ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 この世界には自分の家にバギクロスを放つ馬鹿者は存在しないと思っていたが、まさか自分がそうであったとは思うまい。
 『そこまで言うなら、好きなだけ探せば良い!』そんな一言で、家の中は嵐が過ぎ去った廃墟同然だ。蝶番が付けられて開閉できる扉は全て開け放たれ、人の足の広さ程度ある床は全て仕掛けがないか乱暴に踏みしめられた。本棚に綺麗に並べた本は全て床に投げ出され、薬品瓶は全て開けられて中身を検査にかける。ベッドシーツもカーテンも引き剥がされ、林檎や肉の塊は全て真っ二つに割られた。納屋の奥に固まった綿埃まで掻き出し、男所帯にしては小綺麗だった部屋は埃っぽくて咳を堪えられない空間に変えられてしまった。
 我が家をこんな状態にした実行犯達は、荒らすだけ荒らして帰っていく。
 それが一度だけなら、綺麗に片付けようと思うものだろう。しかし、細く欠けた月が丸く満ちる間に三度も行われたのだ。今、私は宿泊費という無駄な出費を強いられている。
 分解さればら撒かれた論文を整えていると、部屋がノックされる。思わず身構えたが、奴らならノックという高度な礼儀作法など無しに扉を開けて踏み込んでくるに違いない。強張った体から力を抜き、『なにか?』と返す。
「フロントにゼフ様がお見えになっております」
 世界宿屋協会のコンシェルジュの丁寧な言葉遣いに、荒れた心が慰められる。そして、来客の名前に驚いて腰を上げた。『そのまま、待たせてください』そう言ったかも定かでなく、私は見苦しくない体裁を繕ってから部屋を出る。
 塵一つなく鏡のように磨かれた廊下を進んで階段を降りると、フロントから少し離れたラウンジに見知った姿が手を振った。両手を前に組んで控えていたコンシェルジュにお茶と茶菓子を頼み、オレンジのバンダナの後頭部が踵を返すのを見送らずに進む。
 建国者レトリウスの名を冠した通りが見える窓の前で、ゼフ殿が立ち上がって出迎えてくれた。我が恩師の親友であるゼフ殿は、陽の光を浴びぬ錬金術師らしい色白い肌をしていたが、今は青白くさえ見える。眼鏡の奥の瞳に疲れの色が見え、痩身は窶れて一回り小さく感じた。お元気そうで何よりです。互いに親しげな笑みを浮かべ、五体満足である事を喜ぶ。
 どうぞ、座ってください。そう促して互いに、綿が詰め込まれた柔らかいソファーに身を沈める。天鵞絨の手触りが窓から差し込む日差しに温められ、眠気を誘われる心地よさだ。
「災難でしたね。コンギスさん」
 いいえ。私は頭振った。
 ゼフ殿が差し入れをテーブルに並べる。キィンベル最大の文房具店の紙袋からは、論文を書くのに適した用紙の束、書きやすい赤い硝子のペンに、黒いインク瓶は徳用サイズだ。恩師が好んでいたチョコレートも添えられている。
 ゼフ殿の心遣いを、私は深々と頭を下げて受け取った。

舞台は王都キィンベル!コンギスさんが誰かは、わかる人ならわかるでしょう!

はい!エテーネ王国に戻ってまいりました!

エテーネの民が盲信する『時の指針書』と正体不明の獣の襲撃。今回は導入という事で軽めのはずなんだけど、割と情報過多な話になりました。いっぱいいっぱい。
一度、ルアムの名付けの元ネタを聞かれた事があって、野良マッチングな人に『(ちびまるこちゃんだった気がする)アニメのキャラからですか?』って聞かれたんですが、いや、アルミニウムから取ったんですって答えてドン引きされた過去があります。確かにそのキャラから名前取ってるって思われるなって感心した反面、ちょっとしょんぼりした。
ゲーム上で一番目に作ったキャラなので、兄貴のテンレスもテンスの花の存在を知る前に作ってるんですが、後に兄貴が製造に関わってると知って兄貴の名前からテンスの花が名付けられたのでは?とか考えてしまいます。
思いもよらぬ伏線に私が転げ回る日が来ようとは、運営に手のひらコロコロされております。
しかし、本当は前後編になるはずだったんだけど、移動かったるいってなって、詰所で異形獣撃退した(おまえは…)

