ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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「僕は貴女に人間の姿に変える手段を与えられます。少し時間は掛かりますがモシャスを習得する事も、変化の杖を用意する事もできるでしょう」
 ゴルガーレンが深々と頷く。
「人間社会に溶け込んで人間と暮らしたいって望みなら、その程度でも良いんじゃないか? お前の言葉は魔物っぽくないし、人間の常識を理解してるみたいだしな」
 巨大な竜の口が、目の前に並んだ選択に引き結ばれる。
 ふと頭上が明るくなった。あれほどの大ぶりの雪が止み、暑い雪雲が晴れて真っ黒に塗りつぶされた空に七色のカーテンが風に揺れるように棚引いている。
 それを『オーロラ』と呼ぶのと、幼いクオードに教えた記憶があるわ。寒い日に空から落ちてくる白くて綺麗な『ゆき』、真っ赤に燃える水『ようがん』、黄金の砂場が見渡す限り続く『さばく』、海が世界の果てまで続く『すいへいせん』。どれもお母様や叔父様夫妻から聞いた話なのに、幼い私は何でも知ってる賢者のように鼻高々に弟に教えたわ。弟も『ねえさん すごい!』って、目をキラキラに輝かせてくれるんだもの。私は嬉しくて、もっと弟の瞳を輝かせたくって、本棚から引っ張り出した本を二人で覗き込んでいた。
 ねえさん! ぜったい みに いこうね!
 鼻先が触れ合う程の距離にある弟の瞳には、エテーネの明るい空で見える星々よりも多くの輝きが宿っていた。私達は本の中でしか見れない光景が、簡単に見れるものだと思っていたのよ。
 だって、私達のお祖父様はエテーネ王国の王様で、私達は物心付く前から世界の全てを手にできる程の何もかもに囲まれていた。病気になれば一流の錬金術師が訪れて薬を処方されて、一晩寝ればすっかり元気になってしまうの。怪我をすれば直ぐに回復呪文が施されて、傷なんか残らない。お腹が空くなんて想像もできなくて、ちょっと手を伸ばすだけで侍女や執事が用意してくれた美味しいお菓子を摘む事ができた。
 お祖父様やお父様に頼めば、なんでも叶うと思っていた子供達。
 あの頃が一番幸せだったとは言わない。
 それでも、胸が締め付けられる程に眩い日々だった。
 視線を上げれば身を切るような冷たく研ぎ澄まされた空気に、空は真っ暗に沈んでいる。そんな深淵からこの世界のありとあらゆる色彩を織り込んだ布が、粉雪の風を孕んで揺れている。水平線の向こうから顔を覗かせた眩い黄金色。どこまでも高く広がる雲ひとつない青空の色と、色とりどりの珊瑚や魚を抱いたエテーネの空のような海の色。芽吹いたばかりの瑞々しい緑、魔法生物の証である透明感の奥で燃える生命溢れる赤。その色彩がドレスに幾重にも重ねたレースのように複雑で美しくて、表す言葉を突き詰めれば突き詰める程つまらないものになってしまう。
 なんて素敵な光景なんでしょう。クオードにも見せてあげたいわ。
『昔、コンギスのおっさんは言ったドラ。命より大事なものを見つけてみろ…って』
 耳をくすぐる生暖かい吐息に視線を向ければ、ぐっと身を屈めて金色の瞳が私を覗き込んでいる。まるで姿見のように大きな瞳に映るのは、一匹の猫ちゃん。
 艶やかな黒猫は夜空のように煌めいて、口元と尻尾の先の白い毛並みがお月様のようにふんわりと光っていて、私の心を撃ち抜くぱっちりと開いたお揃いの空色の瞳。首輪についた星型のチャームと尻尾に結んだ大きな赤いリボンが、とってもよく似合っているわ。私が夢に見たような理想の猫ちゃん!
 そう、私の飼い猫。愛しいチャコル!
 寄せた鼻の穴が大きく膨らむと、体が吸い込まれるような風が鼻の中へ流れる! 体が引っ張られて、猫には大きな鼻の穴の中に頭が入ってしまいそうよ!
『この猫から懐かしい匂いがするドラ。おっさんや、兄弟達にすごく会いたい気持ちでいっぱいドラ。兄弟達と遊んで、おっさんの足元に集まってゴロゴロするのが大好きだったドラ』
 ふーっ! 私が毛を逆立ててドラゴンの鼻面を抑えていると、愉快そうにゴロゴロと笑う。
 そして、体を起こしてゴルガーレンを真っ直ぐに見て断言した。
『それでも人間になって、好きな人と一緒になりたいドラ』
 わかった。そんな声がオーロラの下に消えて行った。

ここで今回の視点が誰だか分かったかなーー!!!
彼女視点で何度か挑んでると、必ずエテーネ王宮の事とか遭難した事とか触れてくどいなーってなってたので今回はそれを完全に省いています。そこら辺はもう少し後でさらっと触れていきたいものです。

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