月の夜のような低く穏やかな声が非礼を詫びて、拍手が止みました。ふんわりと笑う笑みは人当たりの良さを感じさせたけれど、胸の底がざらつくような不穏な予感がします。
「あまりにも素晴らしい志だったもので、思わず手が動いてしまいました」
 焦茶色の瞳がこちらを向いて細められましたが、オーグリードでは珍しい同族を認識した程度。唇が友好的な弧を描き、私達からグリエ様へ目を向けました。
「貴方の心の臓の音は胸を突き破り、大陸に轟かんばかりに響いていますね。貴方のような方が、種族神が印を与え賜うた始まりのオーガなのでしょう」
 その人間は歪な指先を労わるようにグリエ様の胸の上に置き、『ガズバランは言いました』と秘密を囁くように告げたのです。
「オーガよ。忘るるな」
 その声色に、私は強い神性を感じました。
 これは神託。
 神は時として己の言葉を人の子に託し、巡り巡って必要な者に届けてくださる。運命の出会いも、必然の別れも、普段の会話に紛れた何気ない一言も、勇者の誕生ですら神の采配であるのです。
 この男性はグリエ様に、言葉を届ける為に導かれた。
「その胸の奥に灯し、炎の音を」
 歪な指先は離れ、代わりにグリエ様の拳が胸の上に置かれる。その目は大きく見開かれ、溢れる何かに翻弄され唇は戦慄くばかり。グリエ様から湧き上がる魔力のような力の奔流が、病弱な体と短く定められた寿命を燃やし尽くさんとしています。
 私にも聞こえる。
 轟々と燃える、力強い炎の音が。
「今を生きるオーガ族は、知識や言葉や文明を得て忘れ去られてしまいました」
 どうしてでしょう、とても不安な気持ちが募る。
 その炎はとても尊く強い。この炎が導くのはグリエ様が願って止まない真の平和なのだと、多種族である私も理解できるのです。ですが、この炎はとても強いのです。
 炎はずっとグリエ様の中で燃えていた。
 グリエ様が病弱であったのも、強靭な肉体を得られないのも、この炎を燃やす為にご自身の何もかもを捧げていたように思えるのです。
 これ以上、燃え盛ってしまったら。
 グリエ様が差し出せるものは、もう一つしかないのです。
「原初の姿を取り戻した為に鬼人と呼ばれた方々が得た音でしたが、貴方のように持ち続ける方もおられるのですね」
 むしろグリエ様は、望んで差し出してしまうでしょう。
 そう仕向けてしまった男性は、悲しげに目を伏せて小さく息を吐いたのです。
「貴方は全てを賭けて、恩寵へ繋げてしまうのでしょう」
 踵を返すと煉獄鳥の尾羽から鬼火が火の粉となって、濃い緑を色づかせる。小さく振り返り、猫に隠れて見えない顔から言葉が紡がれる。
「ご武運を。若きオルセコの王子」
 黒猫の大きな青い瞳が瞬いて、にゃーおと鳴いた。
 背の高いオーガの波に、一般的な背丈の人間の背は瞬く呑まれていきました。まるで最初からいなかったように、周囲の雑踏が押し寄せて日常が取り巻くのです。
 グリエ様は消えた背に一礼し、顔を上げました。その瞳はこれから何をするべきかを、しっかりと悟り見定めていたのです。
 炎の音が響いている。
 心の臓の音のように。

前半!たぶん前半終わり!!!!!

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