連れているクルッチも参戦し、もう正体お察しですよね!
レナートくんは歴代一の騎乗スキル持ちとして設定しておりまして、馬がいそうな環境ではすかさず絡ませてしまいます。転送システムは充実してますが、ドルボードみたいな移動手段がない、妙にアンバランスなエテーネ王国です。今回の時渡編では、栄華を極めた三種類の環境があるので、いろいろと差別化したいところです。
できれば原作のように、馬以外にも乗せてあげたいですねー。

 時の力? 僕が訝しげな顔をした先で、クルッチはぴしっと長い腕を振った。
『でも、ユーシャさまの使う力と、この国のヒトが持ってる力は元が違うッチ。源流が異なる時の流れが反発して、あの獣に流れる時間をメチャクチャにしたッチ』
 レナート殿? 掛けられた声に顔を上げると、心配そうな顔がある。僕は慌てて取り繕った。
「僕がエテーネ出身じゃないからでは?」
 嘘ではない。
 クルッチの言葉が正しければ、あの獣の光線はエテーネの人間にしか作用しないのだろう。しかしエテーネ王国の出身でなくても、力が同じものだったら僕も昏睡状態だった。どんな結果であれ、僕は攻撃を受けたのだ。運が良かっただけで、誉められたものではない。
 なるほど。ローベルさんは納得したように報告書に視線を落とした。几帳面な文字が、白い紙の上に次々と書き込まれていく。
「それが理由とは軽々しく判断できないが、特記事項として君がエテーネ王国出身者でない事を記しておこう」
 そうだ! ラゴウ隊長が喜色満面で声を上げた。手紙に齧り付くように筆を走らせる。
「異形の獣! 異形獣! 我ながら気の利いた名前じゃないか!」
 うきうきと心が弾む様子を隠しきれず、隊長は蝋を乗せたスプーンをアルコールランプの火に掛けて溶かす。手紙を収めた封筒に溶かした青い蝋を垂らすと、王国軍の印璽を押す。
「突如現れた異形獣を撃退した功績! 私が王都に招聘され昇進するのは間違いない!」
 封蝋した手紙を翳すと、明るい未来が見えているのか高らかに笑い出す。
 そんな様子を呆れもせず真面目な顔で見ていたローベルさんも、分厚くなった報告書を封筒に収めた。僕に向けて差し出された封筒は、襲撃の状況や、獣の攻撃動作、被害者の状況など、沢山の報告書を収めて重たげに撓んで垂れている。ラゴウ隊長がたった一枚の報告書で浮かれているのとは対照的だ。
「君が馬を最も早く駆れる。不寝番で疲れている所に悪いのだが、この報告書を至急王都キィンベルに届けてほしい」
 わかりました。そう応えて封筒を受け取ると、ずっしりとした重みが腕に伝わった。
 今すぐに厩舎へ向かい、緊急事態に備えて鞍を着けられた馬に跨って駆けて行ってしまいそうな僕の肩を、副隊長は労うように叩いた。生真面目な顔が綻んで、うっすらと笑みが浮かぶ。
「腹が減っては戦闘は出来ぬ。朝食を用意する間、仮眠してくると良い」
 僕は恥ずかしさに頬が熱くなった。
 大エテーネ島全土に及ぶ王国は、大陸と呼ぶには小振り程度の広大な国土を擁している。王都キィンベルまで、馬を飛ばしても一日は掛かる。意識を失った隊員を馬車で運ぶのに、三日を予定していた。一睡もせずに馬を飛ばして、うっかり眠気に意識が落ちてしまったら馬に怪我をさせてしまう。
 なだらかな坂の上に建った本部を出ると、辺境が一望できた。
 島国全体は日中は暑く蒸すが、夜になるとからりと乾燥して冷える。磨かれた空気に朝日が黄金色となって辺境の自然に降り注いだ。雪を冠る程の標高がない山々は、頭のてっぺんから少しずつ濃い緑の衣を脱いでいる。島全体に無数の川が走り、増水した川に削られて起伏に富んだ渓谷を生み出していた。人の住処が王都に集中している関係か、大地は手付かずの豊かな森林が萌黄色に染まる。
 故郷とは全く違うが、自然豊かな田舎の風情に心が落ち着いた。
 僕は大きなあくびを一つ漏らして、草むらに横たわる。涼しげな風が僕の顔を撫でて目を閉じさせ、暖かい日差しが掛けられて緊張した体を解していく。一緒に王都に行く子は誰だろう。そんな考えがふわふわと浮かんだ。
 お前って本当に寝付き良いな。そんな相棒の声が聞こえた気がした。

