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ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
DQ11小説アンソロジー主催を勢いでしている傍ら、switch購入してバケツを愛でるイカであり、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコがあれば生きて行ける!
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 ぎゅっと体に力を入れた。爪が肉に食い込んで切り裂かれてしまうのが恐ろしくて、体が小刻みに震えた。あと、どれくらいでアルゴンリザードの爪が私に届くのか、一呼吸も満たない間か、それともあと一呼吸できる間か、それすらも分からなくてひどく混乱する。目を開ければ疑問も解けるはずなのに、恐ろしくてできなかった。
 襲ってくるだろう暴力は、なぜだか今だに訪れない。
「ミシュア」
 ラチックさんの声がして、肩に彼の大きな手が乗る。恐る恐る目を開いて顔を上げると、魔物の返り血を浴びたラチックさんが私を覗き込んでいた。ピペが栗鼠のようにラチックさんの肩から腕を伝って、私に抱きついてきた。ぎゅっと首に回した腕の力が強い。
「大丈夫か?」
 声を掛けられて、私は改めて自分の体を見下ろした。この洞窟に入ってきた時と、何一つ変わらない自分の姿がある。真紅のエプロンドレスは解れ一つなく私の体を包み込み、体の何処も痛みはない。私は微笑んでラチックさんを見上げた。
「大丈夫。ありがとう、ラチックさん。私に襲い掛かったアルゴンリザードを、退けてくださったんですね」
 ラチックさんが複雑な顔をして『いや…』と言葉を濁した。
「俺 助けた 違う。わからない。けど ミシュアが 光って…」
 言葉は突然遮られ、右手に鋭い痛みが走った。驚いて見ると、アンルシア様が私の右腕を掴んで私を覗き込んでいる。その瞳は飢えた獣のようにギラギラと輝いてて、笑みは希望と期待に堪えられずに溢れている。
「お前は、今、勇者の力を使ったのだ」
 え? 声は喉を震わせず、空気が口から漏れた。
「私は生まれて此の方、出来ることは全てやった。血の滲むような努力も、人々への無償の善行も、勇者の覚醒に必要と思われることは全て行った。勇者姫と人々に崇められる存在になった。それでも、私は覚醒できない。何故なのか、ずっと考えていた。ミシュア…お前が現れるまでは」
 腕を掴む手に力が込められた。みしりと嫌な音がして、私は痛みに身を捩った。
「お前こそ、私の失われた半身。私から抜け出た勇者の力なのだ」
 電撃のように驚きが走った。何を言っているのかわからなかったけれど、私がミシュアであることを否定されているのは分かった。ミシュアはメルサンディ村の村長であるガッシュさんが付けてくれた名前。ミシュアではない他人の名前なら、ここまでの衝撃はなかっただろう。アンルシア様は、私が人間ですらないと言ったのだ…!
「違う! 私はミシュアです! 貴方の半身なんかじゃありません!」
「なら何故、お前に記憶がない? 何故、お前は今無事だった? ラチックが言ったであろう? 助けたのは自分ではない、ミシュア、お前が光ったと…。勇者の力が光となって、アルゴンリザードの攻撃を防いだのだ」
 腕を強く引かれ、腕が引きちぎられるのではないかという痛みが走る。底冷えするような冷たい声が、耳を愛撫する。
「お前は私から抜け出た勇者の力。一人の人間ですらない」
「違う! 私は…!」
 わたしは ほんとうは ミシュア じゃない。
 その事実は、私の胸深くに鋭く突き刺さった。本当はアンルシアという名前なのだと、心の奥底で頷く自分がいる。でも、目の前で私の腕を強く掴む人の半身であることは、とても認められなかった。絶対に違う。私は貴方ではないと、私の全てが否定して拒否している。
『勇者はペガサスに跨って、魔王の城へ乗り込みました』
 また、あの男の子の声がした。私と同じ亜麻色の髪で、青い瞳の利発そうなラスカと同じくらいの男の子。彼は私の隣に座って、勇者の物語の本を読んでくれている。
『霧が深く立ち込める中、勇者は城の奥へ進んでいきます。一歩一歩進むたびに足取りは重くなり、体に鉛を流し込まれたように重くなっていきます。ついに一歩も動けなくなった時、魔王の恐ろしい声が響きました』
 『罠にかかったな!勇者よ!』そう、わっと私を脅かしてみせた。驚いた私を見て、弾けるように笑うのを見て、心の底から慕わしさが湧いてくる。私はこの男の子が好きだった。この子のためなら、なんでも出来る気がした。
 この子は誰なの? これは記憶を失う前の、本来の私の記憶なの?
 兵士達が私を捕らえようと群がり、世界は地面を失って体は急流に揉まれる木の葉のようだった。何が本当なのか、本当のことも真実なのか、何もかもが混沌として何一つ知らせぬままに私を捕らえている。


久々にラスカの名前が出てきましたが、なかなか出て来ず過去の話を見返したのはここだけの話です。
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