ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 お屋敷の庭はメギストリスの王城の中庭みたいに、綺麗に手入れされている。舗装に使われた白い石はぴったりと同じ形で揃えられ、タイル張りみたいに平たく整っている。鮮やかな緑の芝生は均一に狩られて、木の葉一つ落ちていない。寄せ植えられている花々や大輪の花を咲かせる木は、故郷の島に生息している種類に似ている。屋敷にいるのは人間ばかりだから、ここはレンダーシア大陸のどこかなんだろう。
 普通の庭は山が見えたり湖が見えたりするものだけど、ここからは空しか見えない。なんだかシャボン玉を内側から見るような不思議な空だ。空気は暑すぎず寒すぎず穏やかに凪いで、絶好の午後のティータイム日和だ。
 ドライフルーツを贅沢に混ぜ込んだパウンドケーキはしっとりと焼きあがっていて、ふわりと甘い花の香りがする。僕が美味しさに目をまんまるくすると、お嬢様は嬉しそうに笑う。
「うふふ。ようやく不安いっぱいの顔以外の表情が見れたわ! かわいいっ!」
 かわいい。なんだか、恥ずかしくて顔が熱くなる。
 紙みたいに薄くて羽みたいに軽いのに、陶器みたいに硬い不思議なカップを持ち上げて紅茶を啜る。紅茶の底に花が開いていて、口の中に花が咲いたように香りでいっぱいだ。
 僕は口の中がしっかり空っぽになってから、お嬢様に向かって頭を下げた。
「僕達の名前はルアムと言います。僕の兄さんを助けてくれて、ありがとうございます」
「まぁ。種族が違うのに兄弟で、同じ名前なのね」
 驚いて目を見開くお嬢様に、レナートさんも頭を下げる。
「お嬢様にお目に掛かるのは初めてですね。僕はレナートと申します」
 僕達の自己紹介を聞いて、お嬢様も背筋を伸ばした。他所向けの顔は貴族の令嬢らしく、上品で控えめ。僕達をまっすぐ見つめて、凛とした声を響かす。
「私はドミネウスの娘、メレアーデ。弟クオードが貴方達の状況に耳を貸さず乱暴に扱ったことを、弟に代わり謝罪します」
「しゃ、謝罪をするのはこっちです! いきなり部屋に現れて、驚かせてごめんなさい。メレアーデ様が兄さんを診るようお医者様に頼んでくれたり、ご飯や寝床をくれて助けてくれて、感謝してもしきれません」
 僕が慌てて言うと、メレアーデ様はくすくすと笑う。
「困っている民を助けるのは、王族として当然の行為よ」
「お、おうぞく?」
 呆然とするのは僕だけじゃない。レナートさんも驚いたようにメレアーデ様を見てる。そんな僕達の視線を受け止めて、メレアーデ様は立ち上がった。
「そう。私の父ドミネウスはこの国を治める王なの」
 庭の端まで歩いたメレアーデ様は、どうぞとばかりに手で空を示す。
 僕とレナートさんがメレアーデ様に近づくと、この場所の異様さにすぐ気が付いた。メレアーデ様が立つ庭の端から先がない。ここが空中庭園だったとしても、街並みや高い山、遠くに海が見えても良いはずなのに見えるのは空ばかりだ。
 空の上? ここが?
 僕はギル君やダズニフさんやクロウズさんに乗せてもらって、空を何度も飛んだ。空気は薄くて、身を斬るように強く研ぎ澄まされている。この屋敷にはそれが一切感じられなかった。
 もう一歩でメレアーデ様と並ぶ。そして、僕達は庭から下を覗き込んだ。
 視界いっぱいに広がる大地は豊かな自然に覆われて、大きな川が縦横無尽に走って地面を潤している。大きな大陸の中心に大きな宝石のように輝くのは、大きな都だ。高い山はずっと下。空に浮かんでいるはずの雲も、気持ちよさそうに飛ぶ鳥も見上げる位置にはない。
 この家が飛んでる?
 突然陰った薄寒さに顔を上げると、太陽を遮って浮かんでいる塊がある。よく目を凝らせば、立派な建物が建つ島が空に浮いているんだ。島というか金銀で飾り立てた美しい陶器のようで、まるで芸術品が空に浮かんでいるようだ。金の輪が島を囲んでいて不思議な色の煙を吐いている島を見れば、何かの技術で浮かんでいるのがわかる。
 なんなんだ。これ、もしかして夢なの? 信じられないというか、現実に存在できると思えないあり得なさで、目の前の光景が理解できない。驚きで混乱した頭に、メレアーデ様の言葉が響いた。
「時と錬金術が導く永遠の国。エテーネ王国のね」