ラゴウさんの小物っぷりが面白い。自分が描かないキャラを描いてる感がすごくする。

 空が白じむ頃、辺境警備隊詰所の被害が明らかになった。
 ディークを含む五人の隊員が、黒い獣に襲われて意識不明に陥っている。脈も正常で命に別状はないが意識が戻らない状態で、馬車の手配が済み次第、王都へ移送される事になった。
 本部二階の執務室に残された遺骸は、王都の軍部より鑑識を要請するとの事。軍部より返事が来るまで獣の遺骸はそのままの状態で置かれる為、ラゴウ隊長が顔を真っ赤にして癇癪を起こした。『軍は貴重なサンプルを重要視するでしょう』と副隊長が取り成すまで、子供のように駄々を捏ねていた。
 ラゴウ隊長は無事だったサイドテーブルの上で報告書を認めながら、目の前に転がる遺骸を見下ろしていた。うーむ。随分と深刻そうな顔で顎を撫でる。
「エテーネ王国では見た事のない魔物だ。呼び名がなければ、報告書が書けぬな…」
 手に持った角を矯めつ眇めつ眺める隊長を見遣りながら、僕はローベルさんに囁いた。
「なぜ、今回の襲撃が『時の指針書』に書かれていなかったのでしょう?」
 『こんな事が起きるだなんて、指針書に書かれていない!』そんな声を襲撃の合間に何度も聞いた。戦闘を行い汚れる事もあると携帯していないローベルさんだが、隊員の多くがこの指針書を持ち歩いている。専用のブックポーチはいつでも指針書を取り出し読めるように工夫が凝らされた品で、隊員達は暇さえあれば指針書を読んでいた。
 起こり得る未来が書かれた指針書。未来に備える利点が、どうして今回に限って発動しなかったのか。特に今回の襲撃で異常な状態に陥ったディーク達の指針書に、何も書かれていないのはおかしい。
 わからん。ローベルさんのきつく結った頭髪が、左右に振れる。
「『時の指針書』は所有者が死亡する少し前から、更新が止まる。もしかしたら、今回の襲撃で負傷した者は全員死んでしまうのかもしれん」
 悔しさに沈んだ声に、僕も歯噛みする。
 正直、魔物の棲家と隣接する辺境警備隊詰所の体制は薄いと思っていた。確かに辺境を訪れるのは素材となる植物や鉱物を採取する商人達で、それらを護衛する役目なら人員を多く割く必要はないだろう。今回のような襲撃が『時の指針書』で先読みできるなら、必要な時だけ人員を増やす事ができる。未来が見えない僕からしたら傲慢な人事が、この国にはあった。
 しかし、その根拠である『時の指針書』のお告げが意味を成さないなら、増員を王国に申し立てるべきだ。ただ『時の指針書』を盲信していると言って良いこの国の人間が、それを受け入れるのだろうか?
 でも、それは部外者である僕が言うべき事ではない。
「しかし、なぜ、レナート殿は無事だったのだろう?」
 顎に手を当てて考えている横顔から視線を足元に向けると、足に背中を預けて座っているクルッチが顔を上げた。僕の無言の問いかけに、クルッチはぴょこんと立ち上がった。
『あの魔物は時の力を奪おうとしたッチ』

すかさず問題提起するぞ!

