ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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少し昔、世間を賑わせた話題作『横浜駅SF』
横浜駅は稲野が知る限りずっと工事をしていて、毎日通勤で使っていても大きな変化がありました。東急東横線がみなとみらい線と結合して、東横線のホームが地上から地下に一日で変更になったのが一番大きな変化でしょう。その後、東横線のホームは取り潰され今では駅外が見える見晴らしの良い空間になった気がします。横須賀線のホームは拡張されて日に日に使い勝手の良い空間になっていますが、ホームドアはまだ設置されておらず、ひっきりなしに来る電車にホームから溢れんばかりの乗客が乗り降りする神奈川のターミナル駅でありましょう。地下は東急東横みなとみらい、地上にはJRだけでなく、京急や相鉄が乗り入れています。
これにダイヤモンド地下街やらルミネやら高島屋といった駅と繋がる商業施設が複雑化しています。駅と一括りにできないのが、横浜駅だと思っています。
個人的には日本最強のダンジョンは新宿駅だと思っていますが、最近は渋谷もえげつない感じになっている気がします。関西の梅田はよく知らないですが、一度だけ訪ねた時は浅い階層で迷いませんでしたね。東京の魔窟に比べれば、横浜駅なんて可愛いものだと思ったりはします。
ただし、工事中は連日行われていた関係で、昨日通れた場所は今日は通れず、別の迂回路が期間限定で誕生しているなど、横浜駅周辺が勤務地である友人の後をついて歩いてもどこを歩いているかわからないくらい目まぐるしい。入るたびに地形が変わる不思議のダンジョン感が横浜駅にはありました。
今は落ち着いたと思いますが、まだホームドアがありますし、まだまだ続くんじゃよって感じなのではと思っています。

さて、本題の横浜駅SFの話。
謎の増殖にて本土を覆ってしまった横浜駅へ、駅外で暮らしていた青年が行く話。横浜駅は駅であるため入場料的なものが存在し、それはSuicaという位置情報システム的なものであり、それが導入されていない人間は駅中に入る事が出来ません。駅外で暮らしていた青年もSuicaがない為に入る事はできない。しかし、横浜駅から追放された駅中の人間から恩人を救うよう託された18きっぷで入る事が出来、昔に流れ着いた老人がつぶやいた42番出口を目指す。
しうまいくんというアニメキャラに横浜ーて感じがあったり、岩手の壁なんかは津波の防波堤なんだろうとか、ほうとうや目的地の長野の山の名前だったり色々と地元ネタが散りばめられています。これは読み手の心をくすぐってくれる。
ただし、三人称なので主人公の心理描写が乏しく、『自分は何か目的のある芯のある人間になれるかもしれないと思って横浜駅にきた』という自分探しの旅感がだいぶ薄い。18きっぷの期限が5日間なのもあって悠長に考えていられないのだろうが、終盤になる程に『主人公はそんなに悩んでたんだ…』と私が驚いた。おまえ、結構ドライな性格じゃなかったっけと思いますが、終盤になるにつれ主人公が自分の選択の重さに胃をきりきりさせている感が増えていきます。展開が早く面白く三人称なので心理描写の少なさは気になりませんが、痒いところに手が届かないもどかしさがある。そこを余白と捉えるかは人それぞれでしょう。その後が語られてないところは非常に多く、そこらへんは個人的には嫌ではないが、作者さんがどう描くのかは気になるなぁと思うところです。
実は横浜駅SFは全国版という外伝集から読んだので、痒いところに手が届かない部分をそこで補っていましたが、全国版読む前に本編を読んでいたら相当物足りないと感じていたでしょう。この作者さんは世界観を非常に密に作り上げているので、それを全て味わえないのは残念だなぁと思います。

ここからはネタバレ考察。
実は読み終わった後に考察探したんだけれど全く見つかりませんで、ここで吐くしかない。
教授という重要人物は匂わせた通り重要人物でした。そんな教授が主人公の暮らす三浦半島の先に流れ着いたのは十年ほど前。同じ時期に北海道にも『ユキエさん』という天才が現れます。ユキエさんは本編全国版でも名前しか出ない天才なのですが、おそらく教授の同僚なのかと思います。横浜駅が増殖を始めたのが数百年前らしいので、コールドスリープなどが施されていたのが10年前に解除され、Suicaを導入していない教授やユキエさんは、開発者側の立場でありながら横浜駅から追放され横浜駅の及ばない場所で暮らさざる得なかったのではと考えています。
教授とユキエさんの違いは、己の力が発揮できる場所に逃げられたかです。
教授が流れ着いた三浦半島は横浜駅から排出される物資と、細々とした畑で暮らす集落でした。横浜駅と近く、周辺の岸壁も同じような集落であったのでしょう。北海道や九州四国といった横浜駅に飲み込まれていない地域に、船に乗り継いでいくことも決して不可能ではなかったでしょうがそうしなかったのは諦観に囚われてしまったからでしょう。教授は流れ着いた先の人々が横浜駅から排出される残渣物に頼り生活していたことから、その生活を変えてしまうことを罪深く感じ、最初の目的を諦め隠居的な生活をしていたのだと思います。
逆に北海道まで逃げ延びたユキエさんはその知識を惜しまず使い、さまざまな革新的技術で横浜駅を攻略しようとしています。作中に出てきた情報収集と工作を目的としたアンドロイドがその集大成でしょう。
結局、ユキエさんが横浜駅を崩壊させる的な目的をもっていたならば、アンドロイド達に崩壊の引き金を引かせる事は容易かったはずですが、そうしなかった。ユキエさんと教授は目的が違ったと言えます。ユキエさんは増殖し本州を覆った横浜駅という存在を、利用したいと考えていたのではと思います。増殖する横浜駅は、無限に石油の湧く油田みたいな感じがします。それを利用して人々に還元させる。そんな目的のために、横浜駅の中を探る工作員を用いたのではと思っています。
増殖した横浜駅が、線路が増殖範囲外であったのは『駅』だからなんだろうとは思います。リニア線路が駅外であったことや、42番出口が駅構造に覆われて実質駅孔扱いだったことも、線路や駅の内包物に当たらない施設は駅に含まないのでしょう。電車の走らない駅。皮肉が効いていますし、増殖する横浜駅は結局駅じゃなかったんだとなれます。

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