いえーーーーい!エテーネ王国へようこそー!!!!!

 レナートさんもこの屋敷に迷い込んで、この物置部屋に押し込まれている。でも、物置部屋にはベッドはあるし、布団は干させてもらってフカフカだし、ランプもランプオイルもあるんだ。快適だよねって呑気に笑ってる。食べ終わった食器も片付けてお盆に載せてるけど、これ、レナートさんが自分で調理場に下げに行くんだ。侵入者として勾留されているとは、側から見たら分からないくらい堂々としている。
 レナートさんが僕の頭を撫でると、ふっと笑みを深くする。
 何となく、シンイさんが僕に向ける笑みに似ていた。血の繋がりはないけれど、小さい村で兄弟同然に育ったお兄さん。僕の頭を何気ない仕草で撫でてくるの、僕がエテーネ村の歳下にするのと同じ感覚なのかも。雰囲気やのんびりとした口調が、彼の平和で長閑な故郷を感じさせた。
「君は本当に彼を大事に思ってるんだね」
「僕の命を守ってくれて、家族のように僕を支えてくれる人なんです」
 そうなんだ。レナートさんが兄さんへ目を向けると、悲しそうに目を細めた。
「心配だね」
 なんだろう、心配しているだけとは思えない悲しみが込められた声だ。大事な人が死んだような、取り返しのつかない事をしたような、自分を許せないって悔やんでる。唇を噛み締めて横たわる兄さんを見つめている瞳は、別の何かを見ていた。何故、そんな顔をするんです? 僕は戸惑いながらレナートさんの顔を見上げる。
 レナートさん? そう声を出そうとした時だった。
 物置部屋の扉がノックされる。可愛らしくトントンと響いたら、『入っていいかしら?』と女の人の声が聞こえてくる。返事をしたレナートさんが扉に向かう間に、ドアノブが動いて扉が開いた。
「プクリポ君の意識は戻ったのかしら?」
 にゃーお。黒猫が星の飾りを瞬かせながら、我が物顔で物置部屋に入ってくる。この屋敷に来た時、目の前にいた黒猫だ。しっぽの先に結ばれた赤いリボンをなびかせながら、猫は奥で寝ている兄さんの胸に乗って顔を覗き込む。
「まだ、意識は戻りません。お嬢様、入ってきちゃダメですよ」
 レナートさんが丁寧にそう言うと、覗き込んだお嬢様は頬を膨らませた。肩が見える淡いピンクと白のドレスは、至る所にフリルが効いていて可愛らしいデザインだ。でも足元まですっぽりと覆うスカートに、腰まである長い紫色の髪が丁寧に梳き解されて、やんごとなき身分だと思う。腰に手をやり、豊満な胸を張り、肩をいからす仕草は、服が演出しようとする全てを押し退けてお転婆な感じが出てしまっている。
 レナートさんに嗜められて、碧の瞳が挑戦的に輝いた。
「まぁ! この屋敷の主人の娘である私に『入ってくるな!』なんて口利いて良いのかしら?」
「この状況では、良いんですよ」
 レナートさんは諭すようにお嬢様に言う。
「僕達は冒険者です。武器を持っていなくとも、細腕のお嬢様を簡単に汲み伏してしまいます。そんな輩がいる部屋に単独で入って来ようだなんて、不用心ですよ」
「あら。優しそうな目をしてる貴方達は、そんなことしないわ。私は人を見る目があるの!」
 胸に手を置いて自慢げに言い放つ。黒猫とお揃いの星の飾りが、誇らしく瞬いた。
「貴女はそう言っても、皆を心配させるのはどうかと思いますよ」
 物置部屋の外に押し出してレナートさんが目配せすれば、物置部屋の前に控えていた執事のおじさんが神妙に頷いた。僕達がいなければ小言が迸りそうな口元にお嬢様が気が付いて、しまったって顔してる。唇を尖らせて、くるりと大きな瞳を回すと、良いこと考えたって手を打った。
「じゃあ、お庭でお茶をしましょう。クオードが王都に行ったら、貴方達を客として扱うつもりだったの。お茶の一つももてなし出来ないなんて、ドミネウスの娘として恥ずかしいもの!」
 別にお客様扱いして頂かなくても、今の待遇で十分です。
 兄さんを一人で寝かしておくのは不安だなって振り返れば、黒猫が任せろとばかりに鳴いた。

