ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 人生が一変した幼いあの日程、自分が無力だと思った事はない。
 エレノア様は人は歳の離れた自慢のお姉さん。さらりと風に流されて一本一本が黄金色の光を流す髪の美しさに、幼い私はとても憧れて髪を伸ばした。ダンスの時にふわりふわりと広がるドレスの美しさ、背筋が伸びて指先まで行き渡る所作の美しさは今思い返しても最高の手本だ。大きくなるお腹を愛おしげに摩る様子に嫉妬したけれど、『この子のお姉ちゃんになってあげてね』なんて言われて、鼻の穴を大きくして夢中で大きなお腹の中にいる弟か妹に話しかけた。
 わたしが あなたの おねえちゃんよ。あなたは わたしが まもってあげる!
 赤ちゃんが産まれて誰もが幸せになると疑わなかった日、世界は一変した。
 恐ろしい事が立て続けに起きて、気がついた時には私は赤ちゃんが眠る籠を抱えたエレノア様に手を引かれて森の中を走っていた。夜の森なんて知らなかった私は、真っ暗で雨が降って冷たくて、でこぼこして、びしゃびしゃと黒い泥が顔に跳ね返って気持ち悪くて泣きたい気持ちになった。大好きで強いお父様がどこからか現れて、私を抱き上げて柔らかい毛布で包んで欲しかった。
 でも、声を出してはいけない。
 恐ろしい存在が私達を追いかけていた。
 その闇は馬に跨った首無しの騎士の姿をしていたと思えば、縄張りに踏み込んだ侵入者に襲い掛かる魔物を獣の姿になって八つ裂きにした。影はいくつもの追手に分かれて、森に逃げ込んだ私達を見つけ出そうと駆け回っている。どかどか。がさがさ。諦める様子はない。
 マルティナ。よくお聞きなさい。
 顔を寄せたエレノア様は雨除けのフードはぐっしょりに濡れて、光の下では金色に見える榛色の髪が白い肌に張り付いていた。ドレスは雨と泥に汚れて体に張り付いて、赤ちゃんの為に張った胸が浮き上がっている。
 雨除けの布の下から赤ちゃんが眠る籠を引っ張り出すと、静かに私の胸に抱かせた。大きな翠の瞳の目は閉じられて、ふさふさと榛色のまつ毛が目元を覆っている。つんと尖った鼻筋にむにむにと動く可愛らしい口。もう何度も私の手を握った小さい左手には、勇者の紋章がうっすらと浮かび上がっていた。真っ白いお包みに包まれて眠る赤ちゃんから顔を上げた私を、怖い表情のエレノア様が見下ろしていた。
 私はこのまま森の奥へ駆けます。マルティナはその子と反対へ走るのです。
 それが何を意味するのか、幼い私は漠然としか理解できていなかった。悲壮な決意を固めたエレノア様は、赤ちゃんのおでこに口づけして柔らかい頬を撫で、小さな手に冷え切った指を添えた。ぎゅっと握った熱に愛おしげに目を細め『ごめんなさい、レナート』と囁く。
 遠くから追手がこちらに向かってくる音が近づいてくる。エレノア様は勢いよく立ち上がると、私達を振り切るように背を向けて駆け出した。生い茂った葉っぱをがさがさと音を立ててかき分け、枝を踏み折った音が雨の音を弾いて響く。人が通っただろう道らしい場所に出て、森の奥へ向かって瞬く間に消えていく。
 赤ちゃんを抱きしめて座り込んでいた私達の頭上を、追手が繰る馬が地響きを立てて駆け抜ける。それが森の奥へ消えて行って、私はエレノア様が私達を逃す為に囮になったのだと分かった。そして、人の足が馬より早くない事も知っていた。エレノア様は追いつかれ殺されてしまうのだと、寒さとは違った震えが全身を揺さぶり上げた。
 わたしは レナートの おねえちゃんだ! わたしが レナートを ぜったいに まもらなくちゃ!
 幼い私の決意は、私の弱さで果たす事はできなかった。
 私は赤ちゃんを手放してしまった。絶対に守ると誓った赤ちゃんを、私は守る事が出来なかったのだ。


えぇ!? ついにイレブン連載始まったんですかってぇ!???
違います。これはアストルティアの星のお話です。

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