 梁から降り立った黒い獣の足元に敷かれた板が、着地の重みに折れて跳ね上げる。ローベルさんがちらりと目配せしたのに応じて、僕らは同時に獣に切り掛かった!
 蛇腹状に見える手の大きさの割に細い腕。切り飛ばせると剣を振り下ろした僕だったが、あまりの硬さに息を詰める。剣と打ち重なった反響音は金属音よりもずっと低い音だったが、滑らかな質感は金属に近い。全力を込めても、獣はびくともしなかった。
 僕の剣を跳ね除けて大きく爪を振り上げれば、立派な執務机が切り裂かれる。舞い上がる書類や転がるインク瓶や羽根ペンに、カーペットの上で後ずさっていたラゴウ隊長が窒息しそうな悲鳴をあげる。這いずって逃げる中年の背中と獣の間に、ローベルさんが立ち塞がる。
 ぐん、と獣が身を捩れば、鉤爪の付いた尾がローベルさんとラゴウ隊長を横薙ぐ為に迫る。ラゴウ隊長は間一髪攻撃範囲の外に逃れられたが、剣で尾の一撃を受け止めたローベルさんが吹っ飛んだ。切り裂かれた執務机の突っ込んで、頑丈な机が粉々に砕ける。
 黒い獣が僕を見据える。
 大量生産の剣では、この魔物の外殻を破壊する事はできないだろう。外殻の隙間に目を凝らすが、黒い体は闇に沈んでいて関節を見出せない。弱点は。走らせる視線は、角にはまった蛍光色の宝石や、手の甲に腕輪の装飾のように施された大人の掌くらいの紫水晶を映す。しかし、生物に当てはまるような、急所らしい急所を見つけられずにいる。
 弱点を探ろうと費やした時間は、大きな隙になった。
「レナート! 逃げろ!」
 ローベルさんの声に視線をあげると、獣の頭に生えた一本角に嵌まった宝石が輝いている!
 次の瞬間、宝石から僕に光が照射された!
 咄嗟に頭を腕で覆い、防御姿勢を取る。光は僕の体を融かさんばかりに強く降り注いだが、熱も寒さも何も感じない。訝しげに腕の下から体を見下ろせば、微かに魔力の流れを感じる。マホトラを使われたように体から力が抜けるが、魔法を使う為の魔力や生命力とは違う。
 なんだ? 何が流れ出しているんだ?
 ぴしっ!
 ヒビ割れる音がして顔を上げれば、角の根元に亀裂が走り、散った破片が光を弾く。
 ばきんっ!
 大きな音を一つ立て、根元から角が折れた。
 獣はまるで金属に剣先を擦り付けるような、生物とは思えぬ断末魔の声を上げて、前のめりに崩れ落ちた。魔物が消失するような黒い霧が外殻の間から漏れて、中身のない外殻がばらばらと床の上に広がっていく。
 突然の獣の死に呆気に取られた僕とローベルさんよりも早く、立ち上がって獣の遺骸に近づいたのはラゴウ隊長だった。真っ黒い外殻を蹴りつけると、何度も何度も踏みつける。
「このラゴウ様を脅かしおって! 愚かな獣め! いいザマだ!」
 残された外殻に害はないと判断し、息切れし出した隊長を横目にローベルさんが歩み寄る。僕に外傷がないか慎重に確かめた後、おずおずと訊ねた。
「敵の攻撃を受けたようだが、問題はないか?」
 なんともありません。僕は戸惑いながらも、そう答えた。

異形獣、スゴクカタイ問題。
後々困りそうなのに、書いてしまった。

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

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