レナート君の物語がどこら辺なのか、分かる人は分かる。
そして、ver4のヒロインのご入場です!

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

 ふっくら柔らかくて美味しそうなクリーム色の頬は、今は青白く硬っている。浅く静かな息は、目を凝らしていても息をしているか分からない。いつもは猫みたいに暖かい体は熱を失い、ひんやりとした体に布団を重ねて魔力で熱を発する懐炉を入れて温める。
 力の抜けた兄さんの手を握っても、何も変わらないのはわかっていた。
 体に傷はなく、病気らしい症状もない。回復呪文は必要ないし、意識がなく眠り続ける兄さんに薬を飲ませるのは困難だ。
 エテーネ村を滅ぼされ一人アストルティアに放り出された僕に、ずっと寄り添ってくれた兄さん。冥王と戦い、故郷を探し、ナドラガンドへ共に来てくれた兄さん。あんなに僕が困った時に助けてくれた人が、いざ困った状況になって何もできない。ただ隣に座っているだけだなんて、気が狂ってしまいそうだ。
 無意識に力んだ肩に、そっと手が置かれた。
「お医者様も魔力の使い過ぎで、暫くすれば意識が戻られるだろうって言ってたじゃないか。少しは肩の力を抜いたらどうだい?」
 おっとりとした声が、僕の不安を分かち合おうと優しく語りかけてくる。
 顔を上げればテンレス兄さんくらいの年齢の人間が、僕を見下ろしていた。榛色の髪は雨露の糸のように濡れた光沢でもさらさらと肩まで落ちていて、狭い部屋に灯された灯りで金色に光っている。兄さんを心配し過ぎて参っちゃうんじゃない?って訴える瞳は、若葉の緑だ。トイレに行く時、この部屋の高さのない扉に派手におでこをぶつけて痛々しい。厚手の紫の布に、肩口や前を止める留金のラインに革を補強する頑丈な服。鞄やブーツも冒険者が好む実用的なものだ。引き締まった体つきや、戦いに秀でた者の仕草から、結構旅慣れてると察した。
 僕が頷いて兄さんの手を布団に入れると、水分前に部屋に持って来られていた食事が渡される。もう冷めてしまったスープと、放ったらかしたから固くなったパン。僕はスープにパンを浸して噛み締めるけど、味が分からない。ただ塊が喉を通っていく感覚しかない。
 僕が食べている間に、大きな背中が兄さんの横に椅子を引っ張って座る。摩り下ろした果実を包んだ布を、兄さんの口の上にとんとんと置く。水分とか栄養が体の中に入りますようにって、果汁をちょっとずつ口の中に含ませているのだ。
「ここのお屋敷のお嬢様もこの子を気に掛けてる。『意識がないのに、物置に閉じ込めるなんて酷い!』って、弟さんと大喧嘩したそうだよ。お医者様の手配も、賄いでも暖かい料理をいただけるなんてありがたいよ」
 デルカダールの地下牢に入れられた時の待遇を思えば、月とエビルタートルだよ。よくわからないけれど、この人はとっても苦労してるみたい。
 僕は飲み込む次いでに頷く。
「あのお嬢様には感謝しています。怪しい侵入者として外に放り出されても仕方ないですから」
 エテーネ村でテンレス兄さんが残した銀の箱を、兄さんが僕へ返した瞬間、光が迸った。
 何が起きたんだろうと思った時には、兄さんは意識を失ってぐったりしてる。さっきまで一緒にご飯食べてた仲間は誰一人いなくて、エテーネ村の僕の家じゃない。王宮みたいな部屋に、金の枠で縁取られた大きな窓。床に敷かれた絨毯は新芽の芝生みたいに柔らかくて、カーテンも調度品も高そうなのが遠目からでも分かる。
 にゃあお。口元が白い黒猫が僕の鼻先で鳴いた。首輪に付けられた星の飾りがきらりと光った向こうで、椅子に座っている紫の長い髪のが見えたんだ。
 僕は背中を向けて座っていた人間のお嬢様に、助けを求めた。だって、兄さんがぐったりして、普通じゃない。死んじゃうかもしれない。そんなの、嫌だ!
 必死な僕の叫びに驚いて振り返ったお嬢様は、倒れている兄さんに驚いた声をあげた。
 その声を聞きつけて飛び込んできたのが、お嬢様の弟。驚きの声が上がって直ぐ飛び込んできたから、隣の部屋から駆けつけたって間はなかった。丁度用事があって、部屋の前にいたんだろう。そうであって欲しいし、そうじゃなかったら怖い。
 兄さんが意識を失ってて助けて欲しいって、言う暇なんかなかった。僕と兄さんをクモノでぐるぐる巻きにして、この物置に乱暴に押し込んだんだ! 意識のない兄さんは、可哀相に頭にたんこぶ一つ作らされてしまった。意識が無いって誰が見てもわかるのに、なんて乱暴なんだろう!
 そんな物置部屋には先客がいた。
 それが目の前にいる、レナートさんだった。

