ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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エムリヤ。子供達を頼む。
 そう妻に言った旅立ちの日を、今も鮮明に覚えている。
 エテーネ村に時折生まれる未来を見通す力。未来は絶対ではないが、変える事は簡単ではない。それでも私はアバ様より告げられた未来を変える為、旅立とうとしていた。
 五つ目の神話で勇者の祖父が乳飲み子を抱いて故郷を旅立つ事に比べれば、5歳になる下の子とその兄を連れて行く事は容易い。しかし旅の空の下、妻と子供達に苦難を強いたくはなかった。
 口の中に水溜りができるような蒸し暑い日は、青臭い森の匂いが鼻を刺す程に強かった。陽炎にゆらめく村を飲み込む黒々とした森の入り口で、妻は子供達と手を繋いで私を見送りに来てくれた。途方もない困難な道に踏み出そうとする私を想って流れる涙を拭い、妻を抱きしめた。
「エムリヤ。子供達を頼む」
 アーヴ。妻が私の名を呼んで、私の胸に顔を押し付けた。胸に押しつけた唇が『私もいきます』と囁いた。
 言葉を失った私に、顔を上げた妻は矢継ぎ早に行った。
「私は後悔したくありません。貴方に任せておきながら未来が変わらなかったら、私は貴方を恨むでしょう。アバ様のお告げが現実のものとならぬ為に、私も力を尽くしたい」
「子供達はどうするんだ」
 目的を果たす道は、旅人が通るような道ではなかった。街道を通っても、最終的に目指すのは辺境の地や世界の果てといった場所ばかりになるだろう。魔物と遭遇する確率など語るに及ばず、さらには悪路に足を掬われて事故死する事も十分にありうる。子供を救う旅なのに、子供を危険に晒しては本末転倒だ。
 私達が声を強めて言い合うのを、幼いルアムはきょとんと見上げている。
「私の親戚に託します」
 小さい村には親のいない子供も少なくない。狩りの最中に魔物に襲われ命を落とす父。産後の肥立ちが悪く儚くなる新妻も多かった。両親と死別して残された子供は親族の家に託され、親族も居ない子供は最も年の近い子供がいる家の子となる。
 一つの家族という小さい村。妻の親族を信頼していない訳ではない。
 ただ、幼い子供達を村に残して世界を旅する私達夫婦は、褒められた人間ではないだろう。子供達は私達に捨てられたと恨まないだろうか? 親に捨てられた子供だと、他の子供達に虐められたりしないだろうか? 雷と雨が建物を揺らすような酷い嵐の夜に、子供達を抱きしめることが出来ないもどかしさ。
 妻の親族なら私達の代わりに愛情を注いでくれるだろう。ましてや、アバ様のお告げを絶対視する村人達は、それでも我が子の為にと旅立つ私を応援していた。
 あぁ、だが! 私は己の心を掻き毟るように乱れた。
 妻が傍にいて旅を支えてくれる未来は、どんな黄金よりも魅力的だった。踏み出す先にある不安や孤独が、妻の一言で融解していくのが分かる。目的へ向かって途方もなく続く無味乾燥とした道端に、花が咲き、鳥が歌い、暖かく日が差すのを感じずにはいられない。
 私がホーロー様のように強い心を持っていれば、一人で行くと断言できるのに…!
 手の震えは全身に行き渡り、側からは痙攣しているように見えただろう。このまま本当に痙攣して倒れてしまえば良いのに、悪魔の悪戯か私の手は動いてしまった。
 子供達の手を解かせ、私は妻の手を取ったのだ。

ここで登場、エテーネ村のご両親!
前編で父親の方を書こうと思ったらうまくいかなかったので、前編後編でやろうと思った順序を交換しました。新幹線の中で父・母・父と二転三転させ、最終的に家で母視点で終盤まで書いておきながら父視点に戻った発狂的物件。
ゲーム上では両親がスゥパァドゥライで悲しかったので、生きてることをめっちゃ喜んでもらいたいって思っていまして登場させました。スゥパァドゥライにならなかった理由は、次あたりで書きます。

拍手に感謝!ぱちぱちっと嬉しいです!ありがとうございます!

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