ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 じわりと滲んだ涙が引っ込んだのは、シルビア様が勢いよく手を上げたからです。ぶんぶんと手を振って、舞台の上で培った素晴らしい声量を遺憾なく発揮して、光の河の向こうへ声を届けます。
「グリエ様、こっちこっち!」
 オルセコで最近流行りの太鼓のリズムが響く向こうから、小柄な影が手を振りました。楽しげに踊る子供達の間を縫って、私達の前に歩み寄ったのはグリエ様です。オルセコでは貧弱と侮られるグリエ様ですが、レナート様と同じくらいの体格で腕相撲で勝ってしまう程の剛腕の持ち主です。最近流行りの踊りも運動に丁度良いと取り入れて、分厚い毛皮のコートに身を包み、護身用の長剣を穿く姿は立派な旅人です。
 グリエ様の新雪のような髪が浮き上がるように、真後ろに大柄な影が落ちる。警戒を見せたシルビア様に、グリエ様が背後の男性を示して『ゴルガーレン殿です』と紹介する。
「昔、母上の治療に携わってくださった恩人なんです。ゴルガーレン殿。僕の護衛をしている、シルビアさんとセーニャさんです」
 力及ばぬ私が恩人だなんて…。死の病に臥せられていた、グリエ様のお母様の治療に呼ばれた呪術師の一人であったそうですが、お母様の病を治せる者はおらず儚くなったとか。己の無力を歯噛みする白髪混じりの呪術師を労わるように、グリエ様は道端に寄りました。
「獅子門にこれほどの人が集まっているのは、ゾンガロンが関係しているんですか?」
 えぇ。ターバンを巻いた重たい頭が、頷いて大きく傾きました。
「この雪原の北端の岬に、ゾンガロンが住み着いていると判明したのです。ギルガラン様が動いた事も伝わっていて、いよいよ総攻撃と士気が高まっています」
 グリエ様が、ぐっと眉根を寄せました。
 今、グリエ様とギルガラン様はゾンガロンを倒す手段を求めて奔走しておられます。それは、どんなに熟練の戦士であろうと、無策で挑めば敗北するのが明らかだからです。
 ここで悪鬼に辛酸を舐めさせられた戦士達が、それを知らない訳がありません。しかし、それでも彼らは挑んでしまう。
 もう彼らにはそれしかないのね。
 シルビア様の寂しい声が、悲しい思いの中に反響する。
 ゴルガーレン殿。グリエ様が名を呼んで向けられた顔へ、声を顰めて囁きました。
「ゾンガロンの正体は、我が父ゾルトグリンなのです」
 厚く落ちた白髪混じりの前髪の奥の瞳が、微かに見開かれただけでした。
「驚かないのですね」
「我々呪術師は、縁を見る事ができますから…」
 お姉様と賢者となる為の修行の時に聞いた事があります。呪術とは掛けた相手に留まらず、その相手と深く結びついた縁に影響を与える術なのです。その為、優れた呪術師は相手の縁を見る事が出来る。私も運命の赤い糸が見えればいいのにって思って、お姉様に呆れられました。
 ゴルガーレン殿はゾンガロンを目にした時、ゾンガロンから伸びる縁に疑問を抱いたのでしょう。ただの魔物であるはずなのに、その縁は多くのオーガに繋がっている。ゾンガロンが命を奪った為に切れた縁が、ボロ布のように異形の体に纏わりつく。
 呪術師の冷静な赤い瞳は、感じていた疑問の答えを得て凪いでいました。
「ギルガランは父の打倒を決め、僕は父を救えるとは思っていません」
 グリエ様の言葉に、居合わせた誰もが目を伏せました。
 子が親を殺す。
 ムニュ大臣より決して親子仲が良い関係ではなかったと聞いてはいますが、血は水よりも濃いものです。我が子に平和な時代を残したいという親心が、オーガ族の滅亡の引き金になろうとは皮肉以外何者でもありませんでしょう。例えゾンガロンの正体が隠され続けようと、親の罪を背に子供達は生きていかねばならない。ギルガラン様はお心揺らがずお父様を討つおつもりですが、本当に何も感じていないとは思えないのです。
 しかし。グリエ様が声を絞り出すように言いました。
「この殺し合いはあまりにも悲しすぎる」

切れどころが見つからず一話が結構長めです。
その為、4話で終わる予定です。

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