アンソロジーまで読んでる人なら知っている、レナート君です。
デルカダールとか誤字ですか? この謎の青年ってだれですか? いやぁ、だれでしょう。

ver4始動!2024の書き初め小説ですよ!
この時空間転移、他の時代は媒介みたいなのがあるのに最初ないの本当に謎だったんですが書いてるうちに解決させた。忘れなければこの伏線はずっと先で回収されます。
なんかエテーネルリングって思った以上に重要アイテムだったんだね!知らなかった!って思いながら書いた第一話。書いてる途中で大辞典見て盛大にネタバレ踏み抜いたけれど、サブクエ数年間ほったらかしてる稲野がいけないんで仕方ない。もうね、数年間ほったらかしてるとネタバレは踏み抜いても痛くないです。完全に自業自得ですので。第一、エテーネ創立者のいさしおとかいうのも、受注して数年経ってるけど全部集まってない。宝箱探ししながらでも見つかりません。マジでどこにあるんだろうね?
え? 稲野、ver4書いて本当に大丈夫なのかな?
まー、大丈夫じゃなかったらしょうがないね!

拍手に感謝!今年初の拍手嬉しいです!ぱちぱちっとありがとうございます!

「それは興味深いのぉ」
 真横から手を伸ばせば、ルアム君は『見ますか?』と手渡してくれた。
 手に落とし込まれたのは、結婚指輪をラッピングした小箱くらいのサイズ。磨かれた銀は鏡のように周囲を写し取り、薄らと緻密な模様が彫り込まれているのが分かる。小箱と言っても開くような切れ込みはなく、角で指を切ってしまいそうなくらい鋭く尖っておる。ただの銀で作られたビューティフルでパーフェクトな正立方体のようじゃ。仄かに魔力を感じるが、何らかの媒介とするには弱すぎる。
 ふぅーむ。唸って漏れた吐息が、銀の面を曇らせる。
「錬金術で作られた装置であろうが、何に使うか、どう使うかはさっぱり分からんの」
 そうですか。ルアム君は銀の小箱に視線を落とす。仲間達に意見を求めないあたり、すでに仲間達によって調べ尽くされておるのじゃろう。エルトナの才女やドルワームの賢者として招かれる技術者、ナドラガンドの解放者と錚々たる面々が分からぬと匙を投げるのじゃ。ワシが分からんのも無理はない。
「お祖父様も分かりませんか。僕もテンレスさんからは何も聞き出せていないんです」
 悔しげに孫は言う。とはいえ、誰も孫を責める事はできまい。まずは目の前に立ちはだかる竜の神の脅威を退けるのが先であって、銀の小箱の存在を問う暇などありはせんかったろう。
 なーなー、あいぼうー。舌っ足らずな声でプクリポが言う。
「その箱って相棒の兄貴が使う時、立体パズルみたいにぎゅるぎゅる動かなかったか?」
「なるほど、エルトナにもカラクリ箱の技術がありますわ」
 周囲の視線に後押しされるように、ワシは箱を持つ手に力を込める。左右の手の力を逆方向に向けて回してみようとしたり、指を箱の面に押し付けてスライドさせてみようとしたりしたが、びくともしない。隣から手が伸びて手渡せば、順繰りにその場全員が挑んだ。しかし、箱は一つの銀の塊と言いたげに微動だにせんかった。
 最後の最後に回ってきたプクリポのルアムは、デザートのフルーツタルトをもぐもぐしながら受け取る。一通りキュートでラブリーな手で動かそうと試みたが、あっさりと諦めてしまった。
「ふぁい。ふぁいふぉう」
 ふいっとルアム君の胸に銀の箱が向けられる。勢い余ってか、それともプクリポ特有の距離感からか、銀の箱がルアム君の首に掛けられた指輪に当たった。
 キィン!
 金属同士が打ち合う甲高い音が突き抜けた。音と共に蛍光色の光が世界を溶かす。その場全員が驚きの声を上げ、驚いた拍子にひっくり返ったのか食器が落ちる音が響き渡る。身を竦め、手で作った影の隙間から光の元を見ようとするが、光に目が眩んで何も見えぬ。
 唯一、盲目の解放者だけが、驚いた様子で光の源流に駆け寄る。
「おい! ルアム達が消えちまったぞ!」
「どういう意味です?」
 孫が必死で手を伸ばす気配を感じている間に、光が消えて眩んだ目が見えてくる。
「だから、消えちまったんだって。心臓の音がすぱっと聞こえなくなったんだ…!」
 声を荒げる解放者の前には、先程まで二人のルアムが座っていたのを物語るようにクッションが凹んでいて、触れれば温もりが残っている。ルアム君が使っていた匙がテーブルから落ちて、カツンと音を立てて床を叩いた。
 誰かがテーブルの下を覗き込み、誰かが扉を開け放って外へ探しにいく。大量の血や死体がないのであれば、心臓の音が消えたのは死んだからではない。魔力の残滓はないが、言葉の通り何らかの方法で消えてしまったのじゃろう。
 うぅむ。二人分の空席から、クリーピーでシニスターな予感を感じずにはおられん。ワシは髭を撫でながら、胸のざわつきを抑えつつ今後打つべき手を考える。
 先ずは、ルシェンダ様に報告しておかねばなるまい…。

めちゃくちゃ長くなる予定の壮大なver4が始まりまっす!

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