ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 私の背後に立った二人を見遣る。青紫の髪の少年は手に持った弓に矢を番えているし、白金の髪の男は二振の剣を抜いて立っている。はだけた服の間から隆々とした筋肉を覗かせ、男は抜き身の剣を提げて歩み寄り、私の顔を覗き込むように片膝をついた。
「こんな状況で落ち着けというのは、酷だと理解している。其方は王立アルケミアの所長、ヨンゲ殿で相違ないか?」
 ぐっと息を詰める。やはり私の命を目当てで追ってきたのだと確信した。
 既に王立アルケミアと王都を繋ぐ転送の門は、襲撃の時には封鎖されている。そうなれば、秘密の通路から侵入してきたのだろう。そこまでして、私を葬り去ろうとしているのだ!
「そうやって汚れ仕事を続ければな、貴様らも私と同じ運命を辿る事になるんだぞ。今から貴様らが手に掛ける相手の死に様こそ、未来の自分達の末路であると覚えておけ!」
 私は唾を飛ばしながら捲し立てると、少年が嫌そうな顔をして一歩下がった。弓に矢を番えたまま、やれやれと首を振る。
「王都の転送の門を直して欲しいと頼みに来ただけなのに、とんだ誤解ですね」
「異形獣によって同僚達が無惨に殺されているのを目の当たりにすれば、気が触れてしまうのも仕方のない事だ。施設内で異形獣が闊歩する状況は、何者かの襲撃と考えるべきだろう」
「とにかく、おじちゃん連れて逃げよーぜ。いぎょーじゅーおっかな過ぎじゃん」
 三者三様の反応は、場違いな程の長閑さだった。私は、口に溜まった唾を飲み下した。
「本当の本当に、貴様達はこの件と関係がないのか?」
 信じられなかった。
 なにせ、現在の王立アルケミアは口封じの為の虐殺の真っ最中だ。転送の門は封鎖されて外部から侵入する事は不可能だ。そんな中で、秘密の通路をわざわざ通ってくるのが、私の命を狙う殺し屋でないなら何だというのだ?
 王都の転送の門の修理依頼などという少年の言葉を、額面通り受け取って良いのか? この施設が襲撃されている現状を、訝しむ様子を演技だと疑うべきでは? この魔法生物の言葉を間に受けて、共に逃げて良いのか?
 だめだ。私は頭振り、よろよろと立ち上がった。
「証拠を持って脱出しなくてはならん。全ての錬金術師の研究が正しく使われる為に…」
 私は先進研究区画の鍵に手を伸ばし握りしめると、猫耳のぬいぐるみの横を通り抜ける。
 王立アルケミアの所長に、私は相応しくなかった。もっと優秀な錬金術師がいた筈なのに、なぜ私が選ばれたのか今なら分かる。所長の椅子に、可愛らしい娘の色香に、功績を築く事に、そして生きる事に、私は貪欲過ぎた。恐ろしい謀略も、己の欲望の為なら目を瞑る。そんな浅ましい錬金術師が必要で、それが私だったのだ。
 それでも、今は、今だけは、王立アルケミアの所長の責務を果たさねばならない。
 あ! 少年の声が弾け、私にぬいぐるみの軽い体がぶつかる。
 赤い猫耳の裏越しに、闇から真っ白い影がぬるりと這い出していた。強化型ヘルゲゴーグの銀色の長い爪が、闇の中で長い長い尾を引いて迫ってくる。私とヘルゲゴーグの爪の間に、赤毛のぬいぐるみが滑り込み、腕に嵌めた爪とヘルゲゴーグの爪が火花を散らした。
 しかし、悲しいかな。強化型ヘルゲゴーグの膂力は、通常型が破壊に苦労するプラチナ鉱石をバターよろしく切り分ける事ができるほどだ。綿毛を払うかのように純白の爪に押し退けられ、私の脇腹に爪が当たる。瞬く間に爪は私の上半身を抜けた。
 意識が激痛に焼かれ真っ白く塗りつぶされていく中、丁寧に腹の前で手を揃えた小柄な女が立っていた。声を発する事なく動く口は、かつての警告を告げていた。
 あぁ、ワグミカ。
 感謝の言葉か、謝罪の言葉か。
 告げようと思った言葉は、焼き切れて失われてしまった。

前編終了でっす!
この流れからお察しの通り、この前編ではこの王立研究所惨殺事件の主犯者が明かされない感じです。

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