ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 よく見ればラウラの花に隠れて、朽ちかけた墓石がいくつもある。遥か彼方の故郷を想って弔われただろう石は潮風に白くボロボロになっていて、真新しい墓石がなければただの石だと思っただろう。真新しいお墓も、膝を抱えた子供くらいの大きさの石に、ナイフで文字を刻んだ簡単なものだ。石の真下までラウラの花に埋もれているのを見るに、亡骸は弔われていないみたいだった。
 墓石に近づこうとする私を遮るように、レナートさんが立った。
「崖が近いから、これ以上進んじゃ駄目だよ」
 蜜は十分に集まったのかい? まるで墓石に近づけさせまいと話題を振るレナートさんの顔に、焦りが滲んでいた。彼の言葉に生返事を返しながら、脇を抜ける。
 海の彼方に見える塔は、きっとリンジャハルのシンボル、リンジャの塔だ。その塔を臨むように建てられた真新しい墓石は、私が逃げ延びる事のできたリンジャハルの大災害の被害者か、その被害者を大切に想っていた誰かが弔われていると思った。そうでなくても、幸運に助かった命が、不運にも落とした命の為に祈ってい良いと思う。
「シャンテさん。待って。お願い、待ってくれ」
 確かに崖は近かったが、転んで落ちてしまう程の距離じゃない。私はレナートさんの声を振り払って墓石の前に膝を付いた。手を組んで祈りを捧げると、祈るべき墓石の主の名前を知る為ナイフで刻まれた文字を見る。
 シャンテ。
「え?」
 思わず声が漏れた。
 墓石には亡き者の名として、『シャンテ』と刻まれている。
 リンジャハルの大災害は、王都キィンベルの人口に匹敵する死者が出たという。もしかしたら、私と同じ名前の人かもしれない。『シャンテ』の名の上に刻まれた、少し小さい文字へ視線を走らせる。
 誰よりも歌を愛し、歌に愛されたエテーネの歌姫、ここに眠る。
 シャンテ。その歌声は永遠の空に響き渡る。
 私は墓石の前にへたり込んだ。
 このお墓、なんなの? 同じ名前ならまだわかるけれど『エテーネの歌姫』って何? それは、記憶を失う前の私が呼ばれていた称号じゃないの?
 『エテーネの歌姫 シャンテ』は死んでいる。
 なら、私は?
 私はきつく目を瞑って、深く深く項垂れた。地面が崩れ去り底なしの闇に落ちていくのは、私だけじゃない。今の私を構築する全ての記憶が、ばらばらと音を立てて崩れ潮騒に砕かれていく。
 シャンテと呼ばれる、記憶のない私は何なの?
 姉さんの笑顔が浮かんだ。金色の髪を高々と結って、豊かな髪を滝のように流した背を。私よりも色の濃い緑の瞳を細め、大きな口を開けて快活に笑う顔を。錬金釜を前に、指先まで集中を行き渡らせた真剣な手元を。シャンテ。真っ直ぐに私を呼ぶ声。
 私はシャンテだ。姉さんにとって、私は確かにシャンテなんだ。
 墓石に刻まれた名前を見る。
 姉さんなら、何か知っているはず。
 記憶のない私よりも、ずっとずっと、たくさんの事を…。


中編完結!!!!